22 マリアのこれから
わたしたちは足取り重く歩いた。
先頭を姉、わたしを挟んで祖母が歩いている。
家に戻るころには、夕日が店の壁を赤く染めていた。
新しくなった店先はきれいなのに、わたしの胸の中はざらついていた。
どうしてわたしばかり、こんな目にあうの。
扉を開けると、母が飛び出してきた。
その後ろには姉の婚約者――あの人がいて、わたしの胸が少しだけ軽くなる。
あの人なら、きっとわかってくれる。
そう思いたかった。
「どうしたの。そんな顔をして……なにがあったの」
母の声が刺さる。
姉は深く息を吸い、淡々と話し始めた。
わたしが嘘をついてダイアナを陥れたこと。それでダイアナは免許を破られたこと。
わたしの嘘がばれてダイアナの免許が戻ったこと。
そして――わたしの免許が取り消されたこと。
ダイアナが優秀な薬師で、彼女の薬があればみんながもっと早く楽に成れたこと。
話が進むにつれ、母の顔がどんどん険しくなる。
婚約者さんは黙って聞いているだけで、表情が読めない。
どうして誰も、わたしの気持ちを考えてくれないの?
祖母たちが声を上げた。
「ほんとにひどいんだよ」
「マリアは追いつめられていたんだよ。少し失敗しただけじゃないか」
「それなのに、だれもわかってくれないんだ」
そう、そうなの。
わたしは追いつめられていた。
ダイアナが悪いんじゃない、でもわたしだって悪くない。
そう言ってほしかった。
母が低い声で言う。
「失敗?」
その言い方が怖くて、わたしはうつむいた。
でも、祖母たちは引かない。
「だって、あの子は可愛い孫だよ」
「家族じゃないか」
母はわたしを見た。
怒りと……疲れが混じった目だった。
「今日のこと、本当なのね」
わたしは小さくうなずいた。
だって、もう嘘はつけない。
でも――わかってほしかった。
「追い出すのは反対です」
その言葉に、わたしは胸をなでおろした。
けれど次の瞬間、母は冷たく言い放った。
「でも、店には絶対にかかわらせません」
「え……?」
頭が真っ白になった。
「お母さん……そんなの、ひどい……」
「食べる分は働きなさい。家に置く以上、ただ養うつもりはないわ」
祖母たちが怒る。
「そんな言い方、ひどいよ!」
「かわいそうじゃないか!」
「この子が店にいると明るいよ」
母はゆっくりと祖母たちを見た。
「二人は出入り禁止です」
「えっ……?」
祖母たちが凍りつく。
わたしも息が止まりそうだった。
「マリアをかばって嘘を軽く見る人は、この薬局に入れません」
嘘を軽く見る? そんなつもりじゃ……
祖母が叫ぶ。
「わたしたちは家族だよ!」
「家族だからこそです」
母の声は静かで、でも鋭かった。
「マリアが嘘をつかなければ、王都の人たちは長く苦しむことはなかったのですよ」
その言葉が胸に突き刺さる。
でも、わたしは反発したかった。
そんなの……全部わたしのせいじゃない。ダイアナがもっと早く言えばよかったんだ。
祖母たちは青ざめていた。
「そんな……そこまで……」
「そこまでです」
母はきっぱりと言った。
「嘘で人を潰したことを、かわいそうで済ませるなら、この店は終わりです」
そのとき、婚約者さんが静かに口を開いた。
「……わたしも同意します」
わたしは思わず彼を見た。
助けてほしかった。
味方でいてほしかった。
でも、彼は淡々と言った。
「薬局は信用で成り立っています。嘘を許す場所にはできません」
胸がぎゅっと痛んだ。
わたしは思わず一歩、彼に近づいた。
「……あの、わたし……そんなつもりじゃ……なかったんです……」
声が震える。
涙がにじむ。
彼がわたしを見てくれたら、それだけで救われる気がした。
でも、彼の目は冷静だった。
母がわたしに向き直る。
「部屋はそのまま使いなさい」
少しだけ希望が灯る。
でも――
「でも店には出さない。裏の仕事だけです」
姉が続ける。
「当たり前よ」
「お姉様……わたしは……」
「嘘で人を潰した人を、店先に立たせられるわけないでしょう」
その言葉に、わたしは何も言えなくなった。
でも心の中では叫んでいた。
(違う……わたしはそんなつもりじゃなかった……!
誰か……誰か信じてよ……)
母は祖母たちに言った。
「二人はもう薬局には来ないでください」
祖母たちは立ち尽くしたまま動けない。
夕暮れの鐘が鳴り、店の壁に寂しく響く。
わたしは家に戻ってきた。
でも、もう前のような居場所はなかった。
店には立てない。
祖母も守ってくれない。
婚約者さんも、わたしの味方ではなかった。
残ったのは――
わたしの嘘と、誰にも届かない言い訳だけだった。
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