信じられないでしょうけど、解呪スタートです!
さて、気合い入れ直さなきゃな。
俺の目の前で横になり俺のことを見るその目には、若干の不安と緊張が見て取れる。
よく見れば顔色も良くないし、まだ若いのに頰が窪み元気を感じない。
俺は医者ではないが、それでも病人というものを何度も見てきている。
これだけ外的に見て分かりやすいほどに、衰弱していると思っていいだろう。
「診察するから、あんまり驚かないでくれよ」
一言断ってから、両目を一度閉じ目をリラックスさせ、自然にアビリティを意識する。
こんな俺にできることは限られている。
その限られた中で、どう使い、どう活かすかが鍵だ。
(『検索』!)
目を見開き、自分自身の視界に少し違和感を感じた後、脳内に情報が流れ込んでくる。
名:スピカ・フェルベール
性別:女
年齢:7
LV:2
職業:第一王女
称号:【 王女 】
【 不幸が巣食う者 】
所持金額:300,000ゴールド
HP:5/16(-484)
ATK:3
DEF:12
AGI:2
INT:100
アビリティ
『聴覚強化』『栄養補給』『体質変化』『痛覚麻痺』
固有アビリティ
『苦痛耐性』『鋼の心』
特別アビリティ
『不幸少女』
チッ……アビリティが歪だ。
ステータスもかなりおかしい。
呪いは、この見覚えのない特別アビリティで間違い無いだろうな。
もっと深く検索するべきか。
《マスター? 見えた?》
(ああ。けど、もう少し検索してより詳しい情報を集めようと思う、ミドリはどうする)
《なるべく早く取り掛かりたいんだ。出来るなら今の状態の情報を教えるか、調べながらリアルタイムで情報を流すかして欲しいところだけど》
「わかった、現状の情報を流す」
検索で知った称号に、ステータスとアビリティ構成を念話で伝える。
自分の想像は加えずに今判明している事実のみを話した。
「詳しいことはまた検索してから」
《うん、わかった。じゃあボクはボクで動いとくよ。あー、取り敢えずスピカさん? ボクの声聞こえるかな? あ、返事はしなくていいよ。聞こえていたら、首を一回縦に振ってもらえるかな》
突如頭の中に言葉が流れ込んできたように感じたのだろう、実際その通りなのだが、目をまん丸にし辺りを見回したスピカ姫にミドリを指差す。
先程まで目を丸くしうろたえていたスピカ姫の視線が定まってミドリを見た後、コクリと首を縦に振った。
《おっけ、聞こえてるみたいだね。初めましてスピカさん。ボクの名前はミドリ。ここにいるマスターのテイムエネミーで、スライムだよ》
ミドリの挨拶中により深く検索を発動するために俺も準備を開始する。
まぁ準備といっても、アビリティを一つ発動するだけなのだが
「『アビリティセンス』」
俺の目にアビリティセンスの光が灯った。
じっと、じーっと、スピカ姫を穴が空くほどに見つめる。
彼女の中に巣食う、呪いを見抜き、穿つために。
(『不幸少女』。この世に4人が持つ少年少女アビリティの内の一つ。少年少女アビリティは、生まれた際にランダムに選定され与えられる。常に4人がキープされ、アビリティ保持者が死に至るとその瞬間次の選定が始まる。このアビリティを保持する少女は、多くの苦難・困難の坩堝に落ちるだろう。……解呪条件は)
頭に浮かぶ説明欄に記載されている内容を読み上げるが
(載ってない、か)
ゲーム時代の呪いの解呪は、俺のように『見える者』や『呪い専門』のプレイヤーとかに依頼して見てもらい、システムウインドに出てくる説明文に書いてある解呪条件を知るのだが。
もちろん載ってない時も多かったけど、今回の場合wikiを泳いだり付与者に殴り込みかけるとかができないからなぁ。
(はぁ、『アビリティセンス』解除)
お試し候補には上がったけど、試さんとこ。
後はスピカ姫のHPだな。
HPが減ってるのはまだわかるとして、HP総量にマイナス補正がかかるのは正直やばい。
これじゃいくら回復してもいたちごっこだ。
そう考えたところで、部屋の扉がノックされた。
「ん?」
「ああ、入ってくれ。ユベルさん、大丈夫だ。怪しい者じゃない」
「わかった」
部屋の扉を開けて中に入ってきたのは、2人のメイドさんだった。
恭しく一礼をした2人は手にお盆のようなものを持ち歩いてくる。
「お嬢様。本日のお薬でございます」
「薬か。悪い、ちょっとそれ見せてもらっていいか?」
「申し訳ありません。薬の摂取は緊急を要する物ですので、時間をずらすわけには行きません」
そんな話をしている間に、スピカ姫のHPが1減った。
いや、多分回復薬の類なんだろうなとはわかっていたし、質の問題でミドリの回復薬より質が低いなら俺たちが持っている方に交換したいんだけど。
「口答えしないでユベルさんに見せてくれ」
「センター君。しかし」
「大丈夫だ。いまのスピカ嬢のHPは4。5になってからの減り方はわからないが、回復薬を見るのはすぐだよ。危なくなる前にちゃんと返すさ。いいだろ?」
「なぜ貴方にそのようなことがわかるのですが」
おっと、このメイドさん俺に対してキツくねぇかな。
俺たちがこの国で何したかを思えば、好印象を与えているとは思えないけどさ。
「『検索』が使える。質問は以上か? 早くしたいなら俺も急ぐからメイドさんも早くしてくれ」
渋々といった表情で渡されたコップの中に満たされている薄緑色の液体をミドリの目の前に持っていき、『鑑定』を行う。
《せいぜい中級の下ってとこじゃないかな。論外》
「大正解。下級上位と中級下位の中間ってとこだな」
騎士団長さんが、俺たちの回復薬を見て没収しようとした理由がわかったな。
こういう理由なら、そりゃ回復薬がいるだろう。
定期的に摂取しなくちゃならないなら消費もバカにならないだろうが、ここは王城、王様ならなんとかできそうな気もしないでもないけど。
呪いの重さのせいで回復薬の質が追いつかないのかな?
