信じられないでしょうけど、信用とお茶目なジョークです!
「けほ……」
もう見慣れた自分の部屋は、自分の視線から見える景色は、もう見飽きてしまいました。
「外に、行ってみたいなぁ」
私の知る世界はこの部屋と、窓から見える外の景色だけ。
それでも、たまに木に止まった鳥さんが挨拶をしてくれます。
楽しそうに遊ぶ人達が見れます。
小さな景色の変化だけど、私にとっては大きなことなんです。
いつか、外を思いっきり走り回れるようになるでしょうか。
「…………けほ」
センターに頼んで、一度外の世界に連れて行ってもらいましょうか。
……いつもみたいに、ダメだと言われておしまいな気がします。
そういえばセンターは今何をしているのでしょうか。
アレから部屋にはきていません。
はしゃいで、痛い思いをしていなければいいのですが。
ふいに、私の部屋の扉がノックされました。
『姫さん。はいんぞ』
扉の奥から聞こえてきたのは、センターの声でした。
私がどうぞと言う前に、センターはガチャリと扉をあけてしまいます。
声を出さなくていいようにと、私のことを心配してくれているのはよくわかるのですが、なんだか釈然としません。
「調子はどうだ?」
「絶好調、です」
「いつも通りだな。ああ、治癒師の方々を呼んできたよ。入ってもらっていいか?」
「私の確認なんか取らないで、こちらからお願いしているんですから」
センターと一緒に入って貰えばよかったのに。
いえ、その、私の部屋に入りたくなかったのなら、その、強制はしませんけれど……
私の、病気がうつるかも、しれませんし。
「入ってきてくれ!」
センターが扉の奥に問いかけると、『んじゃ、失礼』と聞きなれない声で返され、扉が開いていきます。
その様子を見ながらドキドキすること、数秒がたちました。
部屋の中に入ってきたのは、私たちとさほど変わらないような、男の子と女の子でした。
とても、とても驚いてしまいました。
私たちと変わらないようなお歳で、お父様やサイドに推薦されるなんて、今までなかった事ですから。
ドキドキは収まらず、名前も知らない男の子と女の子に釘付けになり目が離せませんでした。
部屋の途中で女の子は足を止め、男の子がゆっくりと私に近づいてきて、ベットのすぐ隣にまできました。
「あ、あの、ちょ、セ、センター? えっと、こんな格好で、その、ごめんなさい」
せめて起き上がって挨拶をすべきだと思ったのですが、急いで起き上がろうとしたらセンターに止められすぐに寝かされてしまいました。
幸い、男の子は構わないと言うかのように首を振り、笑顔を返してくれました。
気に障るようなことにならないで、よかったです。
「この国の姫、スピカ嬢でいいのかな? 俺はユベル。よろしく」
「スピカ・フェルベールと申します。ユベル様。よろしくお願いいたします」
「あぁ、いや、様はやめてくれ。あと正直言うと、俺は治癒師じゃないし、絶対に貴女の呪いを解呪できるとは言えない」
ユベルさ……んに言われたその言葉に、私は衝撃を覚えました。
だけど、嫌な衝撃ではありませんでした。
なんででしょうか。
「期待を持たせるようなことはしたくない。でも、貴女が俺を信じてくれるなら」
少し悩んで、ようやくわかりました。
ユベルさんは、『違う』んです。
今まで私の部屋に来たどの治癒師様とも。
詳しくどう違うかと聞かれたら、うまくは言えませんが。
えっと、とにかく、違うんです。
今まで、私にこんな風に話しかけてきた人は、いませんでしたから。
「全身誠意、貴女の呪いの解呪に努めさせてもらいたいと思う。貴女は、こんな俺を信じると言えるか?」
「信じます」
「即答とは驚いたな。治癒師じゃないんだぞ? 解呪の専門家でもない。可能性があるなら何にでもすがりたいって思いで言っているんなら、俺は」
「違います」
確かに、私の呪いをどうにかしてほしいと言うのは本心です。
何にでもすがりたい、その思いがないと言ったら、きっとそれは嘘だと思います。
でも、治癒師ではないと、どうにかできる保証は無いと、そう言ってくれたユベルさんのことを信じようと思った理由は
「今までの誰とも違うユベルさんなら、今までの誰でもできなかったことができるんじゃないかと、そう、思ったんです」
きっと、これ。
「貴女を信じようと思った理由は、けほ……勘、です」
そう言った私に、センターは顔を背け、ユベルさんは驚いたように目をまん丸にしました。
その仕草を見て不安になりました。
私、何かいけないことを言ってしまったでしょうか。
「ダメ……ですか?」
「いや、参った、降参だ。マジか、こんないい子だとか聞いてねえぞ。もっとワガママお嬢様イメージしてたのに……ダメだ、完全に悪役だ俺」
急に頭を抱えしゃがみこんだユベルさんを見ていると、小声で『期待を持たせたくなかったといいますか』とか『違う。上下関係をはっきりさせたかったとか、そういう理由じゃ無い』と独り言を言っていました。
誰かと会話しているみたいに見えます。
なんだか、面白い人です。
「試すようなことを言って悪かった。あと、失礼な発言だった。ごめんなさい」
意を決したかのようにすぐりと立ち上がったユベルさんが、はっきりと私の目を見ながらそう言って頭を下げました。
「ま、ままってくださっ、けほっけほっ!」
「無茶すんな。ほら、落ち着け。ユベルさんもだ。姫さんは気にして無いってよ。頭を上げてくれ」
焦り、咳き込んで言葉をうまく出せなかった私に変わり、センターがユベルさんに言ってくれました。
謝る必要なんてありません。
なにか理由があったのだと、思いますから。
顔を上げたユベルさんが、何故かセンターに視線を送りました。
そのセンターは目をそらしていますし、一体なんでしょう。
「本当にやるとなったなら、俺はとことんまでやるつもりだ。例え姫様が嫌だと思うことでも、治すためにどうしても必要なことなら、強制するかもしれない。俺と姫様の信頼関係ができていなかったら、そんなこととてもじゃないが出来ないし、治療行為なんてやっていけない。俺は治療のプロじゃないし尚更だ。だから、先に確認がしたかった」
そう、ですか。
た、確かに、嫌なことでもと言われると、ほんのちょっぴり、不安になりますけど。
でも、なによりも、この私の病をなんとかしたいんです。
外でいっぱい遊びたいんです。
センターに、笑ってほしいんです。
そのためなら、私はなんだってやる覚悟が、あります!
