信じられないでしょうけど、決着の焔と終了の拳です!
「ぐっ!」
「はい10回目〜。ミドリ、素材使って何するよ」
《そうだねー。先ずは回復薬かなー。最高品質、最高技術、最高効率に少しでも近づければ御の字じゃないかな?》
「そんなもんかね」
《そんなもんだよ》
半ば作業のように炎の鳥を昇っては堕とし、昇っては堕としを繰り返していた俺たちはまるで、宝くじ当たったら何する〜的なノリで話をしていた。
フェニックスはもはや何もすることはできず、プルプルと震えチラチラと自分の主人を見ながら墜落し続けている。
二つの意味で、焼き鳥だな。
あー、焼き鳥食いたい。
「フェニル! 一旦炭の状態で待機しろ! 俺も出る!」
《–––––––》
おっと、初めてフェニックスの念話のようなものを聞いたな。
念話を常に発動しているから、回線を拾ったのかもしれない。
塚が長く頭が小さいメイスのようなものを握りしめたセンターが、思った以上に機敏な動きでこちらに肉薄してきた。
「おっとミドリストップ。ここは俺がやる」
《ん、りょうかーい》
「『衝撃波』!」
おっと『衝撃波』か。外側ではなく内側、内臓にダメージを与えるアビリティ。
ゲーム時代だと、ATKに補正がかかり多少相手のDEFを減少させるという効果だったが。
「いって」
「な!?」
メイスを腕で受け止める。
勿論、俺はアビリティ補正のついた攻撃を素手で無効化できるようなATKをしていない。
受け止めたというより、受け切ったの方が正しい。
少し掌がヒリヒリするけど、虫刺され程度だな。
相変わらず、こっちの世界のテイマーは自分自身を強くすることに重点を置いてないみたいだ。
ウィーアードは環境の都合上、仕方がなかったんだろうな。
「は、はな、せ」
「『反射』っと」
「ぐああああああ」
メイスをぐいっと引っ張りこちらに身を乗り出すような形になったセンターの腹に手を添えて『衝撃波』で受けた衝撃をそのままセンターに返してやった。
センターは悲鳴をあげながら後方に吹き飛び、壁に激突し地面に落ちた。
アビリティがアビリティだけに、『内臓にダイレクトアタックする衝撃』をしっかりと反射できたようで、センターは俺に掌底を食らった腹を抑え蹲っている。
うーん、それにしても痛がりすぎじゃないか?
衝撃は今朝全部抜いたはずなんだけど…………あ、そういやさっきフェニックスの焔受け止めてたわ。その衝撃までプラスしてたか。うん、ごめんご。
《––––!》
さっきから脳内に甲高い機会音みたいなものが走って少し気持ち悪い。
どうやらコレがフェニックスの念話の声らしく、フェニックスは両の翼を広げ、センターを俺たちから遮るように立ち何かを頻りに叫んでいる。
「ミドリ。ハッキングして回線繋げられる?」
向こうから念話を送ってきているのにこの耳鳴りみたいな音なんだ。
念話をつなげたら鼓膜が破れるかもしれん。
まぁセンターが大丈夫だったんだから大丈夫だと思うけどさ。
だったらハッキングして隅っこから盗むようにすればそんなに負担もかからないんじゃないかと思うわけですよ。
そもそもスライムに鼓膜ってあるの?
