信じられないでしょうけど、味わう後悔です!
(ケンゾウ? おい! まて! 駒ってなんだよ! 逃げ)
「『…………ぐっ……サポート、モードを、終了、しま、す』んじゃ、ぐ、……あ、あ……!」
ふとした瞬間に思ったように口が動く。
限界破壊から体を返還されたのだと気付いてから、身体中のありとあらゆる箇所から激痛の大絶叫がこだました。
全身といって差し支えのないであろう隙の無さに、立っていられずに地面を舐め、地面にぶつかったことで体がビリビリと痺れる。
「……あ、足が……そうか、折れてん、だっけか……」
限界破壊ちゃんめ、この足であの動きしてたのかよ……
『逃亡』まで発動してたからな。『サポートモード』だっけか。
ほんと、やってくれたよ。
『何かご不満でも?』
「ありがとう……限界破壊」
『今のご自分の状況を踏まえてその感想が出るとは驚きです。痛みに弱すぎるせいでとうとう痛みが快楽に変わる変態的趣向に目覚めましたか?』
「そこまで言う! いや、違うからね。ただ、俺を助けてくれたことの礼というか。その、だな」
お前、本来受けるはずだった俺の痛み、肩代わりしてたろ。
『何を言っているのか理解できませんね。さっぱりです』
「俺、さっきまで足が痛いこと忘れてたんだ。腕がめちゃくちゃ痛かった記憶しかない。だけど俺は足を怪我していたはずなんだ。しかも、今この体に戻って、さっきとは比べ物にならないぐらい腕が痛いって感じる。一部なんて言葉じゃ足りないほど、お前が請け負ってくれてたんだとわかる。こんな状態で、お前は戦ってくれてたんだろ? 俺のために」
『それでお礼ですか? やはり理解不能です。私がやったことですよ?』
だから、それは俺のためだろ?
『自惚れないでください』
ツンデレか。
『サポートモード、もう一回ほど行っときます?』
「ごめんなさい」
素直に謝った。
声のトーンがいつも通りのはずなのにどこか恐怖を覚えた。
「それと、ごめん、な、限界破壊」
『主語がありませんね。なんの謝罪かわかりません。それでは許すこともできません』
「ああ、つまり」
『許しません』
「端から許す気ないんじゃないの!」
あ、大声出すと、ひび、く。
熱い……指先の感覚がない。
なんだかボーっとするし、熱っぽい。
腕や足がめちゃくちゃ熱を持ってる。
「痛っ……あー、回復薬が飲めない」
『ミドリに通信を飛ばしました。すぐに来ますよ』
「ありがたい」
『…………』
うん? どした限界破壊。
『なんの謝罪か、聞いていません』
「いや、だってお前が言わせてくれな」
『はい?』
「いえ……ただ、お前に負担を強いてしまって、申し訳ないなと。痛かったろ? その、謝罪なんだけど」
『私が感じた痛みはバカマスターの体が受けた痛みにすぎません、事実、肉体の返還後、痛みは全てバカマスターが受けています。今の私には痛みはありません。些細なことです」
それを些細なこととして片付けるなんてできないだろ。
結局俺が受ける痛みなのだとしてもだ。
「俺が痛みを負うのは当然だよ。俺が悪いんだから、それ相応の報いは受けなきゃな。だけど、限界破壊ちゃんまで、苦しむ必要はないだろうってことだ」
『…………先のサポートモードにより、アビリティ『混沌』のレベルを89頂戴しました。残り『混沌』のレベルは10です』
無視ですか。
まぁ否定しないってことは俺の考えは当たってたってことだ。
謝罪は受け入れてくれたのだろうか。
まぁ聞いても教えてはくれないんだろうな。
あえてそこには突っ込まず、話にのることにする。
「へー、あれのレベル使ったのかー…………って、89ぅ! あ、い、て……」
『バカですか?』
「バカはお前だ、つっ、あのアビリティのレベルを食ったのか!』
『はい』
「なにやってんだよ! 明らかにヤベー匂いプンプンさせてる爆弾じゃねえか! あんなもんのレベル食ってなんかあったらどうすんだよ!」
あのジャックが残した呪いだぞ?
検索できず、PKK専用アビリティをアイテムとかの助けなくPKのあいつが使ったわけのわからんアビリティ。
そりゃ、 腹に穴が空いてるのは正直精神衛生上良くないが。
今の所実害がないのだから、わざわざそんな危ないことをしなくてもいいじゃないか。
何か変に手を出して、お前に何かあったらそれこそ困る。
『それが呪詛であれ祝福であれ、バカマスターのアビリティ欄にその名前が存在する限り、例外はなく私のエネルギーです。レベル上限を無視した明らかに危険なアビリティでしたので、即刻対処しなければならないと判断しました。今実害がないからいいのではないのです。いざ何か起きてしまってからでは遅いのです。『検索』できず詳細がつかめないため、アビリティ効果も未知ですが、例え私自身に何か制限がかかっても第二の力で破壊するので問題はありません』
「それは、そう、かもだけど」
なんか、意固地になってないか?