「こんなんじゃダメだな。スピカ嬢、今日から服用する回復薬を変える。一回の服用する量はこのコップ一杯が目安だな?」
俺がそういうと、スピカ姫はコクリと首を縦に振ったが、俺に突っかかってきた方のメイドが慌てた。
「お、お待ちください! 回復薬を変える? 一体どれだけの量が必要だと思っているのですが。貴方個人が保持している回復薬など質も量も、たかが知れて」
「サジおばさん!」
「せ、センター君」
「この件は、ユベルさんに一任されている。これは王も親父も認めてることだ。ユベルさんが変えると言ったら変える。文句は言わせない」
一任されていたのか。まぁ、治せなかったら処刑的なこと言われてたんだし当然か。
自分の命は自分で守れってことだろう。
それに、理不尽なことをやろうものなら、センターの手で取れられた上で上に報告がいくのだろう。
センターはそのための監視兼、スピカ姫の専属執事と見た。
「か、かしこまりました」
「オーケー、この薬は劣化しちゃうから、こっちで瓶詰めするぞ。アオ、空き瓶出して。ミドリ頼んだ」
《んー、りょうかーい。回復薬は?》
「んじゃ10本ほど出してもらおうかな」
《ほーい》
アオが空き瓶と回復薬を10本取り出す間、無言で薬を体内に取り込みモゴモゴしていたミドリが、ペイっと薬が入った瓶を吐き出したのでそれをそのままメイドさんに返す。
「不純物の処理もしといた。後付けで流石に俺が持ってる回復薬の質には劣るからスピカ嬢の治療には使えないし。騎士団の方にでも使ってくれ」
俺がそういうと、メイドさんは呆然としていたが、もう1人がぺこりと頭を下げて呆然としているメイドさんを引きずり部屋の外に出て行った。
ミドリの負担にならない程度に、他の回復薬も見てやったほうがいいかもな。
「しゃあないから、いくつか薬を試していくか」
《あー、それボクが残した『超回復薬』じゃーん。ずるいよー》
「病人優先。まだ三分の一は残ってるしな。せいぜい二口程度だけど、気休めにはなるだろう」
他にも高純度の回復薬に、治癒の魔道具(使い捨て)も動員しますかね。
「まー先ずは回復薬を飲んでくれ。上級上位の最高ランク、俺たちが持ってる中でも数少ないミドリの最高傑作だ」
便のコルクを抜きそのままスピカ姫に差し出す。
どこかに移すだけで品質が悪くなるからな。
ぜひ便から摂取していただきたい。
「い、いただきます」
両手で大事そうに瓶を持っていたスピカ姫が、意を決したように瓶を傾けコクコクと可愛らしく喉を鳴らした。
その間も『検索』は発動している。
「あ、スピカ嬢。もう大丈夫」
「え……」
「一口で全快してるよ。……残念そうな顔をしないでくれ。美味しかった?」
「はい、物凄く。甘くて、酸味があって、なんというか、凄く、美味しいです」
《ふふん。ボクのボクによるボクのための完璧な飴セレクトによる味覚コントロール。最高傑作だよ》
そんなことをしてたのか君は。
飴ちゃんの消費が早いなとは思っていたが、飴をそんな風に使おうと考えるのは、世界でミドリただ一人だよ。
《おいしそー。アオにもちょーだーい》
「後でな」
《ぶー》
「よしよし。スピカ嬢、何か体に問題はあるか? 違和感があるとか」
ぶーたれるアオを撫でながらスピカ姫に問いかけるが、スピカ姫を見る限り何か問題があるようには思えない。
実際にスピカ姫は首を横に振った。
「問題ない、どころではありません……体が何故だか、軽くなりました」
そりゃよかった、HPは無事全快したからな。
しかし、HP総量のマイナス補正は、やっぱり回復薬じゃどうにもならなかったか。
こっちはまた別の薬かな。
当面はHPの減り方を見てこまめに回復薬を摂取しながら、呪いの解呪を行なっていこう。
薬でどうにかなってくれればいいのだけど。
それでも無理なら、奥の手だ。




