信じられないでしょうけど、ドワーフの騎士道です!
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参ったな。
「そこを動くな!」
「変なことはしやしないと、何度も言っているのに」
槍を突きつけられ俺たちを囲むようにジリジリとにじり寄ってくる。
シンコウ騎士団ね……王の名前とか知らないけど、ガイア国の王族の名前が出たからには本物と見ていいのだろう。
それに、こんな風に騎士の方々に囲まれるのはぶっちゃけ初めてじゃないからそんなに驚かない。
EGO時代にも、国内で騒ぎを起こせばペナルティとしてこんなことになる時もある。
まぁそん時は殲滅しても別にいいのだけど。
こいつらが出てくる時は、何故か俺たちプレイヤーとペナルティキャラクターは国内でも安全圏のセーフティーが解除されるからな。
おかげで『PPK』、いわゆる『ペナルティプレイヤーキラー』と言うのが流行った時期もあった。
ちょっと時間稼ぎをしているのには理由があるのだが、下手な動きをしたらそれこそ襲われかねない。
検索した限りじゃ襲われても別に死にゃあしないけど、その後の弁明が絶望的となる。
(くっそ、せめてベイビーズがいりゃあ)
アオが前線に出るってんで全員アオに戻したのが裏目に出たか。
《呼んだ?》
と思った瞬間、声が脳内に響いた。
そしてとっさに探知を自分にかけると、俺のパーカーの内側にベイビーズが一人忍び込んでいた。
(な、ベイビーズ? アオの奴、いつのまに)
《ボクのママはアオちゃんじゃなくてミドリだよ?》
ミドリのベイビーズ? そうか、ミドリもとりあえず『スライムボディ』でベイビーを生み出せるのか。
アオのベイビーのように俊敏性がある訳でもないし、ステータスも低いため諜報役としては使わないからすっかり忘れていた。
そうか、去り際にミドリが残して行ってくれたのか。
(ありがたい。俺が騎士さんたちの相手をするから、お前たちはさっきの箱かぶった奴と建造がいた場所に落ちてるはずのアイテムを『収納』で拾ってきてくれ。わかるか? こっそりとだぞ?)
とは言ったものの、ミドリのベイビーズでは難しいかもしれない。
『収納』の容量も並みだし、そもそもバレずにその場までたどり着けるか怪しい。
屋根に登らないといけないし、ここから結構距離があるからな。
《マスターはちょっと、ボクたちを見くびってるよ。ボクたちだって、マスターのエネミーなんだから。アオちゃんのベイビーズ達よりボク達の方が役に立つってことを教えてあげる》
そう言ったと思うと、パーカーの中に感じていた気配が一瞬で消え去った。
アオのベイビーズよりも素早い動作に、驚愕してしまう。
《ボクの中にも、ママが特別に色々と入れてくれたからね。『転移薬』だって入ってる》
成る程、賢い。
そうだ。ベイビーの言う通り、俺は少しミドリを見くびっていた。
ミドリだって、アオと同じ、みんなと同じ、『反逆者』なんだ。
《『収納』の容量はなんとかやりくりするから、気にしなくていいよ》
(ありがとう)
非常に助かる。
これで時間稼ぎで殺気立ち始めた騎士さん達を宥めにかかることができる。
「こちらに敵対の意思はない。武器は捨てる。だけど、大切な物だから、おたくらが回収してくれるとありがたい」
まずは向こうの言う通りにしよう。
両手を上にあげ腰にさしていた短剣とナイフ、懐に忍ばせていたナイフ合計27本全てを地面に落とす。
懐に忍ばせていたナイフはこう言う非常時の為のものでもあるのに、あえて外したのはここが『武器都市』だからだ。
今も疑いの目でこちらを見ているこいつらは、言わば武器専門のプロ。
俺程度の隠しスキルで騙せるような目をしてはいない。
「うむ。部下に手配させよう。安心するといい、もし貴様らの嫌疑が晴れることがあれば、武器は必ず返却すると誓おう。では、ご同行願おうか」
「オーケー、了解だ。だけどもう少し優しくしてくれよ。俺はこう見えて重傷負った怪我人なんだからさ」
張りつめている場の空気を和ませようと笑顔で告げたが、逆効果だっただろうか。
何を言っているんだこいつは、とでも言いたげな目でジロジロと俺を眺め、余計怪しまれてしまった。
「……とてもそうは見えんが」
「自分で治したんだよ。服だけボロボロで生身が無事なんて普通ありえないだろう。見てくれよこの右手の所なんて、貫通したんだぜ。ほら穴。千切れるかと思ったね」
さらりと口が滑った。
おっといかんいかん。そんな重傷を治せるような人間そうそういやしないだろうからなぁ。
いや、この世界だとそうでもないのか?
