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信じられないでしょうけど、全員のリスクと思いは一つです!

「さて、ミルクルさんの様子を見せてくれないか?」


アオを抱きかかえよしよしと撫でながら、ミドリに確認を取る。

ミドリはジトーっと俺を責めるような視線を向けてきたので一瞬たじろいでしまう。


《無理しちゃダメって、言ったのに》


ああ、絶対安静って言ってたのを破ったのを怒ってるのか。

さっきは俺がきたらありがたいとかなんとか言ってたのに……

というか、俺が無理したこと前提だし。


『ミドリは賢いですからね。『飴職人』を使ったことがバレたんじゃないですか?』


な、成る程。

でも俺には持ち前の回復手段もあるし、ミドリの作った回復薬の備えもあった。

戦闘中はとても瓶の蓋を開けて飲むなんて悠長なことしてられなかったため、まだ数本は残っているのだ。


(悪い。でも、そのままぶっ倒れているわけにもいかなくってな。ミルクルさんがやばいんだろ? ミドリの作った回復薬に加えて、色々アレンジ加えたりしてオリジナルを作ったから試してみよう)

《えへへ、ますたー、ますたーますたー、ますたー》

「おう、よしよし。頑張ったな。ありがとう。大好きだぞ」


擦り寄ってくるアオを撫でて愛でる。

何故か、ミドリはプクーッと膨れていた。


「み、ミドリ?」

《ふんだ。マスターなんか知らないよ》


ぷいっ、とそっぽを向いて拗ねてしまったもう一人の家族の姿につい笑ってしまった。

そして無言で横わるミルクルさんと、それを守ろうと立ちはだかっていたミドリに近づいて

しゃがみこみ、ミドリの頭を撫でた。


「ミルクルさんを守ってくれてありがとう。本当に。頼りにしてる」

《…………マスターはずるいよ》


そう言いながらも、すりっとすり寄ってきてくれた。

ミドリの機嫌を直してから、改めてミルクルさんに向き直る。


遠目から少しは理解していたが、間近で見たその姿は異様なものだった。

騎士達もミルクルさんの姿を見て顔を青くさせている。


顔の半分以上が黒く染まり、染まった部分からは黒い粒子のようなものが漏れている。

露出している手や足も同様で、露出していない部分もそうで在ることが予想できた。


それが決して良い結果を招いていないであろうことは、ミルクルさんの苦しげな表情と息遣いで理解できた。


「ミルクルさん! おい、返事しろ!」


呼びかけるが返事はない。意識を失っているのだろう。


「『検索』!」


ミルクルさんのステータスを覗き見るが、状態異常欄には『気絶』『衰弱』の他に、『侵食』『暴走』『黒化』などなど見たこともない状態異常のオンパレードでどのように手を加えればいいのかわからない。


ステータスを隅から隅まで観察していく。


「これは……」

「だ、大丈夫なのか?」


騎士さんたちがこちらを伺うように声をかけてくるが、それに反応している余裕は今はない。


「集中してるんだ。少し黙っててくれ」


大きな変化は、ステータスだな。

『悪殺』が元に戻らない時点で他のステータス全てが減少しているのはわかっていたが、肝心の『悪殺』で唯一上昇したはずのINTまで、1になっている。


以上通り越してわけがわからん。

なんだこれ。

全てのステータスがオール1とか、生まれたてのスライムじゃ在るまいし。


《回復薬を無理やり飲ませてるけど、この黒いのが回復を邪魔してるみたい。効果が押さえつけられて、回復薬の即効性も失われて、このままじゃ消耗がピークを迎えちゃう》

「ピークだと? おいおい、そんなことになったら」


今はなんとか食い止めちゃいるが、ミルクルさんのHP数値はマックス1で固定されているんだぞ。

軽くナイフで傷つけられただけでも命を落とす非常に危険な状態だ。

このままであったら、そう長いことは持たないだろう。


「どうにかならないか?」

《やってみてる。でも、どんなに回復させても、活力を与えても、結局イタチごっこなんだ。これでいけるっていう方法が見つかるまでは、切り札の『実験室(ラボラトリ)』は使えない》


