信じられないでしょうけど、監視付きの旅立ちです!
EGOの中にあるダンジョンの中で、そこは酷くありふれたダンジョンの様に見えた。
いや、もっと言えば、ありふれたダンジョンよりも、もっと難易度の低いダンジョンのようにも見られていた。
広さはなく、深さもない。
しかし、どんな視点からとは言え、ありふれたダンジョンから一線を隠すということは即ち、それは『異常』の定義ではないだろうか。
実際、そこへと足を踏み入れたプレイヤー達は例外を除きそのほとんどが復活を余儀なくされた。
ダンジョン『死霊墓地の悪夢』。かつて『その場』で行われたクエスト『精よ! 性よ! 生よ!!』のラストボス《No Life King》が、このような記述を残す。
『残る力に溺れろ愚者、その身を以て悪意の意味を知るだろう』
そして、激闘という言葉すら生ぬるい、多くの仲間たちがその苛烈さに肉体を散らせながら、それでもボス戦にてMVPを飾ったプレイヤーにはあるアイテムが与えられた。
そのアイテムの名は、『残された悪意』と言った。
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「監視役として、我々神鋼騎士団が貴殿らとともに赴くこととなった。よろしく頼む」
「よろしくじゃねえんだよなぁ」
今日朝一でスピカ姫の様子を確認にきて、1日に三回、8時間ごとに必ず回復薬を服用することを言い含め回復薬30本ほどを部屋に置いていたところ。
部屋のドアがノックされ、そのドアを開けた騎士団長さんが最初に言い放った言葉がそれだった。
「監視役。そうだな、そんなのは必要だろうさ。だけど騎士団が来てどうすんだよ。あんたら王直属なんだろ」
「ダンジョン攻略に最も相応しいと判断されたのが我々だ。王の信頼の証とも言える」
「その間にこの国が襲われたらどうするよ」
「心配ない。なにも我ら騎士団の全団員が向かうわけではない。信頼の置ける副団長二人に団員の半分はこちらに置いていく」
半分に分ければ国の防衛は問題ないってか? ほんとかよ。
というか、問題はそれだけじゃない。
「俺たちが行くダンジョンの話しなかったっけか? サイドさんにちゃんと伝えたはずだけど、俺たちが今から行こうとしているのは『死霊墓地の悪夢』。無法地帯“捨てられた国”『イシュタム』の地下墓地にあるダンジョンだ」
「わかっているとも。ここからイシュタムへ、一山を越えればすぐそこだ。厳重な通行規制が掛かっているが、それはあくまで向こう側のみ。こちらから向こうに赴く分には何の問題もない。とはいえ、なにも知らぬものが訪れぬよう、厳重な体制を敷いているのはこちら側も同じことではあるがな」
『イシュタム』は無法地帯。だからこそ、こちらの国民や、旅人などが誤って中に入ってしまはないよう規制がかけられている。
それに、ダンジョン攻略にはそれなりのパーティー構成が必要で、それが常識だ。
肩書きがある騎士団長さんや、騎士団がいてくれるのは、客観的に見れば大きなメリットになるのだろう。
だが
「今回に限ってだけはただのデメリットでしかない。監視は別の方法で行ってくれ」
俺たちが今から向かうダンジョンは、只のダンジョンじゃないんだ。
EGOプレイヤーの多くに敬遠された不人気No.不動の一位を飾るアンデットダンジョン。
旨味はある。確かにある。
だがそれら全てを加味しても、『やってられるか』と言う奴を誰が責められようかという場所だ。
「何故だ。まさか、逃げようと考えているわけではあるまいな。やめておけ。大人しくダンジョン攻略を行うことだ。自信がないのだとしても、我々がいれば」
「違う。その逆だ。『大人数は悪手』なんだよ」
まさか本当に知らないのか?
