信じられないでしょうけど、ここ店先です!
「おい、ケンゾウ。分かり切ってることを聞く程虚しいことこの上ないとは充実承知の上であえて聞くぞ?」
「まわりくでぇな。はっきり言えや」
「そんなにお前は、俺が『魔剣』を持つのが気にくわないか」
「あったりまえだのビスケットぉ!」
「くぉ!」
特別アビリティ『ソフトウェア』の効果によって生み出された全身金属の戦闘機械『バトルロイド』。
その一機、防御特化『シールドモデル』、深蒼のバトルロイド、《二式》がケンゾウを庇うように前に出て俺を弾き飛ばす。
[うぬ。このリキ。名のある戦士とお見受けする。我が名はイッシキ。名を名乗れぇい!]
《テンション高いなぁ……どうも、ボクはミドリ。ところで、その剣どうやって背負ってんの?》
反り立った片刃の剣、『刀』を六本背中に携え、そのうちの一本を構え全身金属の上に全身鎧を纏った攻撃特化『ブレイドモデル』、真紅のバトルロイド。その名は《イッシキ》ではなく《一式》だ。
[オイラ、ニイテンゴシキ。オイラ、ニイテンゴシキ]
[オイラモ、ニイテンゴシキ。オイラモ、ニイテンゴシキ]
[[キミハァ?]]
《……アオ》
かたやアオと相対するは、手を繋ぎくるくる回る姿が瓜二つの二機の小柄なバトルロイド。
名前は両共に《二・五式》。色は片方が薄い赤、片方が薄い青である。
とある目標の最終結果であるこいつらは、小さく派手さもなく知能も低めだが今いる四機の中で一番強い。
「あいつらが強いのはめちゃくちゃ知ってるけど、それで《最弱な最強達》のスライムちゃんが抑えられると思ってるならお笑い草だ」
「できるさ。あいつらが敵を目の前にしてアラームを出さないのが何よりの証拠。と言っても、ルドがいたら全機投入しても無双されるだろうけどな」
「……なめんな」
「悪い。舐めてると思ってんならそれこそ舐めんな。友達として忠告してやるけど、いつまでも調子こいてると現実に潰されるぜ?」
調子こいてる? なにを言ってんだ?
ケンゾウが言っている言葉がいまいち理解できない。
表情に出たのだろう。
俺の表情を見たケンゾウの顔、正確には頭陀袋がぐしゃりと歪んだ。
「何言ってんだお前」
[貴方にはマスターの気持ちがわからないのですk]
「めんどくさいからちょっと黙ってろ」
[ぬお!]
二式の盾を両手で鷲掴みにして全力で吹き飛ばす。
とはいえ俺のATKでは吹き飛ばすことはおろか持ち上げることすら無理なのだが。
ほんのちょっとした工夫。ちょっと頭を使えばいいだけだ。
「よっと」
[なにを]
「『ジャンプ』!」
二式の盾に両足を乗せ、両足をしっかりとつけていなければならないという制約をなくした『ジャンプ』は空中でも発動できる。
俺の体はしっかりケンゾウに向けて標準を合わせているし、その踏み台にされた二式は真逆の方向へと吹き飛んで行く。
俺の体が弾丸のような音をあげた。
そして俺の視線の先にいるケンゾウは、会話をして走り回ってはいるが一定範囲内をうろちょろするだけで『逃げる』ことはできない。
これがあいつの特別の制約。
それを知っているからこそ、利用しない手はない。
[ぬおおおおおお……おぉぉぉ……ぉぉぉ……ぉ……]
「チャーーーーーンスッ!?」
「だーかーらー」
ケンゾウが呆れ混じりのため息をつき、クリクリと指先を動かす。
「反s」
[『ジェットパワー』]
「なめんなっゆーとーろーが」
次の瞬間には横っ腹に強い衝撃を受け弾き飛ばされ地面を転がった。
「がっつつつつつ。あー……」
「ユベルちゃん!」
「あー、平気だからミルクルさんはなにもしないでくれ」
「でも!」
「ミルクルさんと団体戦の相性は最悪だ。それに『修正』もちのバトルロイド相手じゃ分が悪い」
いつつ。まぁ痛くはないんだけどさ。
埃をはたき前に視線を送れば、そこには足からジェットを4本吹かしながら盾を構える二式が。
「うへぇ。めんどくさ」
[野蛮人。常識知らず。人を足蹴にするなんて最低です]
「加速しながら大盾構えてタックルかますのと大差なくね? 常人だったら骨数本じゃ済まんぞ?」
[ナニヲイッテイルノカワカリマセン]
「うおい」
《二式》め。この世界でまた一段と人間らしさを磨きやがって。
お前の『データ』の元は、《Yuberu》だっつーのによ。
「動く要塞。お前の力だぜベル」
「うるさいわ。たっく面倒な」
早くケンゾウ本人を叩きたいところだ。
二式が相手で何が面倒臭いって、決着がつかないところなんだよなぁ!
