信じられないでしょうけど、限界と自分の勝手な言い分です!
「チッ、面倒なことになってきた」
自爆必死な相手はこれだから性質が悪い!
害悪プレイもいい加減にしろよ。
「撃たすかよ……」
『落ち着いてくださいバカマスター。闇雲に飛び込んでも攻撃は当たりませんよ。どうやら頭に血が上っているようですね』
『反射』は十分に溜まらないまま、突っ込もうとしたところを限界破壊ちゃんに抑えられる。
「止めるなよ」
『止めますよ。いざとなれば主導権は奪いますので』
「……じゃあどうする。止めないどどうなるかわかったもんじゃない。見てみろよ。やばい匂いプンプンだぞ」
銀髪少年は片手で顔を押さえたまま何かブツブツと呟いている。
その鬼気迫る雰囲気と体から湧き上がる不穏なオーラが大気を揺らしている。
『持ってきた『状態異常アビリティ』全てをつぎ込んでDEFとAGIを強化します。ドロップ品はベイビーズを介してアオの中に回収し、即座にこの場を離脱しましょう』
「却下だ。上にはミルクルさんもいるんだ。効果範囲がわからない以上、離脱は難しい」
AGI強化アビリティをフルで全力でダッシュしたとしても、目の前で頭を抱える銀髪少年はともかく、上にいるもう一人ががそう簡単に俺たちを逃すとも思えない。
プレイヤーの殲滅なんてことを真顔で言ってのける奴らだ。
操られてるならどうにかしてやりたいとも思うが。
操られてるにしろそうでないしろ、仲間を害そうとするなら、容赦はしない。
「どちらにせよ時間がない。『限界破壊』ちゃん、ATKに全乗せするぞ」
『力技ですか? 承認致しかねますが』
「この際ゴリ押ししかないだろう。もう時間が」
「『ハシル・スナアラシ・ソコニ・ウツルモノ・シルモノハ・ダレモオラズ・タダ・ハシル。ソノサキニアル・ナニモナイセカイヘ』」
詠唱終了か!
呟きを言い終えた瞬間、銀髪少年の体から強い突風が吹き荒れる。
「だめだもう言ってらんねぇ! 『限界破壊』!」
「『透キ通ル世界』」
俺が地面を蹴ったと同時、少年のアビリティ発声が行われた。
そして
「…………」
「…………」
何もなくその場で静寂が舞い降りた。
地面を蹴ったはずであるのに、俺はいつの間にか元いた場所に戻っていた。
その事実を理解した瞬間、銀髪少年のアビリティを受けたのだと分かり、ゾクリと背筋に寒いものが走った。
現状把握のため速やかに銀髪少年がいた場所に目をやり
「……な!」
そして再び硬直した。
「……なにも、起きない? …………何をした…………何をしたァッ!!」
『……喚くな下郎。アビリティの発動を『無かったことに』しただけだ』
そこには、今までで一番大きな声で叫ぶ銀髪少年と、その少年の首元に鎌の彎曲部分を押し当てた死神がいた。
先ほどで姿を消していた死神が、不意に銀髪少年の背後に現れたのである。
まるで、この時を待っていたかのように。
「よくも……よくもぉ!」
『……問答をする暇も惜しい。誰の子かも知らぬ者よ。さらばだ』
そして死神はあっさりと銀髪少年の首を取った。
銀髪少年の体は力なく大地に帰り、死神はがくりとその場に崩れ落ちた。
「お、おい」
『……来るな!』
声をかけて近寄ろうとしたところを、死神に制される。
『……近くによっては、ならぬ……神のチャンネルは、抑え込めたのであるから、御の字と言えるだろうが……そろそろ、限界、だ』
「限界? どういうことだ」
『……愚か者の手により、この場に現れた儂らは、本来であれば、あの愚か者と共に生き共に死ぬ定めにある』
死神の説明を聞き、理解できる。
本来なら、ノーライフキングの手によって生まれたアンデットは、ノーライフキングに絶対服従であり、ノーライフキングが死ぬことでイベント終了と共に灰へと帰る。
『……だが、儂らは神の眷属であり、自我があった。それ故、その法則には縛られぬ』
「ノーライフキングが死んでも、生きてられるってことだろ。それがなんだっていうんだ」
『……神の眷属にも、限界はある。法則を無視する力は、奴が作った今の儂らの肉体では押さえきれん。その中に眠る力は逆に、肉体を蝕み、精神を奪い取る…………儂らはもう時期、力に飲み込まれたただの化け物と化すだろう』
死神のその言葉に衝撃を受けた。
この理知的に喋る死神を、会話をして、ほんの少しだけ知ることのできた相手を。
只のエネミーとは、もう俺には思えなかった。
「だ、だけど、なんで急に」
何故か実感の湧かない、よくわからない自分の感情のまま、言葉は勝手に出てきていた。
『……力を抑えるにも、力を使う。その力を、アビリティと共に絞りきってしまっただけの、こと』
「ッ!? そ、それってつまり、俺たちを助けるためってことだろうが! なんでそこまでして」
『……儂らが主らを連れてきた。主らが望んだわけでも、主らに承諾を得たわけでもなく、命じられるがままに。だからせめて、主らをこの世界でまだ死なせるわけにはいかなんだ』
感情なんて見えるはずのない、骸骨の顔が。
それでも俺には、笑って見えた。
『……さて、只の化け物に成り下がる前に、自ら死を選ぶとするか』
そして死神は自らの鎌を担ぐようにして、自らの首に添えた。
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『七面倒くせえ狩だったぜ……くそったれめ』
