第1章:2.6 欲望の祭壇と深夜の探り合い
上官婉は裸のままで巨大な青銅の鏡の前に立ち、二人の口のきけない女中が温かい獣脂の香膏を使い、少し張りのある彼女の背中に一滴残らず塗り広げていくのに身を委ねていた。
そのねっとりと滑らかな感触は、午後の荒野で交わした、闕恆遠のあの魂まで吸い取られるかのように深遠な瞳を彼女に思い起こさせる。
大邑商において、これまでに彼女をそのような対等な、まるで獲物を値踏みするような鋭い眼差しで見つめる男など一人もいなかった。
自分たちを高貴だと思い込んでいる宗族の長老たちは、彼女の持つ封地と、まだ衰えていないこの肉体にしか目を向けない。
そして卑しい奴隷や兵士たちは、ただ恐怖の色を浮かべるだけだった。
だが、あの奇妙な灰色の長衣をまとった男だけは違った。彼の存在はまるで真っ赤に焼き入れられた鋭利な刃物のようで、彼女が三年間保ち続けてきた冷徹な仮面をいとも簡単にかき切ってみせたのだ。
上官婉はわずかに顎を上げ、喉の奥から絞り出すように微かな吐息を漏らした。それは長く抑え込んでいた焦燥の熱を帯びた響きだった。
自分の心臓が激しく脈打つのがわかる。その鼓動の音は、窓の外で次第に遠ざかっていく祭祀の太鼓の音さえもかき消すほどだった。
「もっと強く……」
彼女は低い声で命じた。女中たちにはその声が聞こえなくとも、女主人の微かに震える筋肉のラインから、その切実な渇望を十分に察知していた。
彼女は手を伸ばし、青銅の鏡に映るぼやけた自身の歪んだ顔を指先でそっと撫でながら、これからこの「神使」たちとどう渡り合っていくべきか、脳内で幾度もシミュレーションを重ねていた。
悦清禾のような娘たちが持つか弱さは生まれつきのものであり、それは殺戮を知らず、神々に愛された者特有の純粋さなのだろうと彼女は理解していた。
一方、自分である上官婉のか弱さは、一つの武器でなければならない。それは、男たちが血なまぐさい殺伐とした日常の中で、ほんのひとときの安らぎを覚えるための捧げ物でなければならなかった。
もしあの男の寵愛を得ることができ、彼が手にしている「神鏡」の示す力を少しでも分かち合うことができるなら、彼女は上官家が百年かけて蓄えてきた青銅や奴隷のすべてを喜んで差し出すつもりだった。
「不老不死」に対するその狂おしいまでの執着は、まるで一匹の毒蛇のように彼女の脊髄を這い上がり、最後の理性を少しずつ蝕んでいく。
彼女は突然女中の手を振り払い、自らの手で滑らかな絹布をひったくると、胸元に残る水滴を乱暴に拭き取った。
あまりの強さに、小麦色の肌にはヒリつくような赤い暈が浮かび上がる。
それは痛みではなく、ある種の覚醒だった。
彼女は身を翻し、離れ殿のほうへと視線を向けた。そこは、あの五人組を一時的に匿っている場所だった。
この漆黒に包まれた殷都の夜の中で、そこから漏れ出る幽青色の微光は、まるで闇夜の明星の如く、未だかつて誰も歩んだことのない権力への道を彼女に指し示していた。
上官婉は最も薄手の上質な絹衣を羽織り、冷たい土の床を裸足で踏みしめながら、一歩一歩を異常なまでの確信を持って歩みを進めていた。
彼女は明日まで待つ必要などなかった。その五つの魂が本当に自分の思い描いた通り、この世界を変える神格を秘めているのかどうか、今すぐこの目で確かめたかったのだ。
薄暗い回廊に映る彼女の影は、まるで夜の闇の中で安住の地を探し求める一羽の孤高の鳳凰のように揺らめき、危険でありながらも破滅的な美しさを放っていた。
上官婉は裸足のまま、ひんやりと湿り気を帯びた土と石の路面を踏みしめて歩く。最も薄手の上質な絹衣が風に揺れ、まるで捕らえどころのない煙のようだった。
名目上はこの封地の女主人である彼女だが、深夜にこれほど無防備な姿で一人歩き回るなど、一族の保守的な長老たちに見つかれば「婦徳」を巡る非難の嵐を浴びせられるのは目に見えていた。
それでも、彼女は気にならなかった。
下腹部から込み上げる焦燥感と、神の力に対する狂おしいまでの渇望が、まるで一匹の飢えた毒蛇のように彼女の最後の理性をむしばんでいた。
彼女は離れ殿の裏手にある、奴隷すら近づきたがらない薄暗い回廊の柱を迂回した。
息を潜め、版築の土壁の影に身を隠しながら、闇夜の中で異様なほど鋭く光る瞳を、離れ殿の固く閉ざされた木の扉へとまっすぐに向けた。
中は不気味なほどに静まり返っていた。
夜間に巡回し、害虫や蛇を追い払うはずの兵士たちの姿はどこにも見当たらない。
上官婉は心の中で冷笑を浮かべた。あの男たちはどうせどこかに身を隠したか、あるいはあの大祭司・百里捷の送り込んだ使者に脅されて逃げ出したのだろう。
好都合だった。
彼女がもう一歩踏み出し、中の様子を探ろうとしたその時、不意に一つの奇妙な幽青色の微光が、木の扉のわずかな隙間から漏れ出してきた。
その光は、商代の人々が慣れ親しんでいる薄黄色の灯火とはまったく異なっていた。それはどこまでも冷徹で神秘的であり、神々が住まう宮殿にしか宿らないような、底冷えする精悍な輝きを放っていた。
上官婉の体がピタリと硬直し、指先が反射的に傍らの版築の土壁に深く食い込んだ。
あれは――あの男の手にある「神鏡」が発している光なのだろうか?
その瞬間、情欲に満ちた幻想はすべて霧散し、それに取って代わったのは、全身が震えるほどの畏怖と野心だった。
彼女はそっと歩み寄り、その耳をざらついた木の扉にぴたりと寄せた。
かすかで、規則正しい叩くような音が中から漏れ聞こえてくる。それは闕恆遠が文字を打ち込んでいる音だった。
その音節の意味を彼女が理解することはできなかったが、その響きの中に、万物の運命を書き換えてしまうほどの強大な「呪術」が込められているのを感じ取っていた。
ピッ、ピピッ、ピ――
紡ぎ出されるすべての音節が、まるで彼女の心臓の緒を直接踏みつけるかのように響いた。
「使者様……」
彼女は小さく呟いた。その声はねっとりと重く、聴く者の心を惑わせるような熱を帯びた震えを含んでいた。
彼女の脳裏には、暗闇の中で神鏡を手に座る闕恆遠の姿が浮かび上がっていた。その神鏡の光が、何ひとつ動揺の色を見せない彼の冷徹な顔立ちを照らし出し、神聖にして不可侵の雰囲気を醸し出している。
血なまぐさい荒野の現実とはまったく異なる、その圧倒的で文明的な力の気配に、彼女の下腹部は再び見知らぬ熱照りに包まれた。
今度は、神の力に対する渇望だけではない。あの男の肉体を完全に我が物にしたいという、絶対的な独占欲がそこには混ざり合っていた。
「私があなた方に捧げましょう、この世で最も極致の忠誠を」
「ただ私を、」
「あの永遠の白い光の中へと連れていってくださるならば」
日中に交わした誓いを彼女は心の中で何度も繰り返していた。だが、今のその誓いには、病的なまでの執着が加わっていた。
明日まで待つ必要などない。あの五つの魂が本当に自分の思い描いた通り、この世界を変える神格を秘めているのかどうか、彼女は今すぐこの目で確かめたかった。
彼女は手を伸ばし、震える指先でその重い木の扉に触れた。
力任せに押し開こうとしたその時、部屋の中から悦清禾の微かな溜め息が漏れ聞こえてきた。
上官婉の指先がビクッと引き戻される。
それは悦清禾が夢うつつの中で漏らした、甘えるような、庇護を求めるかのような声だった。
上官婉の胸のうちは、まるで形なき手にぎゅっと握り潰されるような痛みに襲われた。
磁器のように白くか弱いあの娘が、いまや神使の傍らに安らかに眠り、自分が喉から手が出るほど求めている庇護を独り占めしている?
「嫉妬」という名の毒液が、まるで冷酷な蛇のように彼女の脊髄を這い上がり、最後の理性を少しずつ食い破っていく。
彼女は身を翻し、母屋の方へと視線を投げかけた。そこは、彼女が未亡人として三年間過ごしてきた寝宮である。
そこにあるのは、野心と汗が絡み合う焦燥の気配だけだった。
彼女はもう一度首を巡らせ、再び離れ殿を見据えた。
彼女はあの娘たちの「作法」を学び、そして自身の「掟」をもってあの男を飼い慣らす。
この夜、大邑商の風は血の臭いを帯びて吹き荒れていた。
だが、上官婉の寝宮の内には、野心と欲望が煮えたぎる焦燥の熱気だけがいつまでも澱のように滞っていた。
上官婉は戸口の外に立ち尽くし、蝉の羽のようにも薄い絹衣を夜風が激しく翻すのに身を任せていた。胸の底から這い上がる寒気と嫉妬の炎が絡み合い、彼女の指先は木の扉に食い込んで血が滲みそうなほどだった。
彼女は土と家畜の生臭さを帯びた冷たい夜気を深く吸い込み、その狂気に囚われかけた感情から何とか自分を引き離した。
大邑商において、怒りと嫉妬は弱者の特権にすぎないことを彼女は痛いほどよく知っていた。彼女が目指すべきは、すべてを支配する手綱を握る者だった。
彼女は身を翻し、薄暗い離れ殿の外縁へと視線を走らせながら、老いた狐である百里捷の次の動きを頭の中で素早く計算し尽くしていく。
大祭司がすでにこの神蹟に目を付けている以上、ただ座して死を待つくらいなら、自らの手でこの五人の「神使」へと火の粉を振りまいたほうがましだった。
彼らに生存の脅威を肌で感じさせ、この荒涼とした大地における最も残酷な祭祀の掟を思い知らせること。そうして初めて、彼女である上官婉の庇護なしには、この世界に彼らの居場所などどこにもないのだと思い知るはずだった。
上官婉は音もなく静まり返った回廊を通り抜け、芳香の立ち込める寝宮へと戻った。二人の口のきけない女中たちは、今も変わらず床にひれ伏したまま主人の帰りを待っている。
彼女は再びあの曇った青銅の鏡の前に立ち、鏡の中に映る刃のように冷徹な眼差しをした女を見据えながら、その唇の端に危険な笑みを浮かべた。
「行け。上官雄をここへ呼べ」
彼女は低い声で命じた。女中たちにはその声が聞こえなくとも、女主人の鋭い眼光から意図を読み取ることに彼女たちは慣れきっていた。
しばらくして、屈強な体躯を誇り、腰に青銅の重剣を携えた一族の将領が足早に部屋へと入ってきた。その重厚な鎧が、灯火の中で冷ややかな光を放っている。
「家主様、深夜の御召し出しとは、何か重大な事でも?」
上官雄の太い声には、かすかな疑問の色が混じっていた。彼の視線は女主人の乱れ気味な絹衣をわずかに掠めると、すぐに慎重に伏せられた。
上官婉はゆっくりと彼の方へ歩み寄る。水気を含んだ肌から漂う花膏と野心の混ざり合った香りが、たちまちこの百戦錬磨の老将を包み込んだ。
「大祭司の一派は、もう引いたか?」
上官婉の指先が傍らの青銅の香炉を気だるげに弄ぶが、その眼光は鋭い鷹のそれのようだった。
「ご報告いたします、領主様」
「百里捷の輩は封地の外れまで退きました」
「ですが、闇の奥には依然として離れ殿を監視する者どもの気配が残っております」
上官雄はそう実情を告げ、声には隠しきれない焦りがにじんでいた。
「見せておけ、好きなだけ覗かせておけばいい」
上官婉は冷笑を浮かべた。その声はだだっ広い寝居の中に反響し、聴く者の背筋を凍らせるようなねっとりとした妖しさを帯びていた。
「明日の朝一番で、」
「大祭司の使いの者に直接伝えよ」
「神使様たちが殷都の祭礼に大層興味を示されていると――」
「とりわけ『万奴共祭』の壮大なる光景にな」
上官雄はハッと顔を上げ、その瞳に激しい驚愕の色を宿した。それがどれほど血塗られた残虐な儀式であるか、彼は身にしみて知っていた。文明社会で生きてきた人間であれば、一目で精神が崩壊しかねないほどの凄惨な光景である。
「家主様……」
「それでは、神使様たちを自ら火の海へ放り込むようなものではありませんか」
「背中を押してやらなければ、奴らは気づくまい」
「誰こそが、この地獄から救い出せる唯一の救世主であるのかをな」
上官婉は身を翻した。肌に残っていた井戸水の冷たさはすっかり乾き、その代わりに圧倒的な権力への狂熱が彼女の全身を支配していた。
彼女はこの血塗られた神聖な祭典を利用し、闕恆遠と四人の娘たちが抱く気高い魂を完全に打ち砕くつもりだった。
天の最も原始的な意志を目の当たりにしたとき、彼らは恐怖に震えながら彼女の足元にひざまずき、同類からのすがりつくような庇護を求めるほかないのだと、彼女は確信していた。
「行ってくるがいい」
上官婉は手を軽く振り、その口調はいつもの冷徹さと威厳を取り戻していた。
上官雄は命を奉じて退室し、その重々しい足音は回廊の尽きるところへ次第に消えていった。
寝宮の中は再び静寂に包まれ、青銅の香炉の中で細々とくすぶる残り香だけが、暗闇の中で微かに明滅を繰り返している。
上官婉はゆっくりと窓辺へと歩み寄り、はるか向こうに朧気にそびえ立つ巨大な祭壇を見据えた。
神々が本当の意味で降臨する前に、彼女はこの大邑商の大地を真っ赤な血に染め上げることを何とも思っていなかった。
それは極めて私的な祭祀。
その生贄となるのは、他でもないこの五人の神使たちの折れない誇り。
そしてその祭司を務めるのは、この世でただ一人、彼女自身のみだった。




