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信じられないでしょうけど、多分、変? です!

「まさか、イシュタムに足を踏み入れる時が来ようとは……」


そんな騎士の一人のぼやきを聴きながら、俺たちはイシュタムに到着した。

道中何事もなく、しかしダンジョンに向かうには徒歩の方が都合がいい為、馬車から降りて歩きで移動している。

勿論、馬車をそのままにしたら秒で盗難にあうのでアオの『底無大胃袋』にしまっているが。


「そこかしこで視線を感じるのですが……襲われないのですか?」

「あんた騎士だよね……まぁ襲われることはないから安心しな」


ゲーム時代でもそうだったが。

ここにいる連中は皆殺気に聡い。

この場所で生きる為に身につけなければならない必須事項の一つだからだ。

強い奴には喧嘩はふっかけてこないんだ。


アオとミドリが『殺気』を振りまいておけば絡まれることもないだろう。


というか、なんで俺が騎士さんに安心しろなどと言わなきゃならんのだ。


「わたし達騎士は、暗殺が弱点ですからね。この場はある意味では天敵の巣窟と言えるでしょう」


暗殺が弱点っていうか、『なんでもあり』が苦手なだけだろ。


「……まぁいいや。でも、怖いからってダンジョンの中までついてくんなよ。入り口で待機するって約束だからな」

「は、はい」

「入ってきても安全は保証しないからな。やるんなら俺らを巻き込まないようにしてくれ」


目的はノーライフキングのラストアタックドロップ『残された悪意(チカラ)』。

それを確保して即撤退だ。

ノーライフキングの(ゴールド)アビリティは中々めんどくさいからな。

アビリティを吐く前に潰すのが最善だ。


騎士さんから視線を外してミルクルさんと俺の両肩に座っているアオとミドリに目配せする。


「行くぞ。みんな」


ダンジョン『死霊墓地の悪夢』の入り口の目印、『屍の塔』へと歩を進めた。


--- --- --- ---


「んじゃ、行ってくるわ」

「お、お気をつけて」


敬礼を返してくる騎士団の方々に後ろ手で手を振る。


「スピカ姫のために、なるべく早く帰るよ」


ダンジョンの入り口は、一パーティーが入ったことを確認すると姿を変形させしばらくの間で入りが不可能になる。

侵入者を逃がさないという意図を感じるな。


「ここにくるのも久しぶりだね」

「そうだな」


ダンジョンのコンセプトはその名の通り『墓地』。

そこかしこで人間の骨のようなものが転がっており、ボロボロになった墓が傾いたり倒れたりしている。

薄暗くジメジメとした雰囲気は、たしかに幽霊が出るにふさわしい。

出るのは幽霊(ゴースト)じゃなく、不死者(アンデット)だけどな。


《ますたー、行かないの?》


立ち止まっている俺たちを不思議に思ったアオが言葉を投げてくるが、俺はコクリと頷く。


「この先は迷路だ。しかも『絶対にゴールにたどり着けない』。行っても無駄だよ」

《そうなんだ、どうしてゴールにたどり着けないのかな》

「この先には『ゴールがないからだ』。この場合ゴールは地下への転移地点(ショートワープポイント)のことだけど。この先に続いている迷路の先にはそれがどこにも設定されていない」


あくまで、ゲーム時代でのことだけど。

もし、もしもだが、このダンジョンを『誰か元プレイヤー』が魔王として支配していたとしたら。

本来イベント用ダンジョンはプレイヤーが魔王になることはできないが、こっちじゃどうかわからないからな。

ダンジョンの内容を変更していたら面倒なことになるだろうわ

その場合も念頭に置きながら動くとしよう。


「じゃあ、どうやっていけばいいのかって顔だね。ふむ。秘剣『鬼殺』

「『限界破壊』発動」

《あ、これ離れたほうがいい奴》


ミルクルさんの意図を察して俺も早速『限界破壊を発動してステータスに補正をかける。

疑問にお答えしよう。


正解は……


「「後ろの壁」」


俺とミルクルさんが声と同時に、先ほどふさがったばかりの入り口、今俺たちが立っているちょうど『真後ろの壁』めがけ。

ミルクルさんが攻撃力特化の秘剣『鬼殺』を振り抜き。

俺が道中チマチマと貯めた衝撃を『反射』して壁をぶち抜いた。


その先には俺たちが入ってきたダンジョンの入り口はなく、迷路の道が続いていた。

そこにミルクルさんがスキップするように歩いていく。

俺も固まってる二人を肩に固定して穴をくぐり抜ける。


《ええ、入り口がなくなった。なんで》

「俺たちが入って入り口が閉じた時、既にダンジョン自体が転移してんの。それに気づかないで目の前にある道をどう進んでも、待ち受けてるのは大量の不死者(アンデット)の群れで、必ずここに戻ってくるようになっている。そんでいやらしいのは、一定時間が経つとまた転移が発動して元どおり入り口に繋がるようになってこと。このカラクリが分からないでここに挑む奴は中々いないけど、いたら悲惨だろうなぁ」


