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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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にぎやかな廊下

アステライト視点

残った一同の視点

 扉の向こう、廊下が少し騒がしいことには、実は気づいていた。

 団長二人を扉守りにつけているのだからドアを叩く者などいないが、刻々と人の気配が増えていっている。

 そのことにため息を吐いた。


「リオノーラがしてくれていることに異論はないし、止めもしない。好きなだけ、好きなようにやってくれ。俺が手を貸せることはないか?」


 リオノーラの手を優しく引いて立ち上がる。


「えっと……、軍で使っているのと同じ大きな地図をお借りすることはできますか?」

「地図? 作戦室に予備が保管してあるはずだ。常に人に見せるとか、どこかに張り出すわけではないなら渡そう。他には?」


 ほんの少し首を傾げて真剣に考えるリオノーラの仕草が可愛らしくて、目を細める。


「すぐには思いつきません。文官たちと共に、まずはすでに城にあるものを活用してすべての作業を行っています。どうしても買い足さなければいけないものもありますが城の予算は使わない予定です。アステライト様にこの後、使用をお願いする物も出てくるかもしれませんが……」


 合理的。

 効率的。

 経済的。

 リオノーラに対して色々な言葉が思い浮かぶ。


 彼女が私財をなげうたなくても、ある程度城の予算を割いたとしても、十分すぎるほどにお釣りが来るような作案を実行したことを彼女は分かっているのだろうか、と思うほどの自然体。


 畏怖さえ覚えるその知略。


 今までにそれを感じさせた傑物は、間違いなく彼女の父親と兄だけ。


『さすがエルトフォード公爵家の血脈、とでも言わしめたいのか』


 そんな付加価値などなくていい。

 リオがリオとして俺のそばにいてくれたらいいと思った気持ちは変わっていない。


 だが、目の前にいるリオノーラは、間違いなくエルトフォード公爵家の血を引いた女性。


 リオノーラがリオノーラとして、やりたいことをしながら、俺のそばにいてくれるなら、それが森の魔女でも、貴族の女性でも、俺はどちらでもいいし、どちらも受け入れる。


「リオのお願いならなんでも聞く。話してくれ、どんな些細なことでも……」


 握った小さな手の指先に、唇を寄せた。

 その動作にリオノーラは肩を震わせて驚いて頬を染めて、激しく目を泳がせて、ついには助けを求めるようにビオラを見た。


 リオノーラを助けに寄ってこようとしたビオラを、ニビアががしりと掴んで止めた。


 助けを期待できないとすぐに理解したのか、リオノーラは俺へと視線を戻し、指先から唇が離れていくのを困った様子で見た。


「あの、あの、……無闇に甘やかそうとするのはいけないと思います。兄様も隙あらば私を甘やかそうと画策しておられました。子供扱いはしてほしくありません。もうとうに成人した、ただの女です」


 キッと、睨みつけるように強く俺を見て、リオノーラはきっぱりと言い切る。


「子供扱い? なぜ? どうして甘やかしてはいけない?」

「だって……」


 理由を求めると、リオノーラはただただ困った様子で目を伏せた。


「ソーラス殿に画策されていた? ……それって逃げ場はあったのか?」

「ありませんでした……」

「ははっ」


 声を上げて笑うと、リオノーラは口を尖らせてむくれる。その少し幼いような仕草は可愛らしく、大人の女性として接しなければと分かっているのに、昔の森で出会った魔女の少女のことをどうしても思い出させた。


「甘やかしてなにが悪い? 俺にとってリオノーラは甘やかして当たり前の存在だぞ?」

「存在…っ?!」

「妻なんだから」

「つ…っ、でも、でも程度はあると思います!!」

「まぁな。ソーラス殿がどんなことをしてたか、参考までに教えてくれるとありがたい。負けず劣らずを目指そう」

「……っ!!」


 リオノーラは髪が乱れそうなほどブンブンと頭を振った。


 無言で。

 あまりにも必死だ。


 ソーラス殿はどんなことをリオノーラにしていたんだ?


