消えた少女
━━その年の夏休み。PTA、学校側から、
休みの間。3時以降……。子供1人で出かけないよう。赤い人を見掛けたら、直ぐ逃げるように言われた。どうして?と思った小学生は多い。
ただ水町茜は違う。数日前にゆうくんが言ってたことを思い出していた。どうしてゆうくんは、それを知ってたのか不思議に思った。
「姉ちゃん。明日家で遊べって母ちゃん言うから。ゆうくん呼んでいいかな?」
ちょうど会いたいと思ってたから。「いいよ」って言うと見るからにホッとしていた。ムッと嫌ある顔で睨むと弟は慌てて、
「じゃ、俺宿題やるわ」
居間に逃げ出した。まったく気が利かない弟である。
お昼が過ぎて、ゆうくんがお邪魔しますと言って訪ねてきた。
「まあ~ゆうくんよう来たね。外は暑かったやろ。今麦茶だすね」
「貫ちゃんのお母さんありがとう~、今日もきれいやね♪」 「あら~ありがとう嬉しいわ~、隣の奥さんも肌が若いって言うてくれるんよ」 嬉しそうに微笑む母は、ヨウカン出したげる。ご機嫌に呟き、鼻歌混じりに。台所に向かう。
「ゆうくんあんまお母ちゃん誉めんといてな~、後が大変やから」
しみじみ休みのお父ちゃんに言われて、にっこり笑いながら。
「でもおじさん、あんなきれいな奥さんもろうて。ゆうくん羨ましいよ~?」
「そっそうかな」
満更でも無さそうに照れ笑いする父。
「それにな~おじさんこの間。ゆきばあちゃんのお手伝いしてあげてたでしょ?。あれみんなに言ったら。優しいお父ちゃんやね~ん、貫ちゃん嬉しそうに自慢しとったで」
「ゆうくん……それ内緒っていったやんか」
慌てる貫に。お父ちゃんはますます照れ臭そうにしていたが、
「らっ来週試合見に行くか?」
「ほんま!?」
最近喧嘩が堪えなかったお父ちゃんと母ちゃんが、昔みたいにニコニコ笑う姿が、なんとも嬉しくて忘れていたけど。
━━夕方になるころ。
「貫ちゃんそろそろ帰るわ、夕飯隣の金ちゃん家でご馳走になるから。またね」 「うん、お父ちゃんゆうくん帰るって言うてる。家まで送ったって」
「おっそうやな!、ほな待っててな」 「おじさんありがとう。助かるわ」
ニコニコ笑うゆうくんに。みんながつられて微笑んでいた。 「あっ、そうやゆうくん。あんなこの間言うてた『赤い人』のことどうして知ってたん?」
気になってたこと聞くと、少しだけほろ苦く。悲しそうな横顔にドキッとした。子供らしくないって怒鳴る大人を見たことがあるが、ゆうくんとしばらく話して、泣きじゃくった姿を見たときに似た。不思議な気持ちが胸中を走る。
「あの人はとても寂しい人。自分の子供を事故で亡くし。自殺した人だよ。だから目があっても。話しかけられても。無視しなくちゃならない」
「どっどういうこと……」
背に寒気が走っていた。とても怖い話をされてる、そんな気がした。
「茜ちゃん。好奇心は猫を殺す……」
知的な眼差しで、なんか難しい例えを言われて。眉をしかめていた。
その日の夕方。谷ミユキは、母親、妹、自分の三人で手を繋いで、畦道を歩いていた。何だか母とこうして買い物に出るのも久しぶりである。
「お姉ちゃん早く早く!」
その手にある袋に、シャボン液が入っていた。庭でそれをしたいと笑っていた。だからミユキもそうだねって、笑う。何時もの光景。
ふっと見えてきた地蔵公園を見たとき。あの『赤い人』はいなかった。ミユキは心底ホッとしていた。夜になり……妹と散々遊んで疲れたが、 「ミユキちゃん、宿題やりいや~」
「はあ~い」
来週はお盆。おじいちゃんの住む兵庫に行くから。早めに宿題を済ませるつもりだった。後絵日記だけだから。忘れずに書か無くては、そうそう天気も。忘れると後々大変である。下書きして、後クレヨンで塗れば出来上がりである。
「よし終わり~」
伸びをして、何気無く二階の部屋から外を見たときだ、視線の先に。赤い傘が見えた。
「えっ?」
思わず二度見したら。赤い傘は消えていた。
「気のせいよね……」
気持ち悪くなって、急いで下に降りていた。
夕飯を食べ終わり、妹とドリフを見て、沢山笑ってから早く就寝したミユキは、寝苦しさから夜中に目を覚ました。
「お姉ちゃん?」
「お水飲んでくるな」
「うん、お休み」
隣で寝てる両親を起こさないよう、気をつけながら部屋を出て、階段を降りていた。ミユキの家は建て売り住宅である。近隣の家もだいたい似た構造になっていて。階段を降りると玄関があって、大きな鏡が置いてある。階段の左が和室と居間。その奥が台所。階段の下がトイレ、台所と小さなスペースに洗濯機。お風呂がある。鏡の前を通った瞬間。ミユキは気が付かないが。彼女の真後ろに。赤い傘を差したレインコートの女が、一瞬鏡に写る。
何も気が付かないミユキは、慣れた手つきで、冷凍庫から氷を出して、どうせならオレンジジュースにしようと。氷を入れていると。
「あらミユキちゃん、喉渇いたの?」
近付いて来た足音を聞いて、母が降りてきたのかそう思い。 「うん、喉渇いちゃったんや」
と返事をしていた。その途端足音は消えて、妙に冷ややかな寒気を感じて、ブルリ震えていた。
「お母ちゃん?、どうしたん」
心配になって冷蔵庫を閉めて、そちらをみたが、
「えっ……」
誰もいなかった。
「そんな確かに今……」
ゾワリ、肌が粟立つような恐怖を感じて、嫌な予感がしていた。ジュース飲んだら早く寝ようと。ごくごく飲みながら。何気無く天井を見た……、赤いレインコートの女が、じっとミユキを見ていた。ゴトンコップを落としたミユキ。後ろに下がるとトスンいるはずのない何かに。背が当たる。「あっ……」
悲鳴をあげようとしたが、ミユキは『赤い人』に抱えあげられ。悲鳴を上げる間も無く忽然と消えていた。
後日……、真夏の怪と新聞に載るが、まだ事件は始まったばかりであった。




