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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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 聖女という存在は物心ついた時から、なんとなく理解していた。

 彼女が魔族から世界を守ってくれる。分かっていたのはそれだけだった。聖女がどんな見た目でどんな性格なのかなど一切知らなかった。

 そして、俺が七歳の時。聖女が十歳の少女であることを知った。

 僕とたいして歳の変わらない女の子が戦場へと足を運ぶのかと衝撃を受けた。残念ながら、立場上会えることはなかった。ただ、又聞きで彼女についての噂は沢山入ってきた。

 聖女の初陣は、ケイト・シルヴィにとって最悪なものとなった。

 小柄で天使のような美少女……だが、残虐で人の心がない。

 勝利をおさめたのにも関わらず、彼女は非難の対象となってしまった。俺はその時から違和感を覚えていた。

 当時、聖女はたった十歳の女の子だった。しかも、初めての戦いだ。

 聖女がいるから、戦場で誰も死なないと思ったのか? 世間は聖女に何を求めていたんだ?

 俺は聖女のことをより一層調べようと、聖女の初陣であった戦争記録を念入りに読み込んだ。その時点であることに気付いた。彼女の苦渋の決断に囮部隊となった者たちは賛成していたのだろう、と。

 自分たちが囮であると自覚していないと行動できていない戦い方だった。

 この戦いについて調べるために、俺は当時の騎士団長であったグレイン・モッカトに話を聞くことにした。戦傷が酷く病棟のベッドにいるというグレインの情報を手に入れ、俺は周囲に気付かれないようにこっそりと彼の元へと向かった。

 グレインは怪我を負ったことよりも、十歳の女の子にあまりにも重い責任を背負わせてしまったことに対して心を痛めていた。

 彼は色々と話をしてくれた。

 囮作戦においてケイト・シルヴィに全く非がないことや彼女の純粋な性格、そして凄まじい強さを持っていることについて。

 グレインの言葉には聖女に対しての敬意と感謝がこもっていた。

 今もなお、聖女に対しての非難が強まる中でグレインの弟であるモッカト食堂の店主がシルヴィ家を気にかけているのも納得だ。

 まぁ、でも、ケイト・シルヴィはグレナン団長の苗字がモッカトであることを覚えていないだろうが……。 


「殿下……?」


 黙り込んだ俺に、レイは少し困惑しながら俺を見る。

 昔のことを振り返っていると、ぼーっとしてしまっていた。


「この世界を救ってくれる者に興味を持つなと言われる方が難しい」

「……当の本人は『世界は救わない』と言っていますけどね」


 俺はレイの言葉に小さくハハッと声を出して笑った。

 世界を救わないと言っているのに、彼女はずっと世界を救い続けてくれている。戦いを続けているということがその証拠だ。


「みんな勘違いしすぎなんだ」


 俺が発した言葉にレイは「勘違い?」と首を傾げる。


「聖女にとってこれほどに残酷な世界、別に救わなくたっていい。罵詈雑言を飛ばすような奴らのために戦わなくたっていい。俺が聖女だったら、『とっとと滅びてしまえ、こんな世界』って思うね。それなのに、彼女はずっと魔族と戦ってくれている。国民が安全に生活できるのも、聖女に対して暴言を吐く余裕があることも、全てケイト・シルヴィがこの世界を守ってくれているおかげだ。お前だって、少し前までその恩など微塵も感じたことはなかっただろ?」

「あ……、その……」


 レイは言葉に詰まる。

 レイを責めているわけではない。国民の大半がそうだ。

 聖女は反論しない。どれだけ悪口を言われたって、否定しないんだ。それがなお俺の興味を引いた。


「優しくない世界を守り続けてくれる優しい聖女を一目見たいとずっと思い続けてきたんだ」

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