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「優しくない聖女」に会うまでは随分と時間がかかった。
聖女に会いたいと願っても、周囲のうるさい連中たちが止めた。俺の側近であるセナも嫌がった。
どうやら俺みたいな高貴な方は戦場の前線で血を浴びるような危険な聖女とは関わってはいけないようだ。残酷で最強の聖女が俺を殺しかねないと思ったのだろう。
馬鹿な者たちばかりだ。本気で聖女が国家転覆を望めば、彼女なら朝飯前だ。
本来なら聖女は崇められる存在であるはずなのに、これほど卑下されているとは腹立たしい。だが、俺が何を言っても周囲は聞く耳を持たなかった。
貴族にとって聖女が嫌われ者であるほうが都合が良かった。
どの国でも民衆の不満はけ口というのは、貴族や王族に集まる。それがわが国では「非情な聖女」に集まった。貴族からすれば、こんなうまい状況を手放せるわけがない。
だが、俺はそれでもたった一人の少女に押し付けることには反対だった。
父に「聖女に会いたい」としつこく何年も言い続け、ようやく父は折れた。しかし、その際にとある条件を出した。
条件はいたってシンプル。お前の実力を証明しろ、とのことだった。
それからというもの、怒涛の日々に追われた。父から課されたタスクは膨大な量だった。元々王子としての仕事は完璧にこなしていた。しかし、そんなものがかわいく思えるぐらいの仕事が俺の元へと次から次へとやってきた。
まだ未熟な俺に政に関しての決定権まで与えられた。
判断力を磨き、発想を巡らせ、頭を毎日フル回転させる毎日が続いた。立ち止まる暇などなかった。時間を作り、剣術に励み鍛錬を重ねた。
体力も知力も鍛え上げた十九歳の頃、ようやく父から許可が下りた。
きっかけは、魔族が荒らした土地の復興を成し遂げたからだ。
魔族に襲撃された土地を復興するのは相当困難だ。膨大な時間と労力を非常に費やす。
魔族を退治するのは騎士団の仕事で、その後の処理は我々貴族や王族の仕事だ。
そして俺は、とある荒れた土地の解決案を出した。
数年間の税の免除、魔族の瘴気を浄化。荒れ果てた土壌ではもう牧畜は厳しいと判断し、そこで薬草の栽培へと切り替えた。
何度か策を練り直し、数年が経ち、ようやくその土地は完全に復旧した。
これにより、父に認められた。それが十九歳となった今だ。長い道のりだった。
念願の聖女に会えるのだと、心を躍らせた。
どんな女にも興味を持たず、毛嫌いしていた俺がずっと想い続けてきた女だ。
世間から嫌われ、王命にも逆らう、孤高の聖女は俺がずっと描いていた聖女像とはいい意味で違った。
俺より年上だとは到底思えないほど、彼女は若々しく、まるで少女のようだった。けれど、不思議と幼さは感じない。
華奢な身体に、凛とした美しい顔立ちに強い意志と聡明さを宿した瞳、自然と視線が奪われるオーラを放っていた。
誰にも媚びず、誰にも屈さない。話しかけることさえ躊躇わされるほどの気高さを纏っていた。
初めて目にした聖女の姿を、俺は遠くからしばらく呆然と見つめていた。
「確かにケイト・シルヴィほど優しい人はこの国にはいませんね……」
レイはゆっくりと口を開いた。
少し前まで聖女に憎しみと敵意を向けていたとは思えない表情だ。申し訳なさと切なさがにじみ出ていた。
「スネークマンと魔族の存在は隠す。報告書は二つ用意してくれ。議会に提出する用はスネークマンと魔族については書かなくていい」
どこか重い空気感の中、仕事モードへと切り替える。
「承知しました」
「二人の保護はどうなっている?」
「それが……」
どこか言いにくそうなレイに俺は「なんだ?」と眉をひそめた。




