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♢視点がアヴィン・ドリューに変わります。
「……以上が、今回の報告となります」
たった今、レイから受けた報告が信じられなかった。
俺が目を丸くしてレイを見ていると、彼はフッと目を細めた。
「信じられないですよね、全部。ケイト・シルヴィはとんでもない聖女でしたよ。今の彼女になるまで、どれほどの苦難を乗り越えてきたのか……」
ああ、本当に信じられない。
一ヶ月以内であのタスクを本当に終わらせてしまったことも、スネークマンと魔族を手懐けていることも常軌を逸していて理解が追い付かない。そして何よりケイト・シルヴィが一度死んでいるだと?
「……彼女は、世界を救えば私は死ぬ、と言ったんだな?」
頭の中が混乱状態だったが、俺は冷静な口調でレイにそう聞いた。レイは「はい」と重い声で答える。
…………なんて残酷な運命なんだ。
成長を止められ、普通の女性としての道を歩むことを許されない。聖女として戦い続け、世界を救うと同時に命を奪われる。……だから、彼女はあれほど世界を救うことを拒んでいるのか。
俺はそんな彼女を想うと、どこか胸が締め付けられる思いになった。
「運命を知ってもなお、戦地に赴いてくれていることに感謝しないとな」
俺の言葉にレイは黙り込んだ。
今回、レイをケイト・シルヴィの元へと送ったのは、彼女の監視のためだった。俺たちはあまりにも聖女について知らなさすぎる。
レイが聖女嫌いなのは知っていたが、その認識を改めるいい機会だとも思った。少なくとも俺が見たケイト・シルヴィは残虐な聖女なんかではなかった。レイは優秀な騎士だったが、聖女に対する強い恨みせいで素行があまりにも悪く、騎士をやめざるを得なくなった。だが、彼のような人材を失うのは惜しいと思い、暫く王宮で側近として仕えさせていた。
その恩を俺に感じてくれたのか、期待以上の成果を上げてくれた。性格に難はあるが、それを除けば近くに置いておきたいと誰もが思うほどの素晴らしい働きぶりだった。護衛としても、事務管理にしても完璧だった。
だからこそ、俺はレイに本当の聖女がどんな人物なのかを知ってほしかった。再び、彼が荒れないよう誤解を解きたかった。聖女のせいで兄を失ったなどと思い込んだままでいてほしくなかった。
俺がいくら聖女について話したところで、レイの抱いていう強い先入観は消えることはない。だから、直接会わせることにした。……だいぶ荒治療だった自覚はあるが。
あの仕事の量だともう少し長く一緒に過ごすのかと思っていたが、あまりにも聖女が早く仕事を終わらせてしまったようだ。……とんでもないな、我が国の聖女様は。
まぁ、結果的にレイが聖女に対して抱いていた憎しみが消えたのだから良かった。
「そもそも殿下どうしていきなり聖女に興味を持たれたのですか?」
レイが不思議そうに口を開いた。俺はレイの質問に思わず固まってしまった。
…………いきなり、なんかじゃない。ずっと前からだ。
初めて彼女が戦場に出た頃から、ずっと聖女という存在に興味を持っていた。俺の思考のほとんどを聖女が支配していたと言ってもいい。それぐらい俺は聖女について詳しく知りたかった。
クソみたいな噂なんてどうでも良かった。彼女の戦争記録を全て読み込んだ。どれも素晴らしいものだった。たった三つ上の女の子が残すような戦績ではない。いつの間にかその気持ちは興味から憧憬へと変化していた。
……………………ケイト・シルヴィ。どうか俺が全ての悪意から君を守れる力を手に入れる日まで、潰されないでくれ。
ただそれだけが俺の願いだった。




