信じられないでしょうけど、小悪魔と救いの女神です!
ブックマーク件数500件突破しました! ありがとうございます!
「決闘場所だがいくつか候補がある。一つは、第一庭園。あと第三と第四訓練場。他にも外に出れば公式の闘技場に裏の闘技場。自分の得意と言える分野で好きな場所を選んでくれ」
悪いが、他の庭園は俺の管轄外だ。
まぁ、全ての管理を務めている親父の許可を取らないのだから、それを任されている立場である俺でも、勝手に使用するのは本来禁止されているが。
訓練場は、今第一と第二両共に使用中である。
「俺が選んでいいのかよ」
「好きにしてくれ。俺はどこでも同じだからさ」
「とはいえ俺もどこでも良い。何処がどんな場所なのか知らない時点で、どこであっても変わらないんだよなぁ」
「俺が選んで、最終的に負けて場所に細工をしたなどと言われたらたまったもんじゃない」
「言うかボケ」
そうだろうな。
それだけの自信があって当然だ。
少なくとも、この男と俺とでは、天と地ほどの差があるだろう。
レベルも、ステータスも、何一つとして勝てる要素が見当たらない。
だけど、あんたは俺に負けるよ。
あんたが強いのは十分にわかった。
でも、あんたは俺たちには勝てないんだ。
「どうだか。悪いけど俺はその言葉を信じてやれるほどあんたを知ってるわけじゃなくてね」
「ならどうしろって?」
「選んでくれればそれが一番なんだが……」
「じゃあ一番目立たないところで」
それはこちらとしてもありがたい申し出だ。
最後にはどうせ自分から自白するとはいえ、終わるまではせいぜい時間稼ぎをしなければならない。
身内から途中で邪魔をされたらたまらない。
「なら第三訓練場だ。今は使用時間ではないが、この時間帯でも自主的に訓練する者を邪魔する必要もないためいつでも開け放たれている。内側から施錠すれば、悪目立ちはしないだろう」
「決闘の時点で悪目立ちすること確定なんだがそこんとこどう考えてる?」
「……俺がどうにかするさ」
「どうにかできるようには見えないけどなぁ」
バカにするような口調に少しイラっとくる。
しかし、ぴくりと眉間が震えただけで、表情には出なかった。
言葉にはしない方がいいだろう。ここで言い返したところで、この男は飄々と受け流すか簡単に跳ね返してくる。
黙っていた方が相手がしやすい、そういう手合だ。
「……」
「だんまりか。自分に都合が悪いと黙り込むとか、子供か? あぁ、子供だったな。悪い悪い」
わかりやすい挑発だ。
だが、それだけの敵意を向けながら発せられた挑発を受けて、戦意をたぎらせることはできない。
俺の体を巡ったものは、怒りではなく恐怖だった。
全身の筋肉が固まり冷や汗が流れる。
そして次の瞬間には、俺の体に巣食っていた恐怖が取り除かれバレないように一息をつく。
「こっちだ」
「ああ」
何事もなかった。
そう見えるように振る舞うのだ。
俺はそうゆうのは苦手だが、それ以上に感情を表に出すのが苦手だ。
だからこそ助かったが、その助けになったものが、必ずしも俺にとって良いものであるとは限らない。
「ごっふ!」
「バ–––! や––す––よ!」
背後で変に言い合いを始める男女を、俺は少し羨ましく感じてしまう。
あの男は、あの女性を守るために、戦った。
あの女性のために命を賭して戦える男だ。
そして、守りきれる男だ。
そんな男だからこそ、この目で見たその姿に憧れた。
そして同時に、勝手な怒りも覚えた。
境遇が似ていると、勝手に思ったから生まれた怒りかもしれない。
俺は、あんたと同じことをすることはできない。
俺は、あんたのように大きな力を持っていない。
俺は俺なりのやり方で、彼女を守る。
だから、この決闘には負けられない。
怖い? お笑い種だ。
最も大切な者を失う恐怖以上に、恐ろしいことなんて。
そんなものがあるのなら、教えて欲しいくらいだ。
--- --- --- ---
ミルクルさんの奴め、思いっきり殴りやがって。
「バカ! やりすぎよ!」
「そこまで酷くないだろ」
「あからさますぎる挑発に威圧。らしくないわね」
「まぁ、冷静ではいられないよな」
八つ当たりがしたくなるほどには、少し心が荒んでいる。
主にあのガキのせいだが。
センターもセンターで、結局言ってることはあいつと変わんないんだよな。
それに対する信念が、違うだけでさ。
《マスター、落ち着いて。ね?》
《大丈夫だよ》
センターがなにを考えているかは知らないが、スライムちゃんたちを賭けろという言葉は俺の逆鱗だ。
それに触れられれば、俺も自分を抑えるつもりは、ない。
「それにしても、なんか妙じゃない?」
「なにが」
《この辺、人の気配が無いんだ。多分ミルクちゃんはそういうことを言いたいんじゃ無いかな。センターさんは、意図的に人のいない道を通って目的地に向かってるね》
ある程度の想像はつくけどな。
理由はどうあれ、俺は国王の娘の治療という重大な案件を任されている。
そんな俺をどうして、決闘すら持ち出してこの国から追い出そうとするのだろうか。
《十中八九、センターさんの独断だよね。最初は決闘なんてする予定はなかったって言ってたし、国全体の総意とは考えられない。マスターとボクの行動があったとしても、そんなことにはならないでしょ》
《ますたーが治癒師じゃ無いってばれちゃったしね〜》
(頼りにしようとした相手が、嘘をついていたと知っての暴走か、それとも冷静に思考した上での判断か。どちらにせよ、今ここで大騒ぎすればこの決闘、無かったことになりそうだな)
(そうする気?)