「質問するぞ。騎士団長」
「なんだ」
「あんたは、今までの人生の中で『最も死を身近に感じた』のは、いつのことだ?」
「なにを急に」
「いいから答えろ」
俺の言葉をうけ、顎に手をやりしばらく思考していた騎士団長さんが口を開けた。
「三年前、騎士団総員で戦ったアース・イーターとの戦闘の時だ。戦闘継続可能となったのが我のみとなり、一対一で奴と戦り合った時は死を覚悟した」
そうか、パーティーで挑んで、それでも厳しかったわけだな?
その騎士団長の言葉に対し、俺は、ある決定的な質問をした。
騎士団長の顔は怒りに歪んだ。
それでも俺は説明を続ける。
最後には、騎士団長、その後ろにいた騎士団員さん達のほとんどが、顔を蒼白とさせていた。
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「はぁ〜。私達は、じ・ゆ・う、だぁー!」
《だー!》
《だー、じゃないよ全く》
「城の外に出ただけだっつーの」
サイドさん曰く『それでも私たちにできることはしなければならない』と食い下がられ、俺たちは国の保管する宝物庫で準備を済ませた。
まさかここまで至れり尽くせりとはな、この国ではもはや無価値になっていたとはいえ、ありがたい事だ。
ダンジョンに行くまではしばらく不便だけど、それも我慢だ。
「ダンジョンの入り口と出口は一つのみ。逃げることはできないし、大人数で行ったら死ぬ確率が増えるだけっつーことで監査役は入り口待機でオーケー。んー、後はぁ……あ、ミルクルさん」
「なに?」
「挨拶に行きたいところがあるんだけど……」
そして俺たちはダンジョン『死霊墓地の悪夢』へと旅立った。
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「馬を走らせてくれるのは、素直にありがたいな」
「そんなことに金を使うぐらいなら歩けっていう、EGOプレイヤーのDNAが騒ぐからねぇ」
《アオたちが走った方がはやーい》
《ボクは楽でいいけどね。…………マスター特急には二度と乗らないけど》
ミドリよ。その節はマジですまんかった。
俺特急と言われてもとは、とてもじゃないが言えないな。
ミドリの人生初の『乗り物酔い』が俺だったからな。
「俺=乗り物か……納得いかねぇ」
「≠の間違いでしょ。だって普通の乗り物じゃ酔わないんだから。もはや乗り物すら凌駕してるわよ」
わーい。嬉しくないフォローどうもありがとよ。
《そういえばマスター。『酔い』で思い出したけど、ちょっと聞いていいかな》
「なんだ?」
《マスターは無効系のアビリティをいくつか持ってるよね。『睡眠無効』を持ってたはず。なのに、マスターは『睡眠が出来る』。これってどうしてかな》
んー、成る程。変なことが気になるもんだな。
とは言え俺も、最初は気になって理由を求めたっけか。
「俺のアビリティは『睡眠無効』。『睡眠不可能』じゃない。この違いは大きい。詳しく言えば、睡眠という『状態異常』を無効化する、という『状態異常無効化』アビリティなんだ。『睡眠』の『状態異常』にかかりまくる事で耐性を得て、レベルを上げて進化させることで初めて手に入るアビリティ。あくまで無効化させるのは『異常な睡眠』であって、『普段の睡眠』は無効化されないんだよ。状態異常として扱われないからな」
『催眠術』アビリティ等で無理矢理眠らされそうになれば、アビリティが異常を察知してアビリティの効果を無効化する。
《ふーん、そっか》
「俺の『毒無効』も、それと同じだな。例えば、ミドリの回復薬を俺が飲めば、勿論俺のHPは回復する。だけど、『薬』と『毒』の線引きなんてある意味じゃ曖昧だろ? 毒をもって毒を制す、薬も過ぎれば毒となる、なんて言葉もあるぐらいだ。そんなことになったら、俺はどんな薬を飲んでも効果がないことになっちまう。だからこそ、『毒』という状態異常のみを無効化するって効果になってるんだろうな。ある意味じゃ、普通の状態と比べれば急に活力が戻るのは異常かもしれないけど、それをあえていうなら『回復』の状態異常ってとこだな」
