信じられないでしょうけど、裏で巡らす下準備です!
騎士の方々に囲まれて歩きながら見る景色は酷いものだった。
建物はボロボロを通り越し今もなおこそかしこで崩れ落ちている。
綺麗に整備されていた地面は所々で抉れひび割れ、所では最早原型を維持していない部分もあるようだ。
これをしたのが自分なのだと思うと、申し訳ない気持ちと後悔がじわじわと精神を蝕んでくる。
たまの荒れごとはよくあることにしても、これはあまりに酷すぎる。
災害が通ったあとのような有様だ。
参ったな。弁明の余地は果たしてあるのだろうか。
もしかしたらこのまま、投獄とかありうるのだろうか。
逃げることも可能だが、それもミルクルさんの状態によるし、もし、ミルクルさんを人質になどされた日にはその選択も難易度が跳ね上がる。
とりま逃げられたのだとしても、指名手配で追われる身となってしまってはお気楽な旅どころではない。
それぐらい名を轟かせればソロ仲間とか仲のいいプレイヤーに気づいてもらいやすいだろうが、悪名は流石に勘弁願いたいし、ジャックを筆頭に『会いたくない』奴らは、俺が指名手配されようものなら大義名分を得たかのように群がってくるだろう。
(とかなんとか考えてる間にもう下準備は終わったな。よし、『限界破壊』ちゃん。『サポートモード』の準備よろしく)
『疲れるから嫌です』
(おいそこ!)
『流石の私でも、全SPを失った状態で踏み止まるのは困難を極めますので』
今更そんな理屈っぽいことこねられても信用度ゼロだよ。
本音が先に飛び出しちゃってんじゃん。
本当に人間味出してきちゃってまぁ。
(限界を破壊すればなんとかなるんじゃないのか?)
『バカマスターは、私を便利道具か何かと勘違いしてはいませんか?』
そこで限界破壊ちゃんの声が不機嫌そうなものに変化したことを察する。
(そんなわけないだろ)
『言っておきますが、私は決して万能ではありません。バカマスターにこんなことを言うのは正直、非常に不愉快ですが、私にも、不可能は存在します』
(知ってるけど?)
『…………』
む、無言の圧力。
不機嫌の具合が数倍になって俺を襲う。
こいつ、プレッシャーで俺の心を粉々に砕きにきてやがる。
キリキリと胃が痛む。ああ、胃薬が欲しい。
(ま、待て限界破壊ちゃん。違うんだ。俺はただ、ちゃんと限界破壊ちゃんのことを理解していると伝えたくてだな)
『限界破壊』というアビリティに不可能がないなどということを求めるつもりはない。
限界破壊ちゃんには限界破壊ちゃんとしての活躍の場というものがある。
『あなたが私の何を知っていると言うのですか。思い上がりも大概にしてください』
(酷い!)
『しかし物は試しです。何を知っているのか、言ってみてはいかがですか? 私の心を動かせる可能性もない訳ではありませんよ?』
限界破壊ちゃんの何を知っているかって?
そうだなぁ…………どうしよう、急に言われても思いつかないんだけど。
(えーっと…………敵対したものには容赦なく死の鉄槌を与える残虐性?)
『…………よく分かりました。敵対のご意思は硬いのですね?』
(違うの! 味方だと頼りになるって言いたかったの!)
俺に容赦ない死の鉄槌を降さんとするのはやめて!
てか、こんなことしている間に着いちゃうよ! ミルクルさんの命がかかってるかもしれないんだからこんなことしてる場合じゃないって。
『では取引です』
(よかろう)
『何を偉そうにしているのですか?』
(俺なんかお前に悪いことした?)
コメントがいちいち辛いんだけど。
『1日でいいです。今すぐにとは言いません。私との時間を取ってください』
(限界破壊ちゃんとの時間? それは別に構わないんだけど、四六時中一緒にいるようなもんじゃん)
『良いのならそれでいいのです。その後の言葉は余計ですよ。例えそうであっても、私には自由というものがないのですから』
そうだっけ?
『私はアビリティですので』
説得力のかけらもねえよ。
自由すぎて俺のいうことなんか全く聞かないじゃん。
現に今めちゃくちゃ会話してんじゃん。
ゲーム時代とはえらい違いに、戸惑いを感じることもしばしばだ。
『はぁ……まぁいいです。時間がないのでしょう? 早くしてください』
(そうだな、悪い、助かる)
お礼を言ってパーカーのポケットの中に入れたままの腕に力を込める。
すぅー、とあたりに気づかれないように息を吸い気合を入れてから、全身全霊をもってアビリティを発動する。
(『飴職人』!)
