信じられないでしょうけど、殲滅者と第三訓練場です!
「ふぅ」
「……聞いたか? ケイ」
「バッチリだ。お前はどうだったよ……って聞かなくても、大方俺と同じか? ハル」
「そうだろうな。全く、面倒なことをしてくれたもんだ」
鬱蒼と生い茂る森林の中、大木の根っこに腰を下ろす少年と、その少年を守るかのように立ちはだかっていた少年が目も合わせることなく会話を始めた。
座っている少年は顔の右半分に笑顔の形に目と口がくり抜かれたマスクを装着し、動きづらそうな赤いマントを羽織っており。
片や腕を組み仁王立ちをしていた少年は、上半身は長袖のシャツを羽織っているだけで装備のようなものは見受けられず、腰に縛り付けた服のようなものがはためき、また腰に挿してある背丈に似合わない一本の刀が異様な雰囲気を発していた。
「それでどうする?」
「決まってるだろ。全員即座に叩き潰す」
「そりゃ大変結構なことだが、どうすんだ? お前、俺ともやらなきゃならないんだぜ?」
大木の根っこの上であぐらをかき、ニヤニヤと笑っていた半分マスク少年、ケイと呼ばれた男が。
笑いながら、目だけを鋭く、冷たい声で脅すかのように言葉を放る。
「俺も一応、神の一人に選ばれた、時期神候補って奴なんだからな」
「わかってる。お前も分かりきったことを聞くな。俺が、お前と戦うわけないだろ」
「変なことを言うもんだな。俺たちは昔っから戦い続けてきた仲だと俺は思っていたんだが?」
「茶化すな。俺はケイと幼馴染だから、負けられないライバルだから、親友だからお互いに競い合ってきたんだ。殺し合い? 馬鹿げてる」
しかしそれに対して仁王立ちの腰服刀少年、ハルと呼ばれた男は動じずに、むしろ自分の思いを叩きつけるかのような言葉を投げつけた。
お互いにお互いを理解しているからこそできる、キャッチボールとも言えるかもしれない。
「馬鹿げてるってわかってんなら、叩き潰すなんて言うなよ。意味理解してんだろうよ」
「してるさ! してるに決まってるだろ! だけど……」
「まぁ俺たちは、そこら辺のコンビニでくだらねえこと駄弁って、新商品の怪しいお菓子貪って、心無い仕事のストレスをゲームで発散するようなひどく一般的で普遍的な人生を歩めればそれでいいと心の底から思っている爺さんみたいに乾ききった若者だからなぁ。正直、『ボクと契約して、神候補になってよ』とかなんとか言われても、シラけるだけなんだよなぁ」
まるで真面目くさっているかのように、声色だけを変化させ、顔に浮かんでいるニヤニヤは無くならないままにペラペラと回りくどく話すケイに、ハルはじとっとした目を向ける。
「……別に慰めはいらない」
「そうか? ならオブラートをポイ捨てしまして、ゴホン、俺はともかく、お前には冬ちゃんがいるからなぁ」
「俺は絶対に帰らなきゃいけないんだ……ッ! あいつの為に、絶対に」
「わかってるよ。だからこそ、どうすっかなぁ」
二人は思考の時間に入ったのか、ポンポンとリズムよく進んでいた会話が突如終了し沈黙がその場に落ちる。
いつまでそうしていたのだろうか。
いよいよ持ってどうするか結論が出ず、ケイがストレスの発散に盛大に叫んでやろうと息を思っ切り吸った時。
「「––––––––ッ!」」
二人に対して明らかに敵意を持った何者かが、近づいてきている気配を同時に掴んだ。
「おいケイ」
「参ったな。ここなら誰もこないと思ってたんだが。中央だとガッシュさんが幅きかせてるしさ」
「かなりの速度で近づいてきてるな。どうする?」
「ピンポイントで俺たち対象にされてんだし。いつも通りでいいだろ。イケれば倒す、ヤバけりゃ逃げる」
ハルが腰に挿していた刀を抜き放ち、ケイが右手をマスクに触れさせる。
