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私がいた。

私がいた。


そのことを確かめたあと、ふと、手のひらにあたたかさを感じた。


見下ろすと、白いカップがそこにあった。湯気が、静かに揺れている。

珈琲の香りが、ゆっくりと肺に落ちていく。それだけで、少しだけ息がしやすくなった気がした。

ここがどこなのかは、まだわからない。でも、このあたたかさは、たしかに現実だった。

カップを持つ手は、ちゃんと私のものだった。



「……苦くないかい」


声がして、顔を上げる。

カウンターの向こうに、ひとりのおじいさんが立っていた。古びたシャツに、深い皺の刻まれた手。けれどその目は、どこかやわらかくて、私を“知っている”ような気がした。


「はじめての人は、少しだけ砂糖を入れるといい」


そう言って、小さなスプーンを差し出してくる。

私は少し迷ってから、それを受け取った。

誰かに何かを勧められるのは、ずいぶん久しぶりな気がした。

スプーンの先が、カップの中で小さく触れ合う。その音がやけに大きく響いた。

私は、口を開く。


「……私、壊れてますか」


少しだけ間があった。


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