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まっさらなコンテナ車

 長い、長い、高速道路を支える橋。湾岸沿いに滑らかな線を描き、美しいクリスタルの山と対峙する。

 その長いコンクリートの床の上から離された高い位置に、レールが浮いている様にして並んでいる。

 上りのレールもあれば、下りのレールもある。都市部へと向かう上りのレールは、そのレールの本数も車の通行量も多い。

 様々な形状の車が走行し、続々と列を作り上げて走り抜けて行く。巨大なコンテナを積んだものから、景色を観る為の可愛らしい観覧車のゴンドラの様な物まで――。


 その中にある、一台のまっさらなコンテナ車。その大きなボンネットの上に、突如として――カシューが降って来た。

 ――ゴンッ。と、鈍い音を立て、右手を突いて着地すると、平らだったボンネットは、紙くずの様に歪んだ。ボディースーツに張り詰めたバネの様な筋肉が、着地の衝撃を吸収する。

 下がった赤い頭を持ち上げて、体を起き上がらせる。

 座席に座るミリタリースーツを着た二人の男性は、驚き慄き、ゆっくりと顔を持ち上げるカシューの瞳を見上げた……。

 静かに覗き込む、カシューの緑色の瞳と目が合った瞬間。彼らは、死を覚悟したに違いない。

 カシューは、右手を伸ばし、腰から抜いたハンドガンの銃口を座席の中に向けると、問答無用で撃ち抜いた。

 青白いレーザー光線が(はし)る。反転した光る文字が綴られたフロントガラスに、小さな丸い穴を空けると、男性は、がくりと首を折り事切れた。

 隣の男性は、悲鳴を上げながらも、慌てて腰から銃を取り出そうとする。

 しかし、彼の手元はもたつき、慌てふためいて銃を取り出すも、その銃口がカシューを捉える前に、カシューに撃ち抜かれてしまった。

 乗車する人間を失った車は、それでも定められた通りに走行を続ける。周囲の車も、何事も無かった様に知らぬ顔をする。


 カシューが銃を下ろし、次の行動に移ろうとした時、カシューの耳元に女性の音声案内(ガイダンス)が流れた。

《右方向で、異常行動を感知。敵と思われます。》

 自分から見て右なのか、走行中の車の進行方向から見て右なのか、判断が難しかったが、カシューは、直感的に顔を右に向けた。

 一本のレールを挟んだ、一つ向こう側のレール。そこを走行する貨物車(トレーラー)から、「ウィーン。」と、開閉音が鳴り始めた。貨物車(トレーラー)の大きな四角い荷台が開く。

 すると、そこから、二本脚で直立した体の大きい二体のロボットが姿を現した。頭部の無い丸い体には、人が乗っている様だ。

 あれは、携帯式の多目的重機――『モバイルプラネットムーバー』と呼ばれる、惑星の開拓に使われる土木用の搭乗型のロボットだ。

 しかし、この二体は、色々と改造がされてある。パッと見でも、しっかりと武装されているのが分かる程に……。

 丸い大きな体の表面には、小さな回転式の銃口が見える上に、左右の(アーム)には、大きなレーザー式の砲台が装着されている。

 明らかに物騒で、危険過ぎる代物だ。彼らは、戦争でも始めるつもりなのだろうか。

 一体が荷台から飛び出すと、走行中の車のスピードに負けて、流れる様に後方へと姿を消した。

 すると、大きな音で後続車に衝突し、大きな体を車体に埋めた。その後ろでは、多くの車が非常停止し、事故を起こしたロボットも、その場に置き去りにされた。

 彼らは、素人なのか、馬鹿なだけなのか、はたまた両方か。カシューは、呆れた顔をしたが、もう一体のロボットの脚が、荷台の上で空中に浮き上がるのを見て、気を引き締める。

「ピス。予定外のプラネットムーバーが二体。」

 カシューは、左手の綺麗な指先を車の天井に添えて立つ。髪は、風に乗り、銃口を下に向けたまま、相手の動きを伺う。ボディースーツを纏った左腕の端末が緑色の輝きを放つ。

「了解〜。いひっ。」

 ピスの返事は、意外にも直ぐに返ってきた。それなのに彼女は、ただ返事をしただけで、指示もアドバイスすらもしなかった。

 彼女の最後の笑い声には、「自分の出番は無さそうだけど、何かあったらサポートするよ。」と、言う意味が込められていた。それをカシューが、どう受け取ったのかは分からないが――。

 荷台の上で空を飛ぶプラネットムーバーは、その大きな体をカシューがいるコンテナ車の前面に向けた。すると、胸の銃口が回転を始め、幾つもの弾丸がカシューに向けて発射される。――マズい。

 カシューは、眉を上げ、大きく目を見開いた。

 ガトリングをぐるぐる回して連発された弾丸が、隣を走行する車の屋根を、木っ端微塵に吹き飛ばす。そして、その車の装甲をいとも簡単に貫通し、カシューのいるコンテナ車のフロントガラスを蜂の巣にする。

 カシューは、荷台の大きなコンテナの裏側に跳びついて、影に身を隠した。流石に運んでいる積荷を破壊する程、相手も馬鹿ではないだろう。

《カシュー。危険です。走行中の車両を停止させましょうか?》

 カシューが、コンテナの角を片手で掴み、側面にぶら下がる様にして張り付いていると、プラネットムーバーが、空中を滑空してコンテナ車の前方に回り込み、半身を曝け出す様にして、カシューの事を覗き込んだ。

「五月蝿いわよ!黙って観てなさい。」

 カシューは、機嫌が悪そうに命令した。

 プラネットムーバーは、進行方向に背を向けたまま、脚から空気を噴射して、空中で上手くバランスを取る。

 そして、覗かせた大きな左腕の砲台で、カシューに狙いを定めると、(アーム)に電流が(ほとばし)り、砲台から極太のレーザー砲が発射された。

 巨大な蛇口から流れ出る水流の様な光のエネルギーが、真っ直ぐにカシュー目掛けて迸る。

 カシューは、コンテナを掴んだ手を軸にして、身を(ひるがえ)す。時計の針の様に回転し、華麗にレーザーを(かわ)す。

 すると、レーザーは、後方を走行する車を一直線に呑み込んだ。車体に綺麗な円形の穴を空けて、後続車を何台も破壊した。

 カシューは、天井に手を突いた状態で、逆さまとなる。その逆立ちの状態のまま、右手のハンドガンを突き出し、プラネットムーバーに向けて引き金を引いた。

 小振りの銃口から、青白いレーザーが発射され、プラネットムーバーの丸い体に着弾する――撃ち込まれた弾は、装甲に当たると、複数に枝分かれし、弧を描いて拡散した。

 カシューは、弾かれるレーザーを見て、驚きを隠せなかった。

「――粒子フィラメントコーティングですって!?」

 『粒子フィラメントコーティング。』

 その特殊な繊維状のコーティングは、レーザーを無効化する上に、弾丸などの物理的ダメージにも、ある程度の強さを誇る。弱点があるとすれば、急激な温度変化ぐらいだろうか。

 レーザーを無効化すると言っても、ずっと照射し続けられると、その熱で簡単に破損してしまう。あくまでコーティングであり、無敵の装甲という訳ではない。

 カシューは、体を回転させ、コンテナの上に着地した。後方から事故を起こしたもう一体が、近づいて来る音が聞こえる。

 カシューは、チラリと後方を目で確認した。レール沿いを猛スピードで飛行する鉄の塊が見える。車と衝突した影響で、左半身は、火花が散る程に破損し、右脚は、曲がってしまっている。

 それが正に、カシューの所為だとも言わんばかりの勢いで、コンテナ車を追い駆けて来る。しかし、よくその状態で飛べるものだ。カシューは、敵ながら感心した。

 前方のプラネットムーバーは、一度振り返り正面を確認してから、ゆっくりと高度を上げ、二体でカシューを挟む様にした位置を取る。

 カシューは、前後を挟まれ、絶対絶命の大ピンチに陥った。レールを走行するコンテナ車の上には、当然逃げ道は無く、手に持つ銃もコーティングに阻まれ効果が薄い。

《私が――。》

「いいから。黙って観てなさい。」

 カシューは、助言をしようとする音声を、遮って黙らせた。

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