それに、アビリティ欄にあるのは全部ってことは、あの文字化けしたアビリティも食えるのか?
明らかに特別よりランク高そうだけど。
『あの男はどうするので?』
「露骨な話題転換どうもありがとう。怖いから突っ込まないけど。そうだな。今から追いかけたとして、どうにかなると思うか?」
『バカマスターの体からして、無理でしょう。最後に箱の方が使用したアビリティの詳細をお願いします』
えーっと、確か『ロスト』って言ってたよな。
さっきのド派手なエフェクトは初めて見たけど、多分俺の知ってる『消失』で合ってるだろ。
「いてて……『消失』。EGOでは珍しい、『転移系』アビリティだ。発現方法は不明。転移の仕方は、『転移』というより、『引き寄せ』に近い。等価交換というか、自分たちの所持するゴールドと等価のアイテムをこちらに引き寄せて、そのアイテムが置いてあった場所に転移する。アイテムはホーム、ギルド内に保管しておくのが一般的。自分の全財産と同じ価値のものをわざわざ置いて行かなきゃいけないから、あんまり使われない。デスペナの方が軽いという意見もあるしな。所持金を限界まで減らしてデメリットをなくすって方法で使うやつもいる」
しかし、そのアビリティを使う時って大体逃げる時で、その場合戦いが前提なのだが。
所持金を少なくすればそのぶん戦闘が不利になることはもちろん、もっと言えばEGOの暗黙の了解で、そうゆう小細工でチマチマやろうとするのはあまり褒められた行為じゃない。
目的が違くてもそう取られることが多く、使用者はそんなにいなかった覚えがある。
《マスター!》
『どうやら来たようですね』
「ミドリ!」
肩と首に内に響く痺れを感じながら首を動かし、こちらにすっ飛んでくるミドリの姿を捉えた。
外傷は見当たらない。どうやら無事にすんだみたいだな。
「ミドリ、良かった。無事だったか」
《マスターは全く無事じゃないけどね! 限界破壊ちゃんから聞いたよ! また、マスターは自分勝手に自分の命を使ったって! 何考えてるの!》
ミドリを心配したのだが、ミドリもまた俺のことを心配してくれていたらしい。
それが、強く脳内に響く言葉の強さで察することができた。
「わ、悪、かった」
《言いたいことが山ほどあるけど、今はそんなこと言ってられないから。でも、あとでちゃんと話があるから。『万能薬』》
「あぁ、んぐ」
ミドリはそう言い残すと回復薬を生成し瓶を俺の口に押しこんで俺に飲ませた。
いつもより苦くてドロっとした食感が口の中に広がり何か気になったがそのまま飲み干す。
「げほっ、けほっ」
《おかしいな、マスターの腕、こんなの酷すぎる。一体何をされたらこんなことになるの!》
「いや、それは味方の」
『……スリープモードに移行します』
「おい逃げんな」
俺の腕を凝視してゴゴゴゴゴ状態になっているミドリさんの憤怒を俺一人に背負わせる気か。
お願いだ。お前も一緒に弁明……限界破壊ちゃん聞いてる? おーい、限界破壊ちゃーん。
《マスター……の、バカ》
ミドリ?
ミドリが抑えるような、それでも抑えきれないという震える声を発した。
《ボクは、ボクたちは、マスターが心配しないように、悲しまないように、頑張って、頑張って、頑張って、怖くても気を張って、マスターが傷つかないためにけがを負わないように気をつけて、絶対に死なないでマスターのところに帰るって、そう、頑張ってるのに》
「…………ミドリ」
《どうしてマスターは、そうやって、自分から傷つこうとするんだ……マスターが僕たちを心配してくれること以上に、ボクたちだって、マスターのことが死ぬほど心配なのに。死んじゃ、嫌なんだよ……寂しくて、ボクたちも死んじゃう。もう、あんなのは嫌だよ、ボク、心臓もたないよ……あんなことがもう一度あったら、ボク、耐えきれない……》
吐露された気丈に振る舞っていたミドリの本音が俺の心を深くまで抉った。
今更ながらに、自分のやったことがとんでもないことであることに気がついた、自分の馬鹿さ加減に苛立ちを通り越して怒りを覚える。
アオやミドリが三ヶ月も寝込んでみろ。目を開く保証もなく毎日毎日祈るような日々。
大好きな家族に、もう二度と会えないかもしれないという不安、悲しみ、精神は徐々に徐々にすり減っていく。
もし俺だったら、怒りに狂い、憎しみに狂い、復讐に走り、狂うことで逃げ出してしまうかもしれない。
もしかしたら、三人も限界が近かったのかもしれない。
狂う限界のところで、俺のために、必死で耐えてくれていたのかもしれない。
俺が目覚めた後も、俺に気を使ってくれて、なにも、言わなかった。
本当に今更だ。
もう取り返しがつかないかもしれない。
また、皆んなの心に傷をつけてしまった。
間違えた。どうしようもなく間違えた。
自分のことしか考えていなかった。目の前のことだけじゃなくて、周りをちゃんと見るべきだった。
やってしまったという後悔が、容赦無く俺を殴りつける。
「……ごめん、俺、は」
《…………一通りの治療は済んだ。でも、骨は完璧に繋がってないし、筋肉もズタズタ。今のボクは『実験室』が使えないから、完璧な治療はできないし、マスターはここで待ってて。ボク、行かなきゃ》
「行くって、何処に」
《……マスターより、ミルクちゃんの方が危険なんだ。ミルクちゃんは、なんて言うか、『ものすごく不安定』って言うのかな。あの武器からは、ミルクちゃんの圧縮されて凝縮されて小さく小さく押しとどめていた負の感情が爆発して一気に噴き出しているような。そんな状態。アオちゃん一人で、大丈夫かわからないから》
ミル、クルさん?