え? 作れるし壊れても痛みはないしすぐに作り直せる? ……さいですか。
《ハッキングかぁ。アビリティはないけど、できるんじゃない? 向こうから念話仕掛けてきてるし、ボクの『毒薬』を何度も食らってるから、バッチリ繋がってるはずだよ?》
「薬を相手の体内に溶け込ませて、それをアンテナがわりにジャックするってえぐいなぁ。ハッカーかな?」
《イッキシさんには全く意味なかった能力だけどね。食らったら即死する奴はリセットされたら全部無に帰したし、そうじゃない奴は全部蒸発してアンテナどころじゃなかったよ。信じられる? 体内もありえない温度なんだよ? 機械にしたって限度があるよ。おかげで体内に滑り込ませた気体状の薬すらよくわからないうちに消滅してたんだ》
おおう……一式のやつマジでガチだったのね。
まぁ、『リミット・ブレイク』に『英雄武装』、一式専用の英雄武具『春夏秋刀』も持ち出したって話を聞いた時はお察しだったけど。
「苦労したんだなぁ。でもアオみたいに、そもそもの真骨頂さえつぶしちまえば、あいつらアホみたいに弱いんだぞ?」
《そうなの? じゃあどうすればよかったのさ》
「刀を握る前に両手を吹き飛ばせばよかった」
ミドリならできただろうと視線で送ったら、ミドリは黙って熟考を始めた。
《……マジで?》
「マジマジ。春夏秋刀って、まぁ俺たちはハルナツサンマって呼んでたけど、アレ手で握ってないと効果が発動しないのよ。その他にも、あいつが使ってるアビリティって殆どが刀が無いと意味がないアビリティばっかだしな」
因みに春夏秋刀というのは、制作したケンゾウが3日かけて付けた名前なのだが。
「なんか安直」とかいう理由でウラミンさんに勝手に命名されたケンゾウは、「秋刀魚じゃねぇ! 魚って字入ってないだろ!」と泣き入っていた。
語呂が良かったため俺たちの中で呼び方が決まった瞬間だった。
「ユベルちゃーん。お喋りもいいけど、今は決闘に集中してあげなさい。フェニルちゃんを引かせて決死の覚悟で単身戦場に飛び込んだはいいものの秒殺で、雑に腹パンされた哀れなテイマーちゃんが可哀想でしょー」
「あんたの言い方が一番可哀想だよ」
《あ、マスター。回線繋がったよ? マスターにも繋げようか?》
「いや勘弁。なんて言ってるか通訳して」
キンキンキンキン喧しいんだよお前!
少しは黙れや!
《じゃあ通訳ね『よくもご主人をいじめたな! 許さない! あ、でもあんまり酷いことしないで……翼が痛いの……ぐすん……あ、あんまりご主人いじめないで……アタシなら……アタシなら……でも……うぅ』マスター……ボク、心痛くなってきたんだけど》
「奇遇だな。俺もだ」
なにフェニックスってこんなにいたいけな存在なの。
もはや俺たちはただのいじめっ子である。
俺のカケラのような良心とアオとミルクルさんの責めるような目が非常に痛い。
ひ、酷いこと言ってごめんな? その、飴ちゃんいる?
《マスター、聞こえてないよ。あと飴ちゃんちょうだい》
「前にあげた分まだ持ってるでしょうが。にしても困ったな、なんか今のでただの素材回収の作業には戻るのは難しくなったぞ」
《もうやめたげようか。流石にボクも暴走してたところあるし》
「しかし決闘のルールがなぁ。限界まで素材をむしゃぶりつくそうとしたミドリのせいだぞー」
《イラだちをぶつけてルールに残虐性を追加したマスターに言われたくないなぁ》
ミルクルさんから、惨めすぎるどんぐりの背比べやめいと突っ込まれた。
「よし、間をとって全部ミルクルさんのせいにしよう」
《賛成ー》
「ふざけんなー!」
いや正直ね、「妾の所有物に手を出してタダで済むとは思っておるまいな! その魂、灰になるまで燃やし尽くしてくれる!」とかなんと言ってくれればこちらとしても大変やりやすいんだけど。
「……『権限、せよ」
「あ」
「我らが、赤き、焔の王』」
蹲り腹を抑えていたセンターが、掠れる声で、それでも聞き取れる言葉を『詠唱』した。
次の瞬間、センターを庇っていたフェニックスの焔がゆらりとゆれ、フェニックスの体が一筋の光のようになりセンターの元へと突撃する。
その光がセンターに着弾すると、彼の手に一振りの赤いメイスが握られていた。
「ふぅ……」
そして何事もなかったかのように立ち上がるセンター。
先ほどまでの冷や汗を浮かべ苦しそうにしていた表情は、再び涼しげなものに戻っている。
あーあ。やっちまった。これじゃ素材が取れないじゃんかよ。
かといって、折っちまうのもなんかなぁ。
《マスター。なに? アレ》
