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信じられないでしょうけど、サポートモードと残された言葉です!

「…………『限界破壊』」

「ベルゥゥゥウ!!」


ちくしょうちくしょうちくしょうふざけんな!

いくら力を入れようとしても逆に全身から力が抜けていく。

今の自分がまともなのかまともではないのか、それすら理解できないほどに意識がグラつく。

正常だ、正常のはずだ。

だが、アビリティをキャンセルしようとしてもできない。

いくら念じてもアビリティが消える感覚がこないんだ。


「『ぐっ!』」

「やめろ! 俺ぁもういいから!」


ベルがうめき声をあげた。

ついに俺の武器たちがベルに到達してしまったのだろうか。

いつものベルならともかく、今のこいつじゃとても耐えられるもんじゃない。

俺だけなら、死んでもよかった、だけど!


「おい聞こえてんのかクソッタレぇ! お前の駒が一人消えんぞ! 今すぐアビリティを止めやがれえ!」


今も笑いながら俺を見ているであろうあいつに向かって叫ぶ。

正気になったことでうっすらと思い出してきた。

これが俺をこっち側にしたあいつの仕業であるのなら、あいつに止めさせる。

あいつは俺を監視しているはずだ。

あいつにとって俺はまだ利用できる駒のはず。

ベルを殺すぐらいならと、最後にあいつの裏をかいて嘲笑って死んでやろうと思ったが、ベルが死ぬくらいなら


『くだらん。我の言いなりにならん玩具などもはや不要。利用価値もないわ』

「チッ! ゲス野郎が」


自分で勝手に利用しておいて、都合が悪くなったらあっさりと切り捨てやがった。

こんな奴のために、ユベルと戦わされていたと思うと、それだけで脳みそが沸騰するほどの怒りを覚える。


『しかし、まさか死神の子と同士討ちとは運がいい。愚鈍な玩具でも最後に我の役に立てたのだ。光栄に思うのだな』


ふざけろ! 誰が、てめえなんぞに!

殺す。絶対に殺してやる!


『ふん。無様に命乞いをし、我に忠誠を誓うというのならチャンスをやったものを。もうよいわ。ここで果てろ』

「『それはさせませんよ』」

「ベル!」

「『ハッキング』」


俺とあいつの会話に横槍を入れたのは、俺を庇いその身で盾となったベルだった。

ベルがアビリティを発動した瞬間、俺とあいつの思念の繋がりが小刻みに歪み始める。


『あ、ぐ、こ、こ、の』

「ベル! お前、良かった、無事で」

「『残念ながら、貴方の好きにはさせません』」

「べ、ベル?」


辺りを見渡せば、大小様々な武器が軒並み地面に転がっていた。

そしてベルの顔を覗き込み、息を飲む。

感情を感じさせない無表情、今まで向けられたことのない冷ややかな視線で、俺を見ていたからだ。


「お、おい、ベル。お前、平気なのか……? それに、その喋り方」

「『黙りなさい。いかなる理由があろうとも、私たちのバカマスターを傷つけようとした貴方を私は絶対に許しません。バカマスターが許しても、です』」


そう言ってベルは俺の肩を押して少し距離を取り、俺の額に手を当てる。


「『世の理という名の鎖に縛られた小さき人の魂よ。解き放たれん。限られた世界は今を持って終焉を告げ』」

『我が玩具を(うば)うか死神の子よ! 我の許しなく我が所有物に触れようなど万死に値する』

「や、やめ! 『作品られ」

「『リミッター解除』」


勝手に体と口が動きアビリティ発生を行おうとして、失敗に終わった。

俺の視界がブレたと思うと視界がぐるんぐるんと回転、浮遊感を感じながら背中を打ち付けたような痛みが走る。

意味がわからず混乱する俺は、地面に数回バウンドし、右頬に鋭い痛みが走ったことで、ベルにぶん殴られぶっ飛ばされたのだということを理解した。


「『おや、バカマスター。痛いですか? そうでしょうね。ご自分の腕の筋肉がどうなっているか事細かにご説明いたしましょうか?』」


なんだ、今のベルは。

震える肉体に鞭を打ち何とか顔を上げると、ベルは無表情のまま独り言をつぶやき、しきりに右腕をつついたり抓ったりしている。

先ほどの俺が知っているベルとは、似ても似つかない。まさに豹変だ。

まるで俺と同じように、誰かに操られてるみたいな。


「『…………謝っても許しませんよ。私は決して貴方を許したわけではありません。あのままでは貴方が死亡していたため仕方なく力を貸しただけです。本来なら、たとえそうであっても絶対に力を貸すつもりはありませんでしたが、どうしても償いがしたいとのことでしたので、仕方なくこういう形を取らせていただきました』」