まさか、『悪殺』でおかしくなったのは、俺のせい?
「ま、待て! ミルクルさんのアビリティは『エネミーには効果がない』。アオと戦っているなら、わざわざプレイヤーである自分が不利になる『平和主義者の領域』は解除する筈だ」
俺の疑問にミドリはふるふると体を横に振った。
《戦ってるんじゃないんだ。ミルクちゃんが倒れちゃった。意識がないのにアビリティが消えないし、ハンマーみたいな武器も消えない。どころか、武器はどんどん黒く濁っていって、ミルクちゃんは何かを吸い取られるみたいに苦しんでる》
「俺も行く」
《絶対安静!》
うぐっ。
ミドリの怒鳴り声を聞いて怯んでしまう。
《『回復』のおかげで少しずつ回復もしてるみたいだし、少し経ったら歩けるようになるよ。本当はもう少しつきっきりでやってあげたいんだけど、ミルクちゃんも診ないとだから》
そ……か……そうだよな。
「ミルクルさん、大丈夫か?」
《わかんない。わかんないから、正直ものすごく怖い》
「わかった。俺のことはいいから、早くいってやってくれ」
『バカマスター! 敵意ある複数の人間がこちらに近づいてきています!』
な、んだそりゃ。
もっと詳しく話を聞こうとして、すぐに中断させられる。
「いたぞぉ!」
ドタドタと言う複数人の荒い足音が聞こえたと思うと、全身を鎧で包んだ体格が良く小柄な兵たちが俺たちに近づいてきた。
『探知』からすると、6人ほどいるが、まだ囲まれちゃいない。
(ミドリ! ここはいい、早くミルクルさんのところに!)
《で、でも》
(元来た道を帰れば大丈夫だ! 兵はそこまで来ていない。俺は一人でどうにかできるから、ミルクルさんを、頼む!)
《〜〜〜〜ッ!? わ、わかった! でもなんかあったら承知しないからね!》
それは怖い。
ミドリが走り去って行く姿を横目に見て、それを兵たちの目から遮るように、立ち上がる。
「ぐ、お、お、お、お」
『いざとなれば、まだサポートモードを行います。これは強制です』
わかってるさ。『回復』とミドリの治療のおかげでだいぶマシにはなった。
完璧じゃないとはいえ、骨はくっついた。
めちゃくちゃ痛いけど、立てないことはないし、なにより、三人に、いや、四人に与えてしまった痛みを思えば
「泣き言なんか、言ってられないよな」
ぼそりと呟いて自分を鼓舞する。
立ち上がったことで警戒心をあらわにする兵の方々に、脂汗の浮かぶ笑みで問いかけた。
「やぁ、皆さん。なにか、俺に、御用かな?」
「我らはガイア国王ラシルトン・フェルベール様直属の騎士団『神鉱騎士団』である! 国内での破壊行為、数々の器物破損、住居の不当占拠、その他多くの罪の嫌疑が貴様にはかけられている! 直ちに武器を捨て、投降せよ!」
あれだけの人を巻き込んでこんなことをしたんだ。
そりゃ当然こうなるか。
ラノベとか漫画だと、よくある展開だ。王道ってやつだな。
まぁ、完全に俺悪者扱いなんだけどね。
『どうしますかバカマスター。殲滅しますか?』
いやバカはお前だ。気が立ってるのは俺のせいだから謝るけど、ちょっと冷静になってくれ。
さて、これはどうするのが最善だろうか。
脳内で切り抜ける展開を巡らせた。