ハルの刀に走る刃紋に青い光が巡り、ケイのマスクの黒い目から赤い点のようなものが浮かび上がる。
「こんな世界だが、まぁ、戻れる可能性はないわけじゃないんだろ?」
「そんなことを言ってはいたな。あくまで可能性のようだが」
「なら少しは気楽にいこうぜ。いつまでも張り詰めてたら、そう遠くないうちに壊れちまうよ」
「お前は昔から変わらないな」
鋭かったハルの目が、少し柔らかくなった。
しかし二人の目の前の地面にナニカが落ちて大きな音が辺りを支配したことで、二人の視線はそこに集中する。
空中から落ちてきたナニカは、全身を黒いポンチョのようなもので多い、頭をすっぽりと黒い何かで覆っている為、人間の形をした黒い人形のような姿をしていた。
細く、人らしさは見受けられず、不気味な姿をしたナニカが、二人を視界に収める為だろうか、首をぐるんと動かした。
「クリア条件は…………ゲームプレイヤーの殲滅…………殲滅…………殲滅」
ビリビリに破け、黒いブーツが覗き見えるポンチョの裾をはためかせながら、ボソボソと呟くナニカはおぼつかない足取りでゆっくりと動きだす。
「物騒なこと言ってんなおい」
「どちらにせよ、戦るならば容赦はしない」
「ゲームプレイヤーなら、中央の方でデカイ顔してるはずなのでこんな北の端っこじゃなくそちらへどうぞ」
「そちらへは……既に、仲間が向かった」
「さいですか」
クリアとか言ってたが、相手は日本人、つーか地球から来た転生者か?
それにしてはあまりに狂気的では? こちらに連れてこられただけじゃこうはならんだろ。
弄られたか? だとしたら転生させた神が悪かった。引き運を呪うべきだな。俺たちもここにいる時点で引き運の悪さは似たようなもんだな。
よし、あの神は呪おう。音ゲーで必ず最後の方で一個ミスって何故か永遠にフルコンできないという呪いをかけた。今かけた。絶望しろ。
さて元々こんななんだとしたらどうしようもないとして、軽口にも割と普通に返してきたな。真面目系?
少なくとも会話は可能、しかしこちらの話は聞かない方向のやつなのね。
ま、会話が可能と、会話が成り立つは別物だもんなぁ。
と自分勝手な憶測で相手を断定し、ケイは思考を切り替える。
「滅……せん、めつ……殲滅、すれば……クリア」
「どうせなら楽しまなきゃな。対戦おなしゃす」
「本当に、変わらないやつ……」
こういう時に、本当はそんなこと思ってはいないはずなのに。
時に悪者を演じてでも、誰かの為におちゃらけて、ふざけて、明るく振る舞う、変だけどそんな良い奴。
心の言葉を飲み込んだハルが、鋭い視線とともに刀を上段に構えた。
「殲滅!」
「「ド派手にぶっ潰す!」」
低い姿勢で一気に二人へと肉薄する黒ポンチョを、方や大上段に構えたまま微動だにせず、方やあぐらをかいたまま傲岸不遜に相手を見下し、真正面から衝突する。
神都『アマテラス』、最北端『玄ノ森』での戦いが始まるのだった。
--- --- --- ---
「うん……えっ?」
(オイ、ミルクルさん? 声出てるぞ)
(おっと、これは失礼)
警戒心が薄いってーの。警戒心云々を持ち出すなら、そもそも論で決闘なんかうけるべきじゃないんだろうけどな。
王様とか出張ってくる事態になったら面倒だなぁ。でも、センターも独断の様子だし、まぁ、どうにかなるだろ。うん。
(なんか収穫はあったのか)
(へー、ほー、なるほどねー)
(聞けよ……で、どうだったんだよ)
念話を送りながら自分の背に乗ったミルクルさんに不満げな視線を送るが、むっふー、と楽しげな目で見返されてしまった。
なんか悔しいのでジト目を継続していたら、ミルクルさんが顔を近づけてくるので急いで顔を正面に向けた。
ミルクルさんの吐息が耳元にかかり背筋がゾクゾクとする。
やめてくんないかなまじで。わざとやってんのか?
