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赤い人  作者: 背徳の魔王
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怪異『赤い人』




『赤い人』の噂が流れたのは、昭和39年の梅雨頃である。



事故を起こした車に乗ってたカップルが、赤いレインコートを着た女の人が突然。道路の真ん中に現れたと訴えた。しかしそんな女などいないから。対応した警察官は、見間違いだと結論付けた。だがそれこそが。怪異事件の始まりだと言われていた。最初の行方不明者が出たのは、それから1週間後のこと━━。



静岡県熱海市に住む。中村佳代子。三奈子親子が、最寄りの駅から手荷物を持って、降りたったのは、その年7月上旬。珍しく天気に恵まれた。貴重な梅雨の合間の晴れ間であった。

「お母さん。明日なプールあるから、目薬忘れんといて」近所でも元気が有り余ってる。男勝りな娘三奈子の物言いに、苦笑滲ませながら。おっとりした性格の母佳代子は、

「自分で入れとけば良いのに」

「ん~だって、お母さんに確認してほしいから。お願いします」

甘えた口調の娘に、しょうがない子ねっとおっとり笑っていた。そんな幸せそうな会話をしていた。親子は、夕焼けが美しい町並みの中に異質な存在。真っ赤な傘を差す。レインコートの女の人を見かけた。奇異に思い。親子が急いで、その場を後にしましたが、赤いレインコートの女と目が合っていた。



数日後━━。確かに前日の夜まで、中村佳代子。三奈子親子はアパートにいたと。近隣の住人は言っていた。しかし……、作りかけの夕飯。つけられたままのテレビ、やりかけの宿題、何もかもがそのままで……、住民だけがぽっかりと消えてしまっていた。



それから……、一月の間に。同じような事件が、起こって。一部の地方紙が、格好のネタとして、真夏の怪異と。報じた。



今年地方の新聞記者の玉子として、配属された高瀬一美、先輩記者の室岡は、デスクから行方不明事件のこと。調べてくるように言われていた。

「デスクよりにもよって、そんなオカルト。扱うのはどうかと……」

憮然と文句を呟く室岡に。まあなと苦笑滲ませつつも。

「最近部数を伸ばせと。部長からせっつかれていてな、昨年の夏に2ヶ月限定で書いてもらった。有名人のコラムが、予想外に人気でな、オカルトブームでもある。何か取っ掛かりになるかもしれないだろ?」

新しく就任した部長の顔を思い出して、顔をしかめていた。現場を知らない人間が、何かと首を突っ込んでくるのは頭の痛い話である。

「そろそろ高瀬に。現場の勉強させてやるのも。いい経験になるしどうだ?」

高瀬一美の父は、室岡にとって恩人である。確かに駆け出しの頃。高瀬幸治さんの下で、小さな事件をコツコツ調べた経験が、室岡に取材のノウハウを教え、沢山のスクープを取させてくれたのも事実。年齢を考えたら後任を育てるのも。大切な事だと理解していた。

「分かりました……」数日後……室岡は、高瀬を連れて、静岡県・熱海に向かう。



それは最初の行方不明者が、温泉街で有名な熱海にある。アパートであったと。噂があったからだ。温泉街と有名な熱海だが、有名なオカルトスポットでもあって、この手の話に事欠かさない。室岡は事件か分からないが、ネタを練り上げるにも取材が大切なこと。自分の足で探す意味を教えるため。小さな民宿を拠点に。取材を開始したのだ……、

「あんた達『赤い人』を探してるのかい?、止めときなあんた達まで、つれてかれるよ」

問題のアパートは、事件のあと気味悪がられ。住人がみな退去していた。古いこともあり大手のホテルが、土地を買い取り。来年にもアパートは取り壊されると言う話だ。何とか住んでいた住人を見つけて、話を聞くことができた一美に対して、これである。

「『赤い人』ですか?」

疑問を口にした一美に対して、中年女性は。何とも言えない顔をしていた。

「あんた達知らないで、調べてたのかい?、あれは危険なんだよ。見掛けたら目を合わせちゃいけないよ。声を掛けられても返事をしちゃいけない良いね?」

きつく言われてしまい、訳は分からないが、取り敢えず頷いていた。



二人の新聞記者が、『赤い人』のこと調べていると分かるや。近隣の住民の口は重くなっていた。理由が分からないと室岡は戸惑う。長年記者をしているが、こんなことは今まで無かったことである。ただの行方不明事件にしては、不自然な点も見逃せない。高瀬が戻ったら。一度社に戻り、デスクと話す必要を感じていた。辺りはすっかり日が沈み。山の麓にある民宿からは、漁港が遠く見えていた。何気なく窓辺に座り、下を見ていると高瀬の姿があったから。ようやく……帰ったかと苦笑していた、しかしその目は……、高瀬の後ろに目が向いて。鋭く目が細まっていた。

「あれは……」

それは、見るからに真っ赤な傘を差してる女であった。真っ赤なレインコート。口にマスクをした黒髪、噂通りの姿に。肌が粟立った。

「あの馬鹿…、なぜ気付かない……」思わずぼやいた瞬間。傘が上がりこちらを見た気がした。咄嗟に座り込み。窓の下に隠れていた。ゾッとしたのだ。一瞬目が合った気がした。構ってる余裕が室岡の中から消えていた。程なく高瀬が戻ったが、あえて室岡はその話をしなかった。



━━翌日二人は一度社に戻る。




数日後……、室岡さんが体調不良を理由に。会社に来なくなっていた。さすがに心配になった高瀬は、室岡の住む社宅に寄ることにした。

「室岡さん……」

何度か声を掛けていると。ようやく扉が開き、高瀬の顔を見て、顔色の悪い室岡はホッとしていた。 「なんだよ本物か……、とにかく入れ」そんな奇妙なことを言われて、訳が分からないと。一美は首を傾げていた。




室岡は、単身赴任している妻帯者で。娘が二人いるのは聞いていた。男1人暮らしだけに。ある程度薄汚れてるのを覚悟したが、予想に反して室岡はきれい好きだった。仕事場にしていたデスクの上だけ。山盛りの灰皿。飲みかけのコーヒーマグが沢山置かれていた。

「これお土産です」 駅前で買い求めた。チーズケーキを示した。室岡は見た目と違い。甘いものに目がない。

「ありがとう。助かる」

うつむき加減のまま暗い表情を崩さない。

「どうしたんですか、室岡さん?」

流石に心配して、尋ねたのだが……、

「何でもない……。そろそろ遅い。高瀬お前、もう帰れ」

と言われて、高瀬は後ろ髪引かれる気持ちのまま帰宅する。



後日……室岡が、行方不明となり。高瀬は一通の手紙を。ハンドバッグから見つけ出すことになった。

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