23 トチュウ村の薬屋さん
薬の品質を調べたとき、胸の奥がざわついた。
ダイアナが作った薬のほうが、うちに薬師より確かに良い。
だが、その差は決定的というほどではない。
「……この程度の差で済んだのか」
ほっとした。うちの薬師の腕は悪くない。
しかし翌日、店で薬を作ると品質は落ちた。
原因は何だ。腕か、気の緩みか、それとも――。
「あの作業場の空気……か?」
ダイアナの作業場の澄んだ空気を思い出す。
あれが彼女の集中を支えていたのかもしれない。
「掃除をもっと徹底しろ。隅々までだ」
そう命じたが、そんな表面的な対処で誤魔化せる問題ではないことは、心のどこかでわかっていた。
ダイアナには、何かがある。
それを知りたいと思った。
◇◆◇◆◇
トチュウ村へ向かう道すがら、わたしは何度も言葉を反芻した。
「謝るだけなら簡単だ……だが、伝わるかどうかは別だ」
胸の奥が重い。
それでも行かなければならない。
店に入ると、薬草茶の香りがふわりと鼻をくすぐった。
焼き菓子の甘い匂いが混ざり、思わず肩の力が抜ける。
「いらっしゃいませ……あ、ジェフ様」
ダイアナが穏やかに頭を下げた。
「久しぶりだな、ダイアナ。店は……ずいぶん賑わっているようだ。おかげで咳の病は治まった」
「それはよかったです。祖母がいてくれたおかげですね。最近は冒険者だけでなく、村の方がよく来てくださいます」
その声に茶を飲んでいた、人がわたしに軽く頭を下げた。
わたしも、笑って頭を下げた。
「そうか。それは良かった」
「はい」
わたしは切り出す。
「水汲みの件だが……あれは、ずっとダイアナが?」
「はい。わたしがずっとやっていました」
「……そうか」
ダイアナは淡々と続けた。
「まさか薬を反対にしているとは思いませんでしたし……それに、薬を持って行くより、お掃除をしたかったので、わたしももっと皆様とお話すれば良かったですね」
「掃除を?」
やはり、掃除は大事なのか?
「はい。あの作業場、好きでしたから。綺麗にしていたかったんです」
胸の奥が締めつけられた。
「一度、自分の物は自分でと持っていったことがありますが……誰もちゃんと見てないのですね」
「……すまない」
わたしは言葉を失った。
ダイアナはふと顔を上げる。
「マリアは……どうなりましたか?」
「……免許の取り消しだ」
「そうですか。仕方ないですね」
「仕方なくなんて……」
思わず声が漏れた。
「ダイアナ。本当にすまなかった」
わたしは深く頭を下げた。
「泥棒という言葉を聞いた瞬間、冷静さを失った。
二人をもっと見ていれば、マリアは嘘をつかずに済んだ。
二人とも薬師になれていたかもしれない」
「ジェフ様……」
「申し訳なかった」
その言葉を吐き出すと、胸の奥に沈んでいた重石が少しだけ軽くなった。
店の空気は澄んでいた。
茶の香りが落ち着きを与え、ダイアナの存在は不思議と場を整える。
「ダイアナ……お前には、何かあるな」
「え?」
「いや、なんでもない」
言葉にできない力を感じたが、口にはしなかった。
代わりに、わたしは提案した。
「薬を……うちに卸してくれないか?」
ダイアナは少し驚いたように目を瞬かせた。
「えっと……申し訳ありません。わたし、自分で手渡したいので……」
「そうか。そうだろうな」
わたしは苦笑した。
「ダイアナ、お前は……人を見て薬を渡すんだな」
「はい。薬は、人に合わせて働くものですから」
その言葉に、彼女の芯の強さを見た。
「なら……せめて、時々ここにお茶を飲みに来ることは許して欲しい」
ダイアナは柔らかく微笑んだ。
「いつでもお越しください。
ジェフ様のところで学んだことは、わたしの中の大事な部分です」
「……そう言ってもらえると、救われるよ」
わたしはお茶のお代わりを頼んだ。
湯気の向こうで、ダイアナの横顔が柔らかく揺れていた。
その香りが、わたしの迷いにそっと寄り添ってくれた。
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