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信じられないでしょうけど、ミドリの独壇場です!

《了解。じゃあ、早速始めるよ、『実験七つ道具・注射器』特権行使。第一工程『実験体(モルモット)』》


天使の輪っかをつけ羽を生やしたようなモデルの注射器がミドリの真上に出現し、それが一直線にミルクルさんに突撃、ミルクルさんの腕に緑色の液体を流し込む。


(怪しげな人体実験だ……)

《マスターうるさい》

(ごめんなさい)


茶化すのはNGのようだ。

いや、そんな空気じゃないのはわかるんだけどさ、言いたくなるだろ。

絵面がちょっとな。『実験室(ラボラトリ)』発動中に使用して欲しいランキング第1位にランクインしたよ。


《ボクだって気にしてるんだから無視無視。うーん……やっぱり巡りが遅いよね……これで少しはボクの薬に対する抵抗力が下がってるけど……》

「やっぱりまだダメか?」

《うん。黒い奴がまだ完全に消えたわけじゃないから》


とりあえず回復薬とか状態異常の特効薬とか、薬のランクが高いものからドンドンつぎ込んで見たが、ステータスで数値が行ったり来たりするだけで大きな効果は出ていない。


とはいえだ。進行は止まったし、遅いとはいえ目に見える速度で黒さが抜けてきている。

『検索』でも、少しずつ『黒化』の状態異常が薄れていってることが確認できるため間違いない。

状態も悪くない。ここで畳み掛けて一気に効果を発揮させたいところだ。

あと少し、もう少しの辛抱だ、耐えてくれよ、ミルクルさん。

ここはもう一歩、踏み込んでみよう。


「やってくれ」

《うん。『万能薬・新薬開発』。『回復薬』ベース、『睡眠特効薬薬』『麻痺特効薬』『毒性特効薬』『クールドリンク』『気付け薬』『免疫向上薬』『抗菌薬』、提供『緑の実』『橙の実』。ミック》

「『体力超増強』『疲労耐性』『回復時間短縮』」


俺の中持つ中で効きそうなアビリティの三つをミドリの提供する。

提供するとクーリングタイム関係なしにしばらく使えなくなるが仕方ない。

ミドリがチラリとこちらを見たあと、冷や汗をかきながらコクリと頷きそちらも調合素材アビリティに追加した。


「あとはこいつだ。残り少ないが、『銀猫の生き血』」


ありとあらゆる難病を治すと言われる、生命力の塊である血の入った小瓶を差し出した。

イジ爺さんの鍛冶素材にしたため目減りはしているが、剣を打つたびに数的ずつ垂らしていただけで、半分ほどは残っている。


《鬼畜かな? どんどんどんどん合成難易度上げてくれちゃって。実験失敗したらどんな顔すりゃいいんだよぉ〜》


ミドリは半泣きだった。


「大丈夫」

《なにがぁ?》

「俺はミドリを信じてる」

《根拠のない信頼はやめてぇ! 一番心に来るからぁ! プレッシャーがより増したよ! マスターの鬼! スマイルおばけ!》


罵倒が新しすぎる!

スマイルおばけってなに?

俺の笑顔がおばけみたいに見えるってこと!


《これミスったら後がないんだよぉ?》

「そうか?」


アビリティは『限界破壊』を使って無理やりクーリングタイムを無視すればいいし、何度かチャレンジは可能だと思うんだが。


《キャンディーちゃんに貰ってる『実』は一つづつしかないから、これ失敗できないんだって!》

「そっか。『再生の実』はまだ代用が効くとして、『耐久の実』はなぁ」


即死無効とか、アビリティなら特別(スペシャル)に相当する効果だ。

本来ならトッピング専門のアビリティで、赤や黒など直接経口摂取することで効果が得られるものとは違い、何かに乗せ(トッピング)しなければ効果がない上に、ただのオモチャとかにトッピングしても即死無効とか意味がないため、事実上お菓子の魔王の作り出すお菓子ぐらいにしか効果が見出せなかった。


