異世界生活新しい「獲物」
リュカ君の事を話すおばあさんはとても楽しそうで、こっちまで笑ってしまうような魔術のような話だった。楽しい時間は早く過ぎ、あっという間に時計の針は進んでしまう。
「じゃあ気をつけて帰ってね。今日はありがとう、楽しかったわ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
そろそろ昼前になってしまうので、家主さんが来る前に帰る事にした。と言ってもまだ魔力が完全に回復してないから、リュカ君にもらった栞に溜め込まれた残りの魔力を使って。
「今日は本当にありがとう、また来てね。クッキーでも焼いて待ってるわ」
「はい...!」
おばあさんにぺこりとお辞儀をすると、おばあさんは手をひらひらと振り気をつけてね。と繰り返し言ってくれた。
「じゃあ、さようなら」
パタンと扉を閉め、人目につかない木陰へ移動する。どこで魔術を使おうかと辺りを見回していると、ガサガサと奥の草が揺れた。
風もないのにやけに大きく草が揺れてる、もしかして野生動物かなと興味本位で、少しずつお腹辺りまである雑草をかき分けていく。
「何もいない...」
音がした方まで雑草をかき分けて行ったものの、ガサガサ音はピタリと止まり、首を傾げた。
「ん?」
ふと靴の下で何かぐちゃりとした感触がして、地面に目を向けた。
兎らしき死体が、中の肉だけ取り除いたのか白い皮膚だけが綺麗に残っていた。血まみれの兎と生臭い鼻をつんざくような匂いに思わず幼女は顔をしかめる。
「ーーー何これ」
兎の耳だけは切り取られて、血に塗れず綺麗な状態で近くに放置されてる。それ以外は見るも無残な殺し方。
(食べるために?)
見るも無残な殺し方は人の手でやられたは思えない、でもこんなの食べる為で無いならどうして...
頬を撫でるぐらいの風が吹いたかと思うと、次は来た方向の雑草がガサガサと揺れた。後ろを振り向くと、すぐに音は止まる。
「ーーー誰かいるんですか?」
「シネ ヨソモノ コロセ」
「コロセ ハンギャクノ ジカン ダ」
「ひゃっ...!」
幼女は前から意図的に飛んできたロープに足を取られて頭から思いきり前に転んだ。その隙を狙って、後ろ前横右上からも何かがこちらへ近寄ってくる。
「痛...うぅ」
膝から血がパジャマに滲んでる。周囲一帯をいつのまにか囲まれてるような、何処からも逃げられないような、そんな予感と気配。幼女は右足に絡まる蔓を必死に解きながら、辺りを見回すが人一人いない。
でも気配は確かにしてる。
「ーーー!」
またガサガサと音がして後ろを振り向く。その瞬間、息を吐いて息を吸う間も無く、瞬きする間も無く、そのまま死ねと言わんばかりの一つ目が、幼女の腹に槍を突き刺した。
「っ、ぐっ、う...」
「シネ」
「シネ ニンゲン ヤレ」
いきなりの事に状況を飲み込めず、幼女は痛みで膝から崩れ落ちる。朦朧とする意識の中、幼女は自分を刺している相手を見上げた。
子供なのか、幼女より少し高い程度の身長。獣の皮を布のように体に巻きつけまるで原始人のよう。頭は丸坊主で、体ひょろひょろ、血走った大きな一つ目は、痛みに崩れ落ちる幼女を見つめている。
(キュクロプスだ...)
幼女は大きな一つ目を見て確信した。
「う...うぅっ」
槍は貫通してはいないがとにかく深く刺さり、抜く事もこれ以上深く刺さす事もキュクロプスはしない。
あまりの痛さに涙がポタポタと地面に落ちて、鮮やかな血と混ざっていく。
腹を刺された幼女ですが、家主はどうするのでしょうか。家主の記憶が戻るまであと3日。





