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信じられないでしょうけど、決め手と最後の刀です!

太陽の力、カウントを稼いでいるイッシキさんは、今この時だけ、動かない。

グラグラと今にも飛び出さんとするマグマの鍋に蓋をして押さえつけているかのように。

体内で荒れ狂うエネルギーを静かに制している。

それが解き放たれた時、燃え尽きるその瞬間まで止まりはしないだろう。


ここだ。ここが全てを決める最初で最後のチャンス。


今この国全体を覆っている領域の、ほんの少しでいい。

ボクがいるこの場だけでいい。

今、この一瞬だけ、ミルクちゃんの領域を乗り越える!


《飴神様!》


ボクの呼びかけ(キーワード)に応え空間に出現する飴。

その飴を包装紙ごと頬張ってから全体力(HPではなくSP)を使うつもりで叫ぶ。


《空間を捻じ伏せろ! ここはボクの部屋だ! 邪魔するな! 『実験室(ラボラトリ)』!》


ごっそりと体から何かが消失する感覚を味わい、胸の中が極寒の地にいるかのように凍える。

押さえつけられている感覚とそれを無理矢理推し破ろうとする感覚がボクを押しつぶすようにのし掛かってくる。

苦しい。

黙って従えと言わんばかりの強制力。

今すぐ抵抗をやめてアビリティを消したくなる衝動にかられる。


(負けちゃ……ダメだ)


口の中に広がる幸せの味を噛み締め、急速に回復して行く思考で抗う。

こんなものは幻痛だ。もしこれが物理法則に則った衝撃なら今頃ボクなんか跡形もなく潰れてる。

そうじゃないということは、これは精神的負荷に過ぎないってこと。ボクは、科学者だ。

科学者にだって意地があるんだ。体が弱いことを許容したって


精神(こころ)が弱いなんてことは、断じて許容できないんだよ!》


目の前が緑色に染まり、ボクの体から放出されたソナーが空間を緑色に塗りつぶす。

そしてボクの目に、『実験室・解錠』の文字が出た。


《『実験室(ラボラトリ)』空間内座標位置区分全指定、A1点からZZ265点迄》


脳内に流れ込んでくる情報を高速ローディングで捌きながらボク本来の力を発揮する。


《分解》


ボクとイッシキさんの立っていた地面が、消え去った。


[ぬお!]

《座標位置を区分、固定、D45点からZZ200点迄の距離・着地衝撃を算出、ZZ200点の周囲一帯の固形物を変質、弾力性向上。『万能薬』》


必要だと判断したからこそ地面を抜いた。

中心に向かうにつれ深くなるように、蟻地獄のような構造で抜いたとはいえ、ソコソコの深さまで行ってしまった以上、激突したらボクは死ぬ。

『打撃無効』をいくら経っても覚えられないボクはこの高さから墜落するだけで即死だ。


そのためまずは地面を柔らかく変質させ、重ねて自分自身の体に低反発の弾力をもつ薬を生成し纏わせる。


《あたっ》

[ふむ]


柔らかい地面にバウンドし無様に転がるボクとは対照的に、イッシキさんのなんでもないことのような顔をして着地に備えている姿を見てささやかな殺意を覚える。


《……座標位置を区分、固定J65点からM14点迄融解、再構築》

[ぬおっ!]


いままさに着地しようとその足が踏んだ地面がボコりと深く凹み、そのすぐ横の地面側凹んだ分勢いよく突き出てきた。

イッシキさんの股間(きゅうしょ)に吸い込まれるように飛び出した地面はしかし、イッシキさんに触れる前に赤く変色しイッシキさんに触れることなくドロドロに溶け去った。


よく見ればイッシキさんの体からは蒸気がとめどなく吹き出しており、あたりに陽炎が生まれているし、その両足が踏みしめる地面は真っ赤に変色し溶けていた。


《…………》


それはまるで、ここがイッシキさんの空間であるかのような存在感。

小さかった太陽ももうボクより大きくなった。強く、熱く、猛々しい、そんな姿で


《そんな風に『実験室(ここ)』に立つなよなぁ。そんなあり方はこのボクが許さない》


毒薬精製、座標地乱数、因果からの隔離を実行。


[ふむ。宙に浮く毒の玉とは、また面妖な。それもこの数、数えきれぬではないか。はっはっはっ!]