何をそんな悠長なとは思うが、ギリギリで在ることは俺もわかっている。

この特別(スペシャル)の領域を固有(ユニーク)のレベルで張り替えるのは、例え一部分の支配権であっても難しいだろう。

それだけ、固有と特別には超えられないほどの壁がある。


「なら、無理やりにでも『悪殺』を潰す必要があるな」


俺はミルクルさんが抱え込んでいる両手槌の塚の部分を見てから、地面にヒビを入れながら鎮座している頭部分に目を向ける。

『秘剣』の効果は所有者にしか向かず、触れた程度ではどうにもならないのは理解しているが、それでも忌避感を感じるほどのプレッシャーを放っている。


だがやらないわけにもいくまい。

しかし、俺にできるのか? 『反射』は全く溜まってないし、貯めようとすれば可能だがそんな時間もない。

…………不本意だが、スライムちゃんにこんなものに触れて欲しくはないのだが、頼むしかないか。


「アオ? いけるか?」

《え? で、でも、この剣、ミルクちゃんが昨日買ったばっかのやつで大切そうにしてたけど……》


その言葉を聞いてガクッとずっこける。

なるほど、それで壊すことを遠慮していたのか。

大変アオらしいが、ミドリの方をちらりと見れば、ミドリはふいっとそっぽを向いた。


《ボクはそうゆう理由じゃないよ? ボクは壊そうと思ってた。でも、この剣の解析が全くできなくて、不用意に触れてボクも同じことになったらそれこそミルクちゃんが危険だと思ってさ》

「うん。その考えは正しいと思う」


回復薬等でどうにかなったかもしれないことを考えると、悪くない手であると思う。

時間がないからといって、焦って考えなしに行動するのは悪手だ。

わかっていてそれができるかできないかという話になる程、難しいことだが。


《だ、だって、ベイビーちゃんを通してだけど、この剣を見つけた時のミルクちゃん、本当に嬉しそうで》

「命には変えられない。大丈夫だ。怒るだろうが、俺にはその怒りを吹っ飛ばすとっておきのプレゼントがあるからな」


本当に、どうしようもないほどになんか理由があってどうしてもこの剣がいいっていうならその時はその場でまた考えるさ。

どうにでもなる、生きてさえいればな。世の中、命あっての物種だ。


「アオ、剣に触れて、少しでも何か違和感を感じるようなら遠慮せず直ぐに離れろ。これは命令だ」

《うん》


じゃあ、頼むぞ!


「スタート、battle the エネミー。賭け金レイズ、ベット10万ゴールド。粉々に噛み砕け!」

《了解!》


俺の神盤が浮き上がり少しのタイムラグののち、設置されているプレイヤーバンクからゴールドがジャラジャラと振り込まれ、100万ゴールド分の力がアオへと注がれる。


アオがその小柄な体では考えられないほどの大口を開け、禍々しいオーラを放つ両手槌をミルクルさんごと口に含んだ。

その直後にミルクルさんを優しく口の中から地面に置く。


《ああでもしないと動かせないくらい、ミルクちゃん、あの槌を手放さなかったんだ》


呆気にとられていた俺に緑が補足説明をしてくれる。


《……うええ、か、固い。何コレ》


アオの苦しげな声がねんわで漏れているのを感じ、背筋が凍る。


「吐き出せ! アオ!」

《別に悪い感じはないよ、でも、固すぎて噛めないよ》


アオでも噛めないほどの硬さだと?

捕食者の力すら凌駕する何かを感じて恐怖がより強くなる。


「吐き出していいから! 無理すんな! いいから吐けぇ!」

《んむむむ! やだぁ! ミドリちゃんはミルクちゃんを助けるためにお薬を作らなきゃいけないの! ますたーも頭いいからたくさん考えるの! どっちも集中しなきゃいけないでしょ! だったら、コレをやるのはアオの仕事! だからお願いますたー! アオに、命令して!》

「できるわけ」


そこまで言いかけて、隣のミドリが俺の肩に乗りポンポンと体を動かして俺を呼んだため視線を向けた。

するとミドリは俺の目をまっすぐ見て、ブンブンと体を横に降る。


《マスター。アオちゃんに力を貸してあげて》

「ミドリまでそんなことを! アオに何かあったらどうするんだ!」

《ミルクちゃんを助けたいの!》


ミドリが大声をあげて俺に訴える。

助けたい。そうさ。助けたいさ。

でも、アオが、もしアオに、なにかあったら、それこそ


《アオちゃんだってミルクちゃんを助けたいんだ! ボクは能力のリソースの全部を治療に割かなきゃいけないからとてもじゃないけど戦闘なんてこなせない。マスターだって戦闘向きじゃない。アオちゃんしかいないの! リスクがあるなんてわかってる! アオちゃんだって百も承知だよ! それでも、ミルクちゃんを助けるためには、全員が、アオちゃんも、ボクも、マスターだって、リスクを承知で飛び込まなきゃいけないレベルにまで達してるんだ!》