まぁ、冗談の類として流されるだろ。
「……ほう、貴様は中々腕のいい治癒士なのだな」
「さて、それはどうでしょうね」
適当にはぐらかしておこう。
にしてもこの人たち、アオが開けた穴から結界内に入り込んできたんだよな。
あたりの騎士達も息切れをしたり、膝に手を置いて肩で息をしている者もいると。
代表して俺と話をしている騎士さんも、よく見ると顔が青ざめている。
体調が悪そうだ。ステータスが下がってるんだろうなぁ。
…………うん、そうだ。
「なあ騎士さん。この結界は、俺の仲間が発動しているアビリティなんだけど。今その本人がだいぶ危険な状態らしいんだ」
「……ふむ、それで?」
「俺に診させてはもらえないか? 大切な仲間なんだ」
どうせ俺を治癒士と勘違いしてくれるのなら好都合だ。
それを少し利用させてもらおう。
うまくみんなと合流できれば、それ以上に良いことはない。
「我々のメリットは?」
「この結界の効果であるステータス減少がなくなる。気性は荒い方だが、俺を人質に取って入れば仲間は絶対に暴れない」
「その言葉の根拠は」
まぁそうなるよな。
根拠、根拠ねぇ。
「結界が消える理由は、維持していればいるだけ体力が奪われるアビリティだからだ。これだけの効果を発揮する領域だ、それぐらいのデメリットはある。今は俺が言った危険な状態のせいで解除できない状態にいる。自分が不利になるだけだ、治ればすぐに解除するだろう。暴れない根拠は、仲間は多対一がウリで、そのデメリットで辺りを巻き込む攻撃しかできないんだ。暴れれば人質になっている俺まで巻き込むと考えれば大人しくなる」
半分以上本当のことの話の中に、ほんの少しの嘘を混ぜ込む。
維持することに体力の消費はないが、発動中は自分のステータスも下がるので必然的に『HP』も『100になるまで奪われる』。
危険な状態で解除できないのも事実だし、エネミーには効果がないからこの状況だと自分が不利になるだけだし、治ればすぐに解除するだろうさ。
多対一がウリというのは、真っ赤な嘘。対プレイヤー戦ならそれでも輝けるが、真骨頂はやはり一対一だからな。だが多対一を謳っとくことで俺自身も被害を被る可能性を示唆し、仲間であることをを強調し攻撃されない理由とした。
辺りを巻き込むのは一応本当。『諸刃ノ剣』は手加減という言葉を知らないからなぁ。
嘘をついてでも、危険が少ないことを相手に悟らせ、少しでも合流できる可能性を増やしたい。
騎士さんは顎に手をやりしばらく熟考してから、ゆっくりと口を開いた。
「よかろう」
うっし!