《自分の左手を見てから言ってよね》

[これはまた可笑しなことを。太陽とは宙に浮いているものだ]

《浮いてるわけじゃないんだよなぁ。まぁその辺の理屈は置いといて、ボクとしてはボクの空間でなんでその状態を維持できるのかが不思議だよ》


わざわざ、酸素(、、)()抜いたのに(、、、、、)

この空間内で『呼吸』という行為が行えるのは、体内にポンプを仕込みそこから供給しているボクだけだ。

まぁイッシキさんは機械だし、エネルギーさえあれば呼吸はいらないのかもだけど、話の論点はそうではなく。


酸素がなければ、燃焼という現象はおこらない。


《熱も光も全く衰えないね。とんだ暖房器具だ》


うん? ちょっと待てよ。暖房器具? 太陽?


……まてよ?

そもそも太陽は、燃えてなんかいないのか。


《そうだ、そういえば。ストーブとかコタツじゃなくて、強いて言うなら太陽は『爆弾』か》


体内で水素爆発を起こしてそれをエネルギーにしてるのか。

そう考えると発生してる光が弱い気もするけれど、カウンターの大きさで変わってくるのかもしれない。


[ふっはっはっはっ。貴殿が何を言っておるのかさっぱりわからんぞ!]

《いや、そこはわかっとこうよ》

[ふっゴフッ! 我が体もあったまってきたところであるし、そろそろ終わらせてくれようぞ]

《ちょっと離れてくんないかな? 紫外線でお肌焼けちゃうよ》


グラグラと上昇し続ける周囲をまるで煽るかのように発光する一本の刀。

それがゆらりと動くだけで陽炎が切り裂かれ二つ三つに分裂する。

熱い。近づいたらドロドロと溶けるどころでなく一瞬で蒸発するであろう温度。


《座標ZZ26点直線状に存在する無機物を対象に固定。集合、追尾せよ》

[はっはっはっはっはっー! 効かぬわ!]


確かにその通りだろう。

イッシキさんに飛んでいく玉はイッシキさんに届く前にことごとく蒸発しているのだから。

玉が蒸発するたびに白濁とした煙が上がり、それが数百数千と数を重ねても結果は同じだ。

それでもボクは毒を精製してはイッシキさんにぶつけるのを繰り返す。

これは作業だ。決まった動きを勝手に体がしてくれる。

とりま、ボクが今一番やるべきことは。


《自分の身を守ること!》

[本気で参る! 『熱暴走(オーバーヒート)』・『熱交換器(ヒートエクスチェンジャー)』! 『業火なる一閃』]

《『実験室(ラボラトリ)』支配者権限行使、第二第三行程強制破棄、第四行程『解剖(ディスカッション)』》


不可視な灼熱の衝撃を、ボクに届く前にコンマ数ミリの単位にまで切り刻み霧散させる。

ついでにイッシキさんのところまで解剖の力を伸ばして見たけれど、小さな太陽が強制力を無効化しているみたいで普通に剣で弾かれてしまう。

それでも四方八方から無差別に襲い来る見えない攻撃を全て一本の刀で対処するなど普通は不可能な芸当。


《血を早く巡らせれば筋肉がその分動くということはあるけれど……身体中に高熱を巡らせて無理矢理反応速度とパーツの稼働範囲を広げてるみたいだね》

[……居合、奥義]

《でもそんなことを繰り返していたら身体(ボディ)が持たないよね。さて、ただでさえ反動でボロボロのイッシキさんの身体はどこまでもつのかな?》


まぁ少なくとも、ジリ貧でボクを倒すまではもつだろうね。

ま、このままならだけど。


[『太陽の―――]

《おっとそれはマズい。『科学者の脳内』》


酸素を回収し堰き止めていた分の力を解放して、その分空いた脳のリソースでアビリティを発動する。


ボクの世界が白黒に染まり、驚愕した。

何もかもが遅くなるはずの世界で、いつも通りの速度で目の前のイッシキさんは鞘に収めた刀を振り抜こうとしているのだから。


(『転移薬』!)