「『装備化』。東西南北の森を守護する守護神と、その眷属が使える固有アビリティ。効果は、自分の体を変幻させマスターのみ使用可能の武器になるって感じのやつ。武器装備扱いだから、装備している間守護者、あるいは眷属のアビリティ効果をマスターが使えるって事でかなり人気があった。『最後の忠誠』の取り返しがつくバージョンだな」
大方、フェニックスの『再生の焔』を発動でもしたんだろ。
「とはいえあのフェニックスの『装備化』じゃあ、精々数回が限度だろうけどね」
見た感じあのフェニックス、最高率で育てられた訳じゃない。
そうなると『装備化』の制限容量も減りが激しいだろう。
まぁゲームプレイヤーじゃないんだから検証とかしてないんだろうけど、でも眷属とかになるとそういう施設が機関かなんかに研究されたりするもんじゃないかね。
持っている『焔』のアビリティも『点火』『膨張』『再生』『回帰』しかもってない。
殆ど初期搭載されてるアビリティじゃねえか。
一定レベルを超えることで得られる『着火』『燃焼』、一定条件達成で得られる『治癒』『焼却』。
確かその両方に追加して、数値に現れないマスターとの親密度や信頼関係等が一定標準を超えることで発現する『原初』とかもあったな。
眷属エネミーは強力だけど、完全に育て方がモノを言う。
エネミー強化には、まずはどの系統を強めていくか方針を決め、効率よく強化していかなければならない訳だが。
特に眷属エネミーは育てること自体がものすごくシビアなのだ。
早い話育て方によっては、同レベルなのに全くアビリティを取得していないフェニックスと取得可能アビリティをほぼ全て獲得しているフェニックスなんてのも作れる。
《回数?》
「『装備化』の制限だな。『装備化』している間は、装備化したエネミーの所有しているアビリティしか使用できない上にレベルによってアビリティの使用回数が決まるんだ。これはエネミーのレベルと、アビリティレベルの全合計から平均をとって決めてるから一概にレベルが高ければいいって言える訳じゃないけど。ま、あいつじゃ精々5回が限度じゃないか?」
そして使用回数を超えるとアビリティの使用ができず素のステータスが高いだけの武器を振り回すしかできなくなる。
それに、『装備化』を解除までに必要な詠唱とモーションが隙だらけでサンドバック化するから、ガチ勢で眷属をテイムして使う人はあまりいなかったな。
あまりと言うことは、まぁ、例外もいるのだけど。
『装備化』も、デメリットばかり挙げた上でアレだが最初に言ったように使いようによっては非常に有用だし。
「……やっぱり滅茶苦茶にひどい人だな、あんた」
「褒め言葉として受け取っとく」
「……ああ。褒め言葉だ。残念だけど、正直次元が違ったよ。俺じゃどうしようもない」
「自覚してくれたならよかった。だけどどうする? ルールのせいで逃げ場はないぞ?」
我ながらお前が言うなと思うセリフに対し、センターは苦笑いを浮かべただけだった。
そしてメイスを軽く振り子のように降った後、右足を後ろに引き、左手をこちらに焦点を合わせるように前に出し、メイスを握った右手を勢いよく振り上げた。
「正直これは使いたくないんだ。これをやると、泣かれるから」
「うん?」
「けど、あんたには最高の敬意を表して、これを送るよ。悔しいけど、あんたを倒すには『今の俺じゃできない芸当』しかないみたいだから」
気になる言葉を呟いた後、センターが振り上げたメイスが赤く光り出し、心臓の鼓動のように時折黄色く赤くと明滅を繰り返す。
「人に対して使うのは初めてだけど、許してくれよ。『点火する焔』」
メイスの頭に小さな火種のようなものが生まれゆらめいている。
それを火種にし焔のアビリティを強化するアビリティだ。
「『膨張する焔』」
メイスの中から絞りでたように、うねりを上げて飛び出した火球がたちまち『点火する焔』を飲み込み、火力を倍増させた。
これをそのまま放ればそれなりの威力には
「……ぐっ……『再生の焔』」
「マジか、その並列発動って可能なんだ」
いくつかのアビリティを同時並列発動し効果を強めたりまた別の効果を生み出したりする行為は、EGOでは慣れ親しまれたプレイスキルだ。
センターの火力が増した『膨張する焔』の周りに再生の力が付与され焔の螺旋のようなものが生まれる。
適当に発動しても悪い方向にしか向かないシステムの裏の裏をついた試行錯誤の上でようやく形になる努力の結晶である其れを、曲がりなりにも、かなり整った形で行えることに驚いた。
しかし、センターの行動はそれだけではなかった。
「…………プラス『魂の焔』」
魂の、焔?
