信じられないでしょうけど、俺は『俺のため』にです!
「本当に申し訳ございませんでした!」
「あ、あぁ、いや、顔を上げて。どちらかといえば俺も謝らなきゃいけない立場だし」
訓練場でぶっ倒れたセンターを介抱して数十分。
センターが意識を取り戻しどこかに連絡をよこしたところ、数分かからずですっ飛んできたサイドさんが全力で頭を下げてきた。
聞き及んだところでは、俺たちが行方をくらませたことで城中大パニックになったらしい。
城内を駆けずり回っていたところでセンターから『ユベルとその仲間たち、第3訓練場にいる』の一報を受けこちらまで走ってきたとのこと。
迷惑をかけてしまったな。申し訳ない。
「だから短絡的な行動をよした方がいいって言ったのよ」
「即効で仲間を売ったな貴様。ミルクルさんだってノリノリだっただろうが。この大根ミルク」
「はい?」
「いででででで!」
素早く体を固定され足をかけられ転ばされたところで逆エビを食らう。
あぁああああ! 背骨ぇぇええ!
《大根ミルクは美味しくないと思う》
《ねー》
ちょっと君たち! 君たちの麗しのマスターがシャチホコみたいになって苦しんでるんですよ!
談笑してないで助けて!
「……センター、お前、なんて事を……」
「どうにも納得がいかなかったんでね……処分は受けるさ。といっても、主人がそれを許してくれたらの話だが」
「主人? 主人とはなんのことだ」
「……決闘の対価さ。俺はこの勝負に俺の全てを賭けた、身体、権利、尊厳、命。その全てを天秤の上に乗せた。そして負けた。俺は生きるも死ぬも、そこの主人、ユベルさんの思うがままってことだ」
基本的にこの世界のルールは『金』を賭けることであり、『人間』や『物』を賭ける物ではない。
しかし実際には、ゲーム時代でも問題なくそれらを賭けることができる。
それはなぜかと言われれば、『金になる物』であれば、何であれ『金』と同義に扱われるからだ。
エネミーを賭けての勝負が成立するのも、それだけの価値があると判断されるからだ。
当然、『強い人間の奴隷』しかも『絶対服従』なんて物で束縛されている。利用し放題。これほど勝手の良い物はない。
そしてこの世界は、『金』が絶対。賭けられた物はどんなに残酷なことでも絶対執行。
センターは今、この世界に『お前は何の権利も持たない家畜以下の存在だ』と宣告されたに等しい。
「そ、そんな」
「あー、まぁそうなるわな」
ぶっちゃけたとこ、奴隷なんていらないんだよなぁ。
こちとら生粋の日本人。奴隷制度なんて有るわけがない。
馴染みがなさすぎて文化に慣れてなさすぎるし、慣れたいとも思わない。
そんな者を引き連れてソロ仲間にどんな顔して再開しろと言うんだ。
冗談じゃない。
「別に無体を働くつもりは……」
「どうかご勘弁くだされっ!」
ただ、気になる事を教えてくれればそれで良いのだと言おうとしたところで、サイドさんが両手と両足の膝と額を地面に叩きつけ叫んだ。
俗に言う、土下座である。
「ちょっとちょっと!」
勘弁してくれはこっちのセリフだよ。いきなりなんだ。
土下座をし下げられている頭を上げてもらおうとするが、頑なに拒否し頭を下げ続けるサイドさんに困惑する。
「私共にできる事であればどんなことでもいたしましょう……ですからどうか、寛大な処置を……どうか……どうか!」
「待ってくれ、人の話を最後まで」
「おい親父。よしてくれ。これは俺と主人の決闘の結果だ。親父たちがその不始末をどうにかしようなんて、主人に対する侮辱だ。主人を困らせるだけだから頭を上げてくれ」
「おいセンター。お前もだ。その主人って呼び方をやめろ。俺の名前はユベルだ」
センターは恭しく一礼し一歩後ろに下がった。
完全に執事だな。マジで要らないんですけど。流石にあれは早まったかなぁ。
今更ながらに後悔しても時すでに遅し、謀らずして頭を下げ悲痛に叫ぶ老執事と、元凶のくせに涼しい顔で佇んでいる若執事と、なぜかミルクルさんのスライムちゃんズの冷たい視線を浴びると言うカオスを生み出してしまった。
「てゆか、親父?」
