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信じられないでしょうけど、暗闇の中です!


特別(スペシャル)アビリティ『最後の晩餐』》


私の初めての『特別(スペシャル)アビリティ』。

このアビリティは強大な直接的攻撃力を秘めているわけでもなく、ミドリちゃんのほど制限・効果が複雑なものでもない。

言葉では表しづらいけれど、ミドリちゃん曰く『単純怪奇』。

実験室(ラボラトリ)』内での『解析(アナライズ)』でも、よくわからなかったって言ってた。


私にはよくわからない絵の具? が塗りたくられた作り物みたいな背景に、横長な机とその上に並ぶお皿や直に置かれた果物。

ひどく抽象的で、平面的な世界が広がっている。


[ウワッハー、ウワッハー]

[ココドコー、ココドコー]


そして私の対面に座る二人がはしゃいでいる。強制的に座らされて降りることができないってことをわかった上ではしゃいでるんだとしたら、図太いなーと思う。


[ネエー、ネエー、アオー、アオー]

《…………なに》


別にどう呼ばれようと構わないんだけど、なんだか無性にますたーに名前を呼んで欲しくなった。


[コノセキハアイテルヨー。ダレカクルノー?]

[クルノー? クルノー?]

《……さぁ?》


どうなんだろ。誰か来るのかもねー。一度も使ったことないからわかんないや。

アビリティを使う私自身、その効果すらまだよく理解できていないというおまけ付き。

だってだって、自分で自分のステータス数値を弄るなんて初めてだったんだもん。

私と一緒で初めてだったミドリちゃん、色々と教えてくれた熟練者のミルクちゃんの二人がいなかったら多分できなかった。


【《晩餐会》主催者に通達。参加者にルールを説明し、今回の『食卓ノ法律(テーブルマナー)』を設定してください】


感情のこもらない言葉が頭の中に聞こえる。


マスターが倒れてから目を覚ますまで三ヶ月。

とても平常心ではいられなかった。

ますたーにすり寄っても、ますたーに甘えても、ますたーに噛み付いても、ますたーを涙で濡らしても。

何をしても、ますたーは目を覚まさなかった。

不安だった。どうしようもなく不安だった。


こんな感覚は、初めてダンジョンに行ってますたーとはぐれた時以来、それ以上。

あの時は、不安だったけれど、ますたーはきっと自分のことを見つけてくれるって心のどこかで信じてた。信じられた。

でも、ますたーが、もう二度と、目を、覚まさないかもしれない。

生きていると信じたかった。でも、信じられない自分がいて、認めようとしない自分がいた。


そう思ったらもうダメだった。


怖くて、一日中ますたーにくっついてますたーを感じていないとどうかしてしまいそうだった。

毎日毎日、ますたーに縋り付いては《ますたーがいないなんて耐えられない》って、《ますたーお願い目を覚まして》って、《帰ってきて、お願い、いやだ、いやだよぅ》って泣きじゃくった。


悲しくて、悲しくて、悲しくて、悲しくて、悲しくて、悔しくて、一時期は心の底から敵を呪った。

この特別(スペシャル)アビリティは、ちょうどその時獲得条件を達成したものらしい。


《…………すぐに終わらせたいから、一回だけ説明するね。私と君たちはここじゃお互いに相手を害するアビリティを発動しちゃいけない。できないわけじゃない、ただダメってだけ。ここにある食べ物は自由に食べていいよ。でもナイフを握っちゃダメ。ここは色々とルールが決められた『裏切り者を選定する食卓』。この場所そのものが勝手にするから私達は何もしなくていいんだけど、制限というか、私はここを開くたびに『食卓ノ法律(テーブルマナー)』を発動して新しいルールを決めなきゃいけない。そうだなぁ、今回のルールは『食事に関することしかしちゃいけない』かな》

[イツマデココニイレバイノー、イツマデココニイレバイノー]

《……》

【個体名『二・五式』、『違反(タブー)』。レベル2】


しかし私は答えない。

パクパクと目の前の小皿に取り分けられた魚を食べる。味はまぁまぁ。ちょっと薄いけど食べれないこともないって感じかな。

でもどういう仕様か気づいたら食べてなくなったはずの皿に物が追加されているので、無限に食べられるっぽい。

あー、ますたーのご飯が食べたいよー。


[ドウシタノー、キュウニダマッチャッテ]

【個体名『二・五式』、『違反(タブー)』。レベル2】

[ヘ?]

【個体名『二・五式』、『違反(タブー)』。レベル3】

[ナニナニー。ナニガオキテルノー]

【個体名『二・五式』、『違反(タブー)』。レベル3】


もくもぐ。あーあ、二人ともレベルが3まであがっちゃった。アオしーらない。っと、私、私、わーたーしー。

いつまでここにいればいいの? だっけ。

『裏切り者』が一人でも出てくれば、簡単に出られるよ〜。


[エ? エ? ナニ、ナニカキコエル。ダレ? ダレ?]

【個体名『二・五式』、『違反(タブー)』。レベル4】

[ア、アタマガ、イタイ……イタイ]

【個体名『二・五式』、『違反(タブー)』。レベル4】


淡々と会場にアナウンスが流れ、その度に二人の顔が険しくなる。

この能力を使う時はとにかく冷静を保てってミドリちゃんが


『アオ』

《ますたー!》

【個体名『アオ』、『違反(タブー)』。レベル2】


あっ! 突然ますたーの声が聞こえたからつい返事をしちゃった、と思った時には、何故か私は真っ暗な所にいた。


(え? あれ? 確か私は、あれれ?)


