信じられないでしょうけど、裏切り者の末路です!
「……聞いてない」
終わりが見えない長い机と数え切れないほどの膨大な数を誇るイスの一つに腰かけた少女が、机に両腕を叩きつけた。
ここは、神の集う場所……ではない。
世界から否定され神として認められず、神々から排斥され追放された愚かな神が、地と空の中間に作り出した見た目だけ神が集う場を似せただけの空間だ。
そんな場所でたった一人、腰まで届く黒い髪をした少女は髪を振り乱し思うがままに叫びを上げていた。
「そんなのは聞いてない! そんなのチートだ! 『コンティニュー』なんて卑怯だぞ! 死神!」
その言葉は誰も聞いてはいない。
だがもし、事情を知りその言葉を聞いた者がいたのだとしたら、その者はきっとこういうだろう。
『お前が言うな』と。
そも、死神の子は、神から力など与えられていないごく一般的な人類だ。
強さがごく一般的な人類からかけ離れているとしても、それは彼自身が努力と時間をかけて自力で身につけた産物である。
決して何者かに与えられた者ではなく、少女には何を言う資格もない。
そして当然ながらコンティニューなどと言うことは不可能である。
この世界は彼らが存在していた世界の原理が捻じ曲げられたもの。
ここは仮想ではなくまぎれもない現実だ。死んだらそれまで。これは世界の常識。
それに卑怯と言うのなら、それは、彼女自身に向けられるべき言葉だろう。
「そもそも、なんで今回に限って死神が出張ってくるんだ! 原初のジジイババアのくせに、一度だって『最高神』の座を狙ったことなんてないだろう! 本当にアイツは死神の子なのか、弱すぎるし、他にも子を作っているのか、どういう作戦なのか傾向も対策もあったもんじゃない。都合のいい餌だったってのに、取り逃しやがって……あぁ、あぁ、ああああ!」
誰も聞いていないものの、その口から発せられる言葉は脈絡がなく支離滅裂だ。
とはいえ感情に身を任せて叫んでいるだけのためそれも致し方ないかもしれない。
「アレは僕の勝ちだ……僕の勝ちだった、なのに、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうっ! 世界三大神に勝てば僕のレートは揺るぎないものになっていたはずなのに、僕を神と認めないクソどもをまとめてぶっ殺してやる力が僕には必要なのに……くそ、クソクソクソクソ! アレもこれも全部親父のせいだ! 神に認められないクソッタレの立場に甘んじて、力を俺に譲渡する前にどこぞの勇者なんぞに討たれやがって! お陰で僕がどれだけ苦労してると思ってやがんだチクショウ!」
拳を振り上げては振り下ろす。何度も何度も何度も何度も執拗に殴り続けられ、その度にミシミシと音を上げていた机が遂に音を立てながら粉々に崩れ去った。
髪を乱し、肩で荒く呼吸をし、苛立ちは解消されないのか立ち上がりながら大きく舌打ちをして椅子を蹴り飛ばし歩き出す。
「見返してやる……僕は、最強の神なんだ……チャンスを手に入れた、他の神を出し抜いた、いい駒も手に入った、僕の力を貸してやったんだ、あの世界じゃ最強さ、これはルール違反じゃない、フククッ、バレなきゃ違反は違反じゃないのさ。殺せ、どんどん殺せ、可愛い可愛い僕の『子』よ。殺して殺して、まだ幼く儚い他の子を殺し尽くせ。死ぬのは許さん。お前が死んだら僕の代理人がいなくなってしまう。僕の子はお前だけなんだからね」
少女は残虐な笑みを浮かべる。
それはもう楽しそうに、怒りながら笑っている。
それは歪に歪んだ笑みだった。
「都合がいい、死神の子は少し泳がせるとしようか。なぜだが、死神の子のところには他の神の子もいる。おおかた、神の子を探るレーダーでも与えられているんだろう。くそっ、卑怯な……あんな卑怯なことをしている相手になら、僕だってしていいはずだ。いや、するべきなんだよ。鉄槌を下してやるんだ」
そうだ、そうだと自分に言い聞かせるように少女は独り言をこぼす。
歩き続ける少女は、ふと消える。
少女の足音だけが、いつまでも空間に反響していた。
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《…………ふぅ……》
目の前の二人を見て『最後の晩餐』に直接攻撃力が皆無なのだと言うことを改めて理解したけれど。
見合う対価ではある。でも、これを何度もやるのは精神的にキツイなぁ。
[ヨクモ……]
《ん?》
[ヨクモヤッタナ! ヨクモ!]
ニイテンゴシキさんはわめき散らして右手をこちらに向ける。
[『空気融合』!]
そしてアビリティ発声を行う。
[…………エ?]
しかしアビリティは発動しない。
ニヤァと口元を歪ませる。
《どうしたの? 来ないならこちらから行くけど、『超食事』》
[ク……『自動行動』! ドウシテ!]
[アブナイ!]
アビリティで回避しようとしてそれができないもどかしさを構わず大口を開けて木や地面ごと咀嚼する。
もう一人に邪魔されたけれど、少し部品を齧りとった。
吐き出すとまた融合とかで元に戻りそうだし、飲み込んどこ。
[……ナニヲシタノ]
《……さぁ? 自分で考えれば……》
【《晩餐会》主催者に警告。『裏切り者』となった者に『対価』の説明をしないのはルールに違反します。直ちに説明を行ってください】
うわー……使い勝手悪よぉ……
【《晩餐会》主催者に警告。『裏切り者』とな】
《あーもうわかったよ! 二人は今、私のアビリティ効果でマスターとのリンクを遮断されている。つまり、二人はテイムエネミーじゃなくて、野良のエネミー扱いになってるの。そして二人の目の前にある皮袋『裏切りの対価』は、持ち主から能力を奪い取る。二人はアビリティが発動できなくなるってこと》
[ソンナ、ソンナノヒキョウダヨ!]