HPではない体力、SPを代償に発動するアビリティ。
具体的なイメージが無ければ効果を発揮しないアビリティではあるが、一度生成したことのある飴に限り、その分のSPを消費することでイメージなく生成が可能だ。
全SPを代償に捧げることで作れる飴、ミドリ命名『飴神』を生成しフット全身から力が抜けた。
「『〜〜〜〜ッ! フッ!』」
「おい、どうした」
グラリと倒れかけた体を、限界破壊ちゃんが肉体の限界を破壊させなんとか踏み止める。
このアビリティの難点は、一個生成するごとにぶっ倒れることだ。
その分効果は折り紙つきだが、こんなところでぶっ倒れでもしようものなら何をされるかわかったもんじゃない。
この騎士さんたちをいい人たちだとは思うが、決して俺の味方ではないし、信用することはできない。
限界破壊ちゃんなら、レベルを喰らえばこの体力でもなんとかなるだろう。
「『いや、なんでもない、だが、先の戦いでの疲れがまだ、完全に癒えてなくてな……悪いんだが、回復薬を服用しても構わないだろうか?』」
限界破壊ちゃんがいつもの口調を崩して、騎士団長さんにそう言った。
俺に似せようとしているのかもしれないが、残念ながら所々で限界破壊ちゃんの面影が残っており似てないし、なにより無表情はどうしようもないのね。
「……それが回復薬であるという証拠は?」
「『貴方達で試してくれて構わない……毒が心配なら、俺がまず一口服用するし、解毒薬等も携帯しているなら、一本出すから、その半分を服用するなり、体にかけるなり、してくれ。残った半分を俺が飲む。それをもう一回繰り返せば、大丈夫だ』」
「いや、そこまでする必要はない。我々は技術のプロだ。薬の査定もある程度は心得ている。耐性もある。一滴服用すれば十分だ」
その騎士団長さんの言葉に、周りの騎士達が反応する。
「団長、危険では?」
「構わん。お前に言われずともわかっている。それなりの対応はするつもりだ。この男が嘘をついている気配はいまのところ感じられんしな。表情からは読み取りづらいが、それほどまでに体力を消耗しているということだろう。このような戦いがあった後だ、それも仕方あるまい。しかし、貴様」
騎士団長さんは俺in限界破壊ちゃんに声をかける。
ボロを出さないためか、限界破壊ちゃんは黙って騎士団長さんに視線を向けた。
「治癒士なのだろう? 回復薬など使わずとも、自分自身で治せばよかろう。何故そうしない」
「『時間が必要に、なるからだ。今までも何度か騙し騙しやっていたが、やはり厳しいな。回復薬の方が、早い。それに、こんな状態で自分を診ようとしても、いい効果は望めない。また今のような状態になるのがオチだ』」
「まぁ、それはわかるがな…………回復薬を貸せ」
ポケットから手を出し、無言でパーカーの中から回復薬を取り出し、騎士団長を手渡しをする。
回復薬が詰まった瓶をまじまじと2秒ほど観察した後、自ら手甲の上に薬を一滴落とし、匂いを確認し、それからペロリと舐めとった。
「…………問題ないな。確かにこれは回復薬で間違い無いようだ。しかし……」
騎士団長さんが問題ないと言い瓶をこちらに渡したのでそれを飲もうとしたところで、しかしという言葉に反応し限界破壊ちゃんの手が止まる。
「『なにか?』」
「いや、今はいい。飲んでくれて構わない」
「『では、遠慮なく』」
限界破壊ちゃんは今度こそ回復薬を飲んだ。
体に温かいものが巡っていような感覚がする。
グラグラと不安定だった視界が定まり、軽い頭痛もスッキリした。
そこでバトンタッチというかのように、限界破壊ちゃんが俺に体を返還してくる。
「ふぅ…………はぁ、よし、これで大丈夫だ」
「貴様、その回復薬をどこで手に入れた」
「ただで情報を吐けとでも?」
俺の言葉に、騎士の中でも若そうな男が一人、俺に槍を突きつけて怒鳴った。
槍の先にはエレキ・モンキーと呼ばれる中級のエネミーが、臨戦態勢でいることから、戦う気満々である。
「貴様! 自分の立場が分かっているのか!」
「それとこれとは話が別だ」
「その通りだ。いいからお前は黙っていろ」
その若い騎士を止めたのは騎士団長さんだった。
流石に騎士団長さんに黙れと言われては、黙らざるを得ないのだろう。
渋々といった表情で一歩下がり、次の瞬間にはキッと俺のことを睨みつけてきたが無視をした。
「騎士団長さん、なんでそんなことを俺に聞くんだ?」
「わかりきったことを言う。それだけ高純度の回復薬、この国でも超一流の薬師が作ったものと同等と言っても過言ではない。その薬も、一度に限られた数しか生成できない。正直に言おう、そして我々は、その薬を今大量に求めている。ルートがあるのなら教えて欲しい」
「罪人なんだから、取り上げるくらいできるんじゃないのか?」
「嫌疑がかけられているに過ぎない。そんな状態でその選択はできまい」
あくまで嫌疑なのね。
しかしまぁ、この場に俺らしかいなかったのだし(ケンゾウたちはバックれたし)、この惨状を作ったのはまさしく俺たちだ。
ミドリの回復薬で少しでも罪が軽くなるなら、いや、それは早計か?
