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壊れたものはね

おじいさんはすぐには答えなかった。

ただ、珈琲を淹れる手を止めずに、

ゆっくりと湯を落とし続けている。


やがて、ぽつりと呟いた。


「壊れているかどうかを気にしているうちは、まだ大丈夫だよ」


その言葉は、慰めのようでいて、

どこか突き放しているようにも聞こえた。


「壊れたものはね、自分が壊れていることにも気づかない」


湯気が、ふわりと揺れる。


「君は、ちゃんとここにいる」


そう言って、おじいさんはようやくこちらを見た。


「それで、十分じゃないか」


私は、何も言えなかった。


ただ、手の中のあたたかさだけが、

少しだけ、現実をつなぎ止めてくれていた。



「そうか、私、まだ壊れていなかったんだ。

大丈夫だったんだ。」


ふぅ、と息を吐く。


胸の奥に溜まっていたものが、

少しだけ外に出ていった気がした。


そして、ゆっくりと息を吸う。

珈琲の香りが、やさしく入り込んでくる。


「……いい香り」


カップに口をつける。


ほんの少しだけ甘くて、

その奥に、ちゃんと苦味がある。


「美味しい」


その温度が、喉を通って、

体の中に広がっていく。


ああ、と私は思う。


私はずっと、苦味の中にいたんだ。


でも今は、

ちゃんと甘さも、ここにある。



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