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信じられないでしょうけど、守りたい者です!

…………あったかい。

自分がしがみついている物が何故だが物凄くあったかくて、もっとそれを感じたいと身をすり寄せる。

あったかい。………………気持ちがいい。


何故だがわからないが、その温かいものに触れていると、気分が落ち着いて、癒される。


先ほどまで感じていた高熱が出ている時と同じような感覚が薄っすらと和らいで、少しずつ私を包んでいくように、ぽかぽかと全身があったまっていく。


体がふわふわとしているのに、体が重くて、暑いはずなのに、寒気を覚える。

そんな不快感と、自分という者を削り取られていくかのような強烈な苦痛、何かに追い立てられるような逼迫感と焦燥感。

気持ちが悪くて、痛くて痛くて、泣きながら助けを求めようとしても声が出ない。

頭が熱にやられて物事を考えられなくなって、ただただ涙だけを流してた。


そんな中、ひどく小さく、存在感を主張せず、それでも確かに、ちっぽけな光が見えた。


その光に近づきたくて、手を伸ばそうとしても、訳がわからなくなるほどの混乱のせいか思うように動けない。

嫌で、怖くて、手を掴んで欲しくて、それでも動けない私が、もう無理かなと目を閉じかけた時。


その光の方から、私のところに来てくれた。


私に手を伸ばしてくれた。


手を伸ばせない私の代わりに、精一杯その手を伸ばして私の手を取ってくれた。


優しく私を引っ張って、光は私を包んでくれた。


あぁ、あったかい。


体の感覚が戻ってくる。

暗かったもの、怖かったもの、気持ち悪かったもの、その全部が無くなって、ただただ温かいものに包まれた。

嬉しくて、涙が出た。

自分から出た涙が、ほんのりとあったかくて、可笑しくて、笑顔になれた。


これは。このあったかさは。

私の、光は


「…………ユ……ベル、ちゃん」

「ミルクルさん?」


ユベルちゃんが私を呼んでくれた。

夢の中でも、貴方と会いたい。

だって貴方は。


悔しいから絶対に本人に言ってなんかやらないけれど、どんな時も。


いつだって、貴方は私の光だ。


--- --- --- ---


「ミルクルさん?」


背中に背負ったミルクルさんの口から、本当に耳元で、小声を限界まで縮小し囁いたような声が聞こえた気がして問いかける。

しかし、ミルクルさんは相変わらず整った呼吸を繰り返すだけで、俺の問いかけに答える様子はない。


周りにいる騎士も、アオやミドリすら、声に気づいたそぶりはなく、いきなり独り言を発した相手を見る目で、不思議そうに俺を見てくる。


騎士達はともかく、この距離でバケモンステータスのアオにすら聞き取れない声量を、俺が聞き取れるとは思えない。


「聞き間違いか」


幻聴かな。

そこまで考えて、サッと顔が赤くなる。

ミルクルさんの声を幻聴で聞くとか、うわなにそれ恥ずかしい。

心配しすぎだろう。重症だ。

顔が思いっきり赤くなっている気がするので俯いてごまかす。

パーカーの中から俺の顔をのぞいていた二人にはバッチリ目撃されたが。


《マスターどうして赤くなったのかな? ほら、怒らないから言ってみ?》

(それ絶対怒るやつやん)


ミドリの声はどちらかというと、怒っているというより、俺をからかって楽しんでいる感じだ。

くっそ、ニヤニヤとしている姿が容易に想像できる。

でもさりげなく声が低いのはなんでなんでしょうか?


「準備ができた。王がお会いになるそうだ。付いて来い」

「王様直々にとは嬉しいね。複数の騎士によるエスコートに玉座で待つ王。まるで来賓扱いだ。罪人予備軍をこんなVIP待遇でいいのかね?」

「貴様らは黙って付いてくればいい」


厳しいね。

簡潔な言葉に、威圧を込めた目。

向けられた視線はゴミを見るかのような冷ややかな視線で、思考を読み取ることができない。


「冷たいじゃないか。さっきまであんなに盛り上がった仲だってのにさ」

「黙れと言っている。付いて来い」


話をそれで終わりだ、そう言わんばかりに背を向ける騎士団長さんを見て、ミルクルさんを背負ったまま肩をすぼめる。

そしていう通りにしようとしたところで、女性騎士さんが一人こちらに近づいてきた。


「なにか?」

「いつまでも背負っていてはお辛いでしょう。彼女は私達にお任せください。部屋へと運ばせていただきます」

「は?」


なに言ってんのこの人。


「いえ、ですから。私達が責任を持って彼女を部屋へとお連れいたし」

「いや、お断りさせていただきます」


全て言い切る前に否定の言葉をかぶせる。

そんなさも当然かのように手を差し出されてもねぇ。

はいそうですかと手渡せるかっつーの。


一瞬、ほんの瞬きの間、女性騎士さんのにこやかな顔がピクリと引き攣った。

人質ですねわかります。


「大変申し上げにくいのですが、王の前にそのようなお姿では」

「だから、断るって言ってんでしょ。理由はどうあれ呼んでんのはそっちなんだし、渡す理由はないよな。だって少なくとも、そちらはこっちを歓迎してねえし。だったらこっちも礼を尽くす義理なんかないでしょ?」