「ケルベロスちゃん! ミドリちゃん回復薬を」
『意味ねぇよ、そう言うんじゃねぇ……」
戦いが終わった後、ケルベロスちゃんはその大きな体を叩きつけるようにして地面に倒れた。
最後はケルベロスちゃんが、なにやら変なアビリティを発動しようとする女に咆哮を浴びせて、そのまま噛み付いて終わった。
ケルベロスちゃんはタンク役を兼ねてくれたとはいえ、そこまで致命傷と見える攻撃を食らった様子はなかった。
『チッ……やべえな。『否定の咆哮』は無茶したかぁ……もう一歩も動けねぇ。なあ、嬢ちゃん』
「うん、なに?」
倒れて浅い息をするケルベロスちゃんの問いかけに、耳を傾ける。
『俺っちを、殺しちゃくれねえか?』
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俺が止めさせようと制止の声をあげようとして、異変に気付き口をつぐむ。
死神が、鎌を掲げたまま、自らの首に落とそうとしないのだ。
踏みとどまったかと思ったが、次に死神が発する言葉で状況を理解した。
「…………グ……クグッ…………愚か者、めがぁ!」
窪んだ瞳孔の中に怒りの炎を燃やしながら死神は声を絞り出した。
「……RI……pipi……pipi」
死神の視線の先には、骨でできた玉座の上に、黒い物体がいた。
その黒い物体は、たしかに『ノーライフキング』の姿だった。
まるでゴミかのようにボロボロの姿のそれが、ノーライフキングであると理解できたのは、ノーライフキング特有の鳴き声をそいつが発したからにすぎない。
ノーライフキングは玉座の上に這いながら、ぴょこんと伸びた手をこちらに向けている。
『死ぬことは許さない』。そう命令を送っているのだろう。
「あいつ……死神に殺されたはずじゃ」
そこまで言いかけて、思い出す。
そう、こんなこと、前にあったことがある。
前EGO時代に、イベント中にボスが発動したアビリティ。
「『クローン』か……ノーライフキングが持っていいアビリティじゃねえぞ」
『クローン』、自らのHPが0になった時、レベルを半減させる代償を支払うことで、HP半分の状態の仮初めの肉体を作り出し、そこに憑依できるアビリティ。
無限湧きするカエルボスとして有名だったダンジョンのボスのみが保持していたアビリティだ。
クローンの代償はHPの他にも、アビリティの一時使用不可、衰弱と麻痺の状態異常付与などが存在する。
実際にノーライフキングもかなり弱り切っている筈だ。
だが、こちらも弱り切った死神を、制御するくらいはできるらしい。
『……この、矮小な、虫ケラが!』
しかし次の瞬間、死神の姿が音と共に消失し、ノーライフキングの背後に回り込む。
『……今度こそ果てるがよい!』
そして鎌を一線、骨でできた玉座ごとノーライフキングの姿が再び両断され、その場にドロップアイテムがばらまかれる。
流石は死神、弱り切っていてもそれでもノーライフキングを一撃で沈めるとは恐れ入った。
ノーライフキングも、今度こそは復活はできないであろう。
『クローン』は一回発動と同時に封印状態になるからな。
『……グ、無念……』
しかし、死神も弱り切っていることに変わりはない。
いよいよ自分で鎌を持つこともできなくなったのか、地面に片手をつきゼェゼェと苦しそうに息をする。
『……自らの衝動を抑えるのに、必死で動けぬとは……我ながら、愚かなことよ。主人のご子息。すまないが、介錯を頼もう』
「はぁ!」
『……なに、儂が抵抗せず、死のうとしている状況で、主が殴ればそれで終わりである』
ただのモンスターになる前に、潔く死ぬってか。
そうかそうか。お前の言い分はわかった。
「嫌だね」
だからこそ、俺は俺の言い分を言わせてもらう。
『……暴走した儂は、面倒なことになる。その前に、殺しておけ』
「断る」
『……何故だ』
「お前が、俺たちを助けてくれたからだ」
あの場で、状態の掴めない謎のアビリティを放たれていたら。
俺たちは今頃どうなっていたか、わかったもんじゃない。
そして尚、俺たちのためを思い、自分を殺せと言ってくれたお前を。
それを助けてくれたこの死神を、このまま死なせるわけにはいかないと、そう思ったからだ。
「お前を見て気が変わった」
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「やだ」
ケルベロスちゃんの問いに私は即答する。
私の返答が意外だったのか、目を見開くケルベルちゃんに私は言葉を重ねる。
「本当は、ここには、貴方を倒すつもりで来てた。その準備もしてたつもりだった」
だけど
「貴方を見て気が変わったわ」
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「俺はお前を」
「私は貴方を」
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「「テイムする」」
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『…………面白い』
『…………ケッ! 勝手にしろい!』
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そして、死神とケルベロスの目が変わる。