「ああ」
俺が失礼ながらサイドさんを指差してセンターに問うと、センターはことも投げに頷いた。
てか、態度に反して軽い返事だな執事くんよ。どうでもいいけどさ。
「家族だったのか。そりゃあまぁ、この行動も納得だけど」
「本当に、ユベル殿には大変なご迷惑をおかけしてしまいました。どうお詫びしてよいかわかりませんが、どうか息子の命だけは」
「話を最後まで聞いてくれって言ってるだろ。ほら、まずは立ってくれ。あとセンター、マジで主人と呼ぶな。センターが俺のことを主人と呼ぶたびにアオとミドリが俺にプレッシャーかけてきて怖いんだよ。言っておくけど、奴隷とか俺いらないから。マジで。知りたいことを嘘偽りなく教えてくれればそれで良いから。命なんて取らない」
希望を見たかのようにサイドさんの顔が上がり俺を見る。
とりあえずその姿勢のままじゃ話をするにもできないので、取り敢えず手を差し伸べて立ち上がらせた。
「おっと、この状態だと身長が足らないっすね。まぁ、立ってくださいな」
「本当に、質問に答えれば、センターの隷属を解いてくださるのですか?」
「アビリティで判断してくれて良いですよ。俺は嘘を言ってない。そうでしょう?」
ミドリを寄越せと言われキレかけていたとはいえ、冷静じゃなかったな。
反省だ。とはいえ今後こんなことがあったとして、俺は自分の思った通りのことをする。
反省の意味がないって? ご冗談を、俺がする反省ってのは『自分を見失う』ってこと自体だ。
賭けた事柄自体とか、そういうのを少し酷かったかなとは思うが反省なんてしない。当然だろ? する必要がない。
「ありがとう、ございます」
「よしてくれ」
まぁ、『目的』を忘れないようにしていれば、それでいいのさ。
あくまで俺の目的は『俺の仲間を守ること』なんだからな。
『守れれば』それでいいんだ。
例え、それで誰かが傷つくのだとしても、苦しむのだとしても。
それでも俺は、俺の仲間の方を選ぶ。
そう結論が出て、久しぶりに心がスッとした。
ずっとどこかに残っていたモヤモヤが、無くなったというか、何かが吹っ切れたというか、何かの答えが出たような気がしたのだ。
「必要があるなら、俺はどんな残酷なことでもする覚悟だ。もし必要だったなら、センターを利用して貴方を脅していたかもしれない。だけど、今はそうじゃない。他でもない、貴方達が必要のない今を作ってくれたから。サイドさん。貴方は俺たちに感謝なんてしなくていい。貴方は、自分自身の行動で息子を救ったんだ」
その覚悟が本物であると、言葉でも、アビリティでもなく、先日の俺自身の行動で示した。
それをよくわかっているのだろう、サイドさんがキュッと口を引き締め、深々とお辞儀をした。
「はい。じゃあ改めてお姫様のところに行きましょうか。センターに聞きたいことはまさにそれなんだがな」
手を打ち辺りの空気を一喝した後、聞きたかったことをセンターに問うてみる。
「自分の命をかけてまで、成そうとしたことは、一体なんだ?」
本当に、たかが、この程度のことで。
大半の人間がそう思うかもしれない事に、センターは自分の命をかけることすら、それに比べれば遥かに軽いと思える程、重大に受け止めるべきことだったということだったということ。
それが気になった。
「姫さんを守りたかった」
「矛盾してるな。俺はそれを治す人間だ。それを排除しようとしていたみたいだが?」
「姫さんの呪いは、そんな簡単なものじゃない。治癒師を自称しているだけの人間にどうにかなるなら、今までどうにかならなかったわけがないだろう」
呪いの話はざっくりとしか聞いてないが、酷いものだってのはよくわかった。
「だから、姫さんに期待を持たせるようなことをさせたくなかった。どうせ治せないなら、せめて、そっとしておいて欲しかったから。姫さんには、これ以上傷ついて欲しくないから」
センターはそう言い切った後、先ほどのサイドさん同じように、表膝を地面についた。
「だけど、貴方なら、もしかしたらと思った」
そして、両手を地につけ。
「どうか、お願いします」
