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信じられないでしょうけど、届く拳と仕方のない手段です!

『……なにかわかったのか』

「いや、能力名は文字化けてて、効果は不明。一つだけわかったことといえば『神のT』って表記だけど、意味はわからない」


神、神、神。

最近になって特によく聞くようになったフレーズだ。

明らかに神が関係してることはわかるのだが、それ以上がわからない。

情報が不足している。


『……そうか』


だが、死神は俺と違い何かを察したようだ。

そうかとしか言わなかったが、その声とともに死神から発せられるプレッシャーが強くなった。


「何かわかったのか?」


今度はこちらが質問する番だ。

先ほど死神から聞かれたことをそっくりそのまま聞き返す。


『……うむ。しかし、説明している暇はないようだ』

「みたいだな!」


銀髪少年は感覚がないのか地面に膝をつく左足を気にするそぶりを見せながらも、そのまま両手を地面につけ、クラウチングスタートの構えをとる。

そして、恐ろしいほどの脚力で地面を蹴り、物凄い勢いでこちらに突撃してくる。

死神が自分の目の前で360度鎌を回転させると、いつのまにかその場から姿を消していた。


「『限界破壊』!」


銀髪少年の狙いは俺だ。

死神が消えたところで、突っ込んでくる勢いを緩める必要はない。

俺はあえてアオを服の中に滑り込ませ、俺だけ戦闘態勢をとる。


(頼むぞアオ、限界破壊)

《うん!》

『……申請を受け取りました。アビリティ『混乱』・『統一』からレベルを強制的に3ずつ頂戴いたします。『混乱』・『統一』のレベルは共に12です。頂戴したレベル分、身体能力を強化します。急激な変化によるショックに備えてください』


