信じられないでしょうけど、生み出された例のアイツです!
「なるだろうな、こういうことに……」
わかっていた。わかっていたことさ。
対策だって練ってきた。最悪のケースかと問われればそういうわけでもない。
想定できた内容だ。
「アオ。気ぃ引きしめろよ」
《うん!》
ミルクルさんとミドリの二人は今この場にはいない。
いるのはこのダンジョンのボス、装飾の派手な王冠を被った漆黒の球体と、もう一体。
『…………』
俺の目の前には、鎌を携えたあの死神が目を光らせ俺たちを見ていた。
なぜこのような状況になったかと言われると、王冠を被った漆黒の球体『ノーライフキング』のアビリティが原因だ。
このダンジョンは驚きの二層構造をしている。
しかも、第一層は転移式の迷宮型で、広さは平均的なダンジョンの一層に比べて3分の1ほどであり、第二層は地下への階段を降りた先の大広間『のみ』。
何もかもが風化しきり地面には砂のようなものが敷き詰められ、骨で構築されたコロッセオのような形の闘技場のデザインをしている。
その大広間、スカルアーツとも呼ばれる趣味の悪い闘技場の最奥、骨でできた玉座の上に浮いている漆黒の球体こそ、このダンジョンの主でもあるエネミー『ノーライフキング』だ。
そこに到達した俺たちは、待ち受けていたノーライフキングの先制の攻撃を受けた。
ゲーム時代では戦闘と判断される距離まで相手エネミーが攻撃を仕掛けてくるなどあり得なかったが、このダンジョンは奴と繋がっているといっても過言ではない。
俺たちがこのダンジョンに侵入した時点で、存在を察知され攻撃の準備をされていたのかもしれない。
ノーライフキングのアビリティを受けたミルクルさんとミドリは『打ち合わせ通り』速やかに転移薬を服用した。
問題がなければ敵エネミーがいなかった一層の中ボスエリアに転移したことだろう。
そして、奴は俺たちの目の前に現れた。
忘れるはずもない。
ほぼ一年ほど前と言えるあの時、俺が命を奪い、そして俺の命を奪った死神が。
「リベンジマッチだ。今度はあの時と同じように行くとは思うなよ」
こいつは文字通り『亡霊』だ。
ノーライフキングの生命の冒涜が生み出した生きたように死んでいる死体。
しかし、その姿から放たれるプレッシャーはとても亡霊が出せるものとは思えない。
流石はリアル……いや、死神といったところか。
前回、奴は俺たちに対して攻撃といえる攻撃をしてこなかった。
もし今回は違うのなら。
あの時と同じに思ってはいけないのはこちらも同じだ。
「Ripipipipipipipipipipipiiiiiiii!!」
ノーライフキングがまるで目覚まし時計のような鳴き声をあげる。
おおかた、攻撃命令だろう。
『…………』
(来るぞ! スタート、battle the エネミー! 掛け金レイズ、ベット……)
死神はあの身もすくむような咆哮を上げることなく、静かに両手鎌を右手で持ち直し、静かに態勢を整えた。
その仕草の無駄のなさに一瞬気を取られた。
しかし、気づけば死神はその鎌を片腕で持ち上げていた。
ヤバイ、気が緩んでいた。いや、こんなことを考えている暇はない。
いつでも動けるようにこちらも体制を
『…………誰に物を言っておる、愚かな者よ』
「……は?」
死神はたしかに『言語を喋り』、自らの右手を鎌で切り飛ばした。
「RIiiiiiiiiiii!!」
そして後方でノーライフキングが絶叫を上げた。
ノーライフキングの方へ視線を送ると、ノーライフキングは自分の体の右半分を切り飛ばされ叫んでいたようだ。
理解の追いつかない展開に混乱する俺を置いて、死神はくるりと俺に背を向け、自分を生み出したはずのノーライフキングに鎌を向けた。
『不死の王……死を司る神の眷属である儂を、御し切れるとでも思っていたのか。その傲慢、万死に値する』
死神は鎌を携え空中をスライドするかのような動きでノーライフキングに迫る。
「Riii」
『散るがよい』
断末魔の叫びをあげる暇なく、ノーライフキングはその肉体をバラバラに切り刻まれ黒い粒子のような物に溶けて消滅してしまった。
一拍遅れ、その足元に多くのアイテムや素材がばらまかれるが、俺はそんなことを気にしてはいられなかった。
理解が追いついていない。
まさか、ノーライフキングがこんなことで消滅するとは思っていなかったからだ。
ノーライフキングの金アビリティ『ナイトメア・リヴァイブド・デス』。
その効果は、自分を中心とした一定距離以内にいるプレイヤー一人につき、一体のエネミーを生み出すアビリティ。
エネミーは、そのプレイヤーがもっとも『死を身近に感じた』ということを『死亡回数の多さ』で判断して生み出される。
つまり、それぞれ自分が苦手とする相手をマンツーマンで生み出されるわけだ。
プレイヤーの数が多ければ、当然、生み出されるエネミーの数も多い。
そして、これのいやらしいところは、たとえそれが『ダンジョンボス』だろうが、『レイドエネミー』だろうが制限なくこのダンジョン内に生み出すことだ。
それをこんな狭いところで展開されれば、それはもう乱戦などとは言っていられない阿鼻叫喚となる。
これがこの場所へと大人数で立ち入ってはいけない1番の理由だが、今はそれは置いておこう。
本来、そうして生み出されたエネミーは、生みの親であるノーライフキングに絶対服従のはず。
