異世界生活新しい「本物」
「トウサン トウサン」
愛おしそうに父さんの傷がついた体を撫で、次第にお父さんも、今にも倒れそうな息子に寄り添うように肩を寄せ始めた。
父さん父さんと子供は名を呼び続ける。
「ーーーーー」
幼女はそれを何とも言えない表情で見ている事しか出来なかった。
「トウサン ドウシテサシタノ イタカッタ イタイヨ」
「...私が悪い 父さんが悪いんだ あの様な アノヨウナ オドシニ...ァ」
「トウサンーーー?」
悲痛なか細い声で、父さんの口調が変わっていく。その途端、肩を寄せ合っていた自分の息子を突き飛ばした。
「ッーーートウサン」
「っ、ダメ!ダメです、それだけはダメ!」
地面に突き刺さった槍を無言で抜き、それを息子に向かって構えた。
幼女は慌てて、尻餅をついた息子の前へ立つ。
「っ...」
目は充血して赤く染まり、先ほどまでの穏やかさも暖かみもまるで最初からなかったように豹変していた、透明なほど純粋な殺気に、幼女は唾を飲む。
「ァア 愛しの 息子よ ア....すまない」
唸るように吐き出される低い声は、残り少ない理性を保とうとしているようだった。次第にドロドロの血の塊がお父さんの口から吐き出されていく、咳き込み酷く消耗ながらも、槍を持ち息子をかばう幼女に近づいていく。
「ーーーァァ」
「...サンクチューーー」
幼女の呪文を紡ぐ口の動きが止まった。
キュプロクスは自らに槍を向けた。そのまま流れるように心臓に槍を突き立てグサリと突き刺していく、貫いていく、血がぽたりぽたりと落ちていく。
「トウサン?トウサン...?」
幼女の後ろからヨロヨロとした足取りで駆け寄っていった。
「ァァ...ア」
太く長い槍は貫通していた、背中に痛々しい槍の穂先が見え隠れする。荒い息遣いと共に、血で濡れた土の上にキュプロクスは苦痛の様子で仰向けに倒れた。
槍は深く刺さったまま、抜く気配もなくそのまま手を槍から離した。
「ーーーま、待ってください!なんで、どうして...っ、どうして...」
幼女は目を見開きながらも、慌てて回復系統の魔術を唱えようと、キュプロクスに駆け寄った。靴を履いても分かるほど、ヌルヌルと辺り一帯の地面は血で濡れていた。
「お嬢さん無駄だ、もう生きられない」
こちらに駆けて来たクロードが幼女の肩を強く掴む。
「クロードさん。でも、回復魔術でどうにか出来るかもしれないし...」
「いいや、もはや回復魔術では追いつかない。蘇生魔術ならどうにかなるかもしれないが、すまないが俺は専門外だ。それに蘇生魔術は危険だ、成功例は一つだけ。どんな代償が伴うかも分からない」
「っ、そんな...」
クロードは静かに首を横に振った。