キョロキョロしても真っ暗で何も見えなくて、目が塞がれてるのかと思ったら、ぼんやりとますたーの姿が見えた。

ますたーは私から少し離れた場所で無防備に立っている。

近づこうとしたけれど、体がうまく動かなくて、ますたーが口を開いた。


『なぁ、アオ』


なに、ますたー。


『お前は本当に強くなったな。さすがは俺のスライムだ』


でしょ! でもね、でもね! 私はまだまだ強くなるよ、ますたーのために、これからもっと


『でももういい』


…………え


『やっぱりさ。スライムよりもっとカッコよくて強いエネミーをテイムした方が、強くさせるのも楽だし、その、さ、周りの目もあるしさ、わかるだろ?』


わからない。ますたーがなにを言いたいのか、全くわからない。

理解しようとしているのを拒んでいる。

ますたーの声を聞いて浮かれていた熱が無くなって、頭が拒絶している私を構わずマスターはそれでも続けた。


『正直、うんざりなんだよ』


全てを、認めさせる一言。

逃げようのないそれをますたーは私に遠慮なく叩きつけた。


『今まで我慢してきたけど、弱い奴はやっぱダメだな。雑魚は結局最後まで雑魚のままだ。スライムを強くしようなんて考えた俺がバカだった』


そ、そんなこと……な、ない、よ? 私、強く、ますたーのために


『はぁ。時間の無駄だったよほんと。なんの利益ももたらさない役立たずなんか拾わなきゃよかった』


そ、んな。……ずっと、そう、思ってたの?

アオは、ますたーのこと、ずっと……でも、ますたーは、アオのこと


『まぁそりゃ俺もスライムが好きなのは事実だからさ、ペットとして飼ってやってもいいけど』


ますたーはぽりぽりと恥ずかしそうに頰を掻いてから、いつの間にかますたーのそばにいた金色のスライムを抱き上げた。


『俺にはゴールドがいるからさ。お前はもういらない』


……いや、……そんなのいやだよ、ますたー…….私、強くなるよ、強くなるから、ゴールドさんに負けないくらい強くなるから、だから


『ん、はは、なんだよゴールド。くすぐったいだろ』


ますたーはもう私のことを見ていなかった。

す、捨てないで、ますたー。私、もっと、一緒にいたいよ、なんでも、するから


『じゃあな。できそこない。もうお前は俺のエネミーじゃない。好きにしろ』


ますたーは私の懇願を冷たい目で一蹴して、後ろに振り返って歩いていく。

追いかけようとしても、私の足が動かない。目線はどんどん下を向いていく。

なみだが、とまらない。


………………ますたー…………ますたぁ…………


やだぁ、行かないで……私も、連れて行って、離れ離れは、い、やだ……


『あーあー、捨てられちまったな』


……だれ?

頭の中に聞き覚えのない不思議な声が流れ込んでくる。


『さてなぁ。で、いいのか? 大好きなマスターさん、行っちまうぞ? 本当にこのままでいいのか? ん?』


その言葉が私の心をより深くえぐった。

目を逸らそうとしても、悲しい現実を無理矢理私に押し付けてくる。


いやだ、いやに、決まってる、でも、私には、もう


『泣き言言ってなんか変わんのか? ……はぁ〜、とはいえなぁ、マスターさんとのリンクも切れちまってるし。嘘だと思うなら確認してみ。マスターさんとの繋がりを感じねぇだろ』


慌てて自分の中の繋がりを探ったけれど、帰ってきたのは空虚を掴む感覚だけ……


『わかったか?』


ああ……あああああ…………


自分が自分で無くなっていく。私が、壊れていく。

なみだが、あふれてあふれて、とまらない。


『泣くなよ……はぁ。一つだけ、あんまオススメしねぇ方法がないわけじゃ、ねぇ』


ほう、ほう? まだ、なにか、可能性が、あるの?


『あー、そんな期待すんな。成功するかわからねぇ賭けだ。お前の力で、俺を喰らえ。俺を受けいれろ。俺の所有物(もの)になることを誓え。そうすれば、俺がお前をマスターさんの元に連れてってやるよ』


あなたの、ものに?


『そうだ。お前が俺という力を取り込み、真の力を取り戻した俺ならそれができる。今、俺の封印を解けるのはお前だけなんだ。勿論、マスターさんにお前が認められた暁には、お前を解放する。俺だって自由になりたいんだ。ここから出してくれたら、お礼に協力する。だが、それができるのは今だけだ。今この瞬間だけの大チャンス。誰かに協力するなんて天地がひっくり返っても、お前に対してこの時だけだ。どうする?』


今しかないという言葉に焦りが生まれる。

ますたーの、もとに、でも、私は、ますたーのもので

その焦りにつけ込むように声は畳み掛ける。


『自分の気持ちをとるか、大好きなマスターさんをとるか、二つに一つだ』


気持ちがぐらりと揺れる。

最後の仕上げとばかりに優しげな声が聞こえた。


『俺は……お前の味方だ』


目の前が真っ暗になっていく。

包み込まれていく。

寒かった心が、温められていく感覚がある。

これは、ますたーのため……ますたーの、た、めだから…………だから


ゆっくりと目を閉じて、暗闇を受け入れようと



「……やれやれ」

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