しかし、亡霊として生み出された死神は知性を宿し。
自分の生みの親であるノーライフキングを容赦なく斬殺した。
わけがわからない。
『……久しいな、主人のご子息よ』
「……どうなってやがる」
俺は掠れた声でそう返すことしかできなかった。
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『オッ……あの陰気ジジイ。殺りやがったな。体が軽くなったのはありがてェガ、もうちょい考えろよなぁ。現界時間が減ったじゃねえか』
今私の目の前には、体のあちこちに深い傷を負いながら飄々としている巨大な犬がいた。
いや、犬というより、狼、いや、もっと別の何かと言っていい。
身体中についている傷からは赤黒い炎みたいなものが立ち上がっているし、メタリックなドクロがデザインされた首輪に、その首は『三つ』ある。
そう、その姿はまさしく『地獄の番犬』と言って過言じゃない。
あの時、私をこっちの世界に飛ばした原因となったエネミーだ。
あの時以上に『死を身近に感じた』ことなんてないから、生み出されるのはこの子だとわかっていた。
だけど、まさか喋るだなんて思っていない。
それもかなりフランクに、砕けた口調に気だるげな態度。
地面にぺたりと座り込み、好き放題に悪態をついた後、誰も見ていないのをいいことに大きなあくびをする。
『よォ』
「な、なに?」
『お前さん、俺っちの主人のチカラを使っただろ。今から説明する予定だが、あんま使うなよ。体がまだできていねぇのに無理すりゃ祟るってモンだ。次やったら間違いなく死ぬぜ』
「チカラ!」
つい身を乗り出してケルベロスちゃんに迫ってしまった。
ケルベロスちゃんのの『主人のチカラ』という言葉に反応せざるを得なかったから。
だけど、ケルベロスちゃんが引き気味に顔を後ろに持っていくのを見て、話してもらえないのはまずいと思い体を元に戻した。
『あーあー、説明するって言ってんだろォ〜。俺っちは『死んでいた』し、役目も終えたから本当はこのまま新たな肉体を得て主人に仕えるところだったんだが。まぁそれは置いといて、死んでいたから俺っちが死んだ後どうなってるかとかはわからん。取り敢えず、俺っちが死ぬ前から知っていたことから話そう』
ケルベロスちゃんが、死ぬ前から覚えていたこと?
『なんで、お前さんらがこっちに連れてこられたかとかの説明ダ。どうせなんも聞かされてねぇんだろ?』
「教えてくれるの!?」
『当然だ。というか、もっと前に教えてもらえたハズだぜ、通常ならな。お前さんらのケースが珍しいんだよ』
こっちの世界に連れてこられた理由。
そんな有るのか無いのかすら分からないようなものを、当然のように有ると言われ説明すると言われても、戸惑いが強い。
だけどそれ以上に、興味も強い。
早く知りたかった。情報を得たかった。
もし、理由なんてものがあるのなら。
そう思ったことがないと言ったら、それは嘘になる。
『お前さんは俺っちの主人に選ばれたプレイヤーなのさ。自分の後継にふさわしいってな。あ、面接とかそういうのないぞ、こっち側の独断と偏見で決められてる。お前さんを選んだ俺っちの主人の名前は『地獄神ヘル』。全ての世の地獄を統べる大王神だ』
「………………はい?」
言っていることの意味が、ちょっとわかりません。
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……ォォオン……ドゴォォオ……
「クリ……ア……プレイヤー、ゲーム……殲滅、殲滅、クリア」
捨てられた国イシュタムのダンジョン『死霊墓地の悪夢』の閉じてしまった入り口を無理矢理にこじ開けた、ナニモノかがブツブツと何かをつぶやいた。
その姿は、かなりの小柄で有ることからまだ幼そうであるが。
身体中を黒いポンチョのようなもので覆い、フラフラと生気の感じられない挙動はまるでゾンビのようでもあった。
「ま……ま、て……その先には、行かせんぞ」
そのポンチョ姿に、声をかけるものがいた。
その場にいた騎士たちが『全滅』し地にひれ伏す中。
ただ一人、ガイア国騎士団『神鉱騎士団』騎士団長ルーベは満身創痍の状態で剣を構え、自分のエネミー『ストーン・リザード』二体を地に潜ませた。
「掛け金レイズ、ベット100万ゴールド! 【 アース・クエイク 】!】」
ストーン・リザードの金アビリティはポンチョ姿の周囲の地面を激しく振動させ、ポンチョ姿に多大の負荷をかける。
「今だやれ! 『地喰らい』!」
負荷がかかりその場から動かず隙を晒すポンチョ姿に、もう一体のストーン・リザードのアビリティを発動させる。
『地喰らい』の効果はシンプルで、地の底から地面ごと対象を捕食する騙し討ちアビリティだ。
激しく砂埃をあげながらその強靭な顎を閉じたストーン・リザードの姿から、ポンチョ姿が捕食されたことは一目瞭然だった。
「……はぁ……はぁ……恐ろしい奴だった。ここがイシュタムか、ぐっ……部下たちをどうにかせねば」
「ギュ、ギュルルル」
「ん? どうしたリザよ」
「ギュルルルアアアアアアアアアッ!」
唐突にストーン・リザードの一体、リザが苦しみ出し、断末魔の叫びをあげた。
そしてリザの体を貫き、中からはほぼ無傷と見えるポンチョ姿が姿を現した。
「リザァァア!」
「……邪魔……する奴、敵……敵は、せん、めつ」
ポンチョ姿の手が、ルーべに向かう。




