間抜けな搭乗者
カシューは、威勢を張ってはみたものの、何か作戦があるという訳ではなかった。コンピューター制御でアシストされた二体のロボットたちに、同時に襲われると、流石のカシューでも避けられない。
こういった時の常套手段は、何処かに身を隠すか、どちらか一方に襲い掛かることだ。
しかし、コンテナの上には、障害物がない。
では、後ろのプラネットムーバーを倒すか?損傷部分を狙えば、倒すことは容易いかもしれない。だが、そうすると、コンテナ車に置いて行かれる事になりそうだ。
カシューには、選択肢が一つしかなかった。
正面と決めたカシューは、早くも全速力で駆け出した。
すると、正面のガトリングの銃口が、カシューを狙って回転する。鋭利な弾丸が連続で発射された。
カシューは、自身の体、人工素体と呼ばれる擬似人体の身体能力を最大限に活かす。カシューが歩を進める度、桁外れの力でコンテナの天井を歪ませる。
――ガンッガンッガンッ!
大きな歩幅で、大きな足音を鳴らす。降り注ぐ弾丸の雨を、全力で避けた。
相手は、人の何倍もの力があるロボットだ。人が搭乗しているからと言って、手加減をする余裕など、カシューには無かった。
コンテナの天井にカシューの後を追って、弾痕が出来上がる。それを見たプラネットムーバーは、直ぐにガトリングの回転を止めた。搭乗者が「やっちまった。」と、慌てているのが感じ取れた。
彼らは、思った以上の間抜けだった。きっと、コンピューターに頼り切った生活を送っているのだろう。
――何故そんな事をしてしまったんだ?この時代、そういったニュースが後を絶たない。ニュースを観た者は、笑って済ませ、社会問題となる頃には、もう手遅れだった。今や自衛するしか方法がないのだ。
自分で考えることを止めてしまった人ほど、こういった凡ミスを繰り返す。カシューも驚きだった。まさか、自ら積荷を破壊しに掛かるとは――。
カシューが大きく横に躱した所を狙って、背後からレーザーが発射された。
「――ばっ馬鹿野郎!」と、男性が心の底から叫ぶ声が聞こえた気がした。
カシューは、力強く床を踏み込み跳躍する。レーザー砲は、コンテナの上部を呑み込んで、眩い線を微かに残して過ぎ去った。
コンテナの内部が、部分的に露出した。レーザーが通った断面は、熱を持って赤く発光し、所々で火花が散る。その隙間からは、沢山の機器と大きなガラスの容器が覗き見えた。
プラネットムーバーは、跳び上がったカシューから、間合いを取るようにして後ろに下がる。
しかし、カシューが、そうはさせない。空気を噴射する脚に、素早く銃弾を撃ち込む。特殊な装甲に弾かれはするが、バランスを少し崩させて、その動きを一瞬だけ止める事に成功した。
カシューは、その隙を見て、プラネットムーバーの大きな体に跳びついた。ガトリングの銃身に片足を掛け、その湾曲したボディーに乗り掛かる。――捕らえた。
コックピットの中の搭乗者は、カシューのその不気味な笑顔を見て、ぞっとした表情で震え上がっているはずだ。
プラネットムーバーは、予期せぬ重みでコンテナ車の前面――歪んだボンネットへと着地した。破壊されたフロント部分が、更に歪む。
脚の噴射を強め、砕けたフロントガラスが風に飛ばされて巻き上がった。大きな体を、再び浮き上がらせようとし始めた所で、カシューがプラネットムーバーの上部を、目一杯の力で蹴り上げた。
カシューは、巨体から離れる様にして跳び上がり、宙を回転しながら、再びロボットの脚の噴射口を銃で撃ち抜く。
プラネットムーバーは、空中で蹌踉めき、バランスを崩し始める。そして、カシューに撃ち抜かれた噴射口は、煙を上げて爆発した。
片脚の制御を失ったプラネットムーバーは、ひっくり返って背中から地面に転げ落ちる。まるで、演技に失敗したスケート選手の様に、一瞬で脚が天を向き、頭から地面に叩きつけられる。この場所では、氷の上以上に危険な転び方だ。
プラネットムーバーは、走行するレールの下の地面に背中を叩きつけると、体の装甲を地面に削り取られて大量の火花を散らした。
すると、地面に体を跳ね上げられ、コンテナ車に衝突し、外に投げ出される。スピードの乗った巨体を地面にぶつけて回転させ、跳ねる様に体のパーツを撒き散らしながら、地面を転がって行く。
再びコンテナの上に着地したカシューは、煙を上げて転がり逝く鉄の塊を見送ると、後方に顔を向けた。
そこには、もう一体の半壊したプラネットムーバーが、コンテナの上に鎮座し、カシューのことを狙っていた。
――そこで轟音が近づいてくる。
それは、上空の風を高速で切る音だ。
遥か彼方の空の上から、こちらに向かってミサイルが真っ直ぐ飛んで来る。
そして、ミサイルを放った。で、あろう戦闘機が、ミサイルと並走して空を飛んでいる。その戦闘機の様な宇宙船は、軽々とミサイルを追い抜き、高度を下げて突っ込んで来る。
カシューが急いで座席部分に身を隠すと、コンテナ車のすぐ側を、宇宙船が突っ切った。大きな風を巻き起こし、鼓膜を破壊する程の轟音が通り過ぎる。
物凄い突風が駆け抜け、レールを走行中のすべての車が緊急停止した。車は、左右に揺れ動き、浮き上がり、飛ばされそうになるが、なんとかレールに固定されている。
プラネットムーバーは、強風に耐え切れず宙に舞い上がると、脚から風を噴射させて、空中で耐え抜いた。
しかし、丁度そこに、計算された様に遅れてやって来たミサイルが、炸裂し、プラネットムーバーが爆散した。
どかーん!
プラネットムーバーは、真っ黒な爆煙を上げて砕け散った。カシューは、座席に身を伏せて、なんとか飛んで来る破片を凌いだ。