その言葉の直後、体の感覚がふわりと宙に浮かび上がり、一瞬辺りが真っ白になったような感覚に襲われる。


そして、右足を一歩踏み込むことで銀髪少年の繰り出した拳を回避する。


「……」

「よっ」


回避した後俺の横っ腹ギリギリをかすめた手を掴み、こちらに飛んできた銀髪少年の勢いをそのままに地面に投げつける。


「『スルー』」

「ん?」


本来ならば地面に叩きつけるつもりだったのだが、綺麗な半円を描いたあたりで銀髪少年がすり抜けアビリティを発動。

俺に掴まれていた手がすり抜け、勢いを利用して緊急離脱される。

空中で数回回転し、地面に着き次第、即座に大地を蹴り上げ再び俺に殴りかかってくる。


「やるなぁ、限界破壊ちゃん」

『バカマスターにはこれぐらいでちょうどいいんです。バカはバカらしく、バカみたいに過剰に守らなければ意味がないんですよ』


好き放題にバカバカ言いよって。

釈然とせず、心の中で限界破壊ちゃんに反論しながら、連続で繰り出される銀髪少年の拳を避け続ける。


聞こえる。

見える。

わかる。


強化された聴覚が捉える空気の音が、銀髪少年の動きを俺に教え。

強化された視覚が写す相手の肉体の動きがその先を予想させ。

普段以上に加速する思考回路が答えを導き出し最高スピードで肉体に指示を送る。


「よっ、ほっ、とっ」

「あたら、ない…………『カーブ』!」

「甘ぇよ」


ストレートパンチが途中で以上な曲がり方を見せ俺に迫るが、それも難なく回避する。

こちらの裏を書くつもりがなんだか知らないが、『見て』からでも対処、余裕なんだよ。

それだけ、今の俺とお前とじゃ、速度に差があるってことだ。


「でも、守って、ばかりじゃ、なにも……できない」

「そうだな」


俺が避けに徹している理由の一つ目は、銀髪少年の防御貫通攻撃を受けるのが恐ろしいからだ。

だからこそ防御せずに避けている。

しかしそれだと俺の攻撃手段である『反射』の衝撃は貯められない。

そうなるとただのジリ貧だ。


時間稼ぎならただ避けるだけでも構わないかもしれないが、相手を倒すには攻撃をしなければならない。


そうなったところで、理由の二つ目。

こちらの攻撃がすり抜けるせいで、銀髪少年に当たらない。

つまりはダメージが入らないってことだ。

それはあまりにも不利。


攻撃を当てるためには


「…………っ! 『貫通する拳』」


そこでふと、唐突に俺の足元が滑り、動きが鈍くなる。

その一瞬の隙を逃すはずがない。

銀髪少年は無防備になった俺の腹に容赦のない拳を叩き込みにくる。


「『反射』ぁ!」

「『スルー』」


しかし俺も何もしないわけにはいかない。

即座に態勢を立て直し、俺の攻撃手段アビリティ『反射』の発動を叫びながら拳を打ち出す。


俺の拳と銀髪少年の拳が交差し、俺の拳が相手に届く


前に、相手の拳が俺の体に突き刺さった。


「……グッ!」

「……? …………ッ!?」

「つかまえた、ぞ」


そして、突き刺さった腕を捕まえた。

やっぱりな。銀髪少年の拳は俺の体をすり抜け、そして


「俺の内臓を直接殴ってくれたわけだ」


仮設だった。

もしワンパンオワコンパンチだったら終わっていたが、先ほど一発を食らった身から言わせてもらうとそうではないと予想できる。


俺の防御力は内臓にまで反映されていないのか、普通に殴られれば痛いらしい。

まぁ普通に痛いだろうが、こいつの攻撃が、物質貫通であり、防御力貫通でないのなら。

俺はニヤリと口元を歪ませる。


「『丈夫な臓器(アイアン・ストマック)』」


俺も日々成長しているんだ。

アビリティ効果は、内臓の『DEF増加』というもの。

殴られた程度では、ビクともしない程に、な。


まぁ、ミルクルさんの食事(げきやく)を口にして手に入れたこのネタみたいなアビリティが。

こんなところで役に立つとは微塵も思っていなかったがな。

物は使いようだ。


銀髪少年のアビリティ『スルー』は、恐らく通り抜けるアビリティ。

今、俺の硬くなった内臓に触れているのだが?

発動しているのなら、すり抜けるはずだよな?

つまり今は『発動していない』。


銀髪少年は殴った時の異常な感覚と、俺の反応に戸惑い、硬直した。

そして、お忘れではないだろうか。


俺が先ほど放った『反射』はまだ、銀髪少年に『届いていない』ということを。


「『反射』だ。クソッタレ」


寸止めしていた拳を、ピタリと銀髪少年の頬に触れさせる。


それと同時に何かが弾けるような甲高い音が響き、俺は拳を振り抜き、銀波少年は回転しながら派手に吹き飛んで壁を大破させながらめり込んだ。


《ますたー、もういいー?》

「いや、もうしばらく攻撃を続けてくれ。反射の威力を溜めときたい」

《んー、これ、アオが戦った方が早くない?》

「いや、今回は俺の方が対応しやすいからな。アオの攻撃は威力が高いけど大味なものが多いから。シンプルに物理キラーの銀髪少年とは相性が悪い」


さて、銀髪少年よ。

俺の気持ちが少しは理解できたかな?

先ほど俺の内臓を殴ってくれたからな。そのお返しだ。

まぁ、アオに俺を攻撃してもらい衝撃を溜めたから、倍返しだけどな。

やられたらやり返す。


「んー。はぁ、マジかよ」


銀髪少年はフラフラながらも、自力でめり込んでいた壁から抜け出した。

そして、おぼつかない足取りで、それでも「せん……めつ」と言いながら俺に手を向ける。


くそ、なんでそこまでして。

ゲームプレイヤーの殲滅って、お前だってゲームプレイヤーだっだろうに。

こっちに来て、一体何があったってんだ。


そこまで考えて、ふとケンゾウのことが思い浮かんだ。

あいつは、操られて俺たちと戦わされた。

その原因は、俺のパーカーと同じ『転生ドロップ』。


もし、銀髪少年の『転生ドロップ』があの黒ポンチョだとして。

頭も含めて全身を覆うような装備だ。

操るような能力があってもおかしくない。

銀髪少年の目に生気が感じられないのにも合点が行く。


「お前には情報を洗いざらい吐いてもらう。そのためにはまず、拘束させてもらう」

「……それは、無理……」


銀髪少年は困ったように頭を抱え、狂ったようにガリガリと頭をかきむしる。


「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ……ダメだ、追い抜ける、気がしない……このままじゃ、勝てないし……仕方、ないか」


本当はやりたくないんだけど、と小さな声でぼやいた銀髪少年が、左手の掌をこちらに向ける。

そして、風のようなものが銀髪少年の足元から吹き荒れる。

カタカタとダンジョンの地面も揺れ始め、その揺れも次第に大きくなっていく。


「……殲滅。死んでも、殺す」


銀髪少年は淡々と、思ったことをそのまま口にしているかのような軽い口調でそうのたまった。


自分が死ぬかもしれないリスクを負ってでも、俺を殺す、とは。

どれだけ俺を殺したいのだろう。何か悪いことでもしたのだろうか。


「お前が死ぬのは勝手だが、人を巻き込むんじゃねぇよ」

「ゲーム、プレイヤー、せん、めつ」

「話聞けよ……」


話している時間もないのか。

銀髪少年は掌をこちらに向け、辺りを覆う強烈な力を発しながら、深呼吸を一度行っていた。

そして、銀髪少年の右腕が肩まで淡く輝き出す。


その輝きは手だけに収まらず、やがては全身から光が漏れるようになった。


何かを抑え込むかのような、光の明滅。

しかし、その輝きは次第に大きさを増していく。

溢れ出る何かを、抑えきれないような。


その輝きになんらかの違和感を覚え、少し焦る。

その兆候、何処かで見たことがある。


まるで、そうまるで。


爆弾かのように。


もしかして、もしかしてなんだけど。


死んでも殺すっていうのは比喩ではなく。


自殺して(しんで)も殺すってことかよ。


俺の鳥肌を無視し、銀髪少年は淡々と言い切る。


「『チャンネル・チェンジ』」


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