信じられないでしょうけど、償いの誓いです!
俺とケンゾウの戦いはなんというか、俺が完全に防戦一方の状態だ。
俺の素の攻撃はケンゾウには有効打にならないし、完全非戦闘職であるケンゾウの攻撃は、必然的にパターン分けできるしレパートリーも多くないから対処もやりやすい。
基本的に戦うことを前提としたアバター構成じゃないんだから当然だが、ケンゾウのステータスパラメーターも特別これといって何かに秀でているということもないのだが、その分ケンゾウには強力な武器を作り多数保有していると言う強みがある。
そんで持って状況も悪かった。
何故かミルクルさんの領域は消えないし(どんだけ広く展開したのかミルクルさんと特式はもう目の届く範囲にはいない)、そのせいで俺のDEFは活かせず、『限界破壊』が使用できないと言うオプションつき。
その全てにおいて、自分が招いたことである。
俺、判断を誤りすぎ。
「フッ!」
残りのナイフはあと23ってとこか。
アオがいないとナイフの追加もできないし、ミドリがいないと強力な毒の付与もできやしない。
改めて、二人のおかげで助けられていたということを実感する。
今の俺には実質、攻撃方法がない。
ルインの『装備者DEF超アップ』を発動しているおかげで幾分かはマシになったが、DEFが少し心もとないせいでいつも見たいな強引に衝撃を貯めることができない。
よって、俺の最強の一発である『反射砲』は撃てない。
あえて名前をつけるなら、よくて『反射弾』レベルだ。
そして肝心のナイフも
「『一瞬付与:重量増加』」
本当に一瞬だけ武器にアビリティを付与するアビリティで、俺のナイフの重量が倍に増加し全て勢いを失い墜落する。
高レベルの鍛治師で応急的にその場で簡単な作業ならこなせるケンゾウには、武器でのダメージが通りにくい。
「『限界破壊』を使った方がいいんじゃねぇのぉ、ベルゥ……」
「クッソが。余計なお世話だよ」
ケンゾウは明らかに正気じゃない。
EGO時代に何度も喧嘩して何度も一緒に戦った仲だ。それぐらいはわかる。
でも、ならどうすればいい?
当初はぶん殴って懲らしめるつもりだった。
だけど、ここまでのことをしでかす程の何かが、ケンゾウにあったんじゃないのか?
ここはゲームじゃないんだ、その事をここにきたプレイヤーなら誰もが理解する事を理解した上で、それでも、俺を理由に鍛治の国で罪もない家族に制約をかけるような、何かが。
じゃあ俺はどうすればいいんだ?
対話か? できるのか? 正常の判断ができないと見える状態のあいつと?
なら、どうすればあいつを正気に戻せる。
殴れってか? それで戻るのはアニメと漫画の世界だけだ。ゲームの世界じゃそうはいかないし、この世界は現実だ。
壊れたら叩いて直すなんて考えは昭和だ。おばあちゃんの張り手じゃあるまいし。
「おい、よく聞けよケンゾウ」
「あん?」
「考えても考えても、ゴチャゴチャして一向にまとまりゃしないから、自覚してるか知らないがとりあえず言っとくぞ。お前は、お前がやったことは許されることじゃない。自分の身勝手で一つの家族を不幸にした。お前はどうしてそこまでする? 関係ない人を巻き込んでまで、どうしてお前はそこまでしたんだ」
これが知りたいのなら、直接本人に聞けばいい。
嘘か本当かは、見分けて判断すればいい。
本人の言葉なら、それが如実に現れる。
友達の嘘が見抜けるぐらいの、友達だと俺は思ってるよ、大馬鹿野郎。
「………………」
「答えろ」
「……お前なら、わかってんじゃねぇのか?」
「どういうことだ」
「結構前のことだよなぁ。お前と俺がめちゃくちゃ激しく『喧嘩』したときのことだ。お前が聖剣・魔剣に汚されるのが嫌で嫌で仕方なかった。だからあの最低最悪な『事件』も起こした。お前その時も聞いたよな。なんでこんな事をしたんだよってさ。だから答えも決まってる」
ん、んんん? お、おい、ちょっと待て。
「俺が認めたお前が、どこぞのなにとも言えないクソッタレの武器のせいで、強さを失うのが嫌なのさ! 俺ぁなあ」
「待てって!」
大声でケンゾウの言葉を遮り人差し指で眉間を押す。
「あー、えー、ちょ、ちょっ、タンマ……なんつーか」
いやいやいやいやいやいやいやいや、嘘だろ、一体、なに言ってんだ?
「お前…………まさかだけど、記憶がないのか?」
「…………はぁ?」
ケンゾウの目が一瞬だが泳いだ気がする。
いや、記憶がない、というのはおかしいか? だって、俺のことをベルと呼ぶし、ミルクルさんのことだって、ゴールドのことだってちゃんと知ってた。
いや待て、そうじゃない。一部か。
一部記憶が混濁、削除されているのか?