今度はわかりやすく女性騎士の笑顔がヒクヒクと引き攣る。

王を侮辱したとでも取られたのか、俺たちを囲んでいる騎士達も睨みつけてきたり、剣に手を当てる者もいる。


「……やめろお前ら。それと貴様、本当にその姿で王に謁見する気だったのか」

「悪い? たとえ悪かったとしても気を使うつもりはさらさらないからどっちにしろ変わんないけど。つーわけで早く案内してくれたまえ」

「礼儀というものがないのか?」

「知ったこっちゃないね。でもまあ、礼儀知らずと言われると耳が痛いが反論したくなる。俺は礼儀を、払うべき相手を選んでるだけだ」


言外に、お前達の王様は礼儀を払うに値しない、と言ったのだ。

あたりが殺気立ち、金属をするような剣を抜く音が連鎖する。


そんな中、こちらを振り向いた騎士団長さんは、ひどく冷静に、先ほどと全く変わらずに冷たい視線をこちらに向けてくる。


「やめろと言っているだろうお前ら。俺の命令が聞けないか」


静かだがよく通る低い声の一言が、あっという間に静寂をもたらした。

おー、怒ったら流石の貫禄だねー。

強面のおっさんのキレ顔とか、子供が見たら泣くなこりゃ。


《やーい叱られてやんのー》


ミドリがふざけて念話を送ってくる。

小学何年生だお前は。

頭いいくせに冗談が子供っぽいぞ。わざとか?

まださっきまでの治療が後を引いているのだろう。

あまりの疲れで深夜テンションになってやがる。


「貴様もだ。かなり攻撃的ではないか。強気の挑発はやめてくれ」

「挑発をした覚えはないんだがね」

「それほどに大切な仲間か」

「…………」


空気読もうぜおっさん。それこそ、黙っとけよ。

そんなふうに聞かれて、はい大切ですよと本音で話せるほど大人じゃないんだよこちとら。

恥ずかしいしなんか負けた気がするので本人にも言わないしな。


「あれだけわかりやすく表に出しておいて、気づかぬわけがないだろう。貴様の様子が変わったのはその女をこちらが確保しようとした時からだ。今までとは変わり攻撃的に周りを威圧し、自分にヘイトを集め仲間を守ろうとする。そして、貴様の目は本気だった。本気で、その女を守るためならば相手が王であろうが国であろうが、知ったことではないのだろうな」

「真面目だねあんたも。ま、俺は、タンクだから」

「だがこちらとしても、そのような姿の者を王の前に案内するのはなぁ」


騎士団長さんは頭を書きながら視線をそらす。

なんでかね。別に仲間をおぶっていたっていいだろうに。

そこまで目くじらを立てられることだろうか? それとも、この国には独特な風習でもあるのか?


うーん。でもま、ちょっと頭にきて色々と軽率な行動をとっちまったから、取り敢えず妥協案でも考えてみるか?

反省だなこりゃ。


「ふむ。しかしなぁ。起こそうにもこの人一向に起きないし……この格好が不満なら、じゃあ」


そう言ってミルクルさんの腰を支えながら背から離し、グルリと半回転させ前に移動させて膝裏に手を回す。


「これでどうだ?」


お姫様抱っこをしてみせる。

ダメかね? これでダメとなると、いよいよアオさんの口内に叩き込むことになるんだけど。

そうなると確実に俺がボコされるから嫌なんだよね。


「これでどうだと言われても、なにが違うんだ?」

「おんぶと抱っこの違いだが?」

「…………もういい。付いて来い」


諦めてくれたようで何よりだ。

お? それとも何か? お姫様抱っこなら良いということか?

騎士団長さんの表情からしてそりゃないな。


「ああそれと皆さん? 控えてるところ悪いんだけど、バンクは渡さないし、エネミーセーブは装着しないし、隷属の腕輪もはめる気はないから、騙そうとしても無駄だよ?」


特にあんたらの持ってる隷属の腕輪はな。

ステータスを減少させる『弱体の腕輪』にデザインがかなり似てる。

王の御前だから少し枷を嵌めさせてもらうとかなんとか言って、嵌めるつもりだったんだろうが。

『鑑定』持ちの俺には意味がないよな。


周りの騎士達に視線を送るとピクリと体を震わせた。


「貴様らは本当に」

「俺らを弱らせないと王を守れないとでも? そんなに自分の腕に自信がないのか? 王直属の騎士団とやらが聞いて呆れるな。どんな相手だろうが、自分の命を持ってでも主君を守り抜くのが騎士だろう? それを、主君に何かあったら、何かされたら、怖くて怖くてごちゃごちゃごちゃごちゃ小細工してさ。女々しい騎士だな。あんたらを見ていると、余計にあんたらの主人が安く思えてならないよ」


心の中で冷や汗をかく。

言い過ぎたか?