頭を垂れた。
「俺はどうなっても構いません、先ほどの無礼が、このようなことで済むとは思っておりませんが。俺にできることなら、なんでもします」
その声は決して大きくなかった。
しかし、心の奥底から響く想いのこもった言葉は、反響するかのように伝わった。
「姫さんを、助けてください」
「俺にできることなら全力を尽くすよ」
今度はセンターか、そう思いながら、座り込んで手を差し伸べる。
しかし一向に手を取ろうとしないので、差し伸べていた手を頭に持っていきぽりぽりとかきながら、頭を下げたままのセンターに向かって言葉を投げかける。
「まぁ、なんだ。普通の人間でどうにかなるならって言ったよな。俺は『治癒師』じゃない、その通りだ。でも、ここは一つ。お前の感じた、『化け物』を信じてみな」
その化け物が全貌の信頼を置く家族2人に、相棒・化け物がもう1人ずつ追加だ。
今ならなんとこれらがセットで付いてくる。お買い得だよ、お客さん。
《よいしょっと》
「うわ」
「さんきゅアオ」
アオが体を伸ばしてセンターの腕に掴み、持ち上げて強引に立たせた。
今度は目線が逆転し、こちらを見下ろすセンターを見上げながら、笑って告げる。
「さっそく、案内してくれな」
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話がまとまったことで、センターが今度は姫様のお部屋まで俺たちを先導してくれている。
「……」
長く迷路のような廊下を歩きながら、先程のことを思いただひたすらに思考に没頭する。
そう、俺は、どうしようもなく、『ただの人間』なんだ。
何もかもを、全てを救い、全ての人の笑顔を守るなんて、そんな英雄にはなれない。
そして同時に、悲劇の主人公になんかには絶対にならない。大多数を守って、かけがえのない大切なものを失うような、そんな悲しくも尊い素晴らしき物語。
そんな物語はクソ喰らえだ。
俺はその二つとも選ばない。
本気で死ぬ気で張り詰めて、俺は『俺のために』俺の大切なものを守る。
なあ『限界破壊』。
間違っても、自己犠牲なんて言ってくれるなよ?
《ますたー?》
《どしたの?》
「ん、いや」
パーカーの上からスライムちゃんズを撫でて、1人心の中で自答する。
誰かのためなんかじゃない。
これは他の誰でもない、『俺自身のための』行動なんだから。
『…………はぁ、重症です』
(ははっ、諦めてくれ)
『……バカ』
(こんなんじゃ、お前に『バカ』と言われなくなるのは難しいかな)
『難しいではなく、不可能です。それが嫌なら改めてください』
厳しいね俺の相棒様は。
人知れず苦笑いをしていたら、背中を突かれたので後ろにいたミルクルさんに視線を向けると、小声で話しかけられた。
「らしく無いんじゃない?」
「ん? 最近よくミルクルさんに言われるな。そうか?」
「今回の件。決闘を申し込んできたのも、負けたのも相手。なのにこの処置は珍しいと思ってね。だってさ、奴隷云々は無いにしても、いつもなら『息子の命だ、いくらで買う?』ぐらい言ってゴールド巻き上げるでしょ」
ふむ、そんなことか。
簡単なことだよ。
「心象を優先しただけだ。これでサイドさんは俺に対して借りを作った。目先の利益を見るのも良いけど、今の俺にはアオもミドリもいて、ゴールドに困っちゃいない。勿論この世界のゴールドは単位が軽いから常に集めようとするのは当然だけどな。今回俺たちはこの国で何したよ。相手の俺たちに対する対応を思えば、目先の利益と相手の心象を天秤にかけてどっちに傾くかなんて自明の理だ。そうだろ?」
「成る程ね。普通にゴールド巻き上げられるより、よっぽど怖いわ」
「借金は怖いぞ〜。人間界にある隠された七つ目の地獄だからな」
「六道地獄のこと? 厨二くさ」
だまらっしゃい。
借金地獄って言葉と掛けただけだっつーの。
……どっちにせよくだらん。いかんな、ウィーアード菌が移ってきている。
くそう、熱や消毒で死ぬビジョンが一向に見えねぇ。なんてしぶとい菌なんだ。
ええい除菌じゃ除菌じゃ!




