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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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アステライトの過去 四年前 祝いと訃報

 当主交代、弟を隣国へ送り出す準備と結婚式への支援、隣国王国との実質親戚関係となった上での親善交渉諸々、いろんなことをやっているとあっという間に時間が過ぎた。


 あれから四ヶ月。

 弟の結婚式に隣国へ貴賓として招かれている間に、驚愕の知らせが俺のもとに届いた。

 手紙の主は父からだ。


『隣領の、前エルトフォード公爵、シフィアフラ・エルトフォード殿が身罷(みまか)られた。式は現エルトフォード公爵、ソーラス・エルトフォード殿が執り行われた。当主不在の旨を伝え、代理として私が哀悼の文を送っておいたが、帰り次第、エルトフォード領への訪問を予定してくれるよう、心づもりを頼む』


 その内容に、息を呑む。


 ああ、惜しい人物を亡くしたと、心から思った。

 父は友人を失って、きっと俺よりももっと深く哀しんでいるに違いない。


 俺が弟の結婚式に出席するために国を出る頃には、父はもうベッドの上で一日を過ごすような体調になっていた。

 それでも、息子の隣国での結婚式に親族の誰も出席しないなど許せるわけがない、と俺を送り出し、この手紙もベッドの上で書いたに違いない。


 今から急いでアスラン国に、ウォルフィンリードに帰ったとしても二週間はかかる。海を渡り、アスラン国をほぼ縦横断する旅だ。


 父に委細承知した旨の手紙を書き上げ、体調に気をつけるよう一筆書き足し、弟の結婚式をしっかりと祝ってから帰路についた。



 俺が前エルトフォード公爵の墓前に立てたのは、彼の葬儀が終わってから約一月後のことだった。


 シフィアフラ・エルトフォードから、息子ソーラス・エルトフォードに当主が変わったのは、もう二年前。

 ソーラス・エルトフォードは俺よりも幾分か年上の、男から見ても息を呑むような美貌と色気のある男だった。

 高位貴族らしい威厳と所作の美しさは、正直、フォーレスタよりも遥かに優雅だ。


 美公爵。

 魅惑の知公爵。

 彼についている賛辞の肩書きの多さを、知らないわけではない。


 青みがかった銀髪と月明かりの夜空のような浅い青の瞳。

 シフィアフラ殿の月のない夜空のような黒髪と黒い瞳からは想像もつかない色味だった。きっと母親に似たのだろう。


 そういえば、エルトフォード公爵夫人の話を聞いたことがない。どこからも、誰からもだ。


 ソーラス殿の容姿を見れば、公爵夫人がどれだけの美女であったかは容易に想像がついた。

 公爵家の肖像画部屋にでも招かれれば公爵夫人の肖像画の一つや二つはあるかもしれないが、父親同士とは違い、俺はまだソーラス殿とはそれほど仲が良いとは言い難かった。


 城の奥深くまで招き合う仲ではない。

 仲が悪くなく、お互い自分に無い強さを、能力を持っていることを認め合っている隣領の有能な当主、と思い合えているだけマシだろう。


「心より、哀悼を」


 礼を尽くして、頭を垂れる。

 本心から、あまりにも惜しい人を亡くしたと、貴重な父の友人を失ったという喪失感に胸を痛めた。


「君の父上からも、丁寧な労りの言葉をいただいた。ありがとう」


 色気のある男が、惜しげもなく色気のある笑みを浮かべる。

 家族を失った隠しきれない悲しみは彼の身を苛んではいる様子だが、ひどく気落ちしているという程ではない。

 その様子に、安堵のような気持ちを抱く。


「エルトフォード公爵は御兄弟はおられなかったと記憶しております。それに、良き御相手は?」


 そう。

 この美公爵は未だ独り身だ。

 もう少し若かりし頃はそれなりに、ソーラス殿の恋人や婚約者候補が、などと社交界の噂の花形にもなっていたが、どれも結実はしていない。

 大した騒動があった風でもなく、本人もまるで焦った様子もない。

 公爵家安泰について、後継者問題について、なにを考えているのか誰にも読めない。

 それでも、エルトフォード公爵家は揺らがず、盤石な繁栄だけを続けている。


「のらりくらりと来てしまっていてね、もう少し急いで子を作ればよかったと反省しているところだよ。父に孫の顔を見せられずに旅立たせてしまうなんて」


 どうやら、それなりに焦らなくてはいけない後継者問題について、自覚はあるようだ。


「……こればかりは、己一人ではどうにもならぬことなので」

「ははっ、ウォルフィンリード辺境伯も同じくかな? 良き御相手は?」


 声を上げて笑ったソーラス殿の、きっと滅多に見せないような無邪気な笑顔に勝手に好意が湧いてしまう。

 だからだろうか、素直な気持ちを吐露していた。


「妻にと望みたい者はおりますが、……まだ、これからです」


 想っていたのは、リオのことだった。

 平民たちのように自由な恋や愛を語り、謳歌することは、高位貴族と称される自分たちには土台無理な話だ。

 それなのに、まるでそんなことが関係ないように相手を求めている。

 そんなふうに聞こえただろう。


 これから付き合いを深めていくだろう隣領当主の結婚。

 少なからず、エルトフォード公爵領にも影響は出る。


 それでも、ソーラス殿は穏やかに、だが誠実に俺の言葉を聞いていた。


「それは楽しみだ。君の結婚式には是非祝いを贈らせてほしい」

「お心遣い、感謝いたします」


 礼を取って感謝を述べると、ソーラス殿も優雅な礼を返してくれた。


「こちらこそ。お忙しい中、父のために足を運んでくださり、深く感謝を」

「どうぞ気を落とされませんように」


 俺の言葉にソーラス殿は少し目を伏せて、何かをとても愛しむように微笑んだ。


「ありがとう。父が亡くなる前にとても良いことがあってね。父も心残りなく、旅立てたと思っている。だから、寂しくはあっても悲しくはないんだ」


 その気持ちが本当なのは、彼の表情を見れば明らかだった。

 シフィアフラとソーラス。

 ゆったりとした微笑み方は、さすが親子と思えるほど似ていた。


 彼とは今後も良い関係を築いていけるだろうと確信を持って、エルトフォード城を後にした。





アステライト・ウォルフィンリード

ソーラス・エルトフォード

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