「よろしく、お願いします」
「ああ、こちらこそ」
私が手をベットから出すと、ユベルさんが握手してくれました。
センター以外の人に触れたのは、久しぶりかもしれません。
なんだか嬉しくてユベルさんのことを見ていると、ユベルさんも私のことを見ていました。
なんでしょうか。私の顔に何かついて
「それにしても姫様可愛いね。今度デートしない?」
ふぇあ!
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「場の空気を和ませようとしたジョークじゃないか!」
俺は今、案内されたスピカ姫の部屋の隅に追い詰められている。
俺がそれはもう可愛らしいジョークを繰り出してから、早1時間が経とうとしていた。
この狭き死のフィールドと化したこの部屋を、俊敏なハンター達から縦横無尽に今まで逃げ切れているのも、実に混じりっけのない殺意を向けられたことによる、本能からくる本気の緊急回避によるものが大きい。
だが、その努力も虚しく、俺は今、隅に追いやられ身動きが取れないでいた。
俺がジョークを繰り出したコンマ1秒後に脱ぎ捨てたパーカー、それを手ににじり寄ってくるアオ、ごそごそごそごそ忙しなく何か作業を行なっているミドリ、据わった目で剣を抜いたミルクルさん、ついでに真顔のセンター。
以上の4名が俺を狙うハンターだ。
スピカ姫は、俺と4人を交互に見ながらオロオロしている。
《マ〜ス〜タ〜?》
「はははっ、ま、マジになるなって、ほんと、悪かったって思ってる、うん。流石にふざけすぎだよな、いや、女の子は褒めて伸ばすタイプっていうか、やっぱ可愛い子には旅をさせよっていうか、外に連れ出す的なことを約束しようと思ったら口が滑っ……いや、いやいやいやいや、間違えたんです。言い間違えました」
「よくわかった」
「ミルクルさん! わかったんだな! よかった。だから、わかってくれたなら剣を下ろせ!」
殺る気マンマンじゃねえか! いやだ! まだ死にとうない!
「ミドリ! お前ならわかってくれるよな!」
《……うん》
「ミドリィ……」
《大丈夫、ボクはマスターのこと信じてるから。だから取り敢えずこれを飲もう》
ダメだ。こいつらに日本語は通じない。
ミドリさんが差し出した薬はいつぞや鑑定した『自白剤』だもの。
あの時は命からがら逃げ延びたが……あれ? そういえばあの時はどうやって逃げたんだっけ? ……覚えがないな……あれ?
《マスター?》
ミドリの呼びかけにハッと我に帰る。
そうだ、今はそんなことを考えている暇はない。
「いや、自白剤、ですよね、ソレ」
《ボクはマスターを信じてるから。やましい気持ちなんて微塵もなかったんだって信じてる。女の子に目移りしちゃうのはマスターの悪い癖だけど、そんなことないんだよね? もし、マスターが嘘をついてたりなんかしたら、ボク、怒っちゃうかもだけど、えへへ、大丈夫だよね。ボク、マスターのこと、信じてるから》
今までの人生の中で一番怖い信用だった。
「あとセンター! お前はなんだ! 悪かったよ! 悪かったって!」
「いや、つい」
ついってなんだよついって。
ついでお前、躊躇いなくメイスを人の脳天に振り下ろすのか! 怖ぇよ!
「センター! ダメですよ!」
「わかってる。だが、これは親睦を深める意味でも、他の人たちと同調し同じ行動をとることで、より親近感を増し親しくなる方法の一つなんだ」
「そ、そうなんですか」
姫さーん! 騙されじゃダメだー! そいつどうせ俺のこと殴りたいだけだから!
姫さんにちょっかいかけた俺をボコしたいだけだから! 助けて!
く、ここまでか。
いやまだだ……諦めるな……きっとある、起死回生の一手。
この絶望的な状況をひっくり返す、その、言葉は。
「俺はみ『おふざけ半分、下心半分。気が緩んだところでいつもの悪い癖が顔を出したようです。今の内に言っておいて、治すことができたらデートくらいしてくれるんじゃないかなー、だそうですよ?』」
ピシリと空気が凍りついた。
俺も、4人のハンターも、姫さんも、皆が皆、一様に動きを止めていた。
げ、限界破壊ぃぃぃい!
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「で、では、早速始めていきましょうかね」
「あの、けほ……大丈夫ですか?」
「うん。上半身が吹き飛ぶかと思っただけだから大丈夫」
センターはともかく、あれだけ怒っていた3人が揃っていて、回復薬10本服用で済んだのだ。
御の字だろう。
多分姫さんの前だから、手加減してくれたんじゃないだろうか。
今俺の隣でにこやかに助手をしてくれているミドリさんの俺に対するプレッシャーがエグい。
姫さん、居てくれてありがとう。