『ええい独り言をブツブツと!』

「あ、がはっ、『しゅう」

「『黙れと言っているのが聞こえませんか?』」


再び拳を叩き込まれる。

今度はアッパーカット。一切の迷いなし。容赦無く繰り出された拳。

上の歯と下の歯が激突し、舌を噛み、顎が砕け、我ながらよく生きてるなと思うほど苛烈な一撃だった。

体が一瞬宙に浮き、重力に引かれ再び背中を打ち付ける。


「『『ダメージリミッター』。アビリティ『手加減』を私なりにアレンジした固有アビリティです。バカマスターに感謝することですね。曲がりなりにも私はバカマスターの配下なので、貴方を殺すなという命令を遵守しなければなりません。そうでなければ貴方をとっくに50回ほど殺しています。デメリットはありますが、ご安心を、貴方の代わりにバカマスターが死ぬほど苦しんでるので。因みに、今のでマスターの左腕も壊れました』」


そう言ってひらひらと左腕を振ってみせるベル。

いや、壊れたとか言ってる割には、平気そうなんだけど。無表情だし。


「『私は痛みを感じませんので。おや、バカマスター、こんなに汗を流してどうしました? 左腕? 痒いんですか? 私に任せてください。どこが痒いですか? ここですか? ここですか? それとも全部ですか? その反応、つまり全部ってことですね? かしこまりました。そんなに喜んでいただけると私も嬉しいです』」


なぜだか知らないが、ゾッとした。

ベルは無表情で、蚊にさされたように腕をゆっくりと掻いている。

その姿を見て、背筋が凍って寒くて寒くて仕方がない。


「おあえはえるあ」

「『黙れ。三度目です』」


お前はベルじゃないな。

そう言おうとして、また視界がブレる。

しかし俺の体もやられっぱなしでは終わらない。

もはやどうなっているのか、理解したくなくて思考放棄しかけてる俺を無視し、俺の体は勝手に動く。


「『顎を砕かれてよく口を動かす気になれるものです』」

「『おっうおう(ロックオン)』がはっ!」

「『本当に聞き分けがありませんね。バカマスターの命令もありますし、そろそろ気絶してもらいましょうか。まぁ仕方がありません。バカマスターが苦しむことになりますが、相手が攻撃してくるのでは仕方がありません。正当防衛です』」


そしてまた殴られる。

今度は一発で終わらなかった。

何度も何度もコンボを刻むかのようにその拳が振るわれる。


もう喋らせるつもりもないようだ。

殴られ、殴られ、ぶっ飛ばされそうになり胸倉を掴み引き戻され地面に叩きつけるように殴られ、また殴られ、地面から持ち上げられてまた殴られる。

何度もそれを繰り返す。

喋るどころか、もはや体も自由に動かない。言葉も出せない。

これだけ殴られて、それでも俺のHPが尽きてないところを見ると、本当にさっきのアビリティ効果が発動しているんだな。


ベル。今お前の体を使ってるやつ、本当にお前のこと好きなんだな。

怒らせんじゃねえよマジで怖いんだから。

お前にこんだけ怖いほど怒れるって、お前のことそれだけ大好きってことだろ?

俺のこと、殺したいんだってよ。

そりゃそうだ。その気がなくたって、俺がお前を死に追いやろうとしたのは事実だ。

俺が憎いだろうさ。

俺を殺すななんて酷な命令しないでよ、好きにさせてやれよ。

なぁ、頼む。殺してくれよ。


俺が殺されないってことを考慮したあいつが、今度こそ俺を支配しようとしているのがわかる。

現実の俺の体が瀕死状態だからか、抵抗力も無いに等しい。

このままじゃ、今度こそ完全にあいつに支配されちまう。

そうなっちまったら、今度こそ俺ぁ何をしでかすかわかったもんじゃない。

そんなのは嫌だ。


それに、何より、もう、お前にも、皆んなにも、合わせる顔がねぇ。


「『それは聞けない相談だ、だそうです。何を格好つけているのですか。ヤンデレ限界破壊ちゃんぎゃあーーーーなどという台詞の後では格好もつきませんよ。ほらほら、ここですか? ここがいいんですか?』」


って、おいおいベル。俺の言葉、聞こえてんのか?


「『バカマスターはちゃんと意識ありますからね。私を通じて聴いてますよ。今も、うでぇー、うでがなくなるぅ! ひぃーーーー! と元気よく叫んでいます』」


ちょっ! やめたげて!

拷問じゃん!

マジでベル大丈夫なのかよ!

ベルのライフはもうゼロよ!


「『……実際に殴られてるご自分の心配をしたらいかがですか?』」


いや、もう意識飛ぶから! 多分何もしなくても直ぐに飛ぶくらいにはもううっすらとしてるから!


「『そういう話では……おや?』」


あ? なんだ?

殴られる感覚すら無くなってきていよいよゴートゥーヘブンかと思ったところで、三度視界が切り替わる。

またぶっ飛ばされたのかと思ったが、それにしては痛みが伴わないし、変な感じだ。


「…………ドーモ」


なっ!?