アビリティのランクが低いのはそれ故だろう。


しかし『実』自体をアイテムとして固定化は可能だし、少数とはいえ他人に譲渡することもできる特殊なアビリティでもある。

俺の『合成』やミドリの『万能薬』と同じようなものだ。


《ぐぐぐ……追加提供『銀猫の生き血』……ミックス…………合成能力演算開始、リソース不足による成功率減少、『万能薬』付随効果発動、成功率、成功率》


ブツブツと唸りながら頭を抱えるミドリを見て、ゆっくりと頭を撫でた。


「大丈夫、焦るな。俺のミドリなら、絶対大丈夫だよ」

《…………〜! ああもう! 絶対失敗できなくなったじゃないかぁ! 演算加速! 思考リソースフル回転! 今日最後だからちゃんと機能してね! 『科学者の脳内(シンキング・タイム)』!》


ミドリがアビリティを発動した瞬間、『アビリティセンス』で見ていた景色が一変した。

ふむ。これが思考のみが加速した世界か。

目しか機能していないが、世界が白黒で覆われて、昔のテレビを見ているかのような感覚に陥る。

《〜〜っはぁ! 成功! 『超回復薬』!》


スゥッと引いていくかのように白黒の空間は消え、ミドリの目の前に回復薬の瓶をとてつもなくゴージャスにアレンジしたような豪華な小瓶が生成された。


その瓶の中に詰められた緑色の薬は、見るだけで異様なオーラを放っている。

このアイテムが並大抵の品質では無いのだと言うことがよくわかった。

俺たちを取り囲んでいた騎士達にも動揺が広がる。


《はぁ……はぁ》

《ミドリちゃん》

《……はぁ、なに?》

《『変身』した方が、速かったんじゃない?》

《できるなら、したかったんだけど、ね……今使えないんだ……多分、反動かな》


変身? ミドリがそれを使うとなんかあるのか?

今回に限っては特になにか意味があるとは思えないんだが。


「あと、これもだな」


そう言って俺はパーカーのポケットから一つ小瓶を取り出して『超回復薬(グリーン・ポーション)』の隣にコトリと置く。


《これって!》

「お、気づいたか? 勿論、ただの回復薬じゃないぞ。ミドリの回復薬をベースに作ったオリジナルだ。ミドリほどの練度は無い分、『限界破壊』とかでゴリ押ししたけど。『鎮静薬』『麻酔薬』『強化薬』その他の薬に、薬草とか毒草とかを『合成』して作ったやつだ。そうだな、言うなれば『超回復薬ユベル・ポーション)』ってとこか」


ミドリの『万能薬』から見て五段ぐらい下に位置するのが『合成』だ。

どんなに頑張っても素の能力で『万能薬』に敵うわけがない。

いくらレベルに物を言わせても所詮は『万能薬』>>>『超えられない壁』>>『合成』だからな。

特別(スペシャル)チート全開の俺の傑作だ。

因みに、鑑定したら『超回復薬』と出た。

回復薬をベースに、回復薬のランクを上げるとこうなるみたいだな。


《飴神様のオーラがする……すごい》

「わかるかね、この飴中毒者め」

《飲んでいい?》

「ダメです」

《これ飲んだら『実験室(ラボラトリ)』使えるから!》

「マジで! いや、でも」


さっきまで切り札は切れないとかなんとか言ってたくせに。

急に元気取り戻したなお前。

なんか必死さが半端じゃなくて怪しい。

でも『実験室(ラボラトリ)』が使えるのは素直にありがたい。

『限界破壊』ちゃんのサポートモードに頼らずに、自分の素のアビリティで対処ができるようになるし。

なにより、薬の練度が上がればミルクルさんが助かる率も圧倒的に向上する。


「わかった。ミドリが飲んで構わない」

《やた!》

「でなんだけど、ぶっちゃけどれぐらい飲めば『実験室(ラボラトリ)』解錠できそうだ?」

《全部、かな》


汗、汗。

器用に目をそらすな。


「正直に答えなさい」

《……一口で元気。二口で覚醒。三口で最強。全部で無敵になれる》

「オーケー。じゃあ一口飲んだら後は残しといてね」

《無体!》

「ミドリって本当飴のことだとアホになるよね……ミルクルさんのためだと思って我慢しなさい。…………また今度作ってやるからさ」


ここでこんなことを言うから、スライムちゃんに甘いと言われるのだろう。

でも仕方がないじゃ無いか。

甘いのは自覚してるよ。

それでも体が勝手な動くんだよ仕方ないだろ。


《本当! 約束だからね! じゃあいただきまーす》


ミドリがその薬を服用しようとした瞬間、あたりの騎士達から「ああ」とか「うお」等奇声が所々で放たれた。

なんだよ。なんにもしないんならせめて邪魔すんなよな。


《んふー、おいしー》

「そりゃよかった。で? いけそうかな?」

《行けそう……ねぇマスター。少しだけでいいから、抱きしめてくれないかな》

「だっこ? 別にいいぞ。けどなんで?」


ミドリが甘えてくるのは珍しいから、甘えられるのは素直に嬉しいんだが、どうして今?