この回復薬はミドリの固有アビリティ『万能薬』と、魔道書で獲得したアビリティ『回復』が無ければ生成不可能だ。
『万能薬』はもちろんレアアビリティであり、『回復』の獲得条件を俺はあの魔道書以外に知らない。
かなりの高純度を簡単に生成できるし、その気になればもっと純度の高い回復薬の生成も可能だ。
この騎士さんたちが効果の高い回復薬を欲している理由もまだわからないし、ここは引っ張ってみるのが正解かな?
どうしてもと言う理由は俺にはないし、いざという時には切れる切り札を持っておこう。
「ルートはない。俺にはそれしか言えないな」
「そうか」
騎士さんはあっさりと引き下がったので拍子抜けする。
そこまで固執するほどの理由はないと言うわけか。
少し残念だがそれはそれで構わない。
金には困ってないし、面倒ごとは嫌だから回復薬を手放すつもりは今の所ないからな。
「あっさりと引き下がるんだな」
「まずは貴様の嫌疑を確かめてからだ。罪人となったその時には、それ相応の罰が課せられる。それに目的を加算するだけのことだ」
「俺らの嫌疑を確かめるって、どうする気だよ。拷問か?」
罪の意識はあるし、俺にできることなら、罪滅ぼろしをしようとは思っているが。
俺はともかく、俺以外の仲間にそんなことをしようとするのなら、俺も黙ってはいられない。
「そんなことをせずとも簡単に確かめる方法がある。王の側近には真偽を確かめるアビリティを持つ方がいる。その方にアビリティを使用して貰えばいいだけのこと」
真偽を確かめるアビリティ。そんなものもあるのか。
でもなんか嘘くさいと思ってしまうのは、日本人の悪い癖なのだろうか。
日本ならともかく、この世界は基本なんでもありのゲーム観に限りなく近いファンタジー世界だ。
そんなアビリティがあっても不思議ではない。
「もし、俺たちが犯人だったとしたら、罰はどのようなものだ」
「死刑だ」
断言だった。
日本でもそのあり方に賛否の声はあれど死刑制度は当然あった。
この世界でもあってしかるべきだろう。
しかし死刑か。
思っていた以上に重い罪だぞ。
器物破損に不当占拠、これで死刑か……成る程な、まだ日本人の感覚が残っていたと言うわけか。
一種のカルチャーショックを感じながら、自分の心音が高まっていることを理解する。
国単位の相手で、その相手に死刑を言い渡された時
果たして俺は仲間を守りながら切り抜けることができるのだろうか。
『いざとなれば、実力行使も視野に入れておきましょう』
そんなことになるのは正直嫌なんだが……くそぅ、詰んでる気がするのは気のせいか?
「おお、団長、いいところに。あやつらのせいでこれ以上先に進めんのです。どうにかしてください」
「む、これは確かに凄まじき圧だな。戦り合うならば骨が折れそうだが……どうなのだ?」
あぁ、着いたのか。
二人の『威圧』の効果を肌で感じる。
ミドリの『威圧』も強力であり、特にアオの『恐怖威圧』は威圧の上位アビリティだからそこらの圧の格が段違いだ。
騎士団長さんが俺に向かって視線を向けるので、俺はおとなしく手を上げて前へと踏み出した。
「二人とも、お疲れ。怪我がないようで良かった」
心からそう言うと、ふっと『威圧』が解け去り一つの青い線が一直線に俺に突っ込んでくる。
《ますたー!》
「お疲れ、アオ」
色々と心の中に不安や心配はあるけれど。
今だけはそのことは追いといて、ただ胸の中にいるとても愛らしい小さな家族を抱きしめたのだった。




