信じられないでしょうけど、黄泉返りの真実です!
『……しかし、何度見ても違和感を感じない……流石は我が主君』
そう言ってしげしげとこちらを見つめる死神。
目の中にボンヤリと光る青い人魂の様なものがぎょろぎょろと動き、少し気持ちが悪い。
動きはとても滑らかで、言語を発する際にも何か翻訳を介しているような感覚はない。
少しアナウンスのようなエコーは感じるが、その程度だ。
こちらの世界は相変わらずゲーム時代との違いを見せつけてくる。
『……ん、いや、儂はあちら側でも話すことはできたのだが』
「できたのか? いや、言語設定されてたのか」
CVはどなたかな?
『……主人のご子息よ、お主は少し勘違いをしておるな』
「うん? 普通に喋れたってことか?」
『……そうだ。儂は、お主らのいう『ゲーム』の埒外に居るもの』
「んな馬鹿な。ならなんであの時は喋らなかったんだよ」
ゲームの埒外とか言いながら、あの時死神の背後には大きなエネミーバンクが浮かんでいたし、エネミーネームやエネミーアイコンだって問題なく見ることができた。
システム以外のなんだというのだろう。
『……あの時の儂は、ご子息との会話を許されてはいなかった。意思や何かを伝えるようなそぶりを見せればそれでもアウト。儂に許された事はご子息をこちらの世界に連れてくることのみ。そしてシステムというのは、あえてわざと普通のシステムに寄せた格好をしていただけに過ぎない。許されている事以外儂らは何もできぬからな。話さずとも良いように気配りはされておるのだ』
「そういう設定なのか。運営さんの趣味かね」
『……お主の考えとは逆。『運営』というものが儂らを作ったのではなく、儂らが『運営』その物なのだ』
その死神のカミングアウトに衝撃を覚える。
運営? その死神エネミーは、運営アカウントなのか。
「つまり、あんたの中身は、人間?」
神様だの、主人だの、変な話がごちゃごちゃしていたけれど。
つまり真実は、ゲーム運営者達の、ロールプレイだつたということか。
『……やはり勘違いをしておる。いや、今のは儂の説明が足りなかったか」
「違うのか。こんな技術を作り出した人間がいるのならまさにその人はまさに神様みたいな人だし、ロールプレイ徹底してるとかなら、今だけそれ無くすとか出来ないのか?」
『……儂は人間ではない。そして、運営側というのは間違いではないが、運営していたのは儂らではなく、儂らの主人。お主らが『神』として崇めている存在だ』
混乱してきた。
運営側が、神様? 何かの比喩表現?
そのまんまの意味だとして、えっと、つまりどういうことだ?
『……そもそも、『フルダイブ』。目を閉じ本体は眠るように意識をなくすだけで、全ての感覚を別のものに移し変えるなどという芸当が、本当に人間に可能だと思うか? 意識、感情、記憶。人間を司る主な要因であるそれを自由に移動させる。魂だけを抜き取り肉体を選ぶことができる。そんなことを可能な存在が、人間であるはずがないだろう』
そ、れは……技術の進歩とか。
『……確かにお主ら人間は凄まじい。人の身でありながら火・水・電気などの万象に触れ、その瞳に映らぬ物を見つけ出し、数多の新たなものを生み出し、そんな矮小な存在でありながら世界の広さの一部を垣間見る。良き者もおれば、悪しき者もおる。それは生物として当然である。そんな中で、最も可能性を持っていた。それは、何も持っていなかったからだ。己らで生み出そうとしたからだ。生み出せる事を知ったからだ。だからこそ、神も『人間』を次期神候補に選んだ』
そこまで神様に買われるのもどうかと思うけどね。
自分たちの暮らす環境を我が身可愛さに壊すような連中だぞ?
俺も含めて。
『……だが、人間は、それでも人間止まりなのだ』
まるで淡々と事実を述べるように、なんの感情も感じない言葉でさらりと言ってのける死神。
なんかさっき褒めていたこととのギャップがあって変な感じだ。
『……確かに人間は大きな可能性を秘めているだろう。数多の物を生み出しただろう。しかしそれを生み出すためには、『世界に用意された何か』を使わねばならぬのだ。それが無ければ出来ぬのだ。『何もないところでは何も生み出せない』。それが人間の限界であり、神との永遠に埋められぬ差だ』
うん。言う通りだとは思うよ。
流石にいくら頭の中がおかしな人だって、何もないところから何かを生み出すなんて事はできないだろうさ。
だが、魂の移動だっけ? ファンタジック溢れる話ではあるが、幽体離脱や明晰夢、魂とも呼べる現象はいくつか見つかっているんだ。
なら、あんたの言う通り可能性の塊であり、世界に用意された何かがあるなら数多のものを生み出せるのが人間と言うのなら。
人間でも技術の一つとして、魂の移動という事柄を用いることができるようになる可能性もあるんじゃないのか?