この切羽詰まった状況で、それでも俺の考えは甘えていたのか。

そう思わされる言葉だった。

甘く考えていたつもりはなかった。でも、リスクを冒さなくてもいいじゃないかなどと思った、それは、ミルクルさんのことを見捨てることと同義だったのか。

激しい後悔に揺さぶられる中、ミドリは最後のトドメとばかりに念話を送ってくる。


《さっきも言ったよね……ボクたちだってさ、心配してるんだよ? でも、マスターは勝手にボクたちのために傷つこうとするじゃないか。ボクたちは、そんなマスターに育てられた反逆者だよ? おあいこだよ。でも、マスターがどうしても嫌だっていうなら。ボクたちを守ろうとしてくれるなら、お願いだよ。アオちゃんに、力を貸して》


肩が震える。

ミルクルさんを助けたい。

死なせたくない。

勿論みんなにも傷ついて欲しくない。

安全マージンはしっかり積んで、危険なことはして欲しくない。


だけどそこまで言われて。

俺の愛するスライムにそんなことを言われて。


「黙ってられるか! アオ、全力だ! 賭け金レイズ! ベット、1000万ゴールド! 【 グラ・ステージ 】!」


俺が山小屋で目を覚ましてから、アオとミドリのステータスは異常なほど伸びていた。

3ヶ月でどんなことをすれば、こんなことになるのかと眼を見張るほど、ステータスはぶっ壊れていたのだ。

特にこのアビリティ。


『1億ゴールドアビリティ』という俺のテイムし育ててきたエネミーの中で誰一人として、この舞台に至らなかった場所。


それを遂に、アオが手に入れたのだ。


《ありがとうますたー! 大好き!》

「こやつめ……俺も大好きだよ」


見た目の変化はないが、アオから発せられる強者のオーラのようなものが爆発したかのように吹き荒れ、辺りの地面や建物がビリビリと震えている。

その直後、バキ、ゴリ、と耳にしてはいけないような音がしばしの間響き、そして止んだ。


1億ゴールド【 グラ・ステージ 】

グラへと至る道へ導かれし者にのみ授けられる禁忌の力。その道の極地は茨の道ぞ。しかして、それでも真の力を求め道を歩むのならば、その思いは形となりて、この力を使用する権利を得るであろう。


限界破壊した俺の『アビリティセンス』で調べたところ、こんなテキストが頭の中に入ってきた。


アオがぺっ! と吐き出したものは、とても何かの形を保っていたとは思えないほどの金属のカケラ達であった。

辺りの騎士達は顔を真っ青にしドン引きしていた。


《ますたー! 終わったよ!》

「でかした! あとは俺とミドリに任せとけ!」

《うん!》


アオの元気そうな声を聞いて活力が湧いてくる。


《マスター!》

「わかってる。まずは状態異常の確認だ! 『検索』」


ミルクルさんの体から黒色の粒子のようなものが漏れなくなり、黒さが徐々に引いて言っているようにすら見える。

検索して見たところ、状態異常欄に鎮座していた数々の状態異常の、実に9割が消滅していた。


アオの大手柄だ。


だが、『平和主義者の領域』が消えない以上、HPの総量は未だ厳しく、ミルクルさんは少しはマシになったとはいえ苦しそうに荒い息遣いをしている。

そしてなにより、こうゆう時に非常に力になってくれるミドリの『実験室(ラボラトリ)』が使えないのが痛すぎる。


「騎士団長、無視していていいのですか?」

「仕方あるまい。早く王城に連行しなければならないのもわかるが、これを見過ごすわけにもいかないだろう」

「であるならば、我が城には多くの治癒の魔道具が……」

「それも却下だ。今の時点で彼奴らは罪人の嫌疑がかけられている。ある程度の行いを黙認することはあっても、手助けをするわけにはいかない。結果、我々は傍観者だ。安心しろ、もしも時間がかかるようなら無理やりにでも治療はストップさせる。時間を稼ぐなどの行いを見せた時にも同様だ」


聞こえてるっつーの。

いや、聞こえるように言っているのか。

治癒の魔道具ね……貸してくれたっていいだろうにとは思うが、そもそも信頼関係もクソもない相手だし、城とどれぐらいの距離があるのかもわからんのだからアテにする方がアホだな。


さて、時間もないのか。

いざとなりゃ本気で抵抗してでも、時間を稼ぐ。

絶対にミルクルさんは死なせない。


「ミドリ、まずはお前の方で回復作業を行ってくれ。俺は目で常に状態を確認して逐一報告する。その度に指示を出したり判断を委ねる可能性がある。何か思ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」


さっきよりも事態はかなり好転しているはずだ。

さっきまで効果が薄かったことも今なら効果が望めるかもしれない。

一つ一つ、確実に、しかし迅速に、焦らずに、丁寧な作業を心がけていこう。


《了解。じゃあ、早速始めるよ、『実験七つ道具・注射器』特権行使。第一工程『実験体(モルモット)』》


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