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閑話・信じられないでしょうけど、未だ知られざる空間です!


今回は訳あって短めです。



「おやおや、マスタはまたこんな事に巻き込まれているのだね」

「ええ。そのようですね」

「何を他人事のように言っているのです? 殆どは貴方のせいでは?」


そこは真っ暗な空間だった。


何かがあるようで、何もないようで。


影があるようで、ないようで、目が慣れそうで、慣れない。


曖昧な世界で、誰とも知れずに会話が響く。


その者たちは、どのような存在なのか。


ただ、その場に在り、唯一真っ暗な空間の中で電子的な光を発する機械に、映るとある男の現状を眺めては、各々に言葉を発していた。


「ええ、その通りです。訳があるとはいえ、彼には申し訳なく思っています」


どこか回りくどい話し方で指摘を受けた『女性』が申し訳なさそうにこうべを垂れる。

この空間の中で、『女性』であると、つまりは『生き物』の形をしていると表現できるほどに、存在感のある者だった。


「本当に思っているか、怪しいところですね」

「…………」

「まぁ、あの場で果てるはずだった僕達を、形はどうあれマスタを観れる場所に連れてきてくれた事には、感謝していますがね」


その言葉に何を思ったのか、それとも、何も思っていないのか。

女性は俯いたまま、目を閉じたまま、何も言わずにその場に佇むだけだった。


「やっぱりここにいたのか! ねぇ! 急いでくれよ姉さん! この前もここにいて遅刻したんじゃないか! 今度こそはそんなこと許さないからね!」


そしてまた一人、どこからともなく現れた『男性』、いや、『男の子』と。


存在を表現できる者が現れ、女性に対し手招きをする。

うつむき佇んでいた女性は薄く微笑み、佇まいを直し立ち上がり、何もないはずの虚空に向かい一礼をした。


「それでは私は失礼します」

「貴方も大変ですねぇ……」


まぁ、何も見えないはずの漆黒の中で、『何もないはずの』などという表現は適切ではないのだろうが。

そして急かされた女性の姿も暗闇に消える。

しかし、その場にあった喧騒は、消えることはない。


「やれやれ。あの人はもう少しどうにかなりませんかね……貴方達は何か飲みますか?」

「チッ! 何やってんだあのチビはよ! ご主人にやすやすと攻撃させてんじゃねえよ!」

「おいおい。落ち着け青いの。お前が喚いたってどうにもならんだろうよ。というか、主人殿の反逆者に、その言い分はないだろう」

「うるせえ! 燃えるしか脳のねえバカに言われたかねえんだよ!」

「うはは、いいよるわ。上等じゃねえの、燃やしたる」

「んー? …………何か言った? グリーン」

「はぁ……なんでもありませんよ。全く貴方達は」


画面に映る光景に文句をつける者と、それをたしなめる者。

その二人組の言い合いが始まり、一人のんびりとしたマイペースな声が響く。

グリーンと、そう呼ばれた者は何やら頭が痛そうに震える声を絞り出した。


「そもそもなぁ、てめぇがあのチビに手助けなんかすっからこんな事になんだろうがよ!」

「あ? 俺が手助けしたのとは関係ないだろう」

「いいや関係するね。そんなんだからあのチビがあんな『腑抜け』ちまうのさ。考えなしの甘やかす行動のせいでなぁ!」

「……もういっぺん抜かしてみろ」


先ほどとはワントーン下がった声がより鮮明に辺りに響き渡った。

だが、大声で喚き、ヒートアップした『青いの』と称される者は、その程度はでは止まらない。


「ああ! 何度だって言ってやらぁ! この考えなし野郎が! そもそも気に入らねえんだよ! てめえだけご主人のところに行きやがって!」

「オーケー。そこまで言われちゃ俺も黙ってられねぇ。あー、だが、青いの。お前の言葉は聞くに耐えん。つーわけで……黙らせてやる」


いよいよ持って険悪なムード。

何もないようでも、そこから生まれる二つの『圧』が急上昇し、その空間に存在が現れ出す。

真っ暗な空間の中で、ゆらゆらとゆらめく白いオーラを纏った人影が二つ、一種即発の雰囲気を撒き散らす。


「喧嘩は良くないよ。しょうがない、ここはみんなの笑顔の象徴(アイドル)の僕が一肌脱いで、二人を慰めてあげるとしようかな」

「「こっちによるな脳内どピンク!」」


そんな二人の雰囲気をぶち壊したのは、きゃぴきゃぴっと自らの声で効果音をつける高い声であった。

先ほどの雰囲気を一蹴できる『脳内どピンク』と称される者が凄いのか。

それとも、先ほどまでの『(そんざいかん)』を解き放ってなお、『影』としか映らないこの空間が凄いのか。

よくわからない空気に包まれた空間で、またしてもその空気をぶち壊したのは可愛らしい高めの声であった。


「マスター……はー……いつ見ても、マスターは僕のマスターだなぁ」

「黙れ脳内どピンク。近寄るなっつってんだろ!」


先ほどの存在感は果たしてなんだったのか。

焦り叫ぶその声には、小動物が怯え逃げ腰になりながら吼えたてているかのような哀愁があった。


「んっ……マスター、凄い……僕、濡れちゃった……」

「聞けよ……つうかどこがだよ……」

「ねぇ、レッド君、疼きが治らないんだ……君の熱で、鎮めてくれないかな?」

「ようし、ブルーのとこに行って沈めてもらってこい。念入りにな」

「うん。ブルーくぅーん」

「よかろう、それ以上近寄るな『ダイダルウェイブ』!」


そして、『青いの』がアビリティを行使する。

ザバァァアアという音が辺りに広がった。


「キャッ♡」

「ちょっと、こちらにまで被害が及んでいるのですが?」

「…………安眠妨害…………許すまじ…………死すべし……慈悲はない」


その行為に対し、各々それぞれな声が投げられる。

グリーンと呼ばれた者は冷静に苦情を申し立て。

マイペースかつ独特な喋り方に、少なくない怒気を混ぜて恐ろしいことを口走る者もいる。


しかし、二人の言い合いは終わらず、もちろんそれに対し茶々を入れるものの声も止まらない。


ここは、そういう場所だ。


今はまだ、誰も知らない。


だけど、それでも、確かにそこにある。


その存在が、機械に映る『とある男』と交わるのは、もう少し先のお話。


「はぁ、全く騒がしい。それにしても安眠妨害とは、よく言えたものですね。貴方だけですよ? この場所に来てこのような存在に僕達がなってから『一度として眠っていない』のは」

「……んー? そうだった、かな」

「マスタの事を片時も逃さず観ているではありませんか」


その言葉に対し、やはりマイペースに「そうだっけ」と言葉は返される。

さらに「……マスターが、心配だからね」と続けられた。


「…………待ってて、マスター。…………いつか絶対、また、君の隣に行くよ」


その切実な、そしてさまざまな強い想いのこめられ呟かれたその言葉。

その言葉を聞いた唯一の存在であるグリーンは、自ら放出されているであろう胡散臭げな雰囲気を微塵も隠さなかった。

「浮気防止とか、言ってませんでしたっけ……」という呟きとともに。



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