とても女々しいとは思えない、無言で圧を飛ばしてくる数名の騎士達に囲まれてそう思う。

プライドが高い奴ならこれに食いつくと思って、わざと挑発してるけど。


『バカマスター。逆効果です』

(やっぱり? それと限界破壊ちゃん。愛してるからもう引っ込んでて良いよ?)

『…………はい?』

(冗談です)


ドスが効きすぎてて怖えよ。

前ならともかく、今は会話するぐらいならレベル持ってかないみたいだから別に良いんだけどさ。

そんなことを思っていたら、騎士団長さんの方からアクションを起こしてくれた。

騎士団長さんは、大きなため息を吐いて、それから片手を雑に上げた。


「はぁ。わかった、悪かった。これでいいのだろう。その格好も、その女のこともとやかく言わん。だからもうやめろ。これ以上はこちらも抑えきれん」

「いや、俺の言葉が過ぎた。謝罪する」

「もういいと言っている。お前らもだ。さっさと持ち場につけ」


騎士団長さんが先ほどと同じように周りを一喝する。

不承不承と言った様子で剣を鞘に納め、ジロリと俺をにらんでから、徐々に俺たちの囲いを離れていく騎士達。


騎士団長さんが先導するように歩き出したので、それについていく。


さて、概ね俺の理想通りの展開に近づいてはいるな。

アオはともかく、ミルクルさんとミドリの消耗が激しい今、俺がなんらかの理由で制限されるルートだけはなんとしても回避しなければならなかった。

悪いと思っている。謝罪もしたいと思ってはいる。


それでも、この国よりも、俺は俺の仲間の方が大切なんだ。


どんな理由があっても、たとえ俺たちが完全なる悪なのだとしても。


それでも俺は、俺の仲間を守りきる。


『バカマスターのくせに、そんなんだからいつもいつも、失敗だらけでいつまでたってもバカなんですよ』

(コメントが辛いな)


それに耳が痛い。

本当はこんな面倒なことしないで、のんびりゆっくり、勝手気ままに、スライムちゃんを愛しながら、皆んなで自由奔放な旅がしたいのだが。

なにがどうなって、神だの転生人などと、変なことに首突っ込むことになってんだか。


『いつもいつも、他人のことばかり考えているから、足元がおろそかになるんです。……『仲間思い』もここまでくると『守護欲症候群(いっしゅのびょうき)』です。もっと、自分がバカであることを自覚しなさい』

(重々承知しているつもりだがね。それに、俺は他人のことなんか考えちゃいないさ。俺が考えてるのは仲間のことだけだ)

『……だから、バカだというんです。他のことばかり見て、自分のことを蔑ろにするから、貴方は人を守って自分が傷つく。そんなことをしていれば、いつか身を滅ぼしますよ』

(そう、なのかな)


そう言われても実感がわかないよ。

何度も何度も、お前達に言われるけどさ。

心配させてるって思って、反省もするし、後悔もした。

だけど、嫌じゃないか。

もう嫌なんだよ。『守れなかった』って後悔するのだけはさ。


自分があの時、死ぬほどまでに何かを尽くしていたなら、あんなことは起きなかったのにって思うじゃないか。


(……ごめん)

『……本当にバカですね』

(返す言葉もない)

『周りのことを守るために、自分を見ない、本当に仕方がないバカマスターです。なので、そのバカが治るまで、その間だけ、仕方がないので、貴方のことは『限界破壊(わたし)』が見ていてあげますよ』


………………ッ!

おぉ……はは、そっか。そうか。

お前が、見ていてくれるのか。


(そりゃ、心強いなんてもんじゃないな)

『貴方のバカが治るまでです。早く治してください』

(できるなら今すぐにでも、バカマスターという不名誉な呼び方はよして貰いたいもんだが。そうだな。このバカは、治る兆しか無いに等しいんだが、その時は、どうなるんだ?)


永遠にバカマスター呼びで、お前の中でずっと俺がバカの評価のままだったなら。


「お前は、ずっと俺のことを見ていてくれるか?」


小声で、それでも、ちゃんと声に出してその言葉を伝えた。

なんというか、感覚でしか無いのだが、何かの形にしたかったのだ。


『ふふ……さぁ、どうでしょうかね』


限界破壊ちゃんの返事は、悪戯げで、ちょっぴり優しくて、ほんの少しだけ、楽しげだった。


「……そっか」


自然と頰がほころぶ。

今は、その言葉だけで十分だ。


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