<家出>第一部
森も海もない都会の片隅に、四角く象られた白い家がある。この街は昔、蓮の花で彩られていたことから、「蓮色の街」という名前がついている。だが今となっては工場の悪臭で廃れ、その面影すらない。
白い家には悪魔が住んでいる。息子を平気で監禁し、過度な暴力を繰り返す傲慢な父親だ。
「出してくれ!僕を!ここから出して!」息子は必死になって叫ぶ。
「うるさいガキめ!黙らねえとひどいぞ!」父の手にはバットが握られている。
少年の名はない。いや、あっても父が教えてくれないのだ。母は十年も前に行方不明になったきり、一度も姿をみせない。まさに最低の生活、最低の親、すでに、犯罪である。
少年の部屋は牢獄のようなつくりで、食事はカップラーメンのようなものだけ。他にベッドとトイレがあるが、床は冷たいコンクリートで、娯楽のためのものは一切ない。ドアにも窓にも鍵がかかっており、外出などとてもできない。
一方父の方は、親、つまり少年の祖父に当たる人物から遺産を相続しており、月に三十万円を下ろして使うという決まりで、つまり一日一万円計算で快適に暮らしている。快適と言っても遊び呆けるだけの、自堕落な生活である。王と奴隷が二人で住むような貧富の差、格差社会が一つの家の中で生じてしまっている。
「出せ!僕をここから―」今日も必死になって叫ぶ。その言葉を遮るように、音を立ててドアが開いた。
「黙れ!お前はおとなしくしていればいいんだ!親の言うことにたてつくな!」
「アンタが親?冗談だろ?親なもんか、早く出せよ!僕はここから出て行くんだ」
「それをオレが許すと思うか!?警察に知られたらどうする…」
そのとき、少年の頭にある発想が浮かぶ。
「警察…?そうかその手があった。知らせてやる、そして僕もおさらばだ」
「んん?何を企んでやがる?…まあいいさ、お前はここから出さん…出ることなど不可能だ。それと、次騒いだら殴り倒してやるぞ!」父はこう言ってドアをバタンと閉め、鍵をかけた。
「大丈夫、僕は逃げ出せるさ」少年はニヤリと笑った。




