ホタル
「茜ちゃん。夜はホタル観に行こうな」 ソーメンすすりながら。毎年行う。町内会行事を口にしていた。
「あっ、もうそんな時期なんやね」
最近女の子が失踪したって、何かと噂話があったから。今年は観に行かないかと思ってたので、嬉しくなっていた。
その日の夕方━━。
珍しくゆうくんはお母さんと一緒で、私達の町内会は、近所の人と行くのが普通である。国道の先に。地蔵公園と呼ばれる小さな公園。それを左手に、国道沿いを歩いていくと。小さなお堀が見えてくる。協同用水路が流れているのだが、その支流の溜め池の近くに。それはそれは綺麗な小川があって、大阪でホタルが見れる数少ない場所である。
「隣町は、工業用水流すから。小川が汚染されてもうてホタルは駄目やなな……」
「ああ道頓堀も酷い匂いがして。とてもじゃないが、魚は食べれへんな~」
「全くだ……」
重い会話が続く。茜にとって、大人が嘆くのかいまいち分からない。「貫ちゃん、茜ちゃん今晩ゎ~」
「ゆうくん今晩ゎ~、一緒に行こうよ。いいやろお母ちゃん」
「うんエエよ。お久しぶりね雪さん」
久しぶりに見かけたゆうくんのお母さんは、色白な見た目優しいのだが、恐ろしい酒豪である。近所の人は軒並み潰された経験があって、お母さん方に人気がある。「ええお久しぶりゆうが何時も。お世話になってるわありがとうね貫ちゃん、茜ちゃん」
にこやかに微笑まれ。弟は照れた笑顔を見せた。
「まさかこっちで、蛍が見れるなんて。驚いたけど……、久しぶりだわ♪」
とても嬉しそうに笑う姿が印象的である。昔から先祖を、お盆にきゅうりの馬で出迎え。ナスの牛で送り返すと言う風習があります。またお盆に蛍を見に行くのは、弔いの意味と。先祖に無事であると知らせる意味合いがあった。だからお盆に蛍を見に行くのは、大切な行事でした。何人か竹ホウキ、袋を持って来てる大人もいます。空を乱舞する蛍は竹ホウキを振ると止まりに来るので、簡単に捕まえれる事が出来ました。
「そう言えばまた『赤い人』が現れてるそうね」
大人の会話はつまらないから。ゆう君と貫の会話に耳を傾ける時、そんな話題が聞こえていた。
「困った物ね。早めに祓わないと。大変なことになるわね。警察がどうにか出来るのが一番やけど」 「怪異は……、専門外だし。また人死にがでるのやろうか」 苦い吐息を漏らした。何だが聞いてはいけない話を聞いた気がして、胸がドキドキした。
『赤い人』と呼ばれる女の人が、生まれた事件があったのは昭和37年の梅雨のある日。交差点で佇む赤いレインコートを着た女の人と。小学低学年の子供と手を繋いで信号が変わるのを待っていた時でした……。強い雨の降りしきるせいもあり。信号が確認できず。事故を起こしたトラックの運転手は、歩道を歩く親子を見つけた時には手遅れで、子供は即死。母親も顔に大怪我をおったという……、それだけ聞けば悲劇として終わるが、母親はキャバレー勤めの美しいと評判の ホステスでした。
数ヶ月の月日の間献身的な夫の看病もあって、どうにかホータイが取れる日が来ました……。本当の絶望が待っていたのです。妻の顔を見た夫は、真っ青になって病室を出て、その後行方不明になり。自らの身体を切り刻み最後は焼身自殺をしていた。女は当初訳もわからず。看護婦まで、女の身の回りから鏡と言う鏡、窓には内側から見れないように。新聞が張られ。しまいには霊能者、有名なお坊さんが彼女の様子を見に来ることになりましたが、不思議なことに彼女を見ると泡を吹いて倒れ。心臓発作を起こして死に。彼女の顔は再びホータイで隠されることになったという……、
一年が過ぎ……、流石に可笑しいと疑問を抱いた彼女は、深夜……、こっそりと部屋を抜け出して、トイレに向かい。鏡の中で、自分の顔にあるホータイを一枚、また一枚と外していき。変わり果てた自分の顔前に。絶望していた。
口は耳まで裂けていて、肉はめくり上がり。唇のようになっていて、歯は事故で強く打ったか、真っ黒に変色。目は腫れぼったく。その回りは真っ青に変色したまま……。
「こんな……」
女は狂ったように叫び。病室から抜け出したことに気が付いた看護婦の手によって、病室に戻されました。
その日の夜……。女は自分の目をナイフでエグリ。首を吊りました。それが『赤い人』の怪異が生まれた瞬間でした。




