異世界生活新しい「光もらたす者」
「っ、やだ、死なないで...死なないでください」
為すすべもない幼女は家主に縋り付き、涙をぽろぽろと零した。
「ーーーおい、どけ」
「っ、ひゃっ!」
「え、リュカ...くん?」
いきなり後ろから幼女の腕を引っ張ったリュカは幼女より前に家主に近づきその場に跪いた。
そして、乱暴にキュプロクス刺された方の腕をぐいっと持ち上げた。
「っ...も、もうちょっと優しくし...」
「我慢しろ、ポンコツ」
「リュ、リュカくん何するんですか?!家主さん痛がってるのに...っ」
幼女は慌てて家主の手を掴むリュカの手を掴んだ。
「チッ、お前は黙ってこれ持っとけ」
「え、これ...哺乳瓶?え?」
謎の緑色液体が半分ほど入った可愛らしい花柄の哺乳瓶を幼女は手渡された。なぜ哺乳瓶なのかという驚きと戸惑いで、掴んでいたリュカの腕をすっと離してしまった。
「って、これ哺乳瓶...ですよね?や、家主さんに一体何をする気ですか?!」
「チッ、うるせぇな。こいつの体には毒が回ってんだよ」
リュカは、幼女が回復魔術を使い治した傷跡に自分の親指を当てぐっと押し当てた。
「...毒?」
「あぁ、たぶんスリージの毒だろうな。スリージっつう草は刺々しい草で先に毒がある、まぁ即死しない分そこまで強力な毒じゃねぇし、でも即効性だからすぐに解毒しないと死ぬ」
「し、死ぬって...でもなんでスリージの毒が...」
「たぶんキュプロクスに刺されたこの傷口から入りこんだんだろ、槍の先端にスリージの毒を擦り付けてあったか。たまたまっていうのは有りねぇだろうし」
「ーーー毒」
幼女は少し考えた後、黙り込んでしまう。
「まぁそういう事だ。まずは毒を体から抜かなきゃいけねぇ、とりあえず解毒魔術かけるぞ」
リュカは幼女の返事を待つ事なく、呪文を唱え始める。家主はギリギリ意識を保ちながら、自分の腕をぼうっと見つめていた。
「すぐに楽になるから、もうちょっと我慢してろ。ポンコツ」
リュカが押し当てた親指からは、形なき美しい青白い光が溢れ始めた。
炎がゆらめくように、潮が満ちたり引いたりするように、光は強くなったり弱くなったりを繰り返し、それが繰り返される度に家主の苦痛に眉を寄せた顔は和らいでいく。
親指から溢れた光は、床に落ちてしまってもパッと線香花火のように一瞬の煌めきと共に弾けて散っていく、まるで光が生きていた。
そして1分もかかる事なく、リュカはさっと親指を離した。
「ーーーよし、痛みはどうだ?」
「...あ、や、家主さんどうですか?」
幼女も横からひょこっと顔を出し、仰向けにぼうっとした顔で寝転がる家主を見つめる。
「......ありがとう。嘘みたいに楽になったよ」
「...っ、はぁ」
幼女は家主の掠れた声を聞くなり、安堵のため息をもらしてゆっくりと家主に抱きついた。
「ははっ。心配かけてごめんね、二人ともありがとう」
「...はい、リュカ君が来てくれて助かりました」
「ん、君もだよ?来てくれてありがとう」
「わ、私は何も出来ませんでしたから...その...」
優しく微笑む家主に、幼女は頬をほんのり赤くさせ涙目になりながら、家主の背中に回した腕の力を強めぎゅっと抱きしめた。
「チッ、おいイチャつくな!まだ終わってねぇぞ、これ飲め」
リュカは幼女と家主の間に割って入り、幼女に預けていた哺乳瓶を家主の口に近づけた。
「えっと、これ...は?」
家主も流石に唖然とした顔で哺乳瓶を見つめる。
「お前、今腕にも足にも体に力入らねぇだろ?これ飲めばすぐに動けるようになる、飲まないなら一週間は安静にしないと元に戻らねぇぞ」
リュカは、ほら飲めと家主の口にどんどん哺乳瓶を近づけていく。
「えっと、確かに僕は今1ミリも動けないし脱力感っていうのかな、凄いんだけど、これは哺乳瓶じゃないといけない...のかな?というかこの緑色の液体は...」
「薬草を粉にして溶かしたやつだよ、たまたま家にあったから勝手に使った。効き目は抜群だから飲め、ほら手足動かせねぇんだから哺乳瓶しかねぇだろ?」
リュカは真面目な口調と表情で、家主の口に哺乳瓶をぐいぐいと押し付ける。





