信じられないでしょうけど、金属の戦士です!
「兄ちゃん、お前の名前を聞かせろ。お前の名前はなんだ」
「名前? なんでそんな事を聞く」
「いいから答えろ」
工房の中に入り第一声がそれだった。
それなりに広い工房内には俺の目の前で腕を組み仁王立ちをしているガン以外に誰もいなかった。
なぜ名前を聞くかなどもうすでにわかりきっている。
それに、工房に入った時の俺の行動も悪かった。
固く閉ざされていた扉を思いっきり蹴破った挙句、「どいたどいたー! ユベル様のお通りだー!」と叫んだからな。
いや、決して俺のモラルがなくなったとかじゃないからね?
ほら、知りもしない奴に怯えているままじゃかわいそうだし、扉は閉まってたけど教えてあげたほうがいいかなって言う俺の親切心があるわけよ。
いや、すまん。ぶっちゃけ空気に耐えきれなかった。ふざけてごめんよ。
「『ユベル』だけど、それがどうかしたのか?」
俺が名乗った。
カッと目を見開いたガンが俺の胸ぐらを掴み上げ、尋常ではない形相となった顔を近づけメンチを切ってくる。
「て、て、てめぇがぁ」
その言葉に込められた怨嗟の響きに俺が冷めた目を向けるのも束の間。
気がつけば視界が二転三転と回転し、数度地面に打ち付けられ、扉付近まで地面を擦り提示する
とりあえず、殴られた頬を片手で抑えながらムクリと立ち上がり、ぱんぱんと埃を落としてからガンへと視線を送る。
「てめえが……てめぇのせいで……ミーシャが」
ガンは眉間をシワを寄せ目を釣り上げながら、拳をブルブルと震わせて俺を睨んでいた。
とてもじゃないが初対面の相手に向けていい表情ではない。
「成る程、俺のせいか。まぁそう思うのもわからんじゃないが、別に俺が直接何かしたわけじゃないってのに、ひでえもんだな」
「うるせぇ! てめぇなんぞに売る剣はウチにはねぇ! わかったらさっさと失せろッ! その面ァ二度と見せんじゃねえ! 目障りだ!」
まぁまぁ、そう言うなよ。責任とってまだ確証もない時点で一発無抵抗でぶん殴られてやったろ。
俺が傷つけられた事で理性を飛ばしたアオとミドリをマスター命令で抑えながら、
「『宣約の印』」
キーワードを口にした瞬間ガンの動きはピタリと停止し、振り上げていた腕をゆっくりとおろし、恨みがましい目で俺を睨む。
はい、ビンゴ。
当たっては欲しくなかった予想にため息をつきそうになるのを我慢し、俺の責任ぐらいは取らねばならないなと思う。
「あー、すまなかった。あんたらには迷惑をかけた。この通りだ」
まずは頭を下げて謝罪をする。
悪いことをしたらわず謝る。これ常識。
「謝って済む問題じゃないってのはわかってる。本当にすまなかった。許してくれなんて虫のいいことは言わない。せめて、俺のせいで被った迷惑の責任を取らせてほしい」
「責任だあ?」
下げていた頭をあげて、俺は必要なことを簡潔に一言でまとめた。
「あぁ、『宣約の印』には制限時間がある」
おそらく、知らなかったのだろう。
ガンの目が驚愕に見開かれ、明るくなり、そしてすぐに細められ俺を睨んだ。
「時間は先約によって様々だけど、確認方法がないわけじゃない。『宣約の印』を嵌められた奴には『契約期間』というアビリティが一緒に付与されて、そこに詳しい時間が記されるんだ。娘さんの期間はあと一ヶ月。奥さんの期間が二週間ってとこかな」
俺はガンをスルーしてなおも話を続ける。
これが本当のガン無視。あ、ミルクルさんごめんなさい。真面目にやります。
宣約の印の制限は、まず相手が宣約を行わなければいけないことと、しばれる時間には限りがあることと、縛る相手は『保険』対象の相手であることだ。
「時間が経てば勝手に首輪は消えるよ。とはいえある日突然首輪が消えても、安心なんて出来ず、困惑するか恐怖するかだろうな。そんな不確かな状態で約束は破ることができないし、それがこのアビリティの怖いところだが。よかったな。知ってればどうってことないだろ?」
