異世界生活終わりの「暗い未来」
「私は、別に...!」
僕は立ち上がろうとした君の腕を引っ張り、座りながらゆっくり抱きしめた。
「......君がこれから何処に行こうが僕は構わない。構わないけど、これから君が進む道は僕がいなくても、幸せになれるように、君が頑張らなきゃいけない」
「ーーー」
「だから、もっと大切にしてほしい」
僕がそういうと、彼女は僕の背中に腕を回して抱きついてきた。振り返らなくてもわかるほど、強く服を握りしめながら。
「うぅ、っ...うあああぁぁぁ...ぁ」
「よしよし」
「家主さん、やだ...いや、いかないで!」
「...ごめん、ごめんね」
普段見られないこの子の、まるで赤ん坊のように泣きじゃくる姿は僕の胸に何故だか痛く辛く刻み込まれていく。
「ごめん」
「っ、うぅ...うぅ...やだ、やだよ」
湿気った風が僕らの頬を撫でていく、終わりを告げるようにぽつぽつと冷たい雨が落ち始めた。それでも僕らは、強く抱きしめあった。
この子の顔は鼻水と涙でグチャグチャになり、髪もべったりと顔のあちこちにひっついていた。家主が涙を流した事は誰も知らない、記憶を失ってもう8年が過ぎた。
この子と出会って、僕は初めて泣いたのかもしれない。別に逃げる気はない。運命。逆らう事はしない、元はこの体も前の僕の物なんだから。
でも最後に、あと少しだけ君と一緒に居たかったのかもしれない。
この子が泣いてるのを、こんなに取り乱した姿を見て、どうしてこんなに辛いのか。
僕と離れたはこの子はこの後どんな気持ちで生きていくんだろう、もし僕が全てならこの子は空っぽになってしまうのか。
「...雨、強くなってきたね」
そんな事を考えているうちに、ぽつぽつ降り出した雨は段々と勢いを増していた。この子の服も僕の服もすっかり濡れてしまったが、この子は気にせずまだ泣き続けていた。
「みゃー」
膝でパチリと目を覚ました黒猫に気づいて、僕は少しだけ彼女の背中から手を離し、雨に濡れないように持ってきたタオルで子猫の体を包み、抱き上げた。