まずは第一の関門ってとこだろう。

めんどくさいのは、この壁を壊すにも中々力がいることくらいか。

多分、ミルクルさんの『鬼殺』だけだと、重ねて何度かぶん殴らないと壊れない気がする、

それぐらいは硬い。


「『限界破壊』解除」

『解除申請を受け取りました。コードを読み取り次第、スリープモードに移行します。解除コードをどうぞ』

「限界破壊ちゃん大好き大好き愛してる」

『……慣れましたね』


ふっ、俺も若かったってことさ。

心を無にすればなんくるないさー。


『心がこもっていません。心を込めてもう一度お願いします』

「ちくしょう、変な進化遂げやがって。いいからスリープしなさい。俺のアビリティレベルが下がるから」

『酷い、なんてマスターでしょうか。私は所詮都合のいい玩具。遊ばれて最後は捨てられるのですね』

「なんて言い草だ。お前は彼氏に二股かけられた悲劇の女性(ヒロイン)か」

『マスターは私に異性を求めているのですか? 申し訳ありませんが、私に性別はありません』


やかましいわ。お前に性別を求めたことは一度としてない。


『……』

「必要になったらまた呼ぶから」

『……かしこまりました』


実際、あと数時間しないうちに出番だよ。

そのためにガイアで俺は『呪われてきた』んだから。


「一つ目の関門は超えたとしても、この道にアンデットが出ないわけじゃないし、迷路がないわけじゃない。道順やトラップは俺たちがわかっているけど戦闘時に備えてパーティーについて再確認しとくか」

《念話で会話する?》

「いや、喋っててもどうせ相手に言葉通じてないからいいよ」


反転する壁の後ろに控えていたゾンビを俺が受け止めてミルクルさんがぶん殴ってバラバラにする。


「一番前はタンクの俺と、アタッカーのアオ。その後ろにメインアタッカーのミルクルさんと斥候&サポート役としてミドリ。こんな形で行く。アオとミルクルさんは、俺がタンクで相手の攻撃を受け止めている間に隙を見て攻撃、その二人の死角からの攻撃やなんらかの危険の際にサポートにミドリが入る。オーケー?」

「おっけー」

《うん》

《了解》


トラップを避け道を進みながらみんなに確認を取ると、元気な返事が返ってきた。


「あと、今は道を知ってたりしてるアドバンテージでめちゃめちゃ楽にこんな進んでるけど、中ボス戦とボス戦は集中して臨むぞ。ミルクルさんとミドリは、作戦通りに、いいな?」

「いざって時の『転移薬』も持ったしね」

《大丈夫》

「よし。この調子で進めばあと数時間ぐらいで中ボスの待つ転移地点に着く。アオとミドリにはタンク役やって動けなくなってる俺だと指示が行き渡らないかもしれないから、ある程度最初にゴールドを振り込んどく。ある程度は自己判断で動いてくれ。必要であれば指示を飛ばす」

《りょうかーい》


うん。こっちの世界だと融通が利いてありがたい。

指示なくしてはテイムエネミーは動けない。

だが『自己判断で』という指示をすることで、それが指示であると判断されて(マスター)の指示が無くても行動に制限がかかることはない。


《マスター、五歩半前の地面に『沈黙』の状態異常トラップ》

「わかってる」


こんなところで『沈黙』になってはいられない。

ゲーム時代ではよく使われたトラップだ。

テイムエネミーに支持の話をしているときにタイミングがいいというかなんというか、まぁ言わずもがな、支持ができなくなってエネミーが動かないから死にかけるんだよなー。


「ユベルちゃん。体は大丈夫?」

「ああ、なんてことない」


異常は異常で打ち消してるから、実際体にそこまでの負担は来ていない。

むしろ異常でいるのに異常が表に出てこないがために、精神的に疲労はきてる。

そうすることでまた別の異常になっている気がするが、気にしない方向で行こう。


《なんかあったら言ってね。ボクにもできることはあるからさ》

「ああ、その時は頼む」


--- --- --- ---


《ますたー。ちょっと変だよ》

「変? どうかしたのか?」

《うーんと、多分、変、なんだと思う》


アオの自信なさげな言葉が脳に入ってこない。

多分変? どういうことだ?


《見てもらったほうが早いと思うよ》


ミドリもか。

うん。『察知』の反応を見るに、こいつはおかしいな。


「ミルクルさん、走れるか」

「当然」

「ちょっと確かめたいことがあるから、ボス部屋までダッシュ」


迷路を最短ルートで抜けて中ボスの待つ部屋までもう少しというところで歩きを早める。

中ボスの部屋に到達し、辺りを見渡すことでアオとミドリの言う『多分、変』を目の当たりにする。


「ボスが、いない」


ミルクルさんが呟いた通り、本来ならばグール将軍とその配下たちのアンデット兵達が待ち受けているはずの場所には、エネミー一匹いやしない。


「『俺たち』が原因だろうな、こりゃ」

「十中八九そうでしょうね。ノーライフキングちゃんも大変だわ」


これからが『より困難』になる可能性が的中し、俺とミルクルさんの呟きには何かを諦めたかのような哀愁が漂っていた。


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