20 マリアの処分
部屋の空気は、妙に静かだった。
ついさっきまでここにいたダイアナは、もういない。
ジェフとホースシューのリーダーと一緒に、ポイード薬局へ向かった。
新しい話を進めるためだ。
あの子は最後まで落ち着いていた。
「では、わたしは行きます」
そう言って、きちんと礼をして部屋を出ていった。
まるで、ここでの騒ぎが自分にはもう関係ないと言わんばかりに。
……まあ、実際そうなのかもしれない。
部屋に残っているのは、マリアと祖母が二人、マリアの姉、薬師管理組合の職員、
それからホースシューの三人――わたし、ジャッキーとマイクとパーシーだ。
わたしは椅子の背にもたれ、机の向こうを眺めた。
マリアの顔は青白い。
さっきまでの勢いは、跡形もない。
そのとき、マリアの姉が静かに口を開いた。
「妹の処分はどうなりますか」
その声に、祖母の一人がすぐ噛みつく。
「何を言ってるんだい。マリアはちっとも悪くないよ!」
もう一人も続く。
「そうだよ。あの子は被害者だ!」
わたしは思わず目を細めた。
被害者、ね。
ダイアナを陥れておいて、よくそんな言葉が出る。
そのとき、横でパーシーがぼそっと言った。
「別に免許いらないのにな。おまけで売ればいいし」
マイクが低い声で返す。
「それも規制されたらおしまいだ。ここは守っておいた方がいい」
そのやり取りが聞こえたらしく、薬師管理組合の職員がこちらを見て苦笑した。
『聞こえてますよ』という顔だ。
まあ、そりゃそうだ。
だが、こっちとしては本音だ。
免許がなくても薬は作れる。
だが制度を敵に回すのは、得策じゃない。
だからこそ、ここはきちんと決着をつける必要がある。
その間にも、マリアの姉は淡々と続けていた。
「一人の優秀な薬師を潰そうとした」
部屋の空気が止まる。
「彼女がもっと早く動けていたら、こんな状況にはならなかった。患者が増えなかった」
わたしは小さくうなずいた。
あの子は、何度も我慢していた。
それを、あんな形で踏みつけた。
組合の職員が書類を見ながら言う。
「……薬師免許は、取り消しになります」
その瞬間、マリアの肩が震えた。
祖母たちが一斉に騒ぎ出す。
「なんだって、マリアは悪くないのに!」
「姉ならかばうのが筋だろう!」
グレースが怒鳴る。
「どうせ妬んでるんだろう!」
わたしは呆れて息を吐いた。
ここまで来ても、まだそれか。
するとマリアの姉が、ぴしゃりと言った。
「やめて」
部屋が静まり返る。
「そんなウソつきを妬んだりしない」
そして、はっきりと言った。
「でも、今の言葉で決めた」
一拍置いて。
「マリアは家を出て行って」
誰も動かない。
マリアが顔を上げる。
「……お姉様?」
信じられない、という顔だ。
だが姉は目をそらさない。
「うちの店に、もうあなたの居場所はない」
さらに続ける。
「嘘で人を潰す人を置いておけない」
わたしは椅子の上で足を組み直した。
さっきの会話を思い出す。
免許がなくても薬は作れる。
けど、それでも――
制度を守る場所は、守らなきゃならない。
そしてダイアナはもうここにはいない。
あの子は今ごろ、ポイード薬局で薬を作り始めている。
机の向こうで崩れていくマリアを見ながら、わたしは思った。
――遅すぎるんだよ。
ダイアナを潰したつもりだったんだろうが。
あの子は、もう次に進んでいる。
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