「おっと、俺の言うことが信用できないか? そうだろうな。原因の一端は俺に責任があるのだから、そう思うのも仕方がないが、まぁ論より証拠だ。実際に時間が経てば消えるし、たとえ講義持続していたんだとしても俺に剣を作らないなんて約束なら、永遠に守ることだって容易い」
それに今すぐ解除する方法だってないわけじゃない。
とはいえ前EGO世界の弱体化する前の俺ならともかく、今の俺にはできる手立てがないが。
そう、今の 俺 には。
「なぜそこまでするのかとでも言いたげだな。なにも不思議なことじゃないだろう。さっきも言ったが俺はやるべきことをやりにきただけなんだ。それに」
「……本当に」
「うん?」
言葉の途中に割り込むようにガンが話しかけてきたので、一旦言葉を切ってあいづちを打つ。
「本当に……本当に、二人は大丈夫なのか」
「大丈夫だ」
これには即答できる。
『宣約の形』は人を少し息苦しくさせるぐらいの力はあっても、殺すことができるほどの力を持ったアビリティじゃない。
そも、それをかけた張本人である奴は、罪人どころか、その罪人を『裁く』奴なのだ。
元から罪に問われるようなことをできるようなやつじゃない。
「俺の命に賭けても、嘘偽りはないと言わせてもらおう」
俺の言葉に安堵したのか、ガンは息を吐きながら、その場でへなへなと膝をついた。
まぁ側から見てもクビに着いた鎖のタトゥーは痛々しいからな。
それがちょっとしたことでちらつけば、そりゃ精神もすり減るだろう。
「すまなかった」
「いや、こっちこそ、殴って悪かった……あんたの言う通り、あんたに何かされたわけでもねぇ、悪いのは全部、あの覆面野郎だってのに。ありがとう、感謝する……」
「やめてくれ。少なからずそいつとは無関係じゃないんだ。ああは言ったけど、俺のせいでもある。間接的に俺が傷つけたと言われても、まぁ文句は言わない。だから殴られたのだって当然の落とし前だ」
だからまぁ、殴られたわけだしな。
ケジメは取るべきだと思ったが、少しクサかったか?
「いんや。なかなかやれることじゃないよ。ユベルちゃんは立派立派」
ミルクルさんが拍手してくれた。
はっはっは。なぁに、キミの手料理を食べるのに比べれば殴られるなんて朝飯前……ナンデモナイデス。
「お嬢ちゃんも、突っかかって悪かったな。止めてくれたこと、感謝する。あの投げは効いたぜ」
「そりゃ効くように投げたんだもの。関係のない女の子に暴力を振るうなんて最低よ。私じゃなくて、あの子に直接謝ってね」
「ちげえねぇ……そうか……二人は大丈夫か、そうか」
話を聞いて薄々感づいてはいたが相当参っていたのだろう。
目元を抑え黙ってしまったガンを見ながら、慎重に言葉を選ぶ。
「『宣約の形』を、すぐに消す方法もある」
「本当か!?」
「ああ」
「どうすればいい! 教えてくれ!」
先ほどまでの敵対の意思はまるで感じず、ただ必死に俺を頼る姿に少し戸惑いながらも答えようとして
《ますたー》
「わかってる」
近くに分散して放っておいたベイビーズから連絡が入り後ろを向き、その後すぐに壊れた扉から飛び込んできたナイフを三本指の間に挟んで受け止めてから、ガンを突き飛ばし鍛冶道具に使われていた石の机のようなものをひっくり返しバリケードを作る。
「な、なんだ」
「このナイフ……はぁ……ガンさん。さっき言っていた話の答えだ」
今すぐに能力を消し去る方法。
「それは、アビリティ発動者に直接解除させることだ。よ、ケンゾウ」
石の机からひょこっと顔を出し声を上げる。
「よぉ。ベル。久しぶりじゃねぇかよ、なぁ」
すると外からアンサーが帰ってきて、すぐにその声の主の姿が見えてきた。