「あの時のお前は、あの事件のことを重く受け止めてなんかいなかったぞ。というか、『事件』として認識していたかすら怪しい。覚えてないのか? あの事件の収拾でヘロヘロになったソロ仲間の目の前に雲隠れしてたのをふっと現れては『嫌な事件だったねWWW』とチャットで煽りまくったのを。『このケンゾウの好きなことの一つは、人が嫌がることを率先してやることだ! 小学校の先生が言ってたよ。いや、教育って素晴らしいぃWWW』と煽りに煽って、俺たち全員に『ぶっ殺す!?』とハモらせただろうが」
そんでもって俺らに盛大にボコられたケンゾウはあろうことか、『めんご』の一言で全てを終わらせやがった。
その後ブチ切れた『ウラミン』、BAN様が垢ABNされるという尊い犠牲のもと、色々の趣向を凝らしてデスペナを最小限に抑えようとしていたケンゾウのゴールドを全て回収することに成功した。
絶望に染まるケンゾウの表情はそれはもう言葉で言い表せないほどの爽快感と達成感を俺たちに与えた。
それだけで飯が三杯はイケるほどに。
本当、思うがままにボコした後ケンゾウの屍を見下ろし、満に満を持して俺らがハモらせた『嫌な事件だったねWWW』は今でも忘れられない。
俺らの懐を潤し、自らの懐が氷河期どころか世界滅亡に陥ったあの時のことをケンゾウが覚えていたのならこんな反応にはまずなるまい。
「転生の時に、何かあったのか?」
「うるせぇ」
「記憶が無いのか? ならなんで俺たちのことは覚えてるんだ? 他にも失った記憶はあるのか? 一部だけなくなってるのか? なんでその事件のとこだけ記憶がなくなっているんだ?」
「うるせぇっつってんぞ!」
「だからなんだ。言っとくが黙れと言われて黙るような奴が俺たちの中にはいねえよ。疑問を持て。違和感がないか? なにかを忘れているような。何かを求めているような」
はたして俺の言葉は、刃の雨で返された。
「ッち! ぐ……ぁぁあ」
いい加減頭の上から刃物を落とされるのも慣れてきたのでなんとか反応することができた。
だが一瞬とは言え完全に戦意を削いでいたせいか、右の二の腕を深々と抉り容赦無く骨を砕き、腕を剣が貫通し、痛みが熱と恐怖とともに襲いかかってくる。
痛い、痛い痛い痛い! 漫画やアニメじゃ日常的に見る光景でも、実際になってみればこの上ないと思うほどの激痛だ。
腕を抑えて蹲り、叫びたくなるのを必死で堪え呻き声を絞り出す。
前回のジャックとの一件がなければ、みっともなく泣き叫んでいただろう。
痛みに鈍い俺は痛みに弱いとミルクルさんに言われ続けてきたが、そんな俺にも慣れるということはある。
「ぁぐ……いって……血が止まんねえなこりゃ」
腕で抑え続けてても拉致があかないので、一度手を離し、ミドリ特製の回復薬を思いっきりぶちまけた。
幻痛だし意味もさほどないが、頭にもかけたことでガンガンとした頭痛も回復する。
プラシーボ効果万歳。
「いててて、ん? おい、なんでお前がそんな顔してんだよ」
少し痺れるものの、問題なく動かせる右腕を確認しケンゾウに視線を送ると、ぐしゃりと頭陀袋を歪ませていた。
「なん、で」
「なんでって、お前が攻撃したんだろうが」
「ちが、違う! 俺ぁなんもしてねぇ! しようとも思ってなかった! 勝手にアビリティが発動したんだ!」
「勝手にって、お前」
それはまるで、誰かが俺に『余計なことを言うな』と言っているかのようじゃないか。
ケンゾウの意思を無視して強制的にアビリティを発動させる、か。
一人心当たりがないわけじゃ、ない。だけどあいつがこの場にいるわけがない。
だってあいつは
「本当だ! 俺は攻撃するつもりなんざなかった。だけど、あぁ、お前は、怪我を……俺が、ベルを、怪我を、俺が、俺が」
「おいケンゾウ、落ち着け。大丈夫だ。怪我ならとっくに治った。ほら」
卍マジまんじ卍〜、とばかりに腕を見せつけるが、ケンゾウは目もくれない。
頭を抱え、頭陀袋の上から頭をかきむしっている。
「なぁ、ケンゾウ」
「…………」
無視かよ。
「つおっと」
俺の真上に出現した赤色のがま口から、ギャグみたいにでかいトンカチが降ってきたので急いで避ける。
またか。二度目はくわんよ。
黙って撲殺しようとしてくんのマジ陰険だからやめてくんないかな。
「おいって!」
「やめろ! やめろ! やめろぉぉぉぉぉおおお!!」
「落ち着け! 混乱するな! 思考が乱れて停止するぞ! まずは深呼吸をするんだ!」
「違う、俺は、ベルのために、傷つけるためじゃ、でも、なんで俺たちは戦ってる? 違う、俺ぁ、俺、は、ダメだ、殺す、違う、違う違う違う! ベルは友達で、だから殺す、あぁああ! 違う! 助けたい、話したい、会いたい、みんなに会いたい、みんなに、殺す、殺しつくす、がぁあ、嫌だ! みんな友達なんだ、やめろ、頼む、やめてくれ!」
ケンゾウは自分の頭を何度も何度も乱暴に掻き毟るが、頭にかぶった頭陀袋は一向に外れる気配がない。
頭陀袋。最初は何であんな視界も遮る上に防御力もない装備をしているのかと思ったが。
アレは、俺のパーカーと同じ転生ドロップか!
