<家出>第二部
その日の夜、少年は行動に出た。
この家は、父の書斎の真上が少年の部屋になっており、三十万円が納められた金庫もその書斎にある。そしてちょうど三日後が月のはじめで、三十万円を銀行から下ろす日なのだ。
床のコンクリートは脆く、ひびが入っている。そこで少年はそのひびの部分に、食事のとき使う箸で穴を開け始めた。父はテレビをみていてそんなことに気づく様子はまるでない。少年はその日、徹夜で穴を完成させた。
「よし、まずこれでアイツの金庫の暗証番号が見えるぞ」そう、少年は三十万円を盗んで家出するため、父の金庫の暗証番号を覗いて確かめようとしたのだ。
次の日、父は金庫に残った最後の一万円で遊びに外出した。その際、金庫の暗証番号を少年は確かに見た。
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2 3 8 2 7 1 1 2
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少年は八桁もある数字をすばやく紙に写した。
「問題はこの部屋からどうやって外へ出るかだ」少年は防音の壁にもたれ、考えた。
そしてふと天井を見上げると、一カ所崩壊した部分があらわになっている。その奥には折れた鉄線を不器用につないでいる、針金があった。
少年はベッドの上にプラスチックの白い丸テーブルを乗せ、それに登った。針金を巻き取り、テーブルから降りると、少年はその針金を巧みに工作し、鍵型に折り曲げた。
“ピッキング”
少年はドアの鍵穴にそれを通す。すると、ガチャっと音を立ててドアが開いた。だが少年は入る部屋を間違えたかのように、すぐに閉めた。
“逆ピッキング”
少年は極めて器用で、それを可能にした。
次に少年は荷物…と言っても少ない荷物をまとめ、袋に詰め込んだ。
幼い頃、少年が唯一遠くへ旅行したときにその海で拾った綺麗な貝殻と、母が少年を抱いている写真がある。母は優しい笑顔をこちらに向けている。どうして行方不明なのか、少年には理解できなかった。また、きっと優しい人なのだろうと信じ切っていた。
少年はためらったがその二つを袋にねじ込んだ。
そして三日目、つまり三十万円が入ってくる日。父は八桁の数字を入力して金庫を開け、二十九万円を金庫の中に放り投げると、一万円を手にして外へ駆けだしていった。
少年はまずピッキングでドアを開け、書斎へ駆け下りた。そして紙を一回一回見ながら暗証番号を入力した。やがて開いた金庫から二十九万円を丸ごと掴み取り、ポケットに収めた。 そして自分の部屋の窓の鍵を盗み出し、急いで部屋まで駆け上ると、すぐさま窓を開けた。そして昨日のうちにまとめておいた荷物に二十九万円を入れ、目立たないところへ落とした。
窓を閉め、鍵をかけると再び一階に下り、鍵を定位置に戻した。
そのとき、外で人が走る音を少年は聞いた。少年の胸は高鳴っていた。父が帰ってきたら、計画が台無しになってしまう。
足音が近づいてきて、少年の目に飛び込んできたのはトレーニング中のランナーだった。少年はホッとため息をもらし、次の行動にでた。
少年は物置へ向かい、ハンマーを取り出した。そして外へ出て、玄関のドアノブをムリヤリ壊し、あたかも強盗が侵入したかのように見せかけた。
それからが大変だった。警察がきたらまず「なぜ金庫が開いたのか?」という疑問が浮かび上がる。もし強盗が忍び込んだなら、暗証番号を必死になって探すことは間違いないのだから、少年もその行動に出た。
書斎を散らかし、父が書いた暗証番号を記した紙を探した。そして二十分後にやっと見つけたのだった。
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2 3 8 2 7 5 5 2 ×
2 3 8 2 7 1 1 2 〇
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少年は部屋へと戻り、逆ピッキングで鍵をかけた。そして針金を元に戻し、証拠を消した。
少年はベッドに手を広げ倒れ込み、大きく息を吐いた。