《勝負の世界にそんなものはないよーだ。あ、因みにその皮袋にはもう一個効果があってね、『一枚のコインごとに一つ、なんでも好きな金アビリティを発動できる』」
それが例え、1億ゴールドアビリティであったとしても、10億であったとしてもかわらない。
たった一枚でそれが発動できる。
《あー、その代わりなんだけど》
[【 ロケラン・トランスフォーメーション 】!]
あら。
[スゴイ……スゴイヨ! ホントウニゴールドアビリティガツカエタ!]
[テー!]
金アビリティか、一人の体が大きなミサイルを乗っけた銃の形に変わり、もう一人が肩に担いでそれを容赦なく発砲してきた。
(これは私、悪くないよね? 勝手に私の話中に攻撃してきたんだし)
【《晩餐会》主催者に警告。『裏切り者』となった者に対する説明が不十分です。説明を続行してください】
(ルールに厳しい!)
飛んでくるニイテンゴシキさんの顔がプリントされた(と言うか本体?)ミサイルを避ける。
何故が次々と装填されてるんだけど、大丈夫かな?
《あー、言い忘れた、けど。コインを一つ、使うごとに、私が薄めているマスターとのリンクが余計薄くなるから、気をつけてね〜》
[……エ?]
《全部使い切ると完全に修復不可能レベルでリンクが断絶されるから、アビリティ効果で一時的とかじゃなく、永遠に野良エネミーになっちゃうし、その時にはそのほかいろいろと特典がつくからお楽しみに〜》
あ、ミサイルの雨が止んだ。
一発ごとにコイン一枚使ってたんだとしたらかなーり薄くなってるよね。
[ソンナノキイテナイ!]
《言う前に攻撃してきたのはそっちでしょ?》
なんか納得いかなそうだけど、どうでもいいや〜。
アビリティを使わず速攻で倒されるでもいいし、金アビリティで粘って野良エネミーになることと引き換えに役目を果たすでもいいし。
私には関係ないもんね〜。
[ウ……グ]
どうせなら逃げてくれないかなぁ。
早くマスターに会いたいよ。
《ここは引いた方が得策なんじゃない? 私を気絶させるか私にアビリティを解除させるか、それか私を殺すかすればアビリティは解除できるけど。アビリティも使えないんじゃ私には勝てないし、マスターさんの所に行けばどうにかなるかも知れないよ? ま、その時は私もますたーのところに戻るけど》
[ヌグググ]
[ド、ドウシヨウ……]
決めないなら、手っ取り早く倒すけどね。
《『超食事』》
[グ! 【 メタル・スコール 】!]
[ヤメロ! アビリティヲハツドウシチャダメ!]
[イイカラ! ニゲルヨ!]
金属の塊みたいなものを放り投げたと思ったら、あたりに雨が降り出した。
《い、いた! いたたたたたたた!》
何これ何これ! 痛い! 凄く痛いんだけど!
体が弾いてるからいいんだけど、バチバチバチバチいってる!
地味に痛い! もー! ただ逃げるだけならそのまま許したのに!
もう許さないから!
《私に背中を向けたね?》
二人が逃げようと私に背中を向けたことを確認して、アビリティを発動させる。
《『敗北の味』》
二人ががくりと体勢を崩した。
金アビリティをケチらずに急いで逃げた方が良かったね。
二人は膝をガクガク震わせながらなんとか倒れないように耐えている。
頑張るねー。ま、さっきも言った通りちゃんと逃がしてあげるから安心して。
そのかわり、逃げるお代はいただくことにするから。
[ア、アシ、ガ……]
[ステータスガ、ゲンショウシテル……シカモ、アジリティダケジャナクテ、ゼンブ]
[デ、デモ。アシガウゴカナイホドジャナイヨ]
[ジョウタイイジョウ、シンショウッテイウノノ、セイダトオモウ]
うわ、いい推理。
すぐにステータスを確認できるんだ、便利だね。
私は『変身』しなきゃ無理だよ〜。
《ご名答ぉ〜。しばらくは自由に体動かせないと思うから気をつけてね。あ、どうぞどうぞ、逃げてください。私はゆっくりステータスを食べさせてもらうから》
そう言うや否や、再びアビリティを発動させる。
《『勝利の美酒』》
私の体が薄く黄色に光り、体がスッと軽くなる。
うん。美味しい。ステータス数値が少し上がった。
《このアビリティ使い勝手が悪いんだけど、そのかわりハマるとすーっごく美味しいんだよねぇ。ま、クールタイムが長すぎて連発できないのが痛いんだけど》
私の言葉に明らかにホッとした顔の二人を見てキョトンとする。
《そんなの私には関係ないけどね。『大食い大会』》
もう一度、『敗北の味』と『勝利の美酒』のセットが発動して二人が膝をつく。
[ナ、ンデ]
《さ、逃げて逃げて〜。あ、おかわりは自由だから、遠慮なくしてね》
だって私は反逆者のフード・ファイターですから。
ステータスだって、食べ尽くす。