『……話が逸れたな。いずれ人間もその領域に達するかもしれぬが、今現在ではそのような事をなすのは難しかろう。神という超常の存在ならば、無から万物を生み出し、どのような現象も思いのままだ。とはいえ神といえど、限度はあるがな。言いたい事はつまり、まだ人間には不可能な技術がなんの前触れもなく現れた。その理由は、神という存在がそれを生み出し、その世界に託したからだ』
人間じゃできないことができる存在。
そいつは神様で、その神様が人間界に技術を提供したっていうのか?
『そう。フルダイブ型VRMMOというゲームを』
神様が運営するゲーム……ね。
フルダイブといえば、まさしくゲーム業界の最高峰の技術。
近年、技術の発展はめざましく、その努力の結晶がフルダイブ型ヴァーチャルMMO。
そう思っていた。
ゲームプレイヤーの誰もが製作者を褒め称え憧れた。
まさかその正体が神様だって?
神様って言ったって。いっぱいいるんだろ?
誰だ? 全能の神様でもいるのか? それともゲームの神様か?
いや、俺をこっちに連れてきたのは死神だってことなら、他にも神様はいるって考えるのが妥当か。
複数の神の合作、って可能性もあるわけだ。
「なら聞いていいか?」
『うむ』
「なんで神様は地球に新しい技術なんてものを託したんだ? 基本神様は人間たちの生活には手出しはしないものだろう? なのに今回に限ってなんで」
『……なぜ態々ご子息たちの生活する星に神が技術を落としたか。それにももちろん理由はある。だが、その理由が何かを儂らは詳しくはわからぬ』
死神のなんとも抜けた発言を聞いてアオとミドリ共々ずっこける。
知らないんかい。なんで。
『……神々の中でも、謎とされている部分であるようであるしな。儂らは神の一部であるが、元々は一部でしかなく自分の意思というものを持っていたわけではない。眷属として生み出された時からの記憶はあるが、その前の記憶はなく、例え主君が知っていたのだとしても一度使用する道具に対し詳しく計画を話す者などいないだろう』
そんなものだろうか。道具とはいえ相手には意思があり知性があるのだと分かったら、俺ならいくらねも話すと思うんだが。
『……まぁ、世界の危機であり、だからこそ異界で力をつけさせこちらの世界に連れてくる、ぐらいの話しかわからぬな。この世界を救うという理由があるとか。しかしその世界の危機というものはわからぬし、世界を救うなどと言っても何をどうしたら救うこととなるのかも基準がなくひどく不確定である。だからこそわからぬのだ』
「世界の危機ね。なんとなくは察してきたぞ」
要するにこういう事だろ?
こっちの世界がなんらかの危機に陥った。
こっちの世界を救うために人手が必要。
そこで都合のいい可能性の塊がたくさんいる星を見つけた。
しかし本来なんの力もない存在を連れて行ったところで戦力になろうはずもない。
だからこそ、こっちの世界に似通った世界観の『ゲーム』を作り出し、世界の仕様に慣れるとともに強い者を選定した。
そしていい感じに育った者達の中で自分の代理をこちらの世界に召喚する。
そして世界を救わせる、と。
「……世界を救うってなんだよ。俺はスライムちゃんとのんびり旅ができればそれでいいのに」
『……この神々の戦いに一歩でも足を踏み入れた以上、逃げ場はあるまい。目的を達成するか、死ぬかの選択肢しかあるまいよ』
「神々の戦いってなんだ」
『この世界の危機の召喚には大きな意味もあってな。勝者となった人間は次期神になるという褒賞もあるわけであるしな』
理由がわからないと言っておきながらそのあとペラペラと理由を話してくれる件について。
『……む。ご子息は、今自分が置かれている状況が、一つの世界を舞台にした最高神の座を神々が奪い合うゲーム『神々の盤上』であるということを理解しての言葉ではないのか?』
「世界を救うなんて大層な理由から、神達の俗な考えを暴露されて俺にどうしろと言うんだ。繋がりと関係性が全く見えてこない」
『……ふむ。我が主君は本当に何も言っておらぬのだな。一体何故』
混乱するな。落ち着いて話をまとめるぞ。
ハルマゲドン。神々が『最高神』の座を奪い合うゲーム。
舞台となる世界は、救わなければならないと判断された世界。
「なあ……ハルマゲドン、定期的にそれが行われるのは、いつだ? 代交代なら、定期的に行われていておかしくないだろ。三年契約みたいに、年月が決まってるのか? 神様達の中で時間とかいう概念が動いているならそれもわかるけど、人間と全く違うベクトルで生きてるような超常生物が、人間と同じ物差しで見れるはずもない。でも、そんな期日とか制限がないんだったら? 最高神とか、神の中でも最上位ですよってレッテルを、本来ならどんな神様だって手放したくないだろ、普通に考えて。でも、ハルマゲドンは行われている。それはつまり、神様達の都合関係なく『行わなければならない』状況になっているから。違うか?」