ボクの視界が切り替わりそれと同時に『科学者の脳内(シンキング・タイム)』を解除する。


[―――一塊』。む、またか]


何もかもがスローモーションのように見える世界で普通の速度に見えたということはつまり、現実世界では視界に移せないほどの速度であったということ。

それがわかってもまさか、誰がアビリティ発声が終わる()にアビリティが発動すると思うのか。


《アビリティ発声し終わる前にすでにボクのいたところを通過するってどうゆうことだよ! 無茶苦茶すぎるでしょ!》

[ぬ、すまんな。剣速が速すぎて我でも言葉が間に合わぬのだ]


科学者の脳内(シンキング・タイム)』だって万能じゃないんだ。

例えボクがスライムだって耐えられる限界というものがある。


本来『実験室(ラボラトリ)』内で使用することを前提としたアビリティを、色々と工夫して空間外でも発動できるようになったけれど、それだけ。

使えば使うほど脳にダメージは蓄積されるし、一度に継続できる時間もどんどん短くなっていく。

[ふむ。その様子だとあの移動方にも限界があると見える。ならばもう一度]

《イッシキさん》

[うん?]

《今までの僕たちのやり取りの中で、ボクはイッシキさんに何個の玉をぶつけたと思う?》


目の前でイッシキさんが首をかしげる。

なぜ今そんなことを聞くのかわからないといった顔だ。


《『不揃いな試験管』。ボクにも、数字を数えるっぽい能力があるんだ。数えるというよりは、把握するに近いかもだけど。そんでね、ボクがイッシキさんに向け蒸発させた玉はさっきので1000個ジャスト》

[……な! この煙は」


ボクらの周りを因果から隔離していたため立ち入れなかった白濁とした煙が、堰を切ったように流れ込み霧のようにボクらを包み込んだ。


《気づかなかったかな? 当然ながら有毒ガスのこのガスはその重さでこの中にこもり続けるんだ。まぁそのために地面をこの形に作り変えたんだけど。あ、そうそう。さっきイッシキさんはボクに言ったよね? なんで自分の能力についてペラペラ話したかってさ。だからボクも聞いてあげるよ。ねぇ、なんでだと思う?》

[時間稼ぎか!]

《大正解。『実験室(ラボラトリ)』支配者権限行使、第五工程『結果(リザルト)』》

[ふっはっはっ! 血がたぎる! 『業炎竜の一――――]

《あ、一つ忠告。このガスには有毒ってこと以外にもう一つ特徴があるんだ。そりゃもうものすっごい『可燃性ガス』っていうね》


ボクは大穴を開けてから辺りのガスと酸素と熱の割合をやりくりして、この場の上がりまくった熱で爆発しないようにしていた。

それは本当にどこかズレがあるだけで失敗する絶妙なバランス。


そして今この時、この瞬間。ボクが待ちわびていたタイミングで、イッシキさんがトリガーを引いた。


『ガス爆発』


最初からボクはこれを狙っていた。知識の無い者にとっては全く危機感を感じずに隙を生じさせてくれるもの、その一つが『気体』。

ボクが知っていて、イッシキさんが知らないアドバンテージ。


ボクの予想通りに全く危機感なく『熱アビリティ(点火源)』を供給してくれたイッシキさんは現在、大爆発の抱擁という報酬を受け取っている。


《このガスはボクオリジナルでさ。『支燃性』でもあるんだ。んでもってこの気体はイッシキさんの体内にも潜り込む。いや〜、澄ました顔して調整大変だったわ〜。外側からの爆発に耐えられたとしても、内側からのダメージはどうだろうね》


時間稼ぎって言ったのはそういうことだね。呼吸なんかしなくても、ちょちょいといじってやればガスをイッシキさんの体内に滑り込ませて捉えておくなんて簡単だ。

そうだなぁ。ここは少し格好つけて、『緑の爆発(エクスプロージョン)』と言ったところかな。

え? ボクは爆発の中平気なのかって?

