異世界生活終わりの「捨てるべきもの」
家主はどこか遠くを見つめて何かを考えるように、眉を潜めていた。
お互いの間には緩やかな風だけが流れる。
「...家主さん、私ちゃんと料理もお洗濯物もできるようになります。魔術の勉強もちゃんとするし、子猫の世話だって」
「ーーー僕にとってあの家は大事だけど、君はその、まだ幼いし僕は子供扱いしたい訳じゃないけど、クロードにたまに様子を見に来てもらっても一人に変わりはない」
「だから私は、家事も全部一人でやれるように...!」
荒ぶる幼女を宥めるように、家主はあくまで優しく話し続ける。
「僕はさ、僕がいない家に君が残って意味があるとは思えない。君が僕に心残りみたいなのがあっても、3日後の僕は君の事をきっと知らないんだ。だから僕に...」
「執着しないでって、言いたいんですか?」
幼女は厳しく言い放った、二人の間に亀裂が走る。
「...まぁ、うん。自意識過剰みたいだけど、僕も君の事は大切な家族だと思ってる。君にもちょっとだけそういう所があるかなぁ、なんて」
家主は照れ臭そうに笑った。
「...大切ですよ、家主さんは」
「ははっありがとう。お世辞でも嬉しいよ、うん。...それでどうしてあの家に住みたいの?」
「ーーーえっと...」
幼女は黙り込んだ、気づいた頃には遅かった。理由なんて一つしかなかったのに、分かっていたはずが、指摘されて初めてこの理由は間違いなんだと、確信したような気がした。
「家主さんと、家主さんとの思い出が詰まった家だから...」
「だ、だから、捨てたくないから...住みたいんです」
震え気味の声で言い切った頃には、幼女は無意識にぎゅっと拳を握っていた。
家主は、そっか。と頷き幼女の頭を優しく撫でゆっくりと口を開いた。
「...でも、思い出に住み続けるのはよくない」