ハルマゲドンとは、最高神を奪い合うゲーム。それは裏を返せば、現最高神は強制的にその座から引き摺り下ろされることにもつながる。
まぁ、もう一度その最高神様とやらがこのハルマゲドンに勝てばいいんだろうけど。
「でも、最高神となったらそりゃあ他の神様とは力に差があるんだろうな。神様方が奪い合うほどなんだから。それは公平性がない。そして何より、神様は基本的に下界とかそういう所には直接的な干渉はできない」
『……何故そう思う』
「俺たちの世界が基本そうだったからっていうことによる完全な想像。神様方は公平を期すために、そして自分たちが直接干渉できないがために、『救うべきと判断された世界』に人間を代理人としてよこしている」
その代理人が俺たち、プレイヤー。
この世界のコピー品であるEGOでトッププレイヤーだった奴らを連れてくれば、こちらで早々死ぬ事もない。
そりゃそうさ、多くの人間達が『死んででも』その世界を攻略していたのだから。
実に使いやすい代理人だと思うよ。
「だけどいきなり『お前は神に選ばれたから世界救ってね』って言われて、はいわかりましたなんて言える奴はラノベの中の主人公だけだ。今までの自分の安定した生活が脅かされることを忌避し、世界なんて関係ねえと思うのが一般的だろ。だからこそ、『勝利した奴は次の神様ね』と甘い蜜を用意しておく。人間が本気で働けるように、目の前に人参ぶら下げられた馬みたいにな」
考え方は俺たちの世界にも普通にあった。
というか、見返りがなければ人間本気で動かないんだよ。
「結論、俺たちが神様になる、最高神の座を奪い合うなんていうのは、全ては『おまけ』。最もこのハルマゲドンが言いたい事は、『世界の救済』ってことだ」
っと、ここまでが俺が話を聞いた上での想像と妄想。
真実との相違点は?
『……相違ない。まさか想像のみで真実を読み切るとは』
「ある程度ヒントはもらっただろうが。でもそうか、そんなモンに巻き込まれてんのか俺たち。つーかやだなぁ」
とある想像をして、一気に疲労感が押し寄せる。
世界を救うってヒントがあるからわかったけど、多分神様方、自分の代理にその話してねえだろ。
なにはどうあれ、神様方からすれば自分が最高神になる事はめちゃくちゃ美味しいわけで、そうなるとそれをまるでメインの目的であるかのように振る舞うだろうな。
そうなると、自分の子供にこうとしか言わないんじゃないかな。
『他のプレイヤー全てを倒してあなたが勝利しなさい。あなたは神である私に選ばれた。あなたが勝てば私は最高神に、そしてあなたは今私がいる神の座につける。神になれるのよ』
なーんてな。
最初はなにをバカなど誰もが思うだろうが、自分が置かれた現状と相手が神様だ。
こちらを納得させる手札などいくらでも持っている事だろう。
『神の座に着けば元の世界に帰れる』とか『神になれば何もかもが自由自在だ』とか。
人間というのは自分の欲望に対して本当に弱い。
そんな言葉にホイホイと釣られ、目的の『おまけ』であるそれをメインのように勘違いして一番大事なことを知らされない。
神様も賢い人なら、その問題性に気付きそうなものだが。
いや、違うのか?
「そもそも、そうとしか言えないように『ハルマゲドン』に仕組まれている、とか」
世界の救済のことはどんな形であれまだ伝えてはいけないと、何かの制約に縛られているのだとしたら。
理由はあるんだろう。いきなりそんな話をしたところで受け入れられない、先ずは世界に慣らしてから、言わなくても襲われたり自分のみが危うくなれば勝手に世界を救うだろうとか。
だけど、それは世界を救う前に、世界を救うために連れてこられた代理人達がお互いに潰し合うことになる。
それはハルマゲドン側もよろしくはないんじゃないのか。
……チッ、情報が足りなすぎる。
「当面は、他のプレイヤーに襲われることを覚悟しとかないといけないって事だな」
『……ふむ、成る程。ご子息を我が主君が選んだ理由がわかっ……ご子息よ、のんびりと話している暇はないようだ』
死神の張り詰めたような神妙な声で語りかけられる。
「ん? アオ・ミドリ、何か引っかかったか?」
《んーん。今んところなんの反応もないよ》
《同じくー》
『……このダンジョンの入り口は特殊であるからな。そこまで索敵範囲を広げるにはまだ成長が必要であろう。何者かがこのダンジョンに侵入しおったな……、狙いはあの娘とご子息の二人か』