右目の部分だけ穴を開けて視界を作っている、頭陀袋を被った見た目摩訶不思議な姿の少年だった。
見たはずもない姿なのに、その雰囲気と、わかりやすい話し方で誰かわからないことはなかった。
「あぁそうだな。しばらく見ないうちに男前になったじゃないか」
「ベルは変わっちゃいねぇなぁ。ミルも久しぶりだな。こっちも変わってねぃ。んだよ、ガキになっちまったのは俺だけかぁ?」
頭陀袋の上からガリガリと頭をかきそんなことを言う。
ちょうど姿を変えてはいるが
「いんや。ガキになったのは俺もミルクルさんも同じさ。ジャックのやつもそうだった」
「へぇ。【 人切包丁 】に会ったんだ。お前らがまさか二人でいるとは思わなかったが、そうか、二人がかりならあいつ一人ぐらいどうにかなるわな」
「這々の体で逃げてきたけどな」
「あ、そう。ごくろーさん。にしてもベルよぉ。酷えじゃねえか、あん? お前の武器を打っていいのはこの俺とあのクソ女だけだ」
変わっていないのはどっちだ。本当に変わっていない。
頭陀袋の少年改めケンゾウは、親指を自分に向けて、憤慨するかのように叫ぶ。
「勝手なことを。何度も言うがそれを決めるのはお前じゃないぞ」
「いんや。俺だね。俺に認められた男が、俺以外の腕も信用できねぇ有象無象共のゴミを使ってると思うと寒気がすらぁ」
「いい加減にしろ。お前がこの国にいるってのはわかってた。ミルクルさんに魔剣を投げつけたのもお前だろ。関係のない人をお前の都合に巻き込んだ挙句、友人にすら刃を向けるっつーのは、流石に放置できない」
「ほうほう。じゃあどうするよ?」
『逃亡』・『超逃亡』並列発動。
『ジャンプ』
「こうする」
移動速度と反応速度を限界まで引き上げ、その状態で並べ食い力を抑えながらジャンプを行いケンゾウの背後をとった。
「一発食らって反省しろ。『反射』」
「死んじまうよ。頼むぜ《二式》」
[了解です。マスター]
ガギイイイイイイイイイイイン!
「……ッ!?」
突如建造の頭陀袋の中から小さなイヤリングが地面に落ち、そのイヤリングが膨張し俺の目の前に大盾が出現する。
軽く吹き飛ばすつもりでそこまで衝撃をためていなかったせいか、突如俺たちの間に滑り込んできた何かに完全に力負けし、受け止められてしまった。
そして、ケンゾウを守った大盾を持つ小柄な何かは、俺に電子音を響かせた金属質な眼球を向け、すぐにシールドバッシュのような動きで吹き飛ばした。
[マスターには指一本触れさせません]
「助かったー。流石は俺の《二式》だ」
[お褒めに預かり光栄です。マスター]
小柄な身長に、小さな足とは似ても似つかない発達した両腕。特徴的なのはその両腕にそれぞれ大盾を立てで半分を割ったような形状の盾がくっついていることと、その姿が全て『機械』でできていることだ。
「『バトロイド』《二式》か。その姿を見るのも久しぶりだな」
[はて。一度お会いしたことがございますでしょうか? 申し訳ございません。貴方の姿にデータが存在しないのですが]
「あー、気にすんな。前に言ったろ? あいつがお前を作ってくれたもう一人の創造主だ」
[!!]
だろうとは思っていたが、エネミーコールができないこの世界で一人だったからてっきり今はひとりなのかと思ったんだがなぁ。
そうは問屋がおりないらしい。
ケンゾウが頭陀袋の上から自分の耳の部分を触れると、複数のイヤリングが揺れジャラジャラと音がなる。
イヤリング形にまで軽量化が可能になったとは驚いた。ある意味俺たちの最終目標ではあったからな。
そして、ガンの家族にかけられたアビリティを解除させるのなら、本気のこいつをぶっとばさなきゃならんというわけだ。
しかしそれは
【 最先端カラクリ技術 】の二つ名を持つこの男、ケンゾウの『バトルロイド』たちを打倒できればだ。