頭装備、成る程、記憶を操る呪われた装備として、ここまでわかりやすいものもないよなぁ!
「があ、あ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁあ、と、もだちだ、なぁ、そうだろぅ、ベルぅ!」
「当たり前だろうが!」
「なんで、俺たちは、戦ってるんだ? 俺はお前を、なんで殺そうとしてるんだ?」
「それは操られて、ッ『ジャンプ』!」
ケンゾウの両隣の空間から太く長い砲身が伸び、炸裂音を響かせた。
横飛びをするが空間を移動するのか砲身の向きは常に俺を追いかけ射撃を続ける。
「止まれ! 『収納』! 止まれよ! 『しゅう……ぐぁ!」
頭を抑え、地面に両膝をついて、頭陀袋の中からぼたぼたと水が溢れては零れ落ちていく。
「……ごめん……ごめんよ、ベル」
「俺は大丈夫だ! 良かった、正気に」
「もう、自分を自分で抑えきれない」
「なっ!」
再び、空中にがま口が開く。それも、今までとは比較にならないほどの規模の広さで。
ケンゾウの上に。
「マジでごめん……俺ぁ、もうアビリティの発動を抑えきれない……」
「ばっ!」
「でもお前のおかげで、『展開座標をずらす』ぐらいはできたよ」
「クッソ!」
ジャンプの影響で地面に足をつけようとしても弾かれてうまく体制を整えられない。
「最後にお前と話せて良かったよ。みんなによろ。ミルと末長くお幸せに」
ジャンプの衝撃は凄まじい。
自然に止まるのを待つのならいいが、強制的に止めようものならとんでもない負荷がかかる。
そんなこと知ったことかぁぁぁあああ!
「『ジャンプ』!!」
両足の骨が折れた。
両足を地面につけ、弾かれる前にタイミングを合わせ再び『ジャンプ』を発動させ一直線にケンゾウに突撃する。
しかし威力が弱い。弱すぎる。
方向を変えることに力の大半が奪われたのか、速度も勢いも悲しいぐらいに無さすぎる。
もうすでに武器たちはケンゾウの元に降り注ぎ始めている。
このまま突っ込もうとも、ケンゾウを抱えて抜き去ることは多分できねぇ。
「ぐっ!」
「なっ!」
なんとかケンゾウの元にたどり着いたが、勢いを失った俺は折れた足でなんとか着地しようとして、折れた足ではどうにもならず膝から崩れ落ちた。
しかし、蹲っていたケンゾウの上に覆いかぶさることはできた。
「やめ、なにやってんだぁ! どけぇ!」
「いや、退かないねぇ! 俺はタンクだ! その身で仲間を守るなあ!」
「馬鹿野郎!」
このままでは俺も、ケンゾウも死ぬ。
だけど、黙っているわけにはいかないでしょうよ。
黙って死なせるわけにはいかないでしょうよ。
怖いけど。何もしないクズにはなりたくないだけだ。
辛い時は、苦しい時は、誰かに助けて欲しいじゃないか。
ちょうどこの前、助けて欲しかったと涙を流した友達がいた。
その時に、その場で、そいつに何かしてやりたかった。
そいつを助けやりたかった。その時に助けられなかった自分が歯がゆくて仕方がなかった。
もしその場に俺がいたのなら、そいつら全員ぶん殴ってやったのに。
そんな思いは真っ平御免だ。
今俺はこの場にいて、今この時に何かできる状況にいるんだから。
勝手なのはわかってる。だけど、ごめん。
俺は、まだ死ねないんだ。
アオにも、ミドリにも、ミルクルさんにも…………お前にも、たくさん心配かけたのはわかってる。
悪かった。本当に。これからで償っていくから。
許してもらえるように、これから、頑張るから。
だから、お願いだ。
友達を助けたいんだ。
でも、今の俺だけじゃそれができない。
勝手なことを言ってるのは重々承知で、今こんなことをやっているのに償うもクソもないと矛盾した発言をしていることも自覚してる。
お前のこといつも頼りにしてる、そのせいで負担ばかりかけてる。
ごめん。バカでどうしようもないマスターで。
頼む、そんなバカで子供でお前に頼りっきりのどうしようもないマスターに、力を貸してくれ。
「…………『限界破壊』」
俺たちの上に無数の武器が降り注ぐ。