ジリ貧なら俺が勝つけど、一対一ではなく相手にはケンゾウが付いている。
このままじゃ負けないまでも勝ちもない。
「ミルクルさん」
「な、なに?」
「強化解除っと。思いっきりぶちかませ」
しかしこちらには、ミルクルさんがいる。
ミルクルさんが空間の支配者になり全てを蹂躙できるなら俺は逃げまくるだけでいいのだけど。
あいにくバトルロイドのミルクルさん対策はバッチリだ。
なら、脳筋思考だが、別の方法を取ろう。
一つ心配なのは、今までなんの役にも立っていなかった反動か、ミルクルさんがめちゃくちゃやる気なところかな。
もうノリッノリで剣を抜いたからね。
やる気が殺る気じゃないことを願う。
「『秘剣』・『鬼滅』」
「うへぇ」
うめき声は俺の口から出た。
ミルクルさんの腕に出現した禍々しい秘剣は、前回俺との戦闘で見せた『鬼殺』ではない。
形を表現するなら、元々でかい『鬼殺』が三倍ほど膨れ上がり、ボコボコと不揃いなトゲが生えているといった感じか。
攻撃力増加の秘剣。『鬼』と名のつく種族のエネミーのキル数5万以上・ヘイトを集めた回数によって出現する災厄系称号【 鬼人ノ災厄 】獲得を条件に解放される第二の秘剣。
「手加減するから」
「手加減無用と言いたいところだけど、それ言ったら俺死ぬ。『逃亡』・『超逃亡』・『強化』・『体力超増強』並列発動」
「んじゃ、遠慮なく!」
「いや、遠慮してくれよ!? 『防御力還元』!」
忘れたら困るので一度ステータスをリセットし、今度は一気に強化系アビリティを重ねがけ。
そんでそっくりそのまま上昇したステータス数値をDEFに還元する。
「うわーお」
[なっ!?]
驚きの顔を作ったのは今度はケンゾウたちの方だった。
ケンゾウは面白そうな声をあげ、《二式》は驚愕する。
ミルクルさんは振りかぶった形がより凶暴になった棍棒を思いっきり俺に振り下ろした。
例えるなら大岩が遙か上空から一直線に俺めがけて落ちて来たような。
あるいは俺の立っているところのみ重力百倍のような。
取り敢えず、なんでなのか知んないけど痛みを感じなくて怖い。
「生きてる?」
ミルクルさんがひょいと首を動かし足を地面に食い込ませた俺に明るく確認を取って来た。
「死んでるかも。痛くねぇ」
「そりゃあATK100だもの」
「へ?」
「だから、剣を出してから『平和主義者ノ領域』使ったから、剣の特性上衝撃はそのまんまかもだけど攻撃力としては紙だからね。ユベルちゃんのDEFは抜けないって」
なるほど。痛くないわけだ。
さて、最後の工夫をと。
それにしてもミルクルさん。そんな細かいことができるようになったんだね。
あのガサツでいい加減で大雑把で面倒くさがりでどうしようもなく女を捨てているミルクルさんが、成長したもんだ。
「ミルが……ベルに配慮した……だとぅ……世界の終わりだ……」
「ケンゾウ! お前ってやつは! 全くそれなー、激しく同意。だけどそう言うのは心の中だけで言うもんだ。わからんでもないがそんなこと言ったらまたミルクルさんがキレるだろうが!」
「……二人ともそこにならえ……」
やだなぁ。可愛らしいジョークじゃないかぁ。
オーケー。感情が高ぶりやすい原因はストレスだ。深呼吸でリラックスだ。はーい、すってー、はいてー。
オーケーオーケー。俺なんかじゃ止められないんだなよーくわかった。
ほら、この赤いマントに飛び込みたくてしょうがないんだろうーん。んー?
はいよー。ほれー、かもんかもーん。
「『秘剣』」
「はっはー! シャレにならん!」
「同感だ!」
ミルクルさんが棍棒を振り上げ、その棍棒の周りを剛風が吹き荒れる。
近くにいると俺から狙われるので距離を取る。
俺は今とびっきりいやらしい笑顔でいるだろう。
ケンゾウの俺と対照的な引きつった声を聞くだけで口元がだらしなくニヤける。
「急にどうしたよ。さっきまでの余裕はどうした? ん?」
「ケッ。ようやくお前らしくなってきたなぁいい性格してやがる。ミルの扱いが上手くなったじゃねぇかよベル。ついに抱いたか?」
「恐ろしいこと言うな」
「根性なしめ」
「俺の立場だと思ってもう一度どうぞ」
「……悪かった」
よかろう。特別に許してやる。
だが今回の件は一発ぶん殴るまで絶対に許さん。
ミルクルさんがドス黒く歪な形をした両手槌を構え。
ケンゾウが二式を前に立たせ『コントローラー』を操作し。
俺はスライムズにゴールドを振り込んで深呼吸を。
「『悪殺』」
「『アップデート』」
「『限界破壊』」
ソロプレイヤーたちの戦闘が始まった。