いんや。俺に決闘を挑んだ理由も、なんとなくは想像がつくけどさ。
それでも、センターの口から聞きたいかな。
《守りたいもの、かぁ》
(ん? どしたいアオ)
《ううん。センターさんって、ますたーに似てるよね、って》
(似てる? なにが?)
身長かな? 顔は違うか。俺はここまでイケメンじゃ無い。
あんまり俺と似ているとは思わなかったんだが–––––––
《命を懸けて、気を張り詰めて周りに噛み付いて、ミルクちゃんを抱きしめて全部を自分が受け持とうとして、悲痛なまでに必死に、大切なものを守ろうとするマスターにだよ》
「「ブフッ!」」
アオとミドリの言葉に俺とミルクルさんがハモって吹き出す。
い、い、いや、あれは、非常事態っていうかね?
その、そうなるのは当然と申しますか、おれは不器用な性分なものであるますのでござりましてな?
…………な、なんか恥ずかしいぞ!
チラリと隣のミルクルさんに視線を送ると、耳まで顔を真っ赤にしたミルクルさんがプルプルと震えながらギロリと俺をにらんでいる。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
くそぅ! 馬鹿野郎! 目を覚ませ俺!
こいつは地雷! こいつは地雷! 踏み抜けば自爆必死の危険物!
(ユベルちゃん!)
ア、ハイ。
(……えっと、その……抱きしめてってなに!)
(不可抗力だ! 俺は悪く無いぞ! それは俺のせいじゃなくて、この国の王様と重鎮達のせいだから。いやホント。マジで!)
《イヤー、あの時のいかにも『待ってましたー!』と言わんばかりのお姫様だっこへのシフトチェンジは舌を巻いたね〜。ミルクちゃんの体を前から後ろ、上から下まで余すことなく味わったマスターは今どんな気持ち。ねぇ、どんな気持ち?》
ミドリに煽られたー!
なんで決闘受ける前に身内からフレンドリーファイア連射されなきゃならないんだよ!
(わ、私が寝てる間に、そんなことを……)
(いや、違うからね? ミドリさんの誇張が入りまくった偏見だからね? そんな事実はありません)
(なら、せめて起きてる時に……そんな、でも、まだ準備が必要っていうか……)
(オーイ! ミルクルさーん! 戻ってこーい)
ミルクルさんの顔の前で手を振るが、ミルクルさんの目の焦点はあっておらず、どこか惚けたような顔をして俺を見ている。
《ますたー! そうなの! ミルクちゃんの体を触ったの!? 寝てる時なんてダメだよ!》
(お願いだアオさん君だけは俺の味方でいてくれ!)
口元をニヒルに歪ませる白衣を着た小悪魔に、純粋な天使が騙されてしまっている。
それと気になったんですが、責められてることって、寝てる時に体を触ったことなの?
いや触ってないんだけどさ。
触ったこと自体は責められないの?
いやいや、よく考えて欲しい。
俺は好みの話だが、俺はあまりそこを強く主張するつもりはないし、人それぞれで似合う大きさというものがあると思う。
だから細かくそういうのが好きとかいうのは無いけど、うん。
それでも俺は男だ。
男にないものに、少しは興味を持ったって仕方がないことだろう。
つーか、ミルクルさん貧乳だしなぁ。
お姫様抱っこした時は大人バージョンシリコンマシマシだったけど、それでも大きさ平均だし、現実を知っていると作られた何故か無性に幻想が虚しくなるよね。
(ほーん。貧乳。貧乳ね。幻想が虚しい。言うじゃない。ほーん)
にぎゃああああああ! 『ハッキング』されたぁ!
『念話』だと念じて言葉を相手に伝えるから、思ったことをそのまま送らないように調整するのが中々難しいのだ。
たまに誤爆することもあるし、でもさっきみたいな誰かに知られたらまずいことは念入りに自分の中のみに抑えようとするのだが。
そこに滑り込めるんだよなぁ! 『念話』と『ハッキング』を並列発動すると!
『ハッキング』は主に、誰かの『念話』とかの回線とか、『通信』とかの回線とかに滑り込むアビリティであって、心を読めるアビリティではない。
説明しよう! しかし、お互いに念話をつなげた状態で発動すると、より深く相手の考えていることを任意で盗聴することができるのだ!
な、なんだってェ!
(ユベルちゃん?)
現実逃避終わり。
(空が青いな)
《室内だよ》
いや終わっていなかった。ミドリに終わらされたけど。
《み、ミルクちゃん。お、落ち着いて? ますたーも、悪気があったわけじゃ、ない、と、思う、多分、ないと、いいなぁ》
(アオさーーーん! もっと頑張ってー!)
《マスターが涙目になってきたし、そろそろ勘弁してあげるかな》
なにが勘弁してあげるだこの子悪魔め。
あ、嘘です。ミドリさんのマジ救いの女神。お願いしますから助けてください。
《ミルクちゃん。今はいろいろ立て込んでるから、抑えて》
(……フーッ……フーッ)
《今お仕置きしても、状況的に中途半端になっちゃうよ。でも、後でなら時間がたっぷりあるわけだから、気が赴くまま、好きだけ、思うようにマスターを好き放題できるよ》
(わかったわ)
俺に女神なんていなかった。