ノンノン。非常にナンセンスな問いかけだよそこの君。

自分自身の攻撃で自分の首を絞めるだなんてクソだと思ってるからねボクは。


一日一度という使用制限がある支配者権限第五工程。

その効果は、『自分が今現在行おうとしている行為に限り過程全てを無かったことにして結果を得ることができる』というもの。

過程が無かったことになるというのは、『ボクに対してのみ無かったことになる』だけなので過程自体がこの世からなくなるわけじゃ無いし、近くに味方がいるとなるとあまり使えない奥の手だ。


[…………カハッ]


爆発の余波もようやく止み煙を散らすと、あちこち装備パーツ? がボロボロになり元の姿よりだいぶ細身になったイッシキさんが片膝をついた。

まだ生きてるということをすぐには理解できなかった。

何故なら、ギリギリであったが、確実に仕留められるように計算済みだったのだから。


そこでハッとなり背後を振り返ると、ボクが開けた大穴の中にもう一つ穴ができていた。


《あの時か》


確か、『太陽の一塊』だったっけ? あの時は避けることに必死で気づかなかったけれど、そっか、地形を大きく変えられたから、そこからガスが漏れたのか。


油断した。そこまで考えてガスの制御をしていれば……


《って、こんなことする前に、トドメを》

[…………『成長する太陽(サン・カウンター)』……き、『キャッシュ、バック』……]


しかし一足遅かった。

そこそこの大きさにまで成長していた太陽が粉々に砕け、そこから溢れる光がイッシキさんを包みイッシキさんの丸まった背中に『6 9 8』の数字が飛び出す。


《『万能薬』!》

[『速攻の一閃』!]


急いで毒薬を精製したものの、少し姿がマシになったイッシキさんが片膝をついたまま刀を振り毒を消しとばした。

仕留め、損なった……


[ハァ……ハァ……]

《しぶと過ぎるよ》

[ぐっ……『キャッシュバック』で帰ってきたHPはこれだけか……『向日葵丸』ももうダメであるな。……目指すべき、太陽を失い……首が折れてしまったわ]


ヤバイ、そろそろ本気で、リソースが足りない。

マスターから貰った飴神様が無かったらとっくにダウンしている。

しかし、マスターの全体力を消費することで生成可能な飴神様は備蓄が圧倒的に少ない。

もうすでに6本を舐めて消費してしまっている。


[……ふぅ。まさか、ゴホッ、此奴まで抜くこととなろうとはな、思いもよらなかったぞ]

《最後の一本……》

[そうだ。正真正銘、我の使う最後の刀である。その名も秋刀『竜胆丸』。夏刀使用後でないと『花が開か(効果が使用でき)ない』特殊な一本でな。あまり使用する機会がない」


抜かれた刀の刀身を見て。


[其れは―――]


ボクは最後の切り札を使うと決めた。



成長する太陽(サン・カウンター)』の能力『キャッシュバック』。太陽を自壊させることでカウントし蓄えられた力が外へと放出されそれを体力として回収できる保険アビリティです。


因みに、『成長する太陽(サン・カウンター)』は熱の供給源ではあるものの、それ本体が熱を持っているわけではありません。

そのため、それを破壊してしまえば夏刀の対処は余裕です。(とはいえ、一式から溢れる熱で破壊どころか接近すら難しいですが)


切り方を間違えた気がひしひしと……

次回で、一式対ミドリ戦、決着です。


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