耳元に寄るってことは、なんか伝えることがあんだろ?
念話じゃダメな理由でもあるんだろう。聞いてやるよ。だからさっさと本題話せや!
「ユベルちゃん……これちょっと、面白いかもよ?」
「あん?」
どこか含みのある言い方をされ、ついミルクルさんを見返してしまった。
近かったが今はそんなの気にならないほどにドヤっていた。ぶん殴ってもきっと俺は裁判に勝てる。
そんな気がした。
--- --- --- ---
『施錠します。危険のため、ドアの近くに寄らないでください』
まるで地下シェルターかのような分厚い扉を潜ると、広がるのは一面のシンプルな広い部屋。
例えるのなら、ファンタジー感溢れる道場。
どうせ壊れないように警備システムとか強化パーツとか、色々と機能が搭載されてるんだろう。
しかし、どこか機械系の雰囲気というか、綺麗というイメージは不思議と湧いてこない。
所々に付けられた少なくない数の傷、行き届いた掃除、壁に立てかけられた模擬剣に防具、何に使うのかわからない小物の数々。
看板があってもおかしくないような、硬派で真剣な雰囲気が感じられる。
「これで施錠はされた。よっぽどのことがない限りここは開かないし、まず俺がここにいることを特定されることはない」
「そうか、だけど俺には大切な仕事があってね。子供の子守をしている暇は、正直ないんだ。察してくれ、な?」
「……俺に負ければその仕事も晴れてお役御免だ。嬉しいだろ?」
「悪いが俺は一度やると決めた以上、最後までやりきらないと気持ちが悪くなるタイプでな」
センターの眉間に軽くシワが寄った。
『俺の仕事』、『王女』様の話は、聞きたくないってか。
「そうかい、なら、後悔しないことだな」
「後悔? すまん、ちょっと何言ってるかわからない」
「………すぐわかるさ」
そうかい。ぜひわからせて貰いたいものだな。
「じゃあアオ。頼む」
《うん!》
《えー! またボクお休み? ボクだって……戦えるのに》
「悪い悪い。俺としては大変不本意ながら、今回はミドリも賭けの対象になってるから……」
「構わないぞ」
おっと。声をかけられ反射的に振り返ると、準備運動をしながらこちらを見ているセンターと目があった。
「構わないとは?」
「そこのスライムが戦うって話してたんじゃないのか? 俺はどちらでも構わないと言ったんだ」
「……流石に慣れてる相手だと理解も早くて助かる」
「慣れてる、ね」
突如センターが自分の指を咥えこみ、盛大に指笛を鳴らした。
それと同時に施錠された空間内の温度が急上昇するが、予想できていた俺たちは特に動じることもない。
「ふむ、ならミドリが出るってことで」
《やった! 了解!》
《頑張って、ミドリちゃん!》
向き合っているこちらからは見えないセンターの背中から、揺らめく炎の螺旋のようなものが湧き上がりセンターに絡みつき形を作る。
その姿は揺らめく炎の鳥。
しかして、鳥というにはあまりにも抽象的で具体性がない。
鳥の形を象った『炎』そのものといったほうが、正しい表現かもしれない。
「なんでコイツが、ここにいるのかなぁ」
「ね? 面白いでしょ?」
「どういう経緯でこんなことになってんのか、めちゃくちゃ気になるところだな」
そのエネミーの名は、《Phoenix》。
神都、最南部『朱ノ森』で生活する守護神の眷属。
何故武器王国であるここに、鳳凰をテイムしている奴がいるのか疑問は尽きない。
しかしまぁ、後でいくらでも聞くことはできる。今はそんなことは置いといてだ。
隠しても隠しきれない感情が少し表に出てしまい、口角が緩む。
「喜べミドリ。全身素材だ」
鳥だけに、な。