そっぽを向いたまま疑問に答える気のないミドリを持ち上げる。


《もっと! こう、ぎゅっ! と》

「こ、こうか?」

《あー、ミドリちゃんずるーい!》

《い、いいじゃん! さっきアオちゃんもしてたでしょ! それにボクにはちゃんとした理由があるの!》


あるのか?

『実験室』を開くのになにか制限とかあったっけか?


《すぅー、ふぅー…………空間を捻じ伏せろ、『実験室(ラボラトリ)』》

「ぐっ!」


ミドリの近くにいるからか、反発力というべきか、抵抗というべきか、あたりの空間と何かがせめぎ合っているかのような不快な違和感を感じる。

これが、領域を無理やり張り替えようとする時の反動か。

確かにこれはキツイ。ミドリ一人にこれを背負わせるわけにはいくまい!


抱っこしていたミドリを今度こそ本気で抱きしめる。

近づいたことでより強い反動が帰ってくるが、それと反比例するかのように、ぶっと何かが軽くなった気がした。


《ありがとうマスター。ココからは、ボクの領域だよ》


ミドリの体から緑色のソナーのようなものが発せられ、空間が緑色に染まった。

ニヤリと口角を上げた女の子が幻想できた。

その姿に、先ほどまでの一人では押しつぶされてしまいそうなほどの衝撃を受けたあとは見られない。

それを見て、なんだか無性に可愛く思えてきたミドリを撫でた。


「お疲れ」

《……うん》


気の利いたこと、言えるようになりてえなぁ。


《さて、こうなったからには科学者ミドリちゃんの独壇場さ。『実験室』特権『精密検査』……ミルクちゃんの肉体を仮座標地点として精密区分、A点〜ZZZ点集計ポイントセット計8699点。ポインターアタック。『実験室』支配者権限行使、第二第三工程強制破棄、第四工程『解剖(ディスカッション)』》


ミドリが良く通る声でアビリティ発生を行うと、みるみるうちにミルクルさんの体に浮かんでいた黒い物が消え去っていく。


「流石だな」

《薬作りだけがボクの先輩特許じゃないってことだよ。ミルクちゃんの体を蝕んでた悪い奴は、全部粉々に切り刻んでやる》

「黒くなって悪くなった細胞とかを指定してピンポイントで攻撃とか、えげつない」

《そんなこと言ってる暇ないよ。神経とか細胞とか、大事なところはしっかりカバーしてるけど、所々で本当にやばい部分は切除してるから、時間との勝負。ドンドン切って、ドンドン直そう。手始めに、今からマスターに作ってもらいたいアイテムを言うから、作れたら作れるって言ってね》


悪いものを取り除いて直して無事、完全回復理論か。悪くない。


《『エレキカード』『アルコールアクセル』『エラービート』》

「レシピを覚えてるから作れることは作れる。でも素材がない」

《素材はボクの薬で代用するよ》

「新レシピか。作ったことがないと成功率が落ちるんだが……」

《言っておくけど一度も失敗しちゃダメだよ? 時間の無駄だからね》


ぬぐぐ……地味にプレッシャーをかけてきやがって。


《さっきのお返しだよ。ま、正直、どんなにマスターの『合成』のレベルが高くても、質は低いだろうね。マスターの問題じゃなくて素材とレシピの問題だから。全部なんちゃってレシピの関係上、効果はちゃんとあるけど一度使ったらもう効果のないガラクタになると思う。でも、今はそれで構わないでしょ?》


そうだな。ミルクルさんに使って効果があるのなら、ぶっ壊れようがガラクタになろうが知ったことじゃない。

なら、せいぜいイジ爺さんのところで打ち上げた職人魂を持って、全力で作成しますか!


「本日限りの出張営業。なんちゃって即興魔道具店『青緑の要塞』開店だ! とでも、洒落込みますか」


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