心の中でガッツポーズを取る。
「ただし、貴様の言い分をそのまま鵜呑みにするわけにもいかない。危険かどうかの判断はこちらでさせてもらう。我々が危険であると判断したら、情け容赦は一切かけない。その時は今の言葉の責任として、貴様も利用させてもらう。そして、応急的な措置が済み次第、即座に王城へと同行してもらう」
「ああ、それで構わない。助かる」
「ふん。重傷人がいるのであれば致し方あるまい。それを見捨てるなど、それは騎士道云々の前に、人間としての問題だ」
「ぶはっ」
騎士さんの思いもよらない一言につい吹き出してしまった。
仏頂面の騎士さんは、俺に笑われたことで眉間にしわを寄せる。
俺を囲んでいた人たちも揃って俺をにらんだ。
「いや、悪い、悪気はないんだ。だって、騎士のあんたがそれを言っていいのかねってさ」
「我は騎士であることを言い訳に人間の心を捨てる者を、騎士とは思えん。我らは騎士である前に人間なのだ。我が主人に尽くし、時には厳しくもしよう、何事にも従順であり主人に対し何一つ口を出さず感情も見せず返事をするだけなど、ただの騎士の姿をした操り人形ではないか」
あたりの騎士達もニヤリと笑い、その言葉に同意する。
その小さなおっさん達の粋な姿に、感動すら覚えた。
ドワーフとは、ここまで漢な騎士に育つのか。
俺は、主人至上主義のような方々を批判するつもりはないし、本来ならそれが正しいのかもしれないとすら思っているけれど。
もし仲間が欲しいとなったのなら、こんな人たちが欲しいと思う。
どんな言葉を重ねる人よりも、よっぽど信頼ができる。
「あんた達みたいな考え方の騎士が、果たして何人いるかな」
「少数だろうさ。こんなことを他国で言えば斬首ものだ。む、見つけたか。ぐずぐずするな、行くぞ、言っておくが、変な気は起こすなよ?」
「そんなつもりはないから。というか、罪人予備軍とこんなに会話弾ませちゃっていいのかね騎士さん?」
少なくとも、俺はこの国の一部を著しく破損させた。
国民に直接的な被害はなくとも、間接的な被害を被らせてしまった。
恨まれ、嫌われても文句を言えない立場だ。
なのに、この人は、そんな態度を見せずに仏頂面ではあるが俺と普通に会話をしている。
これは異常なことではないだろうか。
「弾ませてなどいない。いつでも貴様の首が飛ばせるように黙って待機しているのが退屈であったから、暇つぶしに会話を続けたに過ぎない。そも、先に話しかけてきたのはそちらだろう」
「そうかい」
首を飛ばせるように待機してたのか。それは怖いな。
この結界内だと余裕で飛びそうなのでシャレにならない。
まぁ、本当にいざって時はどうとでもなるのだけど。
「団長、報告です!」
「言え」
「男の言う通り、その男の言う仲間と思われる女性が一人、ボロボロでかなり辛そうにしています。しかし、その女性を守る二体のスライムによって我々の足が阻まれております」
「なに? スライムだと?」
「はい、非常に濃密な殺気を放っており、近づくことができません。信じられません、とてもスライムとは思えないほどの強者の圧、その本気度から、女性のテイムエネミーではないかと推測されます」
俺には聞こえないようにひそひそ声で会話してるとこ悪いんだけど、おたくらの声大きすぎて丸聞こえなんですけどー。
アオ、ミドリよ。
ここまで言われるほどになったとは、成長したな。
その成長が嬉しくもあり、少し寂しいよ。
(『通信』っと。おーい、アオ〜、ミドリ〜聞こえるか?)
《はーい。あ、ベイビーちゃんから報告きたよ。全部回収し終えたって。基本的に宝石みたいな石が主だった。数個、変なものも落ちてたけど、危険はなさそうだからそのまま回収したみたい》
(ご苦労さん。アオは?)
《アオちゃんは今周りを牽制するのに忙しいから、ボクが聞こえなくしてる。マスターの声聞いたら、アオちゃん爆発しちゃうかもしれないから》
アオが爆発?
《こっちの話こっちの話。で、どうしたの? こっちは特に異常はないけど、ミルクルちゃんの様子?》
(いや、今から俺がそっちに行くから、取り敢えず報告をと思ってな。あとアオにも、牽制はほどほどにって言っといてくれ。乱暴はしないと思うし、もししてきたらその時は容赦なくぶっ飛ばしていいから)
《マスターが来れるの? なら少しは安心できるね。アオちゃんがますたーますたーってうるさくて。多分アビリティのデメリットも作用してると思うから、なるべく早くきてくれるとありがたいかな》
了解ッと。
ここからさほど距離はないが、その間にできることはしておこう。
『通信』を切り、ベイビーズを呼び戻す。
ミドリが診てくれているから、もはや俺が手を出す余地はないのかもしれないがな。
ミドリ特製の回復薬とこちらもミドリ特製の鎮静薬、その他の材料をベイビーの『収納』からこっそりとパーカーのポケット内に出してもらい、それを丁寧に『合成』していく。
「ん? どうした」
「いや、なんでも」
パーカーのポケットに両手を突っ込んだところで、そこまで不思議がられることもあるまい。
思惑通り、少し反応した騎士さんだったが、すぐに前に向き直った。
あとは、アオの中にしまってある『アイツ』も必要になるかもな。
「ぐずぐずするな」
「はいはい、っと」
ここはおとなしく、お縄に着いときますか。