俺のすぐ近くから、聞き覚えのある声が聞こえた。

それにより、今俺がそいつに確保されているということを自覚する。


--- --- --- ---


驚きました。

『探知』を発動していたにかかわらず、それを掻い潜って気づかれることなくこの場に現れ一瞬で私からこれだけの距離を取られるとは。

それも、攻撃対象であったケンゾウを回収するというおまけ付きで。


「『どちら様で…………いえ、貴方は』」


いったい誰だと思い、彼女が移動した屋根の上に視線を送りました。

真四角の立方体ですっぽりと頭を覆い、視界を確保するために開けられたであろうまん丸の穴二つに、呼吸穴? 用なのか口の付近に逆三角形に開けられた穴。


その姿には、見覚えがあります。


(お、おい! 誰だお前コラ! ケンゾウを返せ!)

「『あれだけボコボコにしておいて返せとはよくもまぁ言えたものですね』」

(え? いや、やったのは限界破壊ちゃんで、ちょっ! 限界破壊ちゃんあんま身動きしないでおねが)

「『うるさいですよ?』」

(ああああああああああ!!)

「……? 私何か言いました?」

「『いえ、独り言です。唐突ですが、貴方、私のことを覚えていますか?』」


(オレオレ詐欺みてーいやぁーーーーーー!)


バカマスター。いい加減黙った方が身のためだと思いますよ?


(俺の体だと思ってう、お、お、お、お、わかった、わかった! 黙る!黙るから!)

「『賢明ですね。それで、どうですか?』」

「覚えてます。デキウス以来っすね。あの時はドーモお世話しました」

「『いえいえこちらこそ』」


またバカマスターが「こいつらこっわ」などと煩かったので黙らせます。

明らかにこちらを敵視していますね。

どうしたものでしょうか。


「まあいいっす。んじゃ、帰るっすよケンゾウさん」

「『その男は置いて行っていただきます。心配せずとも命まではとりません』」

「あれだけやっておいて、よく言えるっすね。あのままでは間違いなくケンゾウさんは死んでました」

「『絶対にありえません。信用するしないはどうでもいいですが。それに、貴方がその男を助ける理由もわかりません。何故ですか』」

「さるお方から報告をもらってすっ飛んできたんすよ。我が子が襲われ死にかけてる、助けてやってくれって」


助けてやってくれ、ですか。

顔も名前も存じませんが、やってくれたものですね。


「『それはおかしいですね。貴方にその報告をした方は先程、その男に死ねと言っておりましたが?』」

「それこそおかしな話っす。ならばなぜ私に連絡が来たと」

「お、おうおう、あ」

「はい?」

「『本当だ、とおっしゃっております』」


顎の骨が砕けているのに、よく言葉をひねり出そうとするものです。

それに、体はボロボロでほぼ支配されている状況で自分の伝えたい言葉を出せることにも驚きです。

バカマスターも大概ですが、実にしぶといですね。

そのくせ、実にあっさりと死ぬ。

大か小。本当に加減の知らない方々です。


「はぁ、確認してる時間もなさそうなので、取り敢えず私たちはここいらでドロンさせて頂くっす」

「『逃げるのですか? 私一人ぐらいは、殺しておいた方が後々楽かもしれませんよ?』」

「安い挑発には乗ってあげられないっす。正直、ナンバーズを拾ってきた過程で、こちらもそれなりにバカにならないダメージを食らったもので、余裕はないんすよね」

「『逃すとお思いで?』」

「逃げるっすよ。『消失(ロスト)』」


箱を被った人間がアビリティを発動し、空中でピアノを弾くかのような仕草をすると、箱人間とケンゾウの二人の足元に輝く魔法陣が浮かびます。

……素晴らしい力の奔流。目には見えませんが、ビリビリとした空気を肌で感じます。

その力は物理的衝撃を持って旋風巻き起こし始めました。この中にむやみに飛び込むのは下策でしょう。さて。


「『これは、全力でも、ギリギリですね』」


ただでさえこのモードで通常の数倍、レベルを消費してしまっているのに、全力で動いたら、肉体と精神の二重の意味でバカマスターがそれこそどうなるかわかったものではありません。


(待て! 限界破壊! 頼む! レベルは食っていいからケンゾウを)

「『もう手遅れです』」

(体のことは気にすんな! 絶対に耐える、だから)

(聞け……ベル)


おや、あの男からの通信ですか。

体が支配されたとしても、まだ精神までは支配しきれていないのでしょう。

声から判断して、半分意識をなくしていますね。

当然です。本来なら、とっくに意識をなくしていてもおかしくないダメージを与えました。

そんな中、執念で伝えようとしている言葉。

聞いて損はないでしょう。


(俺ぁ、大丈夫だ……自力でなんとかしてみせる。お前はまず自分のことを考えろ。お前も、間違いなく、俺と同じ状況だ)

「『同じ状況……』」

(ベル……騙されるな……あいつらは、敵じゃないだけで『味方じゃない』。……よく聞け、『(あいつら)』にとって『俺たち(プレイヤー)』は、『駒』だ。一つの、自陣のゲーム版に立つ、駒……覚えとけ)


その言葉を言い残して、二人の姿は陽炎のように一瞬ぼやけ揺らめき、次の瞬間には跡形もなく消えていました。



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