 漠然とした不安がこみ上げた。


「……ひとまず、話はここまでにしておこうか。廊下がだいぶにぎやかになってしまった。昼食も取らなければ。リオノーラも腹が減ったろう?」

「あ、え、……そうですね。お昼の時間ですね」


 シアンとニビアがさっと動いて、机の上の書類や、リオノーラのイヤリングを丁寧に扱う。


 ニビアはビオラにリオノーラのイヤリングを渡した。エルトフォード産の宝飾品を扱うのは、ビオラのほうが慣れているからという理由だろう。


 リオノーラをエスコートして、この小さな会議室を出る。


 待っていたとばかりに、そこに黙って静かに待機していた部隊長、伝令、執事、大量の文官たちの目が、一斉に俺たちを見る。


 扉守りをしていた団長たちが、ほっとした表情を浮かべた。


「にぎやか……」


 俺に手を引かれたリオノーラが驚きを隠せずにボソッと呟いた声が聞こえた。


 廊下で待っていた彼らは、一言だって声を発せずに待っていた。

 それなのに、これだけの人数が控えて待っていて、そのことをにぎやかだと部屋の中から言い当ててみた俺の言葉の意味が、この状態を目の当たりにして合致したようだった。


 物言いたげに、黒い瞳がチラリと俺を見上げる。

 ニヤッと笑って返した。


「待機、ご苦労。急ぎの報告があるなら聞くが、書類ならシアンにまとめて渡しておいてくれ。昼食後、目を通して各部署に返す」


 ザッ、と音を立てて、機敏な動きで兵たちが礼を取る。

 そのよく揃った突然の動きに、リオノーラが驚いて思わずビクリと跳ねたのが分かった。


 小動物か? 可愛いんだけど……。


 ニヤついてしまいそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪えた。   


 俺にエスコートされているから、手は繋いでいるし、身体は寄り添っている。

 自分が驚いて跳ねてしまったことを、確実に俺に分かられてしまったとバツ悪そうに、リオノーラはまた俺を見上げた。


「ほら、リオノーラも何か言ってやるといい。文官たちが用があるのは、リオノーラにだろう?」


 変な指摘をする気はなくて、行儀よく待っている文官たちに言葉をかけてやれと促す。


「あ…、はい」


 リオノーラは彼らに向き直り、口を開いた。


「報告書を受け取ります。どうぞニビアかビオラにお渡しください。指示を仰ぎに来てくださったのなら、どうぞ一旦休憩にいたしましょう。各自しっかりと昼食と休憩を取り、後ほど私の方から政務事務室へまいります。今もしまだ対応に当たっている方たちがおられるのであれば、そちらにも休憩を促すようお願いします」


 そこにいた誰もが呆気にとられた。

 まさか作業の手を止めて休憩を取れと言われるとは思っていなかったのだろう。


 なぜそんな反応をされたのか、リオノーラは逆に疑問を抱いたようだった。


「急がずとも、今日帰り着いた兵士の皆様には今日中に必ず、寝具が行き渡る目測が立っております。急く気持ちは分かりますが、与えられる方の皆様にも昼食と休憩の時間は必要です。そして、手配するこちら側にも。これは命を張らなければいけない行いではないのです。だから、心と身体に余裕を持たせて、行き渡らなかった方などいない確実性を取りましょう。ご飯をちゃんと食べるのは大事です」


 リオノーラは至極当たり前のことを言っているのだが、任務中、急ぎの公務中、平気で食事を疎かにすることのある戦城勤めの者たちが、まさか訳ありで嫁いてきたばかりの夫人に、「ご飯をちゃんと食べなさい」と注意されるなどとは思いもしなかったようだ。


 そういや俺も、ちゃんと食べて、ちゃんと寝ろと怒られたなぁ……。


 ついに耐えられなくて喉を鳴らして笑い出してしまった俺を、リオノーラはじっとりと睨みつけた。


「アステライト様には皆よりもっとしっかり言わなければいけませんか?」

「分かってる、分かってるって。反省してます。ちゃんと食べてちゃんと寝るから」

「絶対ですよ?」

「はいはい」


 笑いながら軽く流すから、リオノーラはどこか不審そうに俺を見る。


 そんなお互いに冗談っぽいやり取りさえ、楽しい。


「聞いたとおりだ。各自しっかりと昼食と休憩を取れよ」


 ハッと我に返ったように、一同丁寧な礼を取る。


 その様子に目を細めてから、リオノーラをエスコートして歩き出した。


 リオノーラとゆっくり昼食を取る時間くらい取れるだろう。


「リオノーラ、どんな話が聞きたい? シフィアフラ殿のことがやはり一番か?」

「それも聞きたいです。あと、アステライト様が大好きな弟さんのお話も」   

「ソルアンドレの? ……俺が弟大好きって、……まいったな…」


 確かにそれは、昔、リオに言った言葉だけど。


 どうしようもなく照れて、頬を搔く。


 半ば呆然とした皆に見送られて、俺たちは昼食を取りに部屋へ向かった。





 辺境伯夫妻が去っていったあと、廊下に残っていた一同は無言のまま、仲間たちの顔を見渡した。


 そして、その場で一番立場のある、弓兵団長と騎兵団長へと視線が集まった。


 ちなみに、シアン家令長と筆頭メイド長ニビア、そしてエルトフォード公爵領から来たばかりのメイドは、夫妻を追って、さっさと報告書を皆から集めて行ってしまった。


 騎兵団長でさえ、弓兵団長の顔を見る。

 数回の差とはいえ、自身よりも弓兵団長のほうがあの奥様と関わった回数は多いのだから、と。


「仲いい、のは、良いことだよな」


 ボソリと呟くと、一同それぞれ、うなずいてみせる。


「凄まじくよくできた奥様でよかった」


 文官たちが激しくうなずいた。


「……王命のワケありの結婚、……だよな?」


 口にした疑問には誰一人うなずく者はなく、誰一人否定も肯定もしなかった。


 ただ、心身捧げて仕える主の、あまりにも屈託のない笑顔など久しぶりに見たなと、誰もが思っただけだった。





アステライト

リオノーラ

シアン

ニビア

ビオラ

弓兵団長

騎兵団長

ウォルフィンリード軍の皆々

ウォルフィンリード文官の皆々

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