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第二十五話、入院ですか

第二十五話です。

結衣と別れてから、二週間。 蒼汰の日常は、何事もなかったかのように続いていました。

仕事はいつも通りに回り、連絡を取ることもなく、終わった関係は少しずつ遠ざかっていく――はずでした。

けれど、業務で訪れた彼女の職場で、蒼汰は思いがけない事実を知らされます。

ここから物語は、怒涛のクライマックスに向けて再び大きく動き出します。

 彼女と別れてから、二週間が経っていた。


 その間、特に連絡を取ることもなく、仕事はいつも通りに回り続けていた。


 感情を挟む余地など最初からなかったかのように、日常は何事もなく進んでいった。


 その日も例外ではなく、物品の運搬と納期に間に合うかどうかの進捗確認という単なる業務の一環として、彼女の職場へ足を運んでいた。


 必要なことだけを確認して必要な分だけ会話をして、問題がなければ戻る。それだけのはずだった。


 担当者に声をかけ、必要な確認を進める。

 伝票を受け取り数量を照合しながら視線を一度だけ周囲に流す。


 ——いない。

 その認識が浮かぶよりも先に、口が動いた。

「すみません、朝比奈さんって今日は——」


 軽く尋ねるつもりで口にした問いに、返ってきたのは想定していなかった言葉だった。


「あれ、聞いてませんか?」

 同僚の女性が、少しだけ驚いたように目をまばたかせる。胸元の名札には、佐伯と書かれていた。


「朝比奈さん、いま入院されてます」

 一瞬だけ、音が途切れたような感覚があった。

「……入院、ですか」

 聞き返した声は、自分でも分かるくらい落ち着いていた。


「はい。少し前から体調を崩していて……今は専門医のいる病院に移っています」

 言葉は理解できる。内容も曖昧ではない。それでも、その事実だけが現実から少し浮いているように感じられた。

 

 伝票を持つ指に、わずかに力が入る。

 佐伯さんはそこで一度、言葉を止めた。話していい範囲を、そこで測っているように見えた。


「詳しいことは、私からはあまり言えないんですけど……」

「分かります」


 本来なら、ここで踏み込むべきではない。

 関係はもう終わっている、聞く立場でもない。そこまでは理解していた。

 それでも―― 


「場所は、分かりますか?」

 考えるより先に、もう一度口が動いていた。


 佐伯さんは少しだけ迷ったように視線を落とした。それから、こちらを見る。

「……面会できるかは分かりませんよ」

「はい」


「それでも行くなら、病院名だけなら」

 告げられた病院の名前は、このあたりからだと少し距離のある場所だった。

 ――けれど、行けない距離ではない。


「ありがとうございます」

 それだけ言って、その場を離れる。

 やるべき業務はまだ残っていた。

 確認事項を終え、必要な報告をまとめ、問題がないことを確認してから職場へ戻る。


 ——ここまでは予定通りだ。

 だが、その“予定通り”の中に、さっき聞いた情報だけが妙に浮いていた。

 入院している。

 その事実だけが処理しきれないまま残っている。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は、結衣と別れてから二週間後の場面でした。


連絡を取らないまま、仕事だけはいつも通りに進んでいく。 感情を挟む余地などないかのように、日常は淡々と続いていました。


けれど、業務の一環として彼女の職場を訪れた蒼汰は、佐伯から結衣が入院していることを知らされます。


関係はもう終わっている。

踏み込む立場ではない。

聞く資格もない。


そこまでは分かっているはずなのに、蒼汰は考えるより先に病院の場所を尋ねてしまいます。


今回の場面は、蒼汰の中で「終わったはずの関係」と「まだ終わっていない感情」が初めて明確にぶつかる転換点です。


次回、蒼汰はその事実を抱えたまま職場へ戻ります。

そして、彼がどう動くのかが描かれていきます。


引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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