ふむ。そうなるといつか『回復耐性』なんてアビリティを獲得してしまうかもしれないんだな。
状態異常として出てくるわけじゃないから無いとは思うが、絶対に無いとは言えない。
やはりやりすぎは良く無いというわけか。
急激すぎる回復なんて、考えてみれば身体にいいとは思えない。
何事もバランスということだ。
いざ変なアビリティを獲得してしまった時は、『限界破壊』のエンジンになってもらおう。
《うんうん、ありがとね》
「気にすんな。でもどうして急に?」
《『無効系アビリティ』のデメリットを知っておきたくってさ。ほら、ボクって軟弱でしょ? ボクの武器『薬』があるにしても、いざという時の備えは必要かなって。それに『薬』があるって事は、逆に『無効系アビリティ』獲得しやすいって事でもあると思うからさ》
「よし、デメリットを教えよう。アビリティ自体は物凄く有用だ。アビリティ自体に大きなデメリットはない。一度手に入れてしまえば大きな武器になるよ。でも、耐性アビリティ獲得までが長く、レベルを上げ進化させるまでがもっと長い。ひたすらに自分で自分を苛め抜くただのマゾゲーだから、本気の覚悟がないとやってられない」
俺の言葉には説得力があろう。
実に俺が通ってきた道である。
とはいえ、ゲームシステムが働いているEGOとそれがないこちらの世界では、大きく変わってくるだろうけどな。
辛さ100倍だ。
「とはいえ、だ」
ミドリから緊張の気配が漂い、ミルクルさんから『意地悪はその辺にしときなさい』という視線をいただいてしまったため、“本当のこと”を話す。
「ぶっちゃけたところ、『適正』さえあればめちゃくちゃ簡単に獲得できる。あくまでさっき言ったのは『一般的』な話ね。そして、ミドリやアオの二人はアビリティ獲得適正に極大補正がかかる『反逆者』持ちだ。所謂『根性勢』の言葉なんて、真に受けなくていいぞ」
素が弱ければ弱い程、その者に強大な力を与える称号『反逆者』。
そしてアオとミドリの二人は、世界最弱種『スライム』。
アビリティ効果は、お察しなんだよなぁ。
「じゃあ都合もいいことだし、今から向かう『死霊墓地の悪夢』についてと、そこのボスについて説明をしておこうか」
一山を超えるだけ、などと軽く言ったものの、それでも一山だ。
最初の方こそそれなりに整備された道を走っていたが、今となってはただの獣道のような道をガタガタ進んでいる状態だ。
安全運転を心がけているのかスピードもそこまで出ていないため、少なくとも一夜は野宿となるだろう。
時間はたっぷりと余っている。その間に、話せる事は話しておこう。
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「なかなかタイミングが掴めないねぇ……どぉーしたもんかなこりゃー」
仕事机でだらだらとしていても明暗など浮かぶはずもなく。
業を煮やして椅子の背もたれに全体重を叩きつける。
その衝撃でクルクルと回転し上空に飛び、自分の顔めがけて降ってきたペンを鼻と上唇でキャッチする。
「はぁ、目が覚めてはいめでたしめでたし……なーんって行ったら苦労しねぇんだよなぁ〜。俺様ちゃんの因子が完全に入り込んでやがる。進行速度は前の比にならない。次、前と同じことをやったら今度こそ間に合わなくなる……」
だ、け、ど。
「だからって俺様ちゃんが『神託』を投げたとして、俺様ちゃんの神格に触れてあの子の因子が俺様ちゃんに引っ張られでもしたら大問題だ」
死神さんも何故か自分の子に『神託』を送ろうとはしていないし。
さてさて……にしても、あの子達ゃ、ぬわ〜にしてんだぁ?
よく見てみれば、どっかに向かってんなぁ。
行先は…………イシュタム……ダンジョン、あそこのダンジョンか。
…………おっ。これはこれはこれはぁ、俺様ちゃん、まだ『神託』を出さなくても良くなる説。
いーいこと思いついちゃったぁ〜……にししっ。