聞きなれないアビリティに一瞬思考が固まったが、次に聞こえた声で意識を取り戻す。
「ぐ、あ、あ、あ、あ」
センターの体が燃えていた。
それも、『再生の焔』や『回帰する焔』のようなアビリティではなく。
明らかに『センターを害する』焔に身を焦がしていた。
センターの体から燃え上がった赤黒い焔はメイスの上に待機している『膨張する焔』に吸収されるようにまとわりつき、その色を変色させ青紫のような色の焔になった。
「……はぁ……はぁ……これで、終いだ」
「……ああ、そうだな。これで終いだ」
焔に包まれながら、こちらをギロリと睨んだセンターが一瞬のタメのあの、勢いよくメイスを振り下ろした。
「『永遠なる焔』!」
物理法則を無視し、空中で一度停止した火球が大砲で打ち出されたかのように勢いよくこちらへ向かってくる。
かなり規模の上高火力。
自分のナニカを代償に捧げて、今の自分では到底届き得ない場所に無理やり手をかけて放った一撃。
それに少しの険悪感と、ほんのちょっぴりの親近感を感じどんな顔をすればいいのやら迷いながらも、ミドリに手を添え『俺がやる』とサインを送った。
「『限界破壊』」
『私が出る必要性は感じませんが? バカマスター』
「お節介っていうか、先輩からのささやかなメッセージってやつだ。俺って優しいだろ?」
『最後の一言がなければそうだったかもしれませんね』
ははっ、いいよるわ。
『限界破壊』発動により俺のステータスが一時的に跳ね上がる。
「ほら、それなりのATKがないと踏ん張り効かなくて、耐えられても威力で吹っ飛んじゃうかもだろ? それってちょっとカッコ悪い–––––」
話の途中で握りしめた拳を構え
「––––––じゃん!」
こちらに向かってくる焔に全力で正拳突きを叩き込んだ。
あつつつつつつつつつつつ! あっつ! あっつ! クッソあつ! DEFのお陰で8割がた弱まってるはずなんだけどそれでもあつい!
それにこちらを押し込んで飲み込もうと遠慮なく迫ってくる。正拳突きを叩き込んだ右手がブルブルと震え肘が徐々に曲がり始め、両足が地面にヒビを走らせながら数センチめり込んだ。
しかし、それでも、俺の素のステータスで、耐えた。
そして、俺が耐えた衝撃は。
「『反射』ァ!?」
ヤクザパンチよろしく、俺の拳は勢いよく振り抜かられ、同じ威力の衝撃を与えられた焔の塊が火花を残らせながら弾け飛んだ。
「ふぅ、『限界破壊』ちゃん、マジ大好き。いつもありがとな」
『…………扱いが雑すぎます』
「そう言うな、愛してるよ」
『一番ですか?』
「…………」
の、ノーコメントで。
不機嫌オーラ満載の『限界破壊』ちゃんをスルーして、『逃亡』を発動してセンターのすぐ近くに移動し、ぐらりと地面に倒れそうになっていたセンターの体を支える。
「…………相手を焼き尽くすまで消えない焔だぞ……化け物かよ、ほんと」
「最後のは正直驚いたよ。ナイスゲーム」
俺の言葉に何を思ったか、目を見開いたセンターは、一度悔しそうに顔を歪め、口元を緩めてから意識を失った。
センターが意識を失ったことで、強制的に『装備化』が解除され弾かれるように素の姿に戻ったフェニックスが上げた音が、決闘終了の合図のようにあたりに響き